農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第4章  飄々

第15話  緑肥

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 開墾に立ち会った王民事業の職員コンラートは、その日のノアの様子をイェルダに疲れたように報告する。

「コンラートさん。ノアさんからの差し入れのカツサンドです。美味しいですから食べてお腹を落ち着かせて下さい。荒れ地の木や草が瞬く間に消えて、黒い地面になったと?」

「ええ。そうなんです。――目を疑いました。どのくらいの面積かノアさんに確認したら10haくらいと言うんです。その場所はわずかの間にもうトラクターで耕耘できるほどの開墾が進んだということです」

「にわかには信じられませんがノアさんですからね。100haをあれだけ軽く言う訳です」

「明日からもまた私が立ち会いますが、農業は専門外です。見ているだけしか出来ませんが宜しいですね?」

「はい。王都から担当者が来るまでお願いします。明日は私も見に行きますよ」

 しっかりと心して驚かないように覚悟を決めてイェルダは明日に臨む。





 朝一にイェルダさんに挨拶に行くと今日は一緒について来るという。

 昨日付き添ってくれた職員の男性も一緒だ。

 農家の四人には現地に9:00集合を伝えている。雨天中止だが今日は晴れだ。

 俺ってもってる。晴れ男だからな。

 開墾地で農家四人に説明する。

「今日の午前中はトラクターゴーレムの習熟に時間を割きます。二台用意しますので二人が先に耕耘して下さい。二名は待機でお願いします」

「初めてで土が固いので土が細かくなるように状態をみながら同じ場所を二回から三回耕耘して下さい。それでは宜しくお願いします」

 このトラクターゴーレムの性能的に一台で通常の畑ならゆっくりやって120分/ha程で済む。

 直線的に耕耘して旋回数を減らせばもう少し早く出来ると思うが今回は開墾地だから通常の二倍の回数耕耘しないといけない。

 不慣れだし四時間で1haってところかな。

 二台で午前の三時間の作業で1.5haが開墾速度だな。

 その間に残った農家の二人に聞いてみる。

「すみません。お伺いしますがあっちの灌木の生えた荒れ地を開墾しようするとどういう方法でどのくらいかかりますか?」

「木を切り倒して根を抜くのが大変だよね。草刈は地道にやればなんとかなるけど……どの位掛かるかはやってみないと分からないよ」

「大きな岩や小さな石を魔法で砕いて土にすることは出来ますか?」

「えっと。俺には無理だけど今トラクターゴーレムに乗ってるクラウスとこいつ。ベルントは出来るよ」

「それでは魔法で土を耕耘したり良く野菜が育つ土にしたり出来ますか?」

「良く育つ土っていうのが良く分からないけど。土を耕耘――混ぜるってことだろ? それはクラウスが出来たかな? ベルントお前は?」

「僕は出来ないね。クラウスだけだろ」

 なるほどなるほど。

 クラウス君はケンちゃんに準ずる能力ってことだね。

 ケンちゃんは肥料という概念と団粒構造を理解して良く育つ土を魔法で再現できるようになったからな。

「分かりました。色々ありがとうございます」

「いやいいよ。君にこっちが色々教えてもらうんだろ?」

 次は職員の男性へ説明だ。

「コンラートさん。圃場の規格を説明させてもらいたいのですが良いですか?」

「はい。お願いします。不勉強で分からないことばかりですので不明な点はお伺いしても宜しいですか?」

「えぇ。勿論です。本来は農業の担当員ではない事もイェルダさんから聞いています」

「はい。恐縮です」

「まず、圃場の規格ですが、1haは50mX200mで作りました。それを十合わせた10haで一枚の圃場という考え方です。仕切りが無い方が農業用ゴーレムの効率が良くなりますから」

「今は実験的に畝ごとに野菜を作りますが、将来的には10haとか5ha区切りで同一作物を作ります。それにより作業の単純化を図ります。もちろん植え時期をずらして計画的に出荷できるよう調整します」

「……とんでもない規模ですね」

「そうですか? まだとっかかりも出来ていませんので将来の話です」

「80haを畑作の圃場として10haを水田の圃場として開墾予定です。10haは予備地です。道路の整備やもろもろを作るために申請してあります」

「はい。申請書内容の方は確認しています」

「午後は水田予定地の開墾作業を行いますのでそれまでに何か不明な点があればいつでも聞いて下さい」

 午前中は農家の四人が二人交代で畑の耕耘をしてトラクターゴーレムの所感を確認しながら過ごした。

~~~

 午後の水田予定地。

 川から水路で水を引ける場所を選んである。

 増水で石や砂利が流されていた場所を避けたから少し離れてしまったが水田に水を張るのは来年だ。

 それまでに準備すればいい。

 膝丈の草が生えているのをカロに分解してもらう。

 ――虫や生き物が出てこないところを見るにそれも栄養に変えているんだろうね。

 その辺りがエルフに生命の精霊と呼ばれる所以かな。

 チャムには水分多めでお願いする。

 きれいに切り取られた長方形の地面の黒い空間が出来上がる。

 周りの草原は適当に魔法で切り飛ばして景観を保つ程度に手伝う。

「ここも同じように耕耘をお願いします」

 三時間後とりあえず1.5ha田んぼの予定地が出来上がったら来年の準備だ。

 用意するのはケンちゃんの田んぼの乾いた土。

 細かく振るって乾かした川砂。

 真っ白な粗目に振るった貝焼き石灰。


 ――そして。


 レンゲの種だ。レンゲを稲の肥料にする。
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