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18.喪女

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ダイニングルームに入ったらレイモンド様が足早にやって来て私を抱き込み

「春香!アビーから聞いた。無防備過ぎるよ…春香は可愛らしいんだから気を付けなさい」
「はい。ごめんなさい」

レイモンド様は頭を撫でて私をアビー様に渡し、ミハイルさんとジョシュさんの元に行き、いきなりげんこつを頭に入れた!

「「痛っ!」」

顔を歪ませる2人。レイモンド様は無言で席に着いた。お2人共またまたごめんなさい。
いつもどおり朝食をいただき外出前に一旦部屋に戻ります。寝室に行き本が見つかって無いか確認する。

「はぁ…大丈夫。見つかってない」

再度本を隠して外出準備をし急いでエントランスに向かいます。エントランスにはミハイルさんとジョシュさんが待っている。ん?クロードさんと一緒にいるあの男性は朝の…

「おはようございます。春香様、紹介がまだでしたね。町屋敷移転に伴い町屋敷の執事を勤める事になったクリスです。クリス。春香様にご挨拶を」

あの人は新しい執事さんだったんだ。クリスさんは丁寧に挨拶されお辞儀されます。クリスさんも若い。20代後半位だろうか⁈クリスさんも美形だ…けど少し冷たい感じがする。瞳が青色で一重だからそう感じるのかなぁ…

「至らぬところがございましたら、いつでも私に申して下さいませ。再教育致します」

クロードさん不敵な笑みをうかべ、横にいるクリスさんが苦笑いをしている。再教育って…
時間になり馬車に乗車し出発します。最近のお約束でどちらがエスコートするかで毎回もめる。

正直うんざりしてて、その場に他の人が居たらその方にお願いしている。今日は後ろに控えているクリスさんにお願いした。まだ初対面だけど町屋敷に移ったらきっとお願いする事が増えるから慣れておこう。振返り

「クリスさんお願いできますが?」
「畏まりました」

エスコートの為手を重ねた…思わずびっくりしてクリスさんの顔を見てしまった。この世界の顔面偏差値は高く特に貴族のレベルは高い。平民の方も日本ではイケメンと呼ばれるレベルだ。クリスさんは貴族並みに(これは私調べによる)美形だ。

『違う違う!』

びっくりしたのはそこじゃなくて、手が異様に冷たい。ミハイルさんをはじめ殿下やジョシュさんも手は温かくエスコートされると安心する。だから男性は温かいという認識だった。

「春香様何か?」
「クリスさん体調悪いのでは?」
「申し訳ございません。手が冷たく驚かれましたか⁈私は元々体温が低いのです。ご心配いただきありがとうございます」

病気じゃないならいいけど、何かが引っかかる。初対面だから?緊張しているのかなぁ…
クロードさんに促され馬車に乗車し町屋敷へ出発します。馬車に並走するクリスさんが気になり窓から見ていたらミハイルさんが

「クリスが気になるのか?」あっばれた。

「えっと…先ほどエスコートしてもらったら、手が冷たくてね病気かと思って」
「春香ちゃんは使用人にも優しいなぁ。あの者たちはあれが普通だよ」
「“あの者達”って?」

一瞬ジョシュさんがヤバい!って顔をしてミハイルさんが溜息を吐きます。絶対何かある!
2人は仲良く話題を変えて他愛もない話を始めます。公爵家は絶対裏で何かやってる。でもこれは私が聞いてはいけないヤツだ。
要らない事を言わない様にお口チャックして窓から外を見ていた。

「ハル!町屋敷に着いたぞ」

ミハイルさんの低音イケボで目覚めた。気が付くとミハイルさんとジョシュさんに挟まれていて、腰はミハイルさんに抱かれ手はジョシュさんが握っている。昔から乗り物酔いはしないけど、乗り物に乗ると高確率で寝てしまう。ミハイルさんは旋毛にジョシュさんは頬にキスをしてくれる。寝起きにイケメンのキスは刺激が強い!

馬車を降りてびっくりした。町屋敷が1.5倍になっているし凄い人数の職人さんいて注目を浴びている。数人の職人さんが私を指さし何か話しています。

「あ…」

恐らく私の髪だ。王都に行くようになって知ったけど、レイシャル王国の女性は大半がゴラスから嫁いできた女性で髪色は淡色の人が多い。稀に亜麻色の人もいるが私みたいに真っ黒な人はいないからすごい目立っている。
少し居心地悪くなっていたら(新)執事のクリスさんが話をしている職人さんの方へ歩いて行って何か話しています。工事の進捗状況でも聞いているのだろうか⁈『ん??』職人さんの顔色が無くなり私の方に頭を深々下げて走り去って行きました。
何もなかったようにクリスさん戻って来ます。

「何か有りましたか?」
「礼儀を教えて差し上げただけです。春香様がお気にする事ではございません」

やっぱりクリスさんさ只者では無いかも…張り付けた様な笑みを浮かべるクリスさんを見ていたら、背後からジョシュさんに抱き付かれた。

「春香ちゃんの部屋はもう入れるって。見に行こうよ!」

ジョシュさんに手を引かれて屋敷に向かう。振り返るともうクリスさんは居なかった。
本館と増築部をつなぐ階段は完成していてそこから2階へ上がる。2階に上がり左に曲がると大きな扉が1枚あった。監督さんらしきおじさんが扉を開けてミハイルさんに説明をしている。
ジョシュさん付き添われ部屋に入ると広い部屋に圧倒される。私が済んでいたワンルームが何部屋入るんだろうか。
入ってすぐがリビングで奥に扉があり、その扉の奥が寝室。寝室の左に洗面と浴室で扉続きで衣装部屋がある。衣装部屋はリビングと繋がっていて行き来できる。
広い!日本だと確実に4人家族が住める広さだ。リビングは内装が出来たてで家具類の搬入はこれかららしい。次に寝室に行ってみた。これまた広い!
だだっ広い寝室にこじんまりしたベッドと小さめのテーブルと椅子が2脚置いてある。
そうこれこれ!町屋敷に移るのが決まった時にレイモンド様に欲しい物を聞かれて、小さいベッドが欲しいとお願いしたのだ。
私がお願いしたサイズは日本いえばダブルサイズ。
こちらの人は大柄だから一人用でもダッブルベッドの倍の大きさはある。
広すぎて寂しい&寒いのだ。このサイズでも私には大きいと思う。このこじんまり感が落ちつく。

「ハル!なんだこのベッドは子供用か?」
「私がレイモンド様にお願いして用意していただいたんです」
「春香ちゃん小さすぎるよ」

2人してダブベットに文句を言い出す。

「今使っているベッドは私には大き過ぎます。これでも日本で使っていたのより大きいんですよ」
「これでは一緒に寝れないよ!」
「1人で寝ます!」
「日本ではこんな小さいベッドで眠っていたのか!どうやって恋人と共にするんだ」
「そんな人いた事ないから…」

『はっ!喪女を暴露してしまった!』

ミハイルさんとジョシュさんが驚いた顔をしています。頬が熱くなるのが分かる!恥ずかしい!!2人に背を向け手で顔を隠し逃げ場を探す。丁度クリスさんが部屋にやって来た。

「クリスさん他の部屋も見せて下さい」

クリスさんの手を取り部屋から逃げ出した。後方で二人が呼んでいたけど今は無理!

2人は私の名を呼びながら追いかけてきます。今は絶対ダメ!お2人の顔を見れな。

「春香様はお2人から逃げたいのですか?」
「うん。暫く落ち着くまで時間が欲しい」
「ならば少し狭いですが、我慢下さい」

クリスさんはそう言うと私を抱きげて階段を駆け下りた。1階まで降りるとクリスさんは私を下ろし徐に壁を押した。

「ぎぃ…」壁が開き中は空洞になっていて、人1人入れるスペースがある。クリスさんは中に入り私を引っ張った。中は薄暗い。狭いから必然とクリスさんと抱き合う形になり全身が密着する。
ミハイルさんとジョシュさんが名前を呼びながら、階段を駆け降りてきて、本館の方へ走っていった。
なんとか2人を撒けた様だ。
…がしかし…この状況恥ずかし過ぎる。

「クリスさん。ありがとうございました。もう大丈夫ですから…」
「今出て行ったら揉めそうですよ」

確かに…まだ2人の顔見れないし多分この状況も相まって顔は真っ赤だ。

「ごめんなさい。嫌でしょうが少しだけ隠れるの手伝って下さい」
「畏まりました」

そこから暫く会話もなく屋敷の生活音を聞いていた。ふとクリスさんが

「旦那様とクロードさんが仰っていた通りですね」
「何がですか?」
「春香様は平和な環境にいらしゃったのか危機感が足りないと」
「返す言葉もありません」

指摘を受けテンションが下がる。すると

「旦那様から春香様が望まない事は全て阻止せよと命を受けています。例えそれがミハイル様やジョシュ様でも。旦那様は春香様を実の娘の様に思われ、愛されておられます。勿論奥様も…
旦那様と奥様は町屋敷に住む事で今まで以上に人の目にふれ、興味や悪意が春香様に向くのを懸念されておられます。だからと言って屋敷に閉じ込ようとは思われておりません。健やかに穏やかにお過ごしになられ、ゆくゆくは愛のある家庭を築かれる事を望まれています。その為に私共がおります。
些細な事でもお頼りください」
「ありがとうございます。色々ご迷惑おかけします」

異世界に来て親しくなる人はいい人ばかりだ。来たばかりの頃は帰る事ばかり考えていた。最近は帰るつもりだけどこの世界を楽しんでいる自分もいる。

「ここは緊急避難のための通路で屋敷の裏手に続いています。騎士が駐在するとはいえ何があるか分かりませんからね。屋敷に移られたらミハイル様とジョシュ様、そして春香様にお伝えする予定でした」

「他にもあるんですか?」
「はい。追い追いお伝えいたします」
「なんか忍者屋敷みたいですね」
「忍者とは何ですか?」
「えっと…影で動く騎士みたいな⁈こっち風に言うと御庭番みたいな?」

「…」
「うっ!」

クリスさんの腕に力が入り苦しい。見上げたクリスさんの冷たい瞳に身が震える。

「クリスさん苦しいです」
「申し訳ありません」

やっと腕が緩んでいつもの執事の顔に戻ったけど、闇を抱えていそうこの人…

「そろそろ落ち着かれましたか?あまり長く隠れると、私の首が飛びそうです」
「ごめんなさい。大丈夫です」

クリスさんは腕を解き私の手を取り細い通路を奥に歩いて行きます。突き当たりに着くと何かを確認して壁を押した。ゆっくり壁が開き薄暗い部屋に出た。どうやら倉庫のようだ。
クリスさんが入口を確認し手を差し伸べてた。手を取り倉庫を出るっと1階の厨房に出た。ここはリフォームしていなくて、とても甘い匂いがする。
オーブンに火が入っていて、おやつに何か作っているみたいだ。この匂い…マドレーヌとかフィナンシェだろうか⁈小腹が空いてきた。

「ハル!」

振り返るとミハイルさんが怖い顔して立っている。
足早に目の前に来て私を抱きしめて

「クリス…説明しろ」
「はい。春香様が屋敷の見学を望まれましたので」
「ミハイルさん!クリスさんを怒らないで。私が我儘いったの。寝室での事が恥ずかしく…て…少し頭を冷やしたくて」

ミハイルさんは強く抱き締めて旋毛にキスをした。
クリスさんは何も無かったかの様に

「ミハイル様。春香様はお疲れのようです。お茶をご用意いたしますので応接室へ」

“くぅ…”控え目に私のお腹が鳴る。ミハイルさんは微笑み私の手を取り応接室に向かう。
応接室に着くとミハイルさんは抱き抱えるように隣に座り頭を撫でている。
そして扉が凄い勢いで開きジョシュさんが入って来て、私の横に座り引き寄せ抱き締めてくる。

今2人に挟まれ弁解中です。

「日本では男性と接するの苦手でお付き合いなんて皆無で…」
「ハル!何が恥ずかしいんだ!寧ろ嬉しかったんだ俺は!日本に想い人が居るんじゃないかと不安だったから」
「春香ちゃん。俺も同じ!嬉しくて抱きしめようと思ったらクリスと逃げるし。春香ちゃん探しに使用人寮まで行ったんだせ!」
「ごめんなさい」

この後お茶をいただき落ち着いてきました。お茶をいただいていたら2人がベッドを大きいのに替えるようにお願いされたが拒否!もっと小さくてもいい位だ。

「春香ちゃんがベッドを替えないなら、俺の部屋に来ればいいよ」
「遠慮します」

暫くはベッド闘争は続きそうだ。

お昼の時間が近付き先に仕立屋さんに向かい、そのあとミハイルさんがレストランに連れて行ってくれるらしい。庶民も入れるお店らしく色んな料理が食べれるそうだ。

しかしこのレストランで厄介な人物と出会う事になるなんて、この時は思いもしなかった。
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