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第5章  流来

第50話  氾濫

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「どこのダンジョンが氾濫したの?」

 知己を得たスタッフに声をかける。

「エステラさん。――未確認ですが、進行方向的に南東の静寂のダンジョンではないかと」

「――その進行線上に人は住んでいるの?」

「……ダンジョンの近くに村があったはずです。おそらく、何らかの被害が出ていると思います」

「この街は大丈夫?」

「――どうするのですか?」

「――見に行ってくる」

「今回のスタンピードは小規模です。出現しているモンスターも難易度が低いので都市の原戦力で問題なく。沈静化できると思います」

「――ギルド長へ話をしてきます。少しお待ちください」

 ギルド長の許可を得たエステラは、人の殺到する門を避け、いつものように城壁から飛び降りる。

 そして人目を避けて飛翔する。

 すれ違い様に千の矢をスタンピードへひと当てする。

 時を惜しむエステラは、移動を優先して村を目指した。


§


 エステラが都市を出る数刻前。

 村は穏やかな時が流れていた。

 宿すらない処だが、ダンジョンに訪れる冒険者へ感謝しており、食事を提供する善良さがあった。

 そこに――年に一度の確認でしか聞いたことのない音が響き渡る。

 スタンピードの警鐘と警笛だ。

 のんびりとした村人は、いつもの確認かと鐘楼を眺める。

 そこへ怒号が叫ばれる。

「スタンピードが起こっているぞっ! 何をぼうっとしているんだっ! 逃げろっ!」

 逃げる? どこへ? ある者は固まり、ある者は混乱して走り出した。

「――シェルターだ。――シェルターへ急げっ!」

 そう叫びながら鼓舞する男がいる。

 男はシェルターへ向かわずに、家を目指す。

 一人娘がそこにいるからだ。

 村の門番は重い両開きの門扉を閉じようと必死だ。

 今まさに閉じんとするとき、その門に手がかけられた。

 青黒い毛むくじゃらの手だ。

 閉じかけた門は門番を引きずり再び開けられた。

 それだけではない。

 村を囲う高さ5mの頑丈な外壁の端にも手がかかる。

 そして現れたのは青黒い毛の巨大な猿。

 門を無視して壁を乗り越え村に入り込んでくる。

 やがて、数百、数千の怪物が村へなだれ込んで来た。

 家を目指す男は後ろを振り返り、娘がシェルターにたどり着く可能性が無いと知る。

 家に飛び込んだ男は叫ぶ。

「クラーラっ! どこだ」

「――お父さん。どうしたの。笛が鳴っているけど」

 男は現れた娘の手を引っ張り調理場へ連れてゆく。

 調理場の床の食材置き場の扉を開き、仕舞ってあった麦や食材を引っ張り出す。

 出来上がったのは、まだ幼い少女なら入れるスペースだ。

 家の壁がドンと震える。
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