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第5章  流来

第57話  毒華

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 一年半ぶりに出したトラは時間のずれを故障として報告してくる。俺はそれを軽く流した。

「はい。はい」

 そう言って俺はトラクターに乗り込む。

 モルトは定位置のフロントローダーのバケットに座り俺に手を振る。そして準備OKの合図で親指を上げてきた。

「シートベルトを着用ください」

「はいよ」

「じゃあ。家に帰るぞ。トラ。あとは宜しく」

「はい。前方。後方の安全の確認を実施。──出発します」

 駆動音も静かにトラクターは家路を走り出す。

 家までは二〇日の距離だ。


§


 エルフの里を席捲するものが二つある。

 一つはノアが王都で教えた、メートランド語だ。既に全てのエルフが習得している。

 アノアディスの元、大切にくるむように隠されたノアだが、その噂はエルフ中に広まっている。

 御使いが現れて、世界樹の若木を一柱産み落とし、七万年振りに取り上げた。

 エルフの上層部で秘された出来事だったが、亡くなったエルフがいないのに生まれた新たな命が、その事実をエルフに教示した。

 エルフの上層部から懇願するように届く、接見の申し込みをアノアディスは全て断った。

 お隠れになった先代の御使いのように、騒ぎ立てて消えてしまうことを嫌った、アノアディスの強権に逆らえる者はいなかった。

 唯一断り切れなかったのが、功績の大きいルルの祖父母だったのだ。

 エルフの里を席捲するもう一つだが、それはノアの小さな肖像画ポートレートだ。

 こちらも、ほぼすべてのエルフが持っており、その種類が少しずつ増えている。

 ”御使いのお守り”と呼ばれるそれは、今では王都のイ-ディセルも懐にしまっている。

 ノアへの手紙に忍ばせて、サインを貰おうとしているイ-ディセルに、ルルは苦慮をする。


§


 ――――時を遡る。

 その日、エレオノーラはダンジョンに来ていた。

 四角い箱を取り出すとそれを開く。

 飛び出したのは真っ黒な蝶。

 虹色にぬめりその姿を妖しく輝かせる。

 ひらひらと舞う蝶はダンジョンを進み下層を目指す。

 それを見送りエレオノーラは箱をそっと隠すとダンジョンを後にした。
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