160 / 403
第4章 飄々
第33話 型破
しおりを挟む
少女は手品でも見るようにキラキラした目でノアの料理の手順を眺める。
流れるように卵を割り迷いなく作業が連なって行く。
踊るように四角いフライパンを振るい綺麗に巻かれた出汁巻き玉子。
たまに告げられる料理のポイントも興味津々だ。
「ポテトサラダのジャガイモはマッシュ加減はお好みで今回は粗目に仕上げました。ポイントは茹で玉子です。包丁で切ると角だった舌触りになるので手で握りつぶしてフワフワで柔らかい食感を出しました。半分は細かくつぶして、半分はちぎるようにゴロっと大きくして食べ応えを出しています」
昆布草の出汁と玉素で風味とコクを整えた和風なポテトサラダだ。
ほうれん草をミキサーでペースト状にして裏濾しし、そこへベシャメルソースと黄身を混ぜる。
そして泡立てた卵白を絡めるように混ぜると淡い緑のムースが出来上がった。
それをプリンと同じ型に半分程入れてトントンと平らにするように叩く。
同じようにペーストにした人参で作ったムースをその上に流し入れてオーブンで焼く。
皿に温かなビシソワーズを注ぎ。
焼き上がった緑と黄色味の強い橙色の二層のスフォルマートが盛り付けられた。
頭に素揚げされ塩を振られた湯葉が突き立てられて見た目の美しさを際立たせる。
「マスターさん。以上で玉子料理の完成です。あとで召し上がってみて下さい」
別れの挨拶のあと部屋を出て行ったノアを見送り。
彼がスフォルマートと呼んだ目の前の美しい料理にフォークを伸ばす。
「っん? ――っ甘くないっ!」
ノアからの手土産しか食べた事の無い少女は初めての料理に仰天する。
「ノアさんが持ち込んでくれる手土産はスイーツばかりでしたからね。人間の通常の食事はしょっぱいものがほとんどで食後に甘いものを食べたりします」
ふわふわだがしっかりとほうれん草の風味のある緑の層と程よい甘味のオレンジの層。
カリっとした食感を足すように添えられた素揚げの湯葉。
新しい風味を加え全体の味を支えるビシソワーズのスープも最高だ。
このスフォルマートには玉素が隠し味で使われていて味に深みとコクを足している。
少女は来訪のアラームを切り忘れて何とは無しに監視を続けてしまった少年の事を考える。
型に嵌らない少年だ。
楯で守りを固め槍で攻撃していたかと思えば近接大型モンスター。
ストリゴイ相手に無手で乱打戦を仕掛け出した。
ストリゴイは少年よりも体格は倍するモンスターだ。
爬虫類を思わせる灰色の体表に二本のツノ。
ゴリラと人間を混ぜた筋肉質な人型の敵だ。
少年はストリゴイの攻撃を両手で受けると後方へ舞うように飛び上がりその力を逃がした。
最初は苦戦しているように見えるが、少しづつ装備が増えてゆく。
初めの武器は手の甲を覆うアームガードとナイフを一緒くたにした装備。ナックルダスターにナイフが付いたトレンチナイフと呼ばれる武器にも似ていた。
拳のところに厚くて短い矢じり状のスタッツが組み込まれている。
スピードでもって翻弄しナイフでストリゴイを倒していく。
ナイフはアームガードの手の側面に据付られたように生えている。
そのため手を広げても落ちない仕様だ。
襲い掛かるストリゴイの腕に手を引っかけて空中で体勢を変えたり、トリッキーな動きで攻撃を避けている。
その内に前腕まで覆うエルボーガードが装備され、肘には拳のスタッツを大きくした菱形のツノを思わせる突起が取り付けられている。
その装備を使って懐に入り肘打ちで喉を掻き切り、体当たり気味に肘で喉を貫き倒す。
――更に装備が増える。今度は足だ。
膝まで覆うロングブーツで膝には肘と同じ長いツノ状のスタッツが施されている。
それは短いが踵にもあり。足の甲には三列に並んでいた。
その後は圧巻だった。
コマのようにくるくると回りボールの如く弾みストリゴイへ襲い掛かる。
ストリゴイの下腿内側へローを放ち、体勢が崩れたところを太ももを踏み台に駆け上がり膝蹴りで一撃で倒す。
次の一体には飛び右回し蹴りで上段に蹴りを放ち。
掴みにくるストリゴイの手を蹴った勢いで反転。
自身の左手でストリゴイの左手を握り、そこを力場として空中でも威力をのせたバックスピンキックで喉笛を切り割いた。
一通りの戦闘で満足した様子の少年はこの頃の日課の三〇階層の温泉に向かう。
少年の入浴の様子は神武の配慮で映像に修正がかけられている。
(それにしても気持ちよさそうに入るわね。……確かに気持ち良かったけど)
あまりに幸福そうな少年の様子に少女も水着で温泉に入ってみたのだ。
体温の変化を感じない少女はその解放感と血が漲る高揚感に少し温泉が好きになっている。
その少女の様子を神武が優しく見守る。
(少しずつ。少しずつだ。その内ノアさんの名前呼びを提案してみよう)
神武は少女の幸せだけを願う。
流れるように卵を割り迷いなく作業が連なって行く。
踊るように四角いフライパンを振るい綺麗に巻かれた出汁巻き玉子。
たまに告げられる料理のポイントも興味津々だ。
「ポテトサラダのジャガイモはマッシュ加減はお好みで今回は粗目に仕上げました。ポイントは茹で玉子です。包丁で切ると角だった舌触りになるので手で握りつぶしてフワフワで柔らかい食感を出しました。半分は細かくつぶして、半分はちぎるようにゴロっと大きくして食べ応えを出しています」
昆布草の出汁と玉素で風味とコクを整えた和風なポテトサラダだ。
ほうれん草をミキサーでペースト状にして裏濾しし、そこへベシャメルソースと黄身を混ぜる。
そして泡立てた卵白を絡めるように混ぜると淡い緑のムースが出来上がった。
それをプリンと同じ型に半分程入れてトントンと平らにするように叩く。
同じようにペーストにした人参で作ったムースをその上に流し入れてオーブンで焼く。
皿に温かなビシソワーズを注ぎ。
焼き上がった緑と黄色味の強い橙色の二層のスフォルマートが盛り付けられた。
頭に素揚げされ塩を振られた湯葉が突き立てられて見た目の美しさを際立たせる。
「マスターさん。以上で玉子料理の完成です。あとで召し上がってみて下さい」
別れの挨拶のあと部屋を出て行ったノアを見送り。
彼がスフォルマートと呼んだ目の前の美しい料理にフォークを伸ばす。
「っん? ――っ甘くないっ!」
ノアからの手土産しか食べた事の無い少女は初めての料理に仰天する。
「ノアさんが持ち込んでくれる手土産はスイーツばかりでしたからね。人間の通常の食事はしょっぱいものがほとんどで食後に甘いものを食べたりします」
ふわふわだがしっかりとほうれん草の風味のある緑の層と程よい甘味のオレンジの層。
カリっとした食感を足すように添えられた素揚げの湯葉。
新しい風味を加え全体の味を支えるビシソワーズのスープも最高だ。
このスフォルマートには玉素が隠し味で使われていて味に深みとコクを足している。
少女は来訪のアラームを切り忘れて何とは無しに監視を続けてしまった少年の事を考える。
型に嵌らない少年だ。
楯で守りを固め槍で攻撃していたかと思えば近接大型モンスター。
ストリゴイ相手に無手で乱打戦を仕掛け出した。
ストリゴイは少年よりも体格は倍するモンスターだ。
爬虫類を思わせる灰色の体表に二本のツノ。
ゴリラと人間を混ぜた筋肉質な人型の敵だ。
少年はストリゴイの攻撃を両手で受けると後方へ舞うように飛び上がりその力を逃がした。
最初は苦戦しているように見えるが、少しづつ装備が増えてゆく。
初めの武器は手の甲を覆うアームガードとナイフを一緒くたにした装備。ナックルダスターにナイフが付いたトレンチナイフと呼ばれる武器にも似ていた。
拳のところに厚くて短い矢じり状のスタッツが組み込まれている。
スピードでもって翻弄しナイフでストリゴイを倒していく。
ナイフはアームガードの手の側面に据付られたように生えている。
そのため手を広げても落ちない仕様だ。
襲い掛かるストリゴイの腕に手を引っかけて空中で体勢を変えたり、トリッキーな動きで攻撃を避けている。
その内に前腕まで覆うエルボーガードが装備され、肘には拳のスタッツを大きくした菱形のツノを思わせる突起が取り付けられている。
その装備を使って懐に入り肘打ちで喉を掻き切り、体当たり気味に肘で喉を貫き倒す。
――更に装備が増える。今度は足だ。
膝まで覆うロングブーツで膝には肘と同じ長いツノ状のスタッツが施されている。
それは短いが踵にもあり。足の甲には三列に並んでいた。
その後は圧巻だった。
コマのようにくるくると回りボールの如く弾みストリゴイへ襲い掛かる。
ストリゴイの下腿内側へローを放ち、体勢が崩れたところを太ももを踏み台に駆け上がり膝蹴りで一撃で倒す。
次の一体には飛び右回し蹴りで上段に蹴りを放ち。
掴みにくるストリゴイの手を蹴った勢いで反転。
自身の左手でストリゴイの左手を握り、そこを力場として空中でも威力をのせたバックスピンキックで喉笛を切り割いた。
一通りの戦闘で満足した様子の少年はこの頃の日課の三〇階層の温泉に向かう。
少年の入浴の様子は神武の配慮で映像に修正がかけられている。
(それにしても気持ちよさそうに入るわね。……確かに気持ち良かったけど)
あまりに幸福そうな少年の様子に少女も水着で温泉に入ってみたのだ。
体温の変化を感じない少女はその解放感と血が漲る高揚感に少し温泉が好きになっている。
その少女の様子を神武が優しく見守る。
(少しずつ。少しずつだ。その内ノアさんの名前呼びを提案してみよう)
神武は少女の幸せだけを願う。
1
あなたにおすすめの小説
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる