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第5章 流来
第48話 改造
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ノアが世界樹の若木を生み出せると言い出した時、アノアディスは眩暈に似た感覚を覚えた。
世界樹の若木が生まれなくなって幾星霜。
エルフは緩やかな滅びに向かっていた。
エルフにとって世界樹は命の管理者だ。
エルフの人口は世界樹の柱の数で最大数が決まっている。
里の中心にある最古の世界樹だけは不滅と謳われていた。
それは古来から今まで生き続けた歴史的な事実が背景にあり、そしてエルフの切なる願いでもある。
だが、それ以外の世界樹は悠久を過ごすが、永遠ではない。
事実、生命を全うし森に取り込まれた世界樹がいくつか存在する。
神聖期の初頭までは、生まれていた世界樹の若木。
それが生まれなくなった現代では、今の世界樹が生命を全うすれば、ゆっくりとエルフは人口を減らしてゆくのだ。
世界樹が失われるとすぐにエルフがいなくなる訳ではない。
エルフの生命の誕生は独特だ。
天寿を全うしたエルフがいると、新たなエルフが生まれる。
まるでゆずり葉のように。
エルフの生死観に輪廻はない。
天寿を全うしたエルフという生命が無くなると、代わりに新たな生命が生まれるのだ。
その感覚は植物に近い。
植物は種がそのまま種として生き続ければ一個の生命だが、その種が芽吹き葉を広げ、最後に沢山の実りをつけて生を全うする。
植物はその身の犠牲によって、何百倍もの種を残すのだ。
エルフもそうだ。
死に向かうまでの自身の人生でエルフの社会に貢献し、恵みを捧げ最期を受け入れる。
そして、新たな命にその身を譲るのだ。
新たな命がエルフに更なる実りをもたらすことを願って。
世界樹が一柱損なわれるとどうなるか。
エルフが天寿を全うしても、新たな命が生まれなくなるのだ。
命の譲渡が行われなくなる。
事実、現代のエルフは神聖期の初頭に比べて緩やかに数を減らしている。
強すぎるエルフという種への神の制約とも、世界の均衡を保つための強制力とも言われていた。
だが、そこに七万年以上生まれていなかった、世界樹の若木が現れた。
――ノアの手によって。
「ウェンが楽しそうなはずね。眩暈を覚えるなんていつ以来かしら」
アノアディスは執務室でひとりごちる。
世界樹の若木が支える命は一万人。
成長すれば一〇万を支える。
それが一〇年に一度生み出される。
「ノアちゃんの寿命はなるべく伸ばさないとね。――改造しちゃおうかしら?」
面白い冗談を思いつきアノアディスはクスリと笑った。
その時、ノアはゾクリと身を震わせた。
「――ウェン師? ……いや? もっと悪寒が強かった気が」
§
男は全力で街を逃げ出した。
「どうなってやがるっ! 何であのクソ女が、この街にいやがるんだ」
世界樹の若木が生まれなくなって幾星霜。
エルフは緩やかな滅びに向かっていた。
エルフにとって世界樹は命の管理者だ。
エルフの人口は世界樹の柱の数で最大数が決まっている。
里の中心にある最古の世界樹だけは不滅と謳われていた。
それは古来から今まで生き続けた歴史的な事実が背景にあり、そしてエルフの切なる願いでもある。
だが、それ以外の世界樹は悠久を過ごすが、永遠ではない。
事実、生命を全うし森に取り込まれた世界樹がいくつか存在する。
神聖期の初頭までは、生まれていた世界樹の若木。
それが生まれなくなった現代では、今の世界樹が生命を全うすれば、ゆっくりとエルフは人口を減らしてゆくのだ。
世界樹が失われるとすぐにエルフがいなくなる訳ではない。
エルフの生命の誕生は独特だ。
天寿を全うしたエルフがいると、新たなエルフが生まれる。
まるでゆずり葉のように。
エルフの生死観に輪廻はない。
天寿を全うしたエルフという生命が無くなると、代わりに新たな生命が生まれるのだ。
その感覚は植物に近い。
植物は種がそのまま種として生き続ければ一個の生命だが、その種が芽吹き葉を広げ、最後に沢山の実りをつけて生を全うする。
植物はその身の犠牲によって、何百倍もの種を残すのだ。
エルフもそうだ。
死に向かうまでの自身の人生でエルフの社会に貢献し、恵みを捧げ最期を受け入れる。
そして、新たな命にその身を譲るのだ。
新たな命がエルフに更なる実りをもたらすことを願って。
世界樹が一柱損なわれるとどうなるか。
エルフが天寿を全うしても、新たな命が生まれなくなるのだ。
命の譲渡が行われなくなる。
事実、現代のエルフは神聖期の初頭に比べて緩やかに数を減らしている。
強すぎるエルフという種への神の制約とも、世界の均衡を保つための強制力とも言われていた。
だが、そこに七万年以上生まれていなかった、世界樹の若木が現れた。
――ノアの手によって。
「ウェンが楽しそうなはずね。眩暈を覚えるなんていつ以来かしら」
アノアディスは執務室でひとりごちる。
世界樹の若木が支える命は一万人。
成長すれば一〇万を支える。
それが一〇年に一度生み出される。
「ノアちゃんの寿命はなるべく伸ばさないとね。――改造しちゃおうかしら?」
面白い冗談を思いつきアノアディスはクスリと笑った。
その時、ノアはゾクリと身を震わせた。
「――ウェン師? ……いや? もっと悪寒が強かった気が」
§
男は全力で街を逃げ出した。
「どうなってやがるっ! 何であのクソ女が、この街にいやがるんだ」
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