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第4章 飄々
第32話 実演
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収穫祭の翌日。
週の始まりはマスターさんと神武さんとの卵の取引だ。
まだ飼料を潤沢に用意できる王都だけだが地域ブランド地鶏化事業も開始されている。
卵の取引は事前に指定した量を受け取るだけだったが、今は少し変化があった。
俺が毎回持参する手土産のせいかマスターさんが料理に興味を持っているらしく。
神武さんから念話で秘密裏にマスターさんを料理作りに誘ってくれないかと打診があった。
言われてみるとつっけんどんだった態度が軟化し手土産を食べながら何で出来ているのか聞かれるようになった。
そうお願いされれば利は元にありを標榜する俺だ。
取引相手との円滑な関係の為に神武さんのお願いを聞き入れるのも吝かではない。
今日の手土産で持って来たクグロフを食べているマスターさんに話しかける。
クグロフは焦げ茶色の王冠状のお菓子で真ん中に空洞があり。斜めにねじり上がる規則的な凹凸が特徴的なお菓子だ。
シフォンケーキをイメージすると伝わりやすいかな。実際にクグロフ型でシフォンを焼くこともある。
表面をナパージュで艶を付けてあり、粉糖を溶いて流しかけた真っ白な化粧が美しい。
その上に細かく刻んだ色とりどりのドライフルーツが振りかけられている。
例のごとく菓子職人エミリアの作品だ。
「マスターさん。料理に興味があるなら何か作ってみませんか?」
ピタリと動きを止めるマスターさん。
「いえ。大丈夫。――――でもどうやって作るのかは見てみたいかも」
ちらりと神武さんを見ると先を促すように軽く頷いた。
「どんな料理に興味がありますか?」
「そうね。いつもあなたが持って帰る卵で作る料理を見てみたい」
「構いませんが――」
「ノアさん。調理場所と卵はこちらで用意します。お手間でなければお願いできますか?」
神武さんがそう言うと部屋にキッチンが現れた。
魔道具コンロというよりもホテルの厨房を思わせる設備だ。
「道具は好きに使っていただいて構いません。どうぞ宜しくお願いします」
戸棚を開けるとアルミのボウルにレードルと地球仕様の調理器具が揃っていた。
鍋に水を用意して卵とジャガイモをシャララン魔法できれいにして一緒に煮る。
根菜類は水から茹でるが基本だからね。
大きいボウルを用意して左手に手持ちの小さなボウルを持つ。
片手で割った卵を手持ちの小さなボウルに入れて異常がないか確認してから大きなボウルに入れる。
万に一つでも中に血の混ざった血卵の混入や異常のあった卵を入れて全てを台無しにしないようにする和食の基本作業だ。
食材を無駄にしてはいけないという生命への感謝と、そして最善の食材をお客様へお出しするおもてなしの心だ。
俺はばーさまに叩き込まれた。そこに手抜きは許されない。
必要分が溜まったら卵を泡立て器で混ぜて濾し器でこす。白身のかたまりやカラザ、泡を除いて滑らかにするためだ。
一つのボウルを用意して小さなボウルにエッグセパレーターを付けて白身と黄身を分離する。
同じように白身を濾しておいておく。
――俺が作る料理。
一つはド定番のプリン。
一つはプリンと同じ工程なのに温かく食べる茶碗蒸しで違いを味わってもらう。
もう一つは出汁巻き玉子。
もう一つは茹で玉子がポイントのポテトサラダ。
最後の一つはホウレン草と卵を使ったスフォルマートだ。
これが領主向けに開発したおしゃれレシピだぜ。
四〇分ほどで作り上げるとマスターさんは楽しそうに見ていた。
その後ろに立つ神武さんも嬉しそうだ。
どれも簡単な料理だから映像録画していれば再現できるだろう。
サービスで調味料と食材は置いて行った。
神武さんとの約束の温泉は三〇階層に用意してもらった。
このダンジョンに用意してもらった温泉は想像以上の場所だった。
左手にエメラルドグリーンの湖畔が広がり右手に白糸の滝が流れ落ちる。
木漏れ日が涼やかな水辺の一画。
無臭だがトロリとした肌触りの白濁した温泉が源泉かけ流しで湧いていた。
俺がダンジョンに来たときは毎回入浴している。
監視の目?
一五歳を過ぎた男が何を見られて恥ずかしいってんだ。
全く気にしない。
今日もこれから入りに行こう。
マスターさんに別れを告げて俺は三〇階層を目指した。
週の始まりはマスターさんと神武さんとの卵の取引だ。
まだ飼料を潤沢に用意できる王都だけだが地域ブランド地鶏化事業も開始されている。
卵の取引は事前に指定した量を受け取るだけだったが、今は少し変化があった。
俺が毎回持参する手土産のせいかマスターさんが料理に興味を持っているらしく。
神武さんから念話で秘密裏にマスターさんを料理作りに誘ってくれないかと打診があった。
言われてみるとつっけんどんだった態度が軟化し手土産を食べながら何で出来ているのか聞かれるようになった。
そうお願いされれば利は元にありを標榜する俺だ。
取引相手との円滑な関係の為に神武さんのお願いを聞き入れるのも吝かではない。
今日の手土産で持って来たクグロフを食べているマスターさんに話しかける。
クグロフは焦げ茶色の王冠状のお菓子で真ん中に空洞があり。斜めにねじり上がる規則的な凹凸が特徴的なお菓子だ。
シフォンケーキをイメージすると伝わりやすいかな。実際にクグロフ型でシフォンを焼くこともある。
表面をナパージュで艶を付けてあり、粉糖を溶いて流しかけた真っ白な化粧が美しい。
その上に細かく刻んだ色とりどりのドライフルーツが振りかけられている。
例のごとく菓子職人エミリアの作品だ。
「マスターさん。料理に興味があるなら何か作ってみませんか?」
ピタリと動きを止めるマスターさん。
「いえ。大丈夫。――――でもどうやって作るのかは見てみたいかも」
ちらりと神武さんを見ると先を促すように軽く頷いた。
「どんな料理に興味がありますか?」
「そうね。いつもあなたが持って帰る卵で作る料理を見てみたい」
「構いませんが――」
「ノアさん。調理場所と卵はこちらで用意します。お手間でなければお願いできますか?」
神武さんがそう言うと部屋にキッチンが現れた。
魔道具コンロというよりもホテルの厨房を思わせる設備だ。
「道具は好きに使っていただいて構いません。どうぞ宜しくお願いします」
戸棚を開けるとアルミのボウルにレードルと地球仕様の調理器具が揃っていた。
鍋に水を用意して卵とジャガイモをシャララン魔法できれいにして一緒に煮る。
根菜類は水から茹でるが基本だからね。
大きいボウルを用意して左手に手持ちの小さなボウルを持つ。
片手で割った卵を手持ちの小さなボウルに入れて異常がないか確認してから大きなボウルに入れる。
万に一つでも中に血の混ざった血卵の混入や異常のあった卵を入れて全てを台無しにしないようにする和食の基本作業だ。
食材を無駄にしてはいけないという生命への感謝と、そして最善の食材をお客様へお出しするおもてなしの心だ。
俺はばーさまに叩き込まれた。そこに手抜きは許されない。
必要分が溜まったら卵を泡立て器で混ぜて濾し器でこす。白身のかたまりやカラザ、泡を除いて滑らかにするためだ。
一つのボウルを用意して小さなボウルにエッグセパレーターを付けて白身と黄身を分離する。
同じように白身を濾しておいておく。
――俺が作る料理。
一つはド定番のプリン。
一つはプリンと同じ工程なのに温かく食べる茶碗蒸しで違いを味わってもらう。
もう一つは出汁巻き玉子。
もう一つは茹で玉子がポイントのポテトサラダ。
最後の一つはホウレン草と卵を使ったスフォルマートだ。
これが領主向けに開発したおしゃれレシピだぜ。
四〇分ほどで作り上げるとマスターさんは楽しそうに見ていた。
その後ろに立つ神武さんも嬉しそうだ。
どれも簡単な料理だから映像録画していれば再現できるだろう。
サービスで調味料と食材は置いて行った。
神武さんとの約束の温泉は三〇階層に用意してもらった。
このダンジョンに用意してもらった温泉は想像以上の場所だった。
左手にエメラルドグリーンの湖畔が広がり右手に白糸の滝が流れ落ちる。
木漏れ日が涼やかな水辺の一画。
無臭だがトロリとした肌触りの白濁した温泉が源泉かけ流しで湧いていた。
俺がダンジョンに来たときは毎回入浴している。
監視の目?
一五歳を過ぎた男が何を見られて恥ずかしいってんだ。
全く気にしない。
今日もこれから入りに行こう。
マスターさんに別れを告げて俺は三〇階層を目指した。
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