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第5章 流来
第2話 転職
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ヘレナはノアの言葉を思い起こす。
「ヘレナさん。麹は古くは稲贅花と呼ばれる稲穂に発生した麹菌を素種にして行なわれていました。まさに自然の恵みで味噌や醤油。そして酒を仕込んだんです」
「私はそのなかで選抜された優秀な種菌……通称で“もやし”ですね。それを持っています。これを使って味噌と醤油造りをお願いします」
「――私も醤油は作ったことがありませんが、うちのばーさまは味噌を仕込んでました。味噌を作ると味噌たまりが出来ます。水が回り切らなかった味噌作りの水分なんですが、まぁ。それが醤油の元祖みたいなものです」
「――せっかく醸造家の才能があるんですから、ソースも作ってみましょう。ウスターソースです。主婦がほっといたら偶然できたくらいですから簡単です。乱暴に言えば貯蔵中に下に沈殿したものが中濃ソース。上澄みがウスターソースです」
「――ここまで来たら酒類にも手を伸ばしましょう。グラン・マルニエが欲しいんですよ」
「――上面発酵のエールも良いんですが、下面発酵のラガーも作りましょう」
あれよあれよとノアからオーダーが広がり一緒にみりんにお酢。
そしてこの世界で新たな酒類が生み出された。
寝かせている酒はウィスキー。その隣にはブランデーが眠る。
ノアはこの世界で初めて蒸留酒造りを成功させた。
器用貧乏の名の通り無節操にその種類を増やしている。
ノアが作り方のレシピを置いて行った酒の中にバルサタールが欲しい酒がある。
ノアが未来に残るようにその名を付けた。
その名は――日本酒だ。
迷い込んだ誰かに仲間が居たんだと伝わるように。
そう願いこちらの世界では意味の伝わらないその名をつけた。
「ニホンシュは光と温度変化に弱いから直射日光をさけて10℃以下の場所で保管してね。生酒だから開栓後はなるべく早く飲むように。常温で保管したりしたらもうあげないよ」
ヘレナもヘイモも日本酒を冷蔵保存出来ないような奴に渡すなとノアから言われている。
バルサタールは礼をいって日本酒をアイテムボックスにしまった。
ふくよかな甘味と後味に残る辛味。
鼻から抜けるすがすがしい薫香がバルサタールのお気に入りだ。
旧友も知らない酒を贈り王都の住みやすさを自慢してやろう。
(小僧がいるならノルトライブもずいぶん住みやすくなるはずだ)
自分の知らないものが贈り返されてくる未来を想像しニヤリと笑った。
§
ウェンに連れられてエステラは教会に来た。
訓練や努力の結果変わることがあるのが職業だ。
その確認のために足を運んだのだ。
司祭が祝詞を唱えるとエステラの体の表面が光り頭に職業が浮かび上がる。
「――キュウテイ料理人? ……」
聞きなれない職業にエステラは首をかしげる。
自分でも誇りにしている料理人が外されていなかった事にひとまず安堵する。
「ふ~ん? 珍しい職業ね。でもあなたにピッタリじゃない。訓練で今の戦い方を身に着けた甲斐があったわね」
「ウェン師。――これどういう意味?」
「弓を使って先陣を切り、敵深くまで挺進するという意味ね。或いは挺身して困難に当たるとも読み解ける。ナイフを鍛えたからこそ得られた職業じゃないかしら」
エステラの職業は――弓挺料理人。
――この世界で初めて生まれた職業だ。
「ヘレナさん。麹は古くは稲贅花と呼ばれる稲穂に発生した麹菌を素種にして行なわれていました。まさに自然の恵みで味噌や醤油。そして酒を仕込んだんです」
「私はそのなかで選抜された優秀な種菌……通称で“もやし”ですね。それを持っています。これを使って味噌と醤油造りをお願いします」
「――私も醤油は作ったことがありませんが、うちのばーさまは味噌を仕込んでました。味噌を作ると味噌たまりが出来ます。水が回り切らなかった味噌作りの水分なんですが、まぁ。それが醤油の元祖みたいなものです」
「――せっかく醸造家の才能があるんですから、ソースも作ってみましょう。ウスターソースです。主婦がほっといたら偶然できたくらいですから簡単です。乱暴に言えば貯蔵中に下に沈殿したものが中濃ソース。上澄みがウスターソースです」
「――ここまで来たら酒類にも手を伸ばしましょう。グラン・マルニエが欲しいんですよ」
「――上面発酵のエールも良いんですが、下面発酵のラガーも作りましょう」
あれよあれよとノアからオーダーが広がり一緒にみりんにお酢。
そしてこの世界で新たな酒類が生み出された。
寝かせている酒はウィスキー。その隣にはブランデーが眠る。
ノアはこの世界で初めて蒸留酒造りを成功させた。
器用貧乏の名の通り無節操にその種類を増やしている。
ノアが作り方のレシピを置いて行った酒の中にバルサタールが欲しい酒がある。
ノアが未来に残るようにその名を付けた。
その名は――日本酒だ。
迷い込んだ誰かに仲間が居たんだと伝わるように。
そう願いこちらの世界では意味の伝わらないその名をつけた。
「ニホンシュは光と温度変化に弱いから直射日光をさけて10℃以下の場所で保管してね。生酒だから開栓後はなるべく早く飲むように。常温で保管したりしたらもうあげないよ」
ヘレナもヘイモも日本酒を冷蔵保存出来ないような奴に渡すなとノアから言われている。
バルサタールは礼をいって日本酒をアイテムボックスにしまった。
ふくよかな甘味と後味に残る辛味。
鼻から抜けるすがすがしい薫香がバルサタールのお気に入りだ。
旧友も知らない酒を贈り王都の住みやすさを自慢してやろう。
(小僧がいるならノルトライブもずいぶん住みやすくなるはずだ)
自分の知らないものが贈り返されてくる未来を想像しニヤリと笑った。
§
ウェンに連れられてエステラは教会に来た。
訓練や努力の結果変わることがあるのが職業だ。
その確認のために足を運んだのだ。
司祭が祝詞を唱えるとエステラの体の表面が光り頭に職業が浮かび上がる。
「――キュウテイ料理人? ……」
聞きなれない職業にエステラは首をかしげる。
自分でも誇りにしている料理人が外されていなかった事にひとまず安堵する。
「ふ~ん? 珍しい職業ね。でもあなたにピッタリじゃない。訓練で今の戦い方を身に着けた甲斐があったわね」
「ウェン師。――これどういう意味?」
「弓を使って先陣を切り、敵深くまで挺進するという意味ね。或いは挺身して困難に当たるとも読み解ける。ナイフを鍛えたからこそ得られた職業じゃないかしら」
エステラの職業は――弓挺料理人。
――この世界で初めて生まれた職業だ。
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