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16.気まずい食事会
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「あの!初耳なんですが!」
「春香が王都に行くと俺が春香に会えない。俺は登城する事も多いし、領地の仕事は町屋敷でも出来るから問題ない」
「俺も月の半分は町屋敷に泊まるからね」
声がする方を見たらジョシュさんだ。凄い久しぶりだ。あれ?少し痩せた?
「ジョシュさん!少し痩せたんじゃ無いですか?」
「騎士団で1部隊任されて忙しくてね」
「凄い!隊長ですか⁉︎」
「デスクワークが増えるから町屋敷に泊まる事が増えるよ」
私が知らない間に色んな事が進んでいる。
町屋敷に移る事が決まり1か月弱で準備が出来るなんてすごい。レイモンド様が曰く殿下が1日も早く私を王都に迎えたいらしく、王都の他の工事を中断しシュナイダー家別邸の増改築に人員を送り込んだそうだ。殿下…こんな事に権力行使しないで下さい。
「春香。明日は登城するのだろう⁈殿下にお知らせしたのか?」
「アレックスさんに明日朝にお伝えいただく様にお願いしています」
「あれ?明日は確か殿下は公務で朝一に出立される予定で、俺の小隊が警護に着く予定だけど…」
そう…明日の登城はそれを狙って決めました。何故なら殿下がシュナイダー家に訪問後に登城の催促が多く3回ほど登城している。
でも…結局殿下に執務室や応接室に呼び出されほぼほぼ雑談に終わっていて、資料や本は全く探せていない。絶対意図的にやっている。私に帰り方を見つけさせないつもりだ。
前回の帰りにイヤだけどアレックスさんに殿下が1日外出の日を聞いておいた。アレックスさんは話しかけた時に嫌そうな顔したけど、私が殿下が居ない時に来たいと相談すると、本来は王族の予定は伝えてはならないが特別に教えてくれた。
「お前が来る日は公務が滞り家臣は大変なんだ。来るなと言いたいがお前が来ないと殿下がシュナイダー領に行くと言い出す。しっかり覚えておけこの日は早朝より辺境伯の領地へ視察に行かれる。この日に来い!殿下には出立直前に俺が知らせる」
アレックスさん協力の元明日は1日資料室&図書館で異世界人の痕跡を探す。
「明日は私が王妃に謁見するから春香ちゃんは私がエスコートするから安心しなさい」
アビー様が一緒なら心強い。初登城の日のあの嫌がらせが結構トラウマになっていて、まだ緊張するから明日は安心できそうだ。
ロックさんがケーキとお茶を入れてくれて久しぶりに家族全員が揃い楽しいお茶会になった。なんだかシュナイダー家の一員になれた気がした。
翌朝、朝食後にエントランスに行くとレイモンド様とミハイルさんがいた。
レイモンド様は領地の港に用事で外出で、ミハイルさんはお見送りに来てくれた。
レイモンド様はアビー様にハグとキスをし、私にもハグをし出発された。
ミハイルさんはアビー様にハグとするとアビー様が
「ミハイル。あまり長くならない様にね」
とよく分からない事を呟いて馬車へ向かわれた。私も早くしなと
「ミハイルさん行ってきます」
いつもの様にハグちゅっするのかと思ったが見つめたまま動かない。あれ?バグりましたか?
「春香。帰り方を見つけたらすぐ帰るつもりか⁈」
「…分かりませんが、帰りたい気持ちはまだあります」
「俺は春香が登城するたびに帰り方を見つけたのではないかと、帰ってくるまで生きた心地がしない。恐らく殿下もだ。春香が登城するたびに邪魔をするのは怖いんだと思う。殿下にいい感情はないがそこは同じ気持ちだ」
「…」
「どうすれば春香が残ってくれるのかいつも考えている」
「この国に来てまだ1か月も経っていません。皆さん早急すぎます」
そう言うとしょげているミハイルさん
「わるい…」
「でもこの国は嫌いではないのでまだ分かりません」
少し表情を緩めたミハイルさんは柔らかく抱きしめてくれる。そしていつもみたいに額に口付け? あれ?今日は頬にだ。『ん?』頬でもえらく下の様な…
『口に近い!』思わず顔を背けた。
「まだ…ごめんなさい」
「すまない…気持ちが抑えられなかった。春香が許してくれるまでは絶対しないと誓うよ」
「はい…」
クロードさんが出発の時間だと呼びに来てくれた。
ちょっとミハイルさんに悪い事した気がして、手招きし屈んだミハイルさんの頬にキスをした。
「行ってきます」
逃げる様に馬車に向かう。クロードさんの笑顔が何かむかついたけど、恥ずかしいから早く馬車に乗りたい。馬車の前でテリーさんが居て手をお借りして馬車に飛び乗った。中でアビーさんが溜息を吐いている。
「押しが足りない!」
「押し?」
「我が子ながら情けないわ…明日はしっかり鍛えないとね!」
「はい?」
偶に公爵家の皆さんの会話の意味がわかない…分からない方がいい気もする。
5時前に王城に着いた。アビー様は王妃様の元へ行かれ、私は文官さんに図書室へ案内してもらう。
図書館までの道すがら文官さんに殿下の事を聞いてみた。少し困った顔をしながら予定通り早朝に出立されたそうだ。
グッジョブ!アレックスさん!今日はのんびり図書館で本を探せると思うと足取りは軽い!
そして図書館に着いた。2階建て位の高さの本棚に本がビッシリあり何度見ても驚くき、わくわくが止まらない!入口の司書さんにご挨拶をしてレイラの加護に関する本と迷い人に関する本が無いか聞いてみた。迷い人に関する本は無いが、レイラの加護に関する本は結構沢山あった。望遠鏡が無いと読めない位高い所にあり、梯子を移動させて上りかけたら背後から声がする
「春香嬢。上の本は危険だ。司書かその辺の男性に頼みなさい」
「高い所は平気なので大丈夫です」
「そうではなく…その様な格好で我々男は目のやり場に困る」
振返ると「!!」陛下が苦笑いし立っている。
「なんで⁈陛下がここにいるんですか?」
「春香嬢が登城していると聞いてな。昼食を共にしようと誘いにきたのだ」
「え…と、昼食はアビー様と共にとお約束していまして…」
「大丈夫だ。シュナイダー公爵夫人には了承を貰ってきている。6時に文官を迎えにやる故、待っているように!」
「あ・・・・はぃ・・・」嫌と言えない日本人!
陛下の指示で文官さんが上段の本を取ってくれました。取ってもらった本を見て意味ありげに微笑む陛下が怖い。陛下は一旦部屋へ戻って行かれた。
図書室の机に座り本を広げるが陛下の昼食が気になって本の内容が入って来ない。陛下も帰るのを阻止しようとしている⁈
私の周りは敵しかいないのか…。誰でもいいから『帰れるよ!』って言ってくれないかなぁ…心折れそうだ。
結局10ページも読まないうちに文官さんが昼食の案内に来た。一応昼からも読むつもりで司書さんにはカウンターにキープしてもらい図書館を一旦出る事になった。城内を歩いているとすれ違う人が視線を感じる。好意的なものは少なく好奇なものや嫉妬が容赦なく向けられ帰りたくなって来た。
どのくらい歩いただろう。王城奥のガーデンに連れてこられた。ガーデンの真ん中に東屋がありそこに陛下と美しい女性が座っている。誰だろう?
「春香様をご案内致しました」
「ご苦労。下がってよい」
文官さんは礼をし帰って行った。ぽつんと一人残され立ち尽くす。従僕さんが席に案内してくれ陛下と美女の前に座る。
「春香嬢はアンヌとは初めてだな。アンヌ。春香嬢だ。挨拶を」
「はじめまして。アンヌ・レイシャルと申します。“迷い人”である春香さんにお会いできて嬉しいわ」
「初めましてハルカ・オリタです」
この女性ミドルネーム“レイシャル”って言ってた…
「!! 王妃様!」
「ええ!ローランドの母よ」
うそーーーめっちゃ若い。どう見ても20代後半だよ。私とあまり変わらない気がする。サラサラの銀髪にラベンダー色の瞳をされていて絵本に出てくる女神様みたいだ。22歳の子供がいるなんて思いもしない。
「急にごめんなさいね。アビーにも小言を言われたわ。どうしても未来のお嫁さん会いたくてね」
「あの…まだ決まった訳では…」
「レイモンドから10日程で町屋敷に移れると聞いているが、準備は捗っているか?」
『10日!全然聞いて無い!』
「公爵様にお任せているので…えっと今日の何かあるのですか⁈」
「ん?特に何もないぞ。アンヌが春香嬢に会いたいと申したので叶えたけだ」
「さようでございますか…」
陛下が手を上げると給仕が始まり料理がどんどん運ばれて来る。『ん?』シュナイダー家の料理みたいに量が少なくてサイズも小さい。
料理をまじまじと見ていたら陛下が
「ローランドから春香嬢は食が細く一度に食べれない故、量もサイズも少なくしてくれと料理長に連絡があったそうだ」
殿下の心遣いに感動した。1回しか食事していないのに気にかけてくれていたんだ。
「今日は春香嬢の登城連絡が出立直前に入り領地訪問を取りやめると騒ぎだしてな。アレックスに叱咤されていた。春香嬢は何か思う所があったのか?」
『うっ!見透かされている』
「えっと、図書館で本を借りようと急に思い立って…まさか殿下がいらっしゃらない日だったなんて知らなくて…」
「そうよのぉ~王子の予定を漏らしている者がいたら処罰ものだからな…」
陛下の目が怖い。明言しないけど『この確信犯!』と言われているみたいだ。
最高級の料理も味がしない…早く帰りたい…
「春香さんは何故ローランドを受け入れてくれないの?」
王妃様のストレートパンチをもろにくらってしまいました!ダメージがデカい!
「まだお会いして間もないし私みたいな出所も分からない娘なんて殿下になんて恐れ多い」
「春香嬢は一見幼くひ弱に見えるが、自分の考えを持ち芯のある女性だ。次期王妃になる素質は十分にある」
「私は何度も言いますが自分の家に帰ります」
「手段は分かったのか?」
「うっ!今はまだです。けど親の墓も参りたいし帰ります!」
陛下と王妃様は驚いた顔をして
「春香嬢のご両親は?」
「2年前に事故で二人共亡くしています。私は一人っ子で私が供養しないとしてくれる人がいません」
「辛い事を聞いてしまったな…我々を親だと思ってくれればいい」
「いえ!恐れ多くて無理です」
緊張とずっと話しかけられて全く食べれないまま食事会が終わった。ふらふらになりながら図書館に戻る。戻ったら司書さんが追加でレイラの加護に関する本を2冊出してくれていた。
そのうちの1冊に目が留まる「加護の真実」という本だ。すごく気になる。司書さんにお礼を言い机で本を開く。本は加護に関する噂を考察していて、日本で言うならゴシップ誌の様な物だろうか。
目次で気になったのが”2人目がなぜ迷い人と会えなかったのか”と言う考察だった。
凄い胸騒ぎを覚え急いでそのページを開ける。
一番初めの驚きの記述が…
『2番目の加護持ちは“迷い人”に会えなかったのではなく、“迷い人”の心を得る事が出来ず、“迷い人”は元の世界に帰ってしまった』と書かれている。
なにこれ…一気に帰る手段に近づいたかもしれない。手が震えて来て息がしづらいし血の気が引いていくのが分かる。
ふとここで読み続けるのは危険な気がした。だって陛下はじめ城の人は私が殿下と結婚すると決め込んでいる。
咄嗟に他の本と表紙を交換して司書さんに家で読みたいから貸出出来ないか聞いてみる。
記録だけ残せば大丈夫との事。すぐに控えてもらって借りる事にした。こうして表紙は「加護の歴史」で中身は「加護の真実」の本を借りる事に成功した。今晩部屋でじっくり翻訳間違いをしない様に、時間をかけて読もう。
少しするとアビー様が迎えに来てくれた。アビー様が帰りを急いでいる。どうやら殿下の帰りが早まりそうで、騎士たちから引き止めが始まり急いで帰りたいようだ。
「明らかに引き止めるから押し通ってきたわ。さぁ殿下が帰城する前に城を出るわよ」
「はい!」
大きい声で返事してアビー様いついて行く。
馬車が城の門を出るの何回も騎士さんに引き留められ、屋敷に着くと日が落ちていた。
帰宅後は出来るだけ普段通り振る舞い一旦部屋に戻り、寝室の枕の下に本を隠して夕食に向かった。
「春香が王都に行くと俺が春香に会えない。俺は登城する事も多いし、領地の仕事は町屋敷でも出来るから問題ない」
「俺も月の半分は町屋敷に泊まるからね」
声がする方を見たらジョシュさんだ。凄い久しぶりだ。あれ?少し痩せた?
「ジョシュさん!少し痩せたんじゃ無いですか?」
「騎士団で1部隊任されて忙しくてね」
「凄い!隊長ですか⁉︎」
「デスクワークが増えるから町屋敷に泊まる事が増えるよ」
私が知らない間に色んな事が進んでいる。
町屋敷に移る事が決まり1か月弱で準備が出来るなんてすごい。レイモンド様が曰く殿下が1日も早く私を王都に迎えたいらしく、王都の他の工事を中断しシュナイダー家別邸の増改築に人員を送り込んだそうだ。殿下…こんな事に権力行使しないで下さい。
「春香。明日は登城するのだろう⁈殿下にお知らせしたのか?」
「アレックスさんに明日朝にお伝えいただく様にお願いしています」
「あれ?明日は確か殿下は公務で朝一に出立される予定で、俺の小隊が警護に着く予定だけど…」
そう…明日の登城はそれを狙って決めました。何故なら殿下がシュナイダー家に訪問後に登城の催促が多く3回ほど登城している。
でも…結局殿下に執務室や応接室に呼び出されほぼほぼ雑談に終わっていて、資料や本は全く探せていない。絶対意図的にやっている。私に帰り方を見つけさせないつもりだ。
前回の帰りにイヤだけどアレックスさんに殿下が1日外出の日を聞いておいた。アレックスさんは話しかけた時に嫌そうな顔したけど、私が殿下が居ない時に来たいと相談すると、本来は王族の予定は伝えてはならないが特別に教えてくれた。
「お前が来る日は公務が滞り家臣は大変なんだ。来るなと言いたいがお前が来ないと殿下がシュナイダー領に行くと言い出す。しっかり覚えておけこの日は早朝より辺境伯の領地へ視察に行かれる。この日に来い!殿下には出立直前に俺が知らせる」
アレックスさん協力の元明日は1日資料室&図書館で異世界人の痕跡を探す。
「明日は私が王妃に謁見するから春香ちゃんは私がエスコートするから安心しなさい」
アビー様が一緒なら心強い。初登城の日のあの嫌がらせが結構トラウマになっていて、まだ緊張するから明日は安心できそうだ。
ロックさんがケーキとお茶を入れてくれて久しぶりに家族全員が揃い楽しいお茶会になった。なんだかシュナイダー家の一員になれた気がした。
翌朝、朝食後にエントランスに行くとレイモンド様とミハイルさんがいた。
レイモンド様は領地の港に用事で外出で、ミハイルさんはお見送りに来てくれた。
レイモンド様はアビー様にハグとキスをし、私にもハグをし出発された。
ミハイルさんはアビー様にハグとするとアビー様が
「ミハイル。あまり長くならない様にね」
とよく分からない事を呟いて馬車へ向かわれた。私も早くしなと
「ミハイルさん行ってきます」
いつもの様にハグちゅっするのかと思ったが見つめたまま動かない。あれ?バグりましたか?
「春香。帰り方を見つけたらすぐ帰るつもりか⁈」
「…分かりませんが、帰りたい気持ちはまだあります」
「俺は春香が登城するたびに帰り方を見つけたのではないかと、帰ってくるまで生きた心地がしない。恐らく殿下もだ。春香が登城するたびに邪魔をするのは怖いんだと思う。殿下にいい感情はないがそこは同じ気持ちだ」
「…」
「どうすれば春香が残ってくれるのかいつも考えている」
「この国に来てまだ1か月も経っていません。皆さん早急すぎます」
そう言うとしょげているミハイルさん
「わるい…」
「でもこの国は嫌いではないのでまだ分かりません」
少し表情を緩めたミハイルさんは柔らかく抱きしめてくれる。そしていつもみたいに額に口付け? あれ?今日は頬にだ。『ん?』頬でもえらく下の様な…
『口に近い!』思わず顔を背けた。
「まだ…ごめんなさい」
「すまない…気持ちが抑えられなかった。春香が許してくれるまでは絶対しないと誓うよ」
「はい…」
クロードさんが出発の時間だと呼びに来てくれた。
ちょっとミハイルさんに悪い事した気がして、手招きし屈んだミハイルさんの頬にキスをした。
「行ってきます」
逃げる様に馬車に向かう。クロードさんの笑顔が何かむかついたけど、恥ずかしいから早く馬車に乗りたい。馬車の前でテリーさんが居て手をお借りして馬車に飛び乗った。中でアビーさんが溜息を吐いている。
「押しが足りない!」
「押し?」
「我が子ながら情けないわ…明日はしっかり鍛えないとね!」
「はい?」
偶に公爵家の皆さんの会話の意味がわかない…分からない方がいい気もする。
5時前に王城に着いた。アビー様は王妃様の元へ行かれ、私は文官さんに図書室へ案内してもらう。
図書館までの道すがら文官さんに殿下の事を聞いてみた。少し困った顔をしながら予定通り早朝に出立されたそうだ。
グッジョブ!アレックスさん!今日はのんびり図書館で本を探せると思うと足取りは軽い!
そして図書館に着いた。2階建て位の高さの本棚に本がビッシリあり何度見ても驚くき、わくわくが止まらない!入口の司書さんにご挨拶をしてレイラの加護に関する本と迷い人に関する本が無いか聞いてみた。迷い人に関する本は無いが、レイラの加護に関する本は結構沢山あった。望遠鏡が無いと読めない位高い所にあり、梯子を移動させて上りかけたら背後から声がする
「春香嬢。上の本は危険だ。司書かその辺の男性に頼みなさい」
「高い所は平気なので大丈夫です」
「そうではなく…その様な格好で我々男は目のやり場に困る」
振返ると「!!」陛下が苦笑いし立っている。
「なんで⁈陛下がここにいるんですか?」
「春香嬢が登城していると聞いてな。昼食を共にしようと誘いにきたのだ」
「え…と、昼食はアビー様と共にとお約束していまして…」
「大丈夫だ。シュナイダー公爵夫人には了承を貰ってきている。6時に文官を迎えにやる故、待っているように!」
「あ・・・・はぃ・・・」嫌と言えない日本人!
陛下の指示で文官さんが上段の本を取ってくれました。取ってもらった本を見て意味ありげに微笑む陛下が怖い。陛下は一旦部屋へ戻って行かれた。
図書室の机に座り本を広げるが陛下の昼食が気になって本の内容が入って来ない。陛下も帰るのを阻止しようとしている⁈
私の周りは敵しかいないのか…。誰でもいいから『帰れるよ!』って言ってくれないかなぁ…心折れそうだ。
結局10ページも読まないうちに文官さんが昼食の案内に来た。一応昼からも読むつもりで司書さんにはカウンターにキープしてもらい図書館を一旦出る事になった。城内を歩いているとすれ違う人が視線を感じる。好意的なものは少なく好奇なものや嫉妬が容赦なく向けられ帰りたくなって来た。
どのくらい歩いただろう。王城奥のガーデンに連れてこられた。ガーデンの真ん中に東屋がありそこに陛下と美しい女性が座っている。誰だろう?
「春香様をご案内致しました」
「ご苦労。下がってよい」
文官さんは礼をし帰って行った。ぽつんと一人残され立ち尽くす。従僕さんが席に案内してくれ陛下と美女の前に座る。
「春香嬢はアンヌとは初めてだな。アンヌ。春香嬢だ。挨拶を」
「はじめまして。アンヌ・レイシャルと申します。“迷い人”である春香さんにお会いできて嬉しいわ」
「初めましてハルカ・オリタです」
この女性ミドルネーム“レイシャル”って言ってた…
「!! 王妃様!」
「ええ!ローランドの母よ」
うそーーーめっちゃ若い。どう見ても20代後半だよ。私とあまり変わらない気がする。サラサラの銀髪にラベンダー色の瞳をされていて絵本に出てくる女神様みたいだ。22歳の子供がいるなんて思いもしない。
「急にごめんなさいね。アビーにも小言を言われたわ。どうしても未来のお嫁さん会いたくてね」
「あの…まだ決まった訳では…」
「レイモンドから10日程で町屋敷に移れると聞いているが、準備は捗っているか?」
『10日!全然聞いて無い!』
「公爵様にお任せているので…えっと今日の何かあるのですか⁈」
「ん?特に何もないぞ。アンヌが春香嬢に会いたいと申したので叶えたけだ」
「さようでございますか…」
陛下が手を上げると給仕が始まり料理がどんどん運ばれて来る。『ん?』シュナイダー家の料理みたいに量が少なくてサイズも小さい。
料理をまじまじと見ていたら陛下が
「ローランドから春香嬢は食が細く一度に食べれない故、量もサイズも少なくしてくれと料理長に連絡があったそうだ」
殿下の心遣いに感動した。1回しか食事していないのに気にかけてくれていたんだ。
「今日は春香嬢の登城連絡が出立直前に入り領地訪問を取りやめると騒ぎだしてな。アレックスに叱咤されていた。春香嬢は何か思う所があったのか?」
『うっ!見透かされている』
「えっと、図書館で本を借りようと急に思い立って…まさか殿下がいらっしゃらない日だったなんて知らなくて…」
「そうよのぉ~王子の予定を漏らしている者がいたら処罰ものだからな…」
陛下の目が怖い。明言しないけど『この確信犯!』と言われているみたいだ。
最高級の料理も味がしない…早く帰りたい…
「春香さんは何故ローランドを受け入れてくれないの?」
王妃様のストレートパンチをもろにくらってしまいました!ダメージがデカい!
「まだお会いして間もないし私みたいな出所も分からない娘なんて殿下になんて恐れ多い」
「春香嬢は一見幼くひ弱に見えるが、自分の考えを持ち芯のある女性だ。次期王妃になる素質は十分にある」
「私は何度も言いますが自分の家に帰ります」
「手段は分かったのか?」
「うっ!今はまだです。けど親の墓も参りたいし帰ります!」
陛下と王妃様は驚いた顔をして
「春香嬢のご両親は?」
「2年前に事故で二人共亡くしています。私は一人っ子で私が供養しないとしてくれる人がいません」
「辛い事を聞いてしまったな…我々を親だと思ってくれればいい」
「いえ!恐れ多くて無理です」
緊張とずっと話しかけられて全く食べれないまま食事会が終わった。ふらふらになりながら図書館に戻る。戻ったら司書さんが追加でレイラの加護に関する本を2冊出してくれていた。
そのうちの1冊に目が留まる「加護の真実」という本だ。すごく気になる。司書さんにお礼を言い机で本を開く。本は加護に関する噂を考察していて、日本で言うならゴシップ誌の様な物だろうか。
目次で気になったのが”2人目がなぜ迷い人と会えなかったのか”と言う考察だった。
凄い胸騒ぎを覚え急いでそのページを開ける。
一番初めの驚きの記述が…
『2番目の加護持ちは“迷い人”に会えなかったのではなく、“迷い人”の心を得る事が出来ず、“迷い人”は元の世界に帰ってしまった』と書かれている。
なにこれ…一気に帰る手段に近づいたかもしれない。手が震えて来て息がしづらいし血の気が引いていくのが分かる。
ふとここで読み続けるのは危険な気がした。だって陛下はじめ城の人は私が殿下と結婚すると決め込んでいる。
咄嗟に他の本と表紙を交換して司書さんに家で読みたいから貸出出来ないか聞いてみる。
記録だけ残せば大丈夫との事。すぐに控えてもらって借りる事にした。こうして表紙は「加護の歴史」で中身は「加護の真実」の本を借りる事に成功した。今晩部屋でじっくり翻訳間違いをしない様に、時間をかけて読もう。
少しするとアビー様が迎えに来てくれた。アビー様が帰りを急いでいる。どうやら殿下の帰りが早まりそうで、騎士たちから引き止めが始まり急いで帰りたいようだ。
「明らかに引き止めるから押し通ってきたわ。さぁ殿下が帰城する前に城を出るわよ」
「はい!」
大きい声で返事してアビー様いついて行く。
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