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第3章  進窟

第16話  決着

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 とりあえずこの決闘という名の仕合いは決着した。

 これ以上何かが乗っかるのはゴメンだ。誰かの面子が潰れるとか、仲間のためにプライドを捨てて頭を下げるとかだ。

 男に近づくと脇に腕を入れて強引に立たせる。

「兄さん。シュバインの命は助けてくれ。頼む。いや。頼みます」

「もう終わりました。始末は人の見ていない部屋の中でつけましょう」

 その前に、もう一度兄ちゃんの手首を握って体内検査魔法を発動する。

 頭にあった黒い濁りは消えていた。

 先ほどの訳の分からないドットが原因なんだろうな。

 あっけにとられていた審判役にタンカと治療をお願いして俺は楯の元へ行く。

 俺はアイテムボックスからミスリル製の布を取り出した。

 ガンソさんの奥さんに習った彫金で仕上げた物だ。

 それで中型のナイトシールドを包む。

 それをツイストバンクルとは別のアイテムボックスへ入れる。

 さっきのじょうと同じようにドットがまた弾かれたら手間だからね。

 試しに今入れた楯をアイテムボックスで確認してみる。

 『t※△akξ ^ ・□-』……文字化けしてやがる。これは何か調査が必要だな。

 まぁ。それはさておき、約束した決闘からの解放権をぶん取りますか!


§


 楯を地面に下ろしバステンへ歩み寄るノアの上空。背後よりゆっくりと近づく真っ黒なドット。

 ノアのうなじを目指すように飛び近づく。

 探知魔法にもかからないそれにノアは気付かない。

 ノアのうなじにあと1mと近づいた時にドットは光に打ち抜かれて揺らめくように消えた。

 ドットを打ち抜いた光の弾道上。


 ――そこには。

 人差し指と親指をピンと伸ばしたモルトがいた。

 モルトは人差し指を口元に持ってくると銃の煙を吹き消すように息を吐いた。

 ……モルト――何処で覚えた?



 闘技場で決闘を見守る冒険者達。その場の一人が呟く。

「――残念」

 その呟きは喧騒に溶けた。




 闘技場の控室に男と入る。

「兄さん。シュバインの命は勘弁してやって下さい。償いはさせる」

「”決闘”は決着しました。命のやり取りまでは考えていません。――それにシュバインさんの意識が戻ったら聞きたいことがあります。もちろん、不穏な意味ではなく。事情を聞きたいという意味です」

「許してくれるのか?」

「”決闘”とは勝った方が正しいという儀式でしょう? 私はそれで得る利益があります。そのために戦いました。私怨は一切ありません。出来れば、今後は絡まないでほしいですが」

「分かった。ありがとう。兄さん」

「ところであなたのお名前は? シュバインさんも私に名乗っていませんし出会いからおかしかったですよね?」

「おっと! そうだったか? すまねぇな俺の名はバステン。あいつの名は知ってるだろうがシュバインだ。今後は兄さんには迷惑をかけないようにする」

「そうですか、私も名乗っていませんでしたね。私はノアといいます。どうそお見知り置き下さい」

 そう言って小首をかしげるように挨拶する。この世界の流儀だ。

「そうだ! もし良ければ一つ協力してもらえないでしょうか? それは――」

 俺がバステンさんにお願いすると二つ返事で引き受けてくれた。

 ちょうどエレオノーラさんが呼びに来る。彼女に連れられてギルド長室へと向かう。



「小僧ご苦労だった。だが、決闘後のおかしな動きはなんだ? 何かから逃げ回っているみたいだったが」

 えっ? あの黒いドット見えてないの?

「分かりませんでしたか?」

「あぁ。何かのデモンストレーションか?」

「――まぁ。そんなところです」

「で? お前が使った棒――」

「――じょうです」

 かぶせ気味に言葉をぶつける。なんだよ棒って。棒使い? ダサいだろ!

「あぁ? あぁ。じょうな。あれもあいつから教わったのか?」

「いえ、祖父からですかね」

「おまえの主要武器は槍じゃないのか?」

「そうですね。ダンジョンでは楯と槍ですが、対人の場合はじょうを使います」

 そうこうする間にエレオノーラさんが決闘の放棄の契約書を作って来る。

 ギルドマスターが一度目を通して俺に渡してくる。

 俺も目を通し一言伝える。

「概ねこちらで構いませんが、この文字は消してください」

 俺はそれをトントンと指差す。

「んっ? ノルトライブの文字を消せだと。どういうことだ。ここで決闘を放棄すると言ったよな?」

「いいえ。私は『冒険者へ私は決闘を申し込まない。そして誰も私に決闘を申し込まない』と言いました。ノルトライブ限定でとは言ってはいません」

「ノルトライブでの話をしていただろう? 俺の裁量で決められるのはここだけだぞ!」

「私は確認しましたよ。決闘は『ギルドの特権でその行使の権利はギルドマスターにあるかと』その答えは『そうだ! 文句があるか!』でしたよね? いまさら権利がないと言われてもねぇ?」

 俺は懐から『録音くん』を取り出し、一連のやり取りをもう一度ギルドマスターに聞かせる。

 おっと! ぐぬぬぬ! 頂きましたっ! ニッシシ!

 まぁ。無理筋を通そうとした罰だ。人を呪わば穴二つってね。

 始めにぶち上げたノルトライブでの今後の決闘禁止のキラーワードに意識を引っ張られたんだろうね。

 のらりくらり話を繰り返してミスリードを狙ったんだよ。

 エレオノーラさんが困った顔をしている。

 まぁ。ちょっと助け船を出してやるか。

 アイテムボックスからチラッと紋章を見せる。

「ノアさん。――それって」

「はい。アールヴの委任紋章です」

「――おまえ。エルフの庇護も受けているのか……」

「えぇ。良いご縁がありましてね」

「分かった。王国全土のギルドへ通達しておく。ノア。お前に決闘を申し込むなとな」

 俺は良い笑顔で微笑んで気持ちを伝える。

「はい。宜しくお願いします」


§


 ノアがバステンに話した頼みごと。

 それは――『ノアに決闘を売るとギルドから追放される』という噂を流してもらうことだ。

 この事は瞬く間に広がり数日後に都市中に知れ渡る。

 人々は口にする。その冒険者、不可侵インヴァイオラブル
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