農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

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第5章  流来

第15話  数多

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 矢を持たずに弓を引いたエステラ。そこには光る一本の矢が現れつがえられる。

 
 
 ――その彼女の前方には、それと同時に光る千の矢が出現した。

(追尾補正完アジャスト了)

 エステラは矢を放つ。

(――命中ヒット

 放った瞬間に命中する速度で千の矢が魔物に突き刺さる。

 必死に逃げていたドゥシャンとヤルミルの周りを切り取ったかのように迫る魔物が霧散した。

 エステラは続けて弓を引く。

 再び現れる千本の矢。

 幾たびか同じ作業を繰り返すとドゥシャンとヤルミルの周りから魔物はいなくなっていた。

 それを呆然と見つめるギルド職員。

 そして周りの冒険者たちも騒然となっている。

「――門は開けられるの?」

 あっけに取られていた職員が我に返り答える。

「――西門は開けられませんが、東門は開いています。そこからなら」

 ――その時


 無理をさせ過ぎたドゥシャンの騎獣が泡を吹いて倒れた。

 前方へと投げ出されるドゥシャン。

 その姿は気絶したのかピクリとも動かない。

「――ドゥシャン!」

 それを見てエステラは城壁を飛び降りた。

 タラリアを使い勢いを殺し地面に着地する。

 そして飛べる事を見られないように地面を走るように滑空した。

 手札を簡単に人に見せるな。バルサタールから受けた注意を守るためだ。

 その間も矢を放ち魔物を霧散させる。

 瞬く間に気絶しているドゥシャンに近づくと取り出したポーションを振りかけた。

 直ぐに倒れている騎獣にもポーションをかける。

 相棒の転倒した騎獣を見て前方で留まっていたヤルミルに指示を出す。

「この人は任せて。東門がまだ空いている。――そこを目指して」

「――何か手伝える事は?」

 ヤルミルは声を張り上げて尋ねる。

「いいから――行って」

 なおも逡巡していたヤルミルだったが諦めたように頷くとこう言った。

「すみません。――ドゥシャンをお願いします」

 そう言うと足手纏いにならないようヤルミルは走り出した。

 エステラはドゥシャンに近づくと声を掛ける。

「大丈夫? 意識はあるの?」

 弓を構え前方を見つめて声だけをかける。

 ドゥシャンからの返事はない。

 先に泡を吹いていた騎獣が頭を振って立ち上がる。

 安全を確認しながらしゃがみ込み、エステラはドゥシャンの肩を揺すった。

「んっ……。あぁ? ――あんた誰だ」

「大丈夫そうね。あなたもそのまま東門を目指して」

「――? ――あんたはどうすんだ?」

「――少し時間を稼ぐ」

「何言っているんだ。あんたもさっさと逃げようぜ」

 気絶していたドゥシャンにはエステラの力が分からない。

 少しの押し問答のあと、不承不承の様子でドゥシャンはその場を離れて行った。

 エステラはふぅと息を吐く。

 ドゥシャンとのやり取りに気を取られていたエステラに声をかける者が現れた。

「――エステラ。久しぶり」

 急に眼前に現れたノアがエステラに話しかけた。

「……あんた。――何?」

 最後にあった時の姿だ。

「エステラ。――愛している」

「……師匠はそんな事言わない。そんな爽やかな顔で笑わない。あんたみたいに気持ち悪くない」

 エステラは矢でノアを打ち抜く。

 霧散するノアだったもの。

 ――この魔物はノッケン。

 親しい人間に化けて襲ってくる魔物だ。

 次々と現れる仲間たち。

 ビビアナ、クローエ、クレト、アルバロ、ケィンリッド。

 そして――


「……お父さん?」

 ――トラウマを抉る魔物だ。

 エステラの顔に珍しく感情が溢れる。

 その発露は――――怒りだ。
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