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第6章  罪咎

第102話  終章Ⅶ ~種は移る~

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 先に顔を会させていたイーディセルが紹介する。

おさよ。――彼の者がベルントじゃ。エルフの森のゴブリンにキノコの栽培を指導した実績がある。人族であるが身元の明らかな人物じゃ。御使――ノアさんの手ほどきを受けておる」

「ベルントと申します。ノア君から頼まれて参りました。キノコの菌床栽培は任せて下さい。――これが推薦状と文書です。ギィ。レィ。ご挨拶して」

「オイラはギィードヴォウアウだ。宜しくな」

「あたしはレィベンヲォーカラです。ベルの助手だよ」

「ワシの名はズィルヴァボーォクォ。人間には呼びづらいだろう。人からは村長と呼ばれていた。それで構わない」

 挨拶もそこそこにベルントは案内される。そこには――


 ノアが生み出した環境制御の菌床設備。既に稼働しゴブリンにより収穫されたキノコの施設だ。

 イーディセルは噂でしか聞かない設備に興味津々だ。

(これが御使いの生み出した。キノコの生産基地か。――この世界の技術を一新させるものだな)

 ベルントは最低一年程ここに留まり菌床栽培のサイクルを指導する。

 森では入手困難な菌床の資材はエルフ経由――正確にはモルトの配達で提供される予定だ。いずれは人間との交流を進める計画である。

 今回イーディセルが、この集落を訪れたのはエルフの後ろ盾をゴブリンへ示す為だ。

 そして、もう一つの目当て、ゴブリンへの顔繫ぎが方便とまではいわないが、他の者でもその役割は果たせた。その目的こそ強権を使ってまで欲したものだ。彼は幸せそうに微笑む。イーディセルには珍しい欲望により訪問を実現させた。その場所へといそいそと足を運ぶ。

~~~

 そこは、色とりどりの花が咲き乱れ、地には三角で純白の荘厳なレリーフ。そして、水晶でできた巨大な聖人の拝像は、慈しみの籠った半眼でこちらを見下ろす。

(ここが御使いの聖地。なんと美しい場所じゃ)

 言葉を失い。その清廉な空気に息を飲む。長年を共にし普段は泰然とした精霊が喜びはしゃぐように飛び回る。

 イーディセルは拝像に黙祷を捧げると、いそいそと準備を始めた。ウェンに願い用意してもらった物だ。

 それを設置し姿勢を正す。四角い箱の赤い点滅が早くなり最後に長く灯った。

 ――ピッ!

 三脚の上に設置された白く四角い箱にはレンズが取り付けられている。


 ――――カメラだ。
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