農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第5章  流来

第1話  帰郷

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 ――――王都

 エステラは旅立つ前に一度王都へと戻る。

 大切な仲間に別れを告げるためだ。

 ネスリングスに戻ると帰った事に気づいたビビアナは駆け寄りエステラをギュッと抱きしめた。

 エステラもギュッと抱きしめ返す。

 クローエは青黒い髪を揺らして微笑ましそうにそれを見つめている。

 ネスリングスのエンジン。

 色黒で焦げ茶の髪をしたアルバロが労う。

「エステラ。おかえり。――腹は減ってないか?」

「うん。大丈夫。ありがと。アル」

 エステラはそう言うと今度はクローエにハグをした。

「おかえりなさい。エステラ」

 クローエも優しく抱き返す。

 色白のっぽでネスリングスのバランサー。

 くすんだ金髪のクレトは穏やかな目でエステラを迎える。

「おかえり。エステラ。――疲れていない?」

「ただいま。クレト。大丈夫」

「おかえりなさい。エステラさん」

 最後に声を掛けたのはエミリアだ。

 彼女はもうすぐネスリングスを出て新しい店をだす。

 屋号はチックス。ネスリングスのセカンドブランドの一つだ。

 名称はノアからの手紙で提案されて決まった。

 ヒヨコを意味するその言葉も初心を忘れるなという戒めから付けられた。

 そして卵をたくさん使うエミリアへ、生命への感謝と賛美を絶えず心がけるようにとの願いが込められている。

 隣国からついてきた弟子志願者は王民事業体イ-ディセルで菓子作りの講習を受けている。

「ただいま。エミー」

 そう言ってエステラはエミリアにハグをした。

 折よくケィンリッドが店を訪れる。

「お~いすっ! ――って。おぅ。エステラ。戻って来たのか」

「ただいま。ケンさん。久しぶり」

 半年ぶりにネスリングスが全員そろう。だがこの再会はこの後の長い別れを意味している。

 誰もがそれを知り、明るく振舞う。

 エステラが選んだ道と努力を知っているから。

 別れが悲しみだけではない事を教えてくれた人がいるから。


§


 バルサタールは醸造所にやって来た。

「ご無沙汰ね。バルサタールさん」

 醸造所を切り盛りする職業が醸造家のヘレナが迎えた。

 濃いグレーの髪をまとめて黒のワークキャップをしっかりと被っている。

 姉のヘレナの声で来訪に気付いた、同じく職業が醸造家のヘイモが振り返り挨拶した。

「いらっしゃいませ。師匠のおじさん」

 姉と同じ濃いグレーの髪を刈上げ同じデザインの黒のワークキャップを被っている。

 この二人は姉と弟の双子だ。

「邪魔するぜ。――例の酒はもう出来たか?」

「新しい方? ――それともノアと作って寝かせてるやつ?」

 ヘレナがそう聞き返す。

「そういえば寝かせてるのもあったんだな。――新しい方は?」

「一応出来上がったけど。――まだ試作品だよ」

「何? 師匠のおじさん。飲みたいの?」

 ヘイモが尋ねる。

「ちょっと贈りたい奴がいてな」

 旅立つエステラを使ってノルトライブの旧友に返礼の酒を送りたいのだ。

 王国の酒は麦から作ったエールとワインに似た酒が主流だ。

 もらった酒の礼を口実にエステラの面倒を頼みたいのだ。

 その為にここで作られた新しい酒はもってこいだろう。

「俺達の酒造りは実験しているだけだよ。ノアくんが置いて行ったレシピの再現実験。酒作りがメインの部署があるから紹介するよ?」

 ヘイモがそう重ねて言う。

「そこの責任者がお前らだろう?」

「なんか知らないうちにノアに騙されたの。だって、あたしたち味噌と醤油を作ってくれって頼まれただけなのに」

「いつのまにか醸造部が立ち上がって、味噌、醤油、各種調味料。そして酒の醸造所が出来ていて気付いたら責任者になっていたんだもの」

 ヘレナはノアの言葉を思い出す。
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