農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第4章  飄々

第38話  終章Ⅳ ~種は旅立つ~

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 屋台連合のネストをまとめるネビルは広場の騒ぎを耳にして事情を聞く。

「どうかしたか?」

「あっ! 代表。このお客さんがすいとんの味が違うって言うんです。味は具と味付けで変わるって説明したんですけど。納得してくれなくて」

 商人風の男がバツが悪そうに言い訳をする。

「何もいちゃもん付けるつもりはないんだ。前に食べたのと噛み応えが違うからこれしかないのか聞いただけだよ」

「へぇ? どう違うんだ」

「もっともっちりとして腹にたまった。スタンピードで商売道具がおシャカになって命からがら辿り着いた村で振る舞ってもらったんだ。やけになってた俺を立ち直らせてくれた思い出の味だ。すいとんと聞いて懐かしくなってな」

「すいとんに違いがあるとは思わねぇが……ほかに何か特徴はあったか?」

「ん~。ジャーマンポテトってやつも一緒にでてきたな」

「ジャーマンポテト……その意味の分からないネーミングには心当たりがあるな」

 ネビルは少し思案するとスープを取り出す。

「もしかしてこれか?」

 男は受け取りそれを食べる。

「そうそうこれだっ! これこそすいとんっ! 思い出のより旨い位だな。魂の味だっ!」

「代表っ! それって?」

「っん? ――ニョッキだな」

「あっ? すいとんだろ」

 ネビルはあいまいに笑って問いかける。

「他にも何か面白い話はなかったか?」

「おぉ。何でも土地神様の使いがお伝えになった料理だと言っていたな。さすが王都。何でもあるな」

 思わず吹き出すネビル。

(――神様の使いって……何だよっ!)

「その村はほとんど壊滅していたのに、少ない食料を俺に分けてくれたんだ。そしてこう言われた――」

 男が語ったそれはネビルの良く知るまじない。

 勝手に広がりうつる幸せなまじないだ。

 小麦を焼き出された村でかき集めた残り少ない小麦を有効利用しようと、ノアはジャガイモを加えて腹にたまるニョッキに仕立てた。

 ネビルはノアの言葉を思い出していた。

 ジャガイモを蒸かすだけでニョッキとジャーマンポテトとポテトサラダとコロッケが出来る。

 ノアが言うネビルには意味は分からないジャーマンポテトのヒントがあればニョッキに思い至れる。

 今はノルトライブにいると聞く恩人は知らない場所で騒動を起こしながら変わらずやっているようだ。

(ノアくん。あんたの撒いた種が一粒また王都に届いたよ)

 王国でこれから長く論じられるニョッキとすいとんのどちらが本家の具か論争は騒動にひょっこり顔を出すあの男が火付け役だ。

 あの村を中心にニョッキのすいとんは優しさと共に広がる。


§


 ――――城楯都市ドゥブロベルク

「嬢ちゃん。あんたの基礎能力はいいところB級に引っかかるくらいだ。過信はするなよ」

 バルサタールは苦笑いしながら問いかける。

「分かってる。先生。過信するほどの実力はない」

 二年ほどの訓練で純度を増した強い眼差しでエステラは言う。

「あら? おかしいわね。十分にノアから弓の志を折れるくらいにはしたつもりだけど」

「錬金術師さんよ。さすがにやり過ぎだ。もう少し手心を加えられなかったのか?」

「まさか。十分にダウングレードしたものよ。もとは神器と呼ばれたものだもの」

 バルサタールの苦笑いは深くなる。

(他門に口出しは無粋か。あの坊主の隣に立つなら必要なことなんだろうが……)

「嬢ちゃん。訓練以外で本気は出すなよ。だが、道具に振り回されないように訓練では本気を出せ」

 エステラは訓練と同時に伸ばし始めた金髪を邪魔にならないように編み込みうなじで束ねている。

「うん。わかった。先生。そうする」

 彼女の眼前には表面を削り取られた広大な平原が見える。

 少し前に弓を手にしたエステラが作り出した光景だ。

「訓練用の戦闘領域も作っておいたからその中でやると良いわ。ダンジョンの構造を模しているから広くて空も高いしね」

「はい。ウェン師。いろいろとありがとう」

 背中を見上げて羽ばたく準備をしていた少女はもうすぐ旅立つ。





 俺はゆっくりと目を開ける。

 最初に目に入ったのは心配そうに見つめるモルトの顔だ。

 そして俺と目が合うと安心したようににっこりと微笑んだ。

 上体を起こして辺りを見渡すとありましたよ錬金召喚したものが。

 俺が日本から呼び寄せたもの。

 それは――


 動力:純水還元水素エンジン搭載

 区分:AIフルオートトラクター
 品番:W-00D
 出力:85馬力
 仕様:フロントローダー装備

 これはシルバーと黒で構成された最新の高性能トラクターだ。

 前輪が小さく後輪が大きいタイヤにはオーバーフェンダーがその半分を覆い隠して保護している。

 車体の前方にはブルドーザーを思わせる黒いフロントローダーが装備されていた。

 メーカーはその品番からウッドという愛称を広めようとしたがさすが農業業界だロボトラで確定した。

 軽トラの流れだね。

 このトラクターは環境保全型農業に則して完全無公害の水素エンジン仕様。

 純水へ特許触媒を撹拌することで電気分解を可能とし水素と酸素を発生させてエネルギー源としている。

 廃棄のない完全循環の水素エンジンだ。

 高度化した現代の農業に則り乗車には特殊な免許がいる。

 農車両操舵一級免許だ。

 もちろん俺は持っていた。

 この資格の中にはドローンの操縦資格も内在されている。

 ちなみにこのトラクターには複数のドローンを管理操縦する機能が付いている。

 さっそく俺はトラクターに乗り込み設定する。

「はじめまして。ノアさん。これからもよろしくお願いします」

 滑らかな女性の声で語り掛けてくる。

 ピーというエラー音のあとAIが発する。

「通信障害とGPS障害が確認されました。電波状況を確認して下さい」

「通信もGPSも回線切っといて使えないから、エリア確認機能で周辺をチェックして」

「はい。開始します」

 四台の小型ドローンが飛び立ち周縁の地域を地図のようにデジタル化して映し出す。

 過疎地の増えた現代で道路も整備されていないへき地でも問題なく作業出来るように。

 また廃村の農地利用化を進めたい政府の思惑で開発された機能だ。

 今までいろいろ試してきたが俺がトラクターで耕すと俺の支配領域になる。

 だが、俺が乗っていても指示するだけなら支配領域にはならない。

 また、種を撒いただけでも支配領域にはならなかったんだ。

 現代日本の農業は作業管理を人間がして耕耘から播種まで全てトラクターで自動で行える。

 つまり、このトラクターがあれば面積縛りを気にせずにいくらでも俺が畑を耕せるってことさ。

 面積を増やすと鳴るかもしれないあの不愉快な鈴の音。

 あいつへの俺なりのカウンターアンサーがこれだ。

 これで気にせず農地を増やせるぞ。ニッシシ。
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