142 / 403
第4章 飄々
第15話 緑肥
しおりを挟む
開墾に立ち会った王民事業の職員コンラートは、その日のノアの様子をイェルダに疲れたように報告する。
「コンラートさん。ノアさんからの差し入れのカツサンドです。美味しいですから食べてお腹を落ち着かせて下さい。荒れ地の木や草が瞬く間に消えて、黒い地面になったと?」
「ええ。そうなんです。――目を疑いました。どのくらいの面積かノアさんに確認したら10haくらいと言うんです。その場所はわずかの間にもうトラクターで耕耘できるほどの開墾が進んだということです」
「にわかには信じられませんがノアさんですからね。100haをあれだけ軽く言う訳です」
「明日からもまた私が立ち会いますが、農業は専門外です。見ているだけしか出来ませんが宜しいですね?」
「はい。王都から担当者が来るまでお願いします。明日は私も見に行きますよ」
しっかりと心して驚かないように覚悟を決めてイェルダは明日に臨む。
◇
朝一にイェルダさんに挨拶に行くと今日は一緒について来るという。
昨日付き添ってくれた職員の男性も一緒だ。
農家の四人には現地に9:00集合を伝えている。雨天中止だが今日は晴れだ。
俺ってもってる。晴れ男だからな。
開墾地で農家四人に説明する。
「今日の午前中はトラクターゴーレムの習熟に時間を割きます。二台用意しますので二人が先に耕耘して下さい。二名は待機でお願いします」
「初めてで土が固いので土が細かくなるように状態をみながら同じ場所を二回から三回耕耘して下さい。それでは宜しくお願いします」
このトラクターゴーレムの性能的に一台で通常の畑ならゆっくりやって120分/ha程で済む。
直線的に耕耘して旋回数を減らせばもう少し早く出来ると思うが今回は開墾地だから通常の二倍の回数耕耘しないといけない。
不慣れだし四時間で1haってところかな。
二台で午前の三時間の作業で1.5haが開墾速度だな。
その間に残った農家の二人に聞いてみる。
「すみません。お伺いしますがあっちの灌木の生えた荒れ地を開墾しようするとどういう方法でどのくらいかかりますか?」
「木を切り倒して根を抜くのが大変だよね。草刈は地道にやればなんとかなるけど……どの位掛かるかはやってみないと分からないよ」
「大きな岩や小さな石を魔法で砕いて土にすることは出来ますか?」
「えっと。俺には無理だけど今トラクターゴーレムに乗ってるクラウスとこいつ。ベルントは出来るよ」
「それでは魔法で土を耕耘したり良く野菜が育つ土にしたり出来ますか?」
「良く育つ土っていうのが良く分からないけど。土を耕耘――混ぜるってことだろ? それはクラウスが出来たかな? ベルントお前は?」
「僕は出来ないね。クラウスだけだろ」
なるほどなるほど。
クラウス君はケンちゃんに準ずる能力ってことだね。
ケンちゃんは肥料という概念と団粒構造を理解して良く育つ土を魔法で再現できるようになったからな。
「分かりました。色々ありがとうございます」
「いやいいよ。君にこっちが色々教えてもらうんだろ?」
次は職員の男性へ説明だ。
「コンラートさん。圃場の規格を説明させてもらいたいのですが良いですか?」
「はい。お願いします。不勉強で分からないことばかりですので不明な点はお伺いしても宜しいですか?」
「えぇ。勿論です。本来は農業の担当員ではない事もイェルダさんから聞いています」
「はい。恐縮です」
「まず、圃場の規格ですが、1haは50mX200mで作りました。それを十合わせた10haで一枚の圃場という考え方です。仕切りが無い方が農業用ゴーレムの効率が良くなりますから」
「今は実験的に畝ごとに野菜を作りますが、将来的には10haとか5ha区切りで同一作物を作ります。それにより作業の単純化を図ります。もちろん植え時期をずらして計画的に出荷できるよう調整します」
「……とんでもない規模ですね」
「そうですか? まだとっかかりも出来ていませんので将来の話です」
「80haを畑作の圃場として10haを水田の圃場として開墾予定です。10haは予備地です。道路の整備やもろもろを作るために申請してあります」
「はい。申請書内容の方は確認しています」
「午後は水田予定地の開墾作業を行いますのでそれまでに何か不明な点があればいつでも聞いて下さい」
午前中は農家の四人が二人交代で畑の耕耘をしてトラクターゴーレムの所感を確認しながら過ごした。
~~~
午後の水田予定地。
川から水路で水を引ける場所を選んである。
増水で石や砂利が流されていた場所を避けたから少し離れてしまったが水田に水を張るのは来年だ。
それまでに準備すればいい。
膝丈の草が生えているのをカロに分解してもらう。
――虫や生き物が出てこないところを見るにそれも栄養に変えているんだろうね。
その辺りがエルフに生命の精霊と呼ばれる所以かな。
チャムには水分多めでお願いする。
きれいに切り取られた長方形の地面の黒い空間が出来上がる。
周りの草原は適当に魔法で切り飛ばして景観を保つ程度に手伝う。
「ここも同じように耕耘をお願いします」
三時間後とりあえず1.5ha田んぼの予定地が出来上がったら来年の準備だ。
用意するのはケンちゃんの田んぼの乾いた土。
細かく振るって乾かした川砂。
真っ白な粗目に振るった貝焼き石灰。
――そして。
レンゲの種だ。レンゲを稲の肥料にする。
「コンラートさん。ノアさんからの差し入れのカツサンドです。美味しいですから食べてお腹を落ち着かせて下さい。荒れ地の木や草が瞬く間に消えて、黒い地面になったと?」
「ええ。そうなんです。――目を疑いました。どのくらいの面積かノアさんに確認したら10haくらいと言うんです。その場所はわずかの間にもうトラクターで耕耘できるほどの開墾が進んだということです」
「にわかには信じられませんがノアさんですからね。100haをあれだけ軽く言う訳です」
「明日からもまた私が立ち会いますが、農業は専門外です。見ているだけしか出来ませんが宜しいですね?」
「はい。王都から担当者が来るまでお願いします。明日は私も見に行きますよ」
しっかりと心して驚かないように覚悟を決めてイェルダは明日に臨む。
◇
朝一にイェルダさんに挨拶に行くと今日は一緒について来るという。
昨日付き添ってくれた職員の男性も一緒だ。
農家の四人には現地に9:00集合を伝えている。雨天中止だが今日は晴れだ。
俺ってもってる。晴れ男だからな。
開墾地で農家四人に説明する。
「今日の午前中はトラクターゴーレムの習熟に時間を割きます。二台用意しますので二人が先に耕耘して下さい。二名は待機でお願いします」
「初めてで土が固いので土が細かくなるように状態をみながら同じ場所を二回から三回耕耘して下さい。それでは宜しくお願いします」
このトラクターゴーレムの性能的に一台で通常の畑ならゆっくりやって120分/ha程で済む。
直線的に耕耘して旋回数を減らせばもう少し早く出来ると思うが今回は開墾地だから通常の二倍の回数耕耘しないといけない。
不慣れだし四時間で1haってところかな。
二台で午前の三時間の作業で1.5haが開墾速度だな。
その間に残った農家の二人に聞いてみる。
「すみません。お伺いしますがあっちの灌木の生えた荒れ地を開墾しようするとどういう方法でどのくらいかかりますか?」
「木を切り倒して根を抜くのが大変だよね。草刈は地道にやればなんとかなるけど……どの位掛かるかはやってみないと分からないよ」
「大きな岩や小さな石を魔法で砕いて土にすることは出来ますか?」
「えっと。俺には無理だけど今トラクターゴーレムに乗ってるクラウスとこいつ。ベルントは出来るよ」
「それでは魔法で土を耕耘したり良く野菜が育つ土にしたり出来ますか?」
「良く育つ土っていうのが良く分からないけど。土を耕耘――混ぜるってことだろ? それはクラウスが出来たかな? ベルントお前は?」
「僕は出来ないね。クラウスだけだろ」
なるほどなるほど。
クラウス君はケンちゃんに準ずる能力ってことだね。
ケンちゃんは肥料という概念と団粒構造を理解して良く育つ土を魔法で再現できるようになったからな。
「分かりました。色々ありがとうございます」
「いやいいよ。君にこっちが色々教えてもらうんだろ?」
次は職員の男性へ説明だ。
「コンラートさん。圃場の規格を説明させてもらいたいのですが良いですか?」
「はい。お願いします。不勉強で分からないことばかりですので不明な点はお伺いしても宜しいですか?」
「えぇ。勿論です。本来は農業の担当員ではない事もイェルダさんから聞いています」
「はい。恐縮です」
「まず、圃場の規格ですが、1haは50mX200mで作りました。それを十合わせた10haで一枚の圃場という考え方です。仕切りが無い方が農業用ゴーレムの効率が良くなりますから」
「今は実験的に畝ごとに野菜を作りますが、将来的には10haとか5ha区切りで同一作物を作ります。それにより作業の単純化を図ります。もちろん植え時期をずらして計画的に出荷できるよう調整します」
「……とんでもない規模ですね」
「そうですか? まだとっかかりも出来ていませんので将来の話です」
「80haを畑作の圃場として10haを水田の圃場として開墾予定です。10haは予備地です。道路の整備やもろもろを作るために申請してあります」
「はい。申請書内容の方は確認しています」
「午後は水田予定地の開墾作業を行いますのでそれまでに何か不明な点があればいつでも聞いて下さい」
午前中は農家の四人が二人交代で畑の耕耘をしてトラクターゴーレムの所感を確認しながら過ごした。
~~~
午後の水田予定地。
川から水路で水を引ける場所を選んである。
増水で石や砂利が流されていた場所を避けたから少し離れてしまったが水田に水を張るのは来年だ。
それまでに準備すればいい。
膝丈の草が生えているのをカロに分解してもらう。
――虫や生き物が出てこないところを見るにそれも栄養に変えているんだろうね。
その辺りがエルフに生命の精霊と呼ばれる所以かな。
チャムには水分多めでお願いする。
きれいに切り取られた長方形の地面の黒い空間が出来上がる。
周りの草原は適当に魔法で切り飛ばして景観を保つ程度に手伝う。
「ここも同じように耕耘をお願いします」
三時間後とりあえず1.5ha田んぼの予定地が出来上がったら来年の準備だ。
用意するのはケンちゃんの田んぼの乾いた土。
細かく振るって乾かした川砂。
真っ白な粗目に振るった貝焼き石灰。
――そして。
レンゲの種だ。レンゲを稲の肥料にする。
1
あなたにおすすめの小説
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~
エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます!
2000年代初頭。
突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。
しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。
人類とダンジョンが共存して数十年。
元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。
なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
大石 とんぼ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる