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123. いざイーダン領へ

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 結局詳しい話は聞かせてもらえず、夕食まで客間で過ごす。

「私また巻き込まれているの?」
「そうだなぁ…その揉め事にバーミリオン侯爵が絡んで来たから、ややこしくなった感じだ」
「それじゃ分からないよ。ちゃんと教えて」

お願いしたがケイン父様の情報を確認しないと話せないと言い、強制的に話を切られてしまった。

アレックスの言い分も分かるけど、消化不良でむくれてアレックスに背を向けた。するとアレックスは後ろから抱きしめ、明日イーダン領に向かう馬車の中で全て話すと約束してくれたので仕方なくそれ以上は何も言わなかった。
この後気分を変えエリックさんとフィオナさんの話し、3年前のアレックスの黒歴史を聞いたと伝えると

「そう言えばあの時は嫌がっていたエリックが帰るのを待って欲しいと言い出し、不機嫌だった俺は無視をして馬車に向かったよ。そして暫くしてエリックが戻ったがあいつは不機嫌で、余計に苛立ったのを覚えているよ。てっきり付き合わせで言い寄って来た令嬢にうんざりしているのだろ思っていたが…」
「多分アレックスに怒っていたんだと思うよ」
「・・・俺は嫌な奴だったな」
「うん」

そう返すと気まずそうに視線を落とした。でもそんな障害があったのに3年後再会し結ばれているのだ。2人はきっと結ばれる運命だったんだ。そしてエリックが気持ちを伝えてなくて、危うくフィオナさんが婚約を解消しようとした事も話すと

「愛する女性ひとに愛を伝えないなどあり得ないぞ」

そう言いご立腹のアレックス。

『今でこそ激甘な愛情表現をしてくれるけど、君も中々感情出さない人だから言えた義理じゃないよ』

と心の中で突っ込んでおいた。
そして心を通わせた2人は今頃ラブラブなのだと思うと少し恥ずかしい。するとアレックスは急に私を抱き上げ寝室へ行き、ベッドに私を下ろし覆い被さる。

「!」
「最後まではしない…春香の滑らかな肌を感じたい…」

潤んだ瞳で懇願され抗えずにイチャイチャする事になった。
そして満足したアレックスに着替えを手伝ってもらい夕食を頂きにダイニングへ。ダイニングに入ると明らかに昼と違う2人。それを見たアレックスが私に顔を寄せ小声で

「エリックもやっと一人前になったようだな」
「!」

アレックスらしからぬ下ネタに唖然とし、言った本人は意識していない。
でもどうやらアレックスはエリックさんがやっと婚約者フィオナに愛を告げる事が出来たと言いたかったようだ。私の大きな勘違いで、これじゃぁまるで私が欲求不満みたいで恥ずかしくなって来た。こうして2人の幸せをおすそ分けしてもらい楽しい食事となった。
そして食後部屋に戻ろうとしたらマニュラ母様にお茶に誘われたので、アレックスにエスコートしてもらいラウンジに着くと母様しかおらず首を傾げる。すると

「あら、私とじゃ嫌かしら⁈」

首を振ると母様は私の手をアレックスから奪い、アレックスをラウンジから追い出した。身構えて母様を見ていたら

「怖い事なんて言わないわ。春香さんにお礼が言いたいのよ」
「お礼?」

どうやらフィオさんの事の様だ。母様もエリックさんとフィオナさん事を心配していたが、親である自分が出しゃばるとダメにしてしまいそうで、手をこまねいていたそうだ。

「日に日に元気が無くなっていく彼女を見ていて、婚約時の自分を思い出してね。私は行動力があったから家出したけど彼女は内気でしょ? 限界まで我慢するんじゃないかと心配で。当のエリックに言っても”大丈夫”しか言わないのよ」

母様も父様が愛情表現が下手で不安になった事があるから、フィオナさんの気持が分かるのよね…

「春香さんがフィオナさんに話してくれたお陰2人は向き合えたのよ。これからも嫁同士仲良くし助け合って欲しいわ」
「勿論です」

こうして就寝までの時間を母様のマシンガントークに付き合い、疲れてきた頃にアレックスがラウンジに突入してくれやっと解放されて客間に戻れた。
そして湯浴みの後に就寝準備しベッドに入るとアレックスがそわそわしだす。でも旅行前から旅行中は仲良くしないと言ってあるのに、やっぱり仲良くしたそうなアレックスを宥め早めに就寝した。

翌朝大きな音と共に目が覚めると窓にグリフの影が見える。またカイが来たのだと思いベッドから出てカーテンを開けると
 
「あれ?君はカイじゃないよね?」
 
ベランダに降り立ったグリフはカイよりほんの少し小さい。悩んでいる間にグリフが窓を叩き慌てて開けるとすり寄って来た。喉元を撫でてやると猫の様にゴロゴロと喉を鳴らす。遅れてアレックスが来てグリフを撫でながら…
 
「こいつはランとカイの子のアイだ」
「えっ!前見た時の倍以上大きいよ!」
「グリフの幼体時期は短く、直ぐ成体になるんだよ」

成長の速さに驚いていたらアイが頻りに自分の背を見て私を見上げる。意味が分からず困っていたら

「アイ降りて来い。お前はまだ春香ちゃんを乗せるのは無理だ」

庭から歩いて来たエリックさんが声をかけるとアイは羽を広げエリックさんの元へ。生まれた時から世話をしているからか、アイはエリックさんによく懐いている。アイはエリックさんに撫でてもらうと満足したのか、森の方へ帰って行った。

「兄上、春香ちゃん!出発前にグリフ達に会っていくだろう?」
「うん。あまり時間はないけど」
「なら、イチャついてないで早く用意しなよ」
「?」
 
『どこをどう見たらイチャついてるように見えるのよ』
 
と思っていたらアレックスは後ろから私の腰を抱き寄せ、私の頭の上に顎を置いて密着していた。苦笑いしアレックスの口付けを受け身支度を始める。
そして家族揃って朝食をいただき、出発前にグリフに会いに森へ向かう。
こうして沢山のグリフと戯れ癒されていたら、イーダン領へ向かう時間になった。グリフと別れ屋敷に戻り出発準備をしてエントラスへ。
 
「いつでも遊びにおいで」
「はい。ありがとうございます。父様、母様もお元気で」
 
そう言いハグするとエリックさんがフィオナさんの肩を抱きながら

「春香ちゃんに感謝している。またおいで」
「春香さんには感謝しかありませんわ。私も待つばかりでなく、夫となるエリック様に気持ちをお伝えしていきますわ」
「何でも言わなきゃ分からないよね。私も見習わなければね」

そう言うとアレックスに抱きつかれ視界が無くなる。するとエリックさんが笑いながら

「あの無愛想な兄上が妻の愛を得て変わった様に、俺も愛妻家になるよ」
「愛妻家をもう1人忘れているわよ」 

母様がそう言い父様に抱き、父様は優しい眼差しを母様に向ける。こうして幸せな気分でお別れし、コールマン領を出発した。

馬車は順調に進みコールマン領の隣の伯爵領に入った。するとアレックスが窓のカーテンを全て閉め、私を足の間に座らせ後ろから抱きしめた。

「約束通り話をしよう」

こうしてこれから起こるイーダン領での事を話してくれた。

「と言う事は私はバカのふりをしたらいいのね」
「聡い春香をバカ扱いするのは腹立たしいが、証拠を出さす為には必要な様だ」
「いいよ。バカ扱いは嫌だけど元々頭はいい方じゃないから…」

そう言い自虐すると背後にいるアレックスが不機嫌になったので、地雷を踏まないように口を閉じた。

「じゃーネタはどうするの?」
「それは先に領地に入ったヘルマンが探ってくれている筈だ」
「分かりました。バカになります」

こうして不正を働くプライズ男爵に鎌を掛け悪事を暴く事になった。プライズ男爵の領地は狭い上に主だった産業も無く、他の領地との取引で成りっているらしく、詐欺まがいの契約を交わし私腹を肥やしているそうだ。その取引先にバーミリオン侯爵領の商人もいるらしく、領民が騙され侯爵がご立派の様だ。

『領民思いでやっぱりエロいけどいい人なんだ』

とここでも絶倫侯爵エロオヤジを見直していたら、イーダン領に入っていた。あと半時間程で子爵の屋敷に着く。
単純にアレックスの領地へ観光旅行が、また揉め事に巻き込まれる事になった。自分の事ながら運が無いと思っていて…ふと…

『行く先々で揉め事があるのは、もしかして私がなの!』

そう思うと落ち込んみ、アレックスの腕の中で小さくなっていった。
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