農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第4章  飄々

第16話  覚悟

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 レンゲの種だ。レンゲを稲の肥料にする。

 播種量は10aにおよそ3kg。

 この世界にマメ科の根粒菌がいることは大豆栽培時に根を見て確認済みだ。

 説明するまでもないが根粒菌とはマメ科の根に侵入して共生窒素固定を行う。

 それを春に耕せば元肥代わりとなるのだ。

 ケンちゃんの田んぼでレンゲを栽培したらしっかりと根粒菌が付いていた。

 ここは荒れ地だ根粒菌がいるか分からない。

 そのためその田んぼの土を持ってきたのだが、10aに3kgの軽くて小さい豆の種を撒くのはけっこう大変だ。

 軽鉄で出来た散布バケツにレンゲの種を入れてケンちゃんの田んぼの土を入れて根粒菌がこの場所に無くても共生出来るようにする。

 さらに川砂でカサ増しして撒いた場所が分かるように白い粗目の貝焼き石灰を混ぜる。

 1haを十等分で10aだ。

 棒を立てて10aの目印にしてそこに白が均一になるように3kgのレンゲの種を撒く。

 撒くと言っても腕を振るうのではなく手から上に放つようにするのが均一にするコツだ。

 比重が違うから腕を振るうと重い物が遠くに飛ぶから均一にならない。

 物理的な理由だ。

 夕暮れ前に1haに撒き終わった。

 畑より水田の準備が先かな?

 半分の5haにはケンちゃんの田んぼの土を使わずにレンゲを撒いて根粒菌が付くか試験してもらおう。

 一日八時間労働で水田の開墾にざっと六日。

 この王民事業の農業部門は9時から17時までの八時間で二時間は休憩だ。

 実労働時間は六時間。

 休憩は午前三十分に昼一時間。そして午後三十分の計二時間だ。

 福利厚生の確保は健全な農業の鉄則だからね。

 これは俺にとっては努力目標じゃなくて必須目標だからね。

 農家の四人はトラクターの運転にも慣れて来たし、耕耘する場所が出来れば3時まで俺がずっとそばにいる必要もない。

 3時の休憩まではトラクターゴーレムを乗り回してもらって、三十分の休憩を挟んでレンゲの撒き方を指導。

 農家四人が慣れるまで助言と様子を見て俺はコンラートさんとイェルダさんに監督をお願いしてその場を離れる。

 明日から五日間ここに来ない俺はやることがあるからね。


§


 夕方5時。

 ノアの声で本日の終了が告げられる。

「それでは。キリが良いのでここらへんで今日は終わりにしましょう。お疲れさまでした」

 トラクターゴーレムを運転していた二人がノアの前に寄せて、昨日と同じようにアイテムボックスに収納してもらおうとする。

 トラクターゴーレムを収納したノアは微笑むと続ける。

「少し説明があるので付いて来てください」

 先導するノアに農家の四人とイェルダにコンラートがついて行く。

「――ノアさんっ! 路が出来ていますっ!」

 イェルダが驚いたように叫ぶ。

「えぇ。作りました。それでここがトイレです。右に二室と左に二室用意しました。男女で分ける想定です」

 コンクリートで基礎を作ったレンガ作りの立派なトイレが右と少し空間を開けて左に建っている。

 そして幅20mの平らな道が真っ直ぐに伸びており、縁石を挟んで5mの歩道が右端に続いている。

「この道は畑の開墾圃場へ続いています。行ってみましょう」

 驚く周りの人間を他所にノアが歩き出す。

~~~

 到着したのは朝にトラクターゴーレムで開墾した畑。

 その周辺は先程まで灌木がまばらに生え草が生い茂った広大な荒れ地だった。

 そこが今は黒い起伏のある地面に変わっており、延べ面積で100haが更地となっている。

 その中央を広い土色の路が真っ直ぐと伸びる。歩道も含め20mの路だ。

 視線を辿ると広い道路に十字にぶつかり左右に広がる路。

 路によって新たに切り開かれたまだ手付かずの黒い地面が、10haを一枚の圃場をとして区切り取られている。

 理路整然とマス目状に区画整理されていてそこだけ別の世界に来たようだ。

 昨日切り開いたばかりの10haの圃場の中央付近に建物がある。

 200mX500mの大きさの圃場。長い方の半ば250m付近に南向きに広く大きなレンガ作りの建物だ。

 先を歩くノアに呆然としながた全員がついて行く。

「ここが農業倉庫兼集積出荷場で事務所兼休憩所です。トイレもありますよ」

 うれしそうにノアが説明する。

「「「「「「……」」」」」」

 全員言葉が無い。

「――建てたんですか? ……離れていた時間は余りなかったと思いますが……」

 イェルダが辛うじて声をかける。

「スクラップもビルドも得意な方なんですよ。それにこれは最先端の快適な建物ですよ」

 自信満々にノアが言う。

 コンラートが少し怖くなって確認する。

「――最先端ですか?」

「えぇ。まずベタ基礎はもちろん倉庫と作業場のフラットスペースも全部コンクリートと軽鉄鉄筋を使っています。そして、そこに開発したばかりの保温と保冷魔道具を利用してコンクリートの蓄熱放冷冷暖房を完備しました」

 全員が何を言っているのか分からない。

 うれしそうにノアは続ける。

「夏涼しくて冬温かい夢のコンクリートです。画期的でしょ?」

 さらにノアの説明は続く。

 倉庫についている自動開閉の魔道具シャッタ-。

 トラクタ-二台が余裕で入る。

 生体認証していない者が開けようとすると攻撃するドア。

 二十四時間監視するカメラという魔道具。

 イェルダは思い出した。

 パオラの言っていた言葉を。

 ノアくんから片時も決して目を離してはいけない。

 目を離したときは覚悟をするようにと。

 イェルダの昨日の覚悟は無残に砕け散った。 
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