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第5章  流来

第11話  疾駆

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 ギルド長のダジルから呼び出されたエステラはスタンピードへの対策を依頼された。

 目的の方向と逆になる為に彼女は逡巡する。

 そして良くウェンから言われた言葉を考えた。

「そういう時は心に聞くの」という言葉だ。

 それがきっかけで弓挺きゅうてい料理人の自分がいる。

(師匠の元に直ぐに行きたい。でも……)

 そこでエステラはノアの言葉を思い出した。

 優しく温かい幸せなまじないの言葉だ。

 今回の提案はその“”内の事だろう。

「あたしが行かないと――困る人が居ますか?」

 うつされたまじないはエステラの中で昇華され彼女の人生の指針となった。

 他人の為に笑顔でノアのように、自分もそうある為に。

「今のこのギルドで――最善がお前だ」

 初級から準中級がひしめくドゥブロベルクでエステラのクラスはB級。

 そして――五つのダンジョンの制覇者だ。

 彼女を超える冒険者はドゥブロベルクにいない。

 決めたら直ぐに動き出せ。エステラの心がそう叫ぶ。

「――分かりました。行きます」

「すまない。無理を聞いてくれてありがとう。出来る範囲で良いからな」

 エイルミィのダンジョンはいつスタンピードが起きてもおかしくない状況だと連絡があった。

 冒険者のダンジョンへの立入りは既に禁止されていて、ドゥブロベルクからも応援の冒険者を出発させている。

 そんな時に現れたのがエステラだ。

 ドゥブロベルクが切れる最高の切り札。

「――はい」

 エステラはそう力強く返事をした。

 ギルド長のダジルは孫ほど年のはなれたエステラを見つめる。

(あいつはノルトライブの最高傑ワンズ作と自慢するが、ドゥブロベルクの最高傑作も引けをとらないぞ。心根の優しい冒険者だ)

 騎獣車を用意するというギルドの申し出を断りエステラは走り出す。

 ――その方が早いと言って。

 エステラはバルサタールから本気を出すなと制限されていた能力を開放する。

 腰に装備したタラリア。

 形は蝶を思わせる先の平らな菱形で大小対の二枚からなり計四枚で構成される。

 神話に登場する靴の名に由来を持つタラリアの能力は。


 ――飛行だ。

 エステラは空を飛ぶ。

 ドゥブロベルクからエイルミィまでの距離はおよそ300km。

 あるいて一週間。

 騎獣車でも二日の距離だ。

 その距離をエステラは四時間で到達する。

 今回がバルサタールの手を離れて一人で戦うデビュー戦だ。

 ノアが世間に知られるより早くエステラの名は広まる。

 万夫不当の一騎当千として。
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