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第一章 最強パーティ、一夜にして糞雑魚パーティへ
第36話 幸せの形
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「久しぶりですわね。ソニア。デュランス」
「お久しぶりです! リーゼッテ様!」
「リーゼッテ様お久しゅーっス!」
ソニアとデュランスが駆け寄り挨拶を交わす。
彼女の挨拶の仕草、機微を見ているとまるで上流階級のパーティに自分が立っていると錯覚してしまいそうだった。
「ソニアは相変わらず元気だしデュランスも前髪が元気ですわね」
「なんですか前髪て! 全身元気ですよ!」
「あらごめんなさいねデュランス。でもホラ。プルンプルン動いてすごく元気そうだったから。ほらすっごい!」
「ペチペチ叩かないでくださいって!!」
「もっとやっちゃっていいっスよリーゼッテ様!」
デュランスの前髪を猫の手で何度も叩くリーゼッテ。
正直驚いた。リーゼッテは国を代表する程の聖女だ。いわば上流階級だ。
俺やデュランス達のような人種とは相容れないような存在だとばかり思っていた。
しかしいたずらじみた笑顔を浮かべながらデュランスの前髪をペチペチと叩く彼女。
そこに上流の驕りや見下しは一切感じられなかった。
「ほらほらペシペシ……あら? あなたは?」
リーゼッテが俺に気づきデュランスいじりの手を止める。
「あ、リーゼッテ様紹介が遅れました。こちらはアイザックの旦那です。俺達この人のパーティに入ったんですよ」
「すっごいベテランで頼りになるファイターさんなんスよ!」
「ウフフ。あなた達がそんなに絶賛するくらいだからよっぽどの方なのね。初めましてですわアイザック様。私リーゼッテと申しますわ」
「あ、ああ。初めまして。アイザックだ……です」
「ウフフ。こんな小娘にそんな畏まらないでくださいな。どうか楽な話し方でお願いいたしますわ。そう……タメ口って奴でしたわよね!」
パン!と両の手を叩いてタメ口でいいぜと提案してくるリーゼッテ。
んんなぁるほど。このカリスマ性がハザン教を正教へと押し上げたのか。
タメ口、だなんて似ても似つかぬ単語が彼女の口から発せられた瞬間に俺は瞬時にリーゼッテに親近感を覚えてしまった。
「あ、ああ。そう言ってくれると助かる。よろしくなリーゼッテ」
「よろしくお願いいたしますわアイザック様」
「リーゼッテ様。いつも食料の配給ありがとうございます! うちのチビ共……と、ソフィアの奴食べ盛りなもので……」
「リーゼッテ様本当にありがとうございますっス!」
「あらいいのよ。元々余ってる食材なんだから。悪くなる前に食べてくれる方がこちらとしてもありがたいんだから」
リーゼッテは遠慮がちに彼らの謝意を受け入れながらも”余り物だから”と謙遜する。
「あ! すいませんリーゼッテ様。俺、そろそろ夕飯の支度に入らなきゃいけなくって……!」
「ええデュランス。もちろん気にしないで。美味しいご飯を子どもたちに用意してあげてね」
「すいません。それじゃ失礼します」
デュランスは食事の準備のために教会へ向かっていった。
「それじゃリーゼッテ様、時間あるならうちのチビ達と遊ばないっスか!?」
「ああ。ソニアごめんなさいね。私ね、ちょっとアイザック様とお話がしたいの」
ソニアの誘いにリーゼッテは恥ずかしそうに微笑みながら答える。
どうやらリーゼッテはアイザック様とお話がしたいらしい。
こんないい子とお話できるなんて羨ましい奴だなアイザックってやつは。
…………俺!?
「わかったっス! うちのリーダーはすんごい冒険者なんスよ! 火だるまになってモンスターに斬りかかる熱い男なんス!」
「まあ。火だるまに」
「それじゃ私はチビ達と遊んでくるっス!」
ソニアは再び広場に向かって走っていってしまった。
二人きりにしないでくれ。戻ってきてくれソニア。緊張で死にそうだ。なんで国を代表するVIPと対談しなければならないのだ。
俺とリーゼッテの間に奇妙な沈黙が佇む。
その沈黙を挟んでリーゼッテが俺に対して優しい笑みを浮かべていた。
聞こえるのは子どもたちとソニアの遊び声だけだ。
耐えられない。何か、何か話さないと!
「し、しかしあれだなリーゼッテ。あれだけの数の食料を定期的に寄付してくれるなんて太っ腹だな」
「いえ、なんてことはございませんわ。余り物ですので。むしろ高飛車な行為と謗られても仕方ないと思っていますわ」
「流石国一番の聖女。嘘が下手くそだな」
「えっ?」
「食材の質を見ればわかる。あれは余り物なんかじゃない。野菜は朝取れのものだろう。ジャガイモだって芽が出てないじゃないか」
「まあ……詳しいのですね」
「仲間に料理オタクがいてね。色々教えてもらったんだ」
「でしたらアイザック様あの……デュランスとソニアにはこのことは」
「もちろん伝えないよ。秘密にしておくさ。あいつら義理堅い奴らだからな。気使っちゃうだろうしな。お互いに」
「ああ。ありがとうございますアイザック様」
深々と頭を下げてくるリーゼッテ。なんか……妙な気分だ。この子は何も悪いことしてないのに。
俺は礼を言われるようなことはしちゃいないのに。こらあかん! 話題を変えなければ!
「い、いやいいんだ。それよりどうしてあいつらに……というよりこの孤児院にあんなに食料を寄付しているんだ? こちらとしてはありがたいことではあるが」
「それは……ハザンの教えを守っているだけに過ぎませんわ」
「ハザン? ハザン教の教えか?」
「はい。私は全ての人に幸せになってもらいたいと思っていますの。ですが人の幸せの形は人それぞれ。富を捨てて夢を追い求めるのも幸せ。夢を捨てても愛する人と共にいられればそれもまた幸せ。幸せとは百人いれば百通りあります。」
リーゼッテは相変わらず穏やかで、それでいて吸い込まれるような瞳を浮かべている。
「ま、そうだな。幸せなんざ人それぞれだ」
「ええ。でも飢えは誰も幸せにはいたしません。お腹が一杯でなければ幸せを感じることも、追いかけることも出来ません」
そうだな。飢えは幸せと最もかけ離れた存在だろう。こんな世の中だ。
戦乱、暴君による政治、略奪。奪われたものに待っているのは飢えだけだ。
「まずお腹いっぱいになってもらって、そこから幸せを探していってほしいんですの。それが幸せへの第一歩ですから」
「だからここにいる子どもたちを腹一杯に……か」
「はい。うまく説明できてよかったです。自分の考えを言葉にするのって私苦手ですので……」
恥ずかしそうに笑うリーゼッテ
「いや感服したよリーゼッテ。大したもんだ。その日暮らしの俺なんかとは見ている景色が違うな」
「い、いえそんな恐縮ですわ。この食料だってハザン教の支援あってこそですので。私は大したことなんて……」
「そんなことはない。リーゼッテのような聖職者がもっとこの国にいたらもっと幸せな人が増えているはずさ」
「そ、そんな。恥ずかしいですわアイザック様。それ以上は耐えられませんわ」
リーゼッテは顔を真っ赤にしながらうつむいていた。そこまでベタ褒めしたわけじゃないんだが……この子褒められ慣れてないのか?
「そ、それはすまない。あ、ああそうだ! それでリーゼッテ。俺に何か用なのか? ソフィアとのお誘いを蹴ってまで俺に話があったんだろ?」
閑話休題
なんだか恥ずかしい雰囲気をかき消すように話題を変えてリーゼッテの意図を探る。
「え、ええ。アイザック様……その、その……良ければなんですが私と……私とその……」
後ろ手に回してモジモジと体をくねらすリーゼッテ。その顔は真っ赤に染まっていた。
何々何、なんだなんだどうした!?
「あ、ああ。とにかく言ってみてくれないか? デュランスとソニアの恩もある。出来る限り期待に添えたい」
目を閉じて恥ずかしそうにしていたリーゼッテだが意を決したのか目を見開きこちらに手をかざす。
「あの! 私と、私と……! 決闘してくれませんか!?」
リーゼッテの手に握られていたそれを見た俺の全身の血が沸騰した。
彼女が握っていたのはデュエル&ドラゴンズのデッキだった。
見間違えるわけがない。ドラゴンがブレスを吐き出すロゴが印刷された裏面
デッキは全部で六十枚。彼女の小さな手にそれが握られていた。
沈黙が俺とリーゼッテを包み込む。ソニアの大声だけが遠くから聞こえてくる。
無意識に口角が引き上がり、犬歯を覗かせる。
一瞬の沈黙の後に俺はリーゼッテの顔を見据えて言い放った。
「決闘ろうか」
「お久しぶりです! リーゼッテ様!」
「リーゼッテ様お久しゅーっス!」
ソニアとデュランスが駆け寄り挨拶を交わす。
彼女の挨拶の仕草、機微を見ているとまるで上流階級のパーティに自分が立っていると錯覚してしまいそうだった。
「ソニアは相変わらず元気だしデュランスも前髪が元気ですわね」
「なんですか前髪て! 全身元気ですよ!」
「あらごめんなさいねデュランス。でもホラ。プルンプルン動いてすごく元気そうだったから。ほらすっごい!」
「ペチペチ叩かないでくださいって!!」
「もっとやっちゃっていいっスよリーゼッテ様!」
デュランスの前髪を猫の手で何度も叩くリーゼッテ。
正直驚いた。リーゼッテは国を代表する程の聖女だ。いわば上流階級だ。
俺やデュランス達のような人種とは相容れないような存在だとばかり思っていた。
しかしいたずらじみた笑顔を浮かべながらデュランスの前髪をペチペチと叩く彼女。
そこに上流の驕りや見下しは一切感じられなかった。
「ほらほらペシペシ……あら? あなたは?」
リーゼッテが俺に気づきデュランスいじりの手を止める。
「あ、リーゼッテ様紹介が遅れました。こちらはアイザックの旦那です。俺達この人のパーティに入ったんですよ」
「すっごいベテランで頼りになるファイターさんなんスよ!」
「ウフフ。あなた達がそんなに絶賛するくらいだからよっぽどの方なのね。初めましてですわアイザック様。私リーゼッテと申しますわ」
「あ、ああ。初めまして。アイザックだ……です」
「ウフフ。こんな小娘にそんな畏まらないでくださいな。どうか楽な話し方でお願いいたしますわ。そう……タメ口って奴でしたわよね!」
パン!と両の手を叩いてタメ口でいいぜと提案してくるリーゼッテ。
んんなぁるほど。このカリスマ性がハザン教を正教へと押し上げたのか。
タメ口、だなんて似ても似つかぬ単語が彼女の口から発せられた瞬間に俺は瞬時にリーゼッテに親近感を覚えてしまった。
「あ、ああ。そう言ってくれると助かる。よろしくなリーゼッテ」
「よろしくお願いいたしますわアイザック様」
「リーゼッテ様。いつも食料の配給ありがとうございます! うちのチビ共……と、ソフィアの奴食べ盛りなもので……」
「リーゼッテ様本当にありがとうございますっス!」
「あらいいのよ。元々余ってる食材なんだから。悪くなる前に食べてくれる方がこちらとしてもありがたいんだから」
リーゼッテは遠慮がちに彼らの謝意を受け入れながらも”余り物だから”と謙遜する。
「あ! すいませんリーゼッテ様。俺、そろそろ夕飯の支度に入らなきゃいけなくって……!」
「ええデュランス。もちろん気にしないで。美味しいご飯を子どもたちに用意してあげてね」
「すいません。それじゃ失礼します」
デュランスは食事の準備のために教会へ向かっていった。
「それじゃリーゼッテ様、時間あるならうちのチビ達と遊ばないっスか!?」
「ああ。ソニアごめんなさいね。私ね、ちょっとアイザック様とお話がしたいの」
ソニアの誘いにリーゼッテは恥ずかしそうに微笑みながら答える。
どうやらリーゼッテはアイザック様とお話がしたいらしい。
こんないい子とお話できるなんて羨ましい奴だなアイザックってやつは。
…………俺!?
「わかったっス! うちのリーダーはすんごい冒険者なんスよ! 火だるまになってモンスターに斬りかかる熱い男なんス!」
「まあ。火だるまに」
「それじゃ私はチビ達と遊んでくるっス!」
ソニアは再び広場に向かって走っていってしまった。
二人きりにしないでくれ。戻ってきてくれソニア。緊張で死にそうだ。なんで国を代表するVIPと対談しなければならないのだ。
俺とリーゼッテの間に奇妙な沈黙が佇む。
その沈黙を挟んでリーゼッテが俺に対して優しい笑みを浮かべていた。
聞こえるのは子どもたちとソニアの遊び声だけだ。
耐えられない。何か、何か話さないと!
「し、しかしあれだなリーゼッテ。あれだけの数の食料を定期的に寄付してくれるなんて太っ腹だな」
「いえ、なんてことはございませんわ。余り物ですので。むしろ高飛車な行為と謗られても仕方ないと思っていますわ」
「流石国一番の聖女。嘘が下手くそだな」
「えっ?」
「食材の質を見ればわかる。あれは余り物なんかじゃない。野菜は朝取れのものだろう。ジャガイモだって芽が出てないじゃないか」
「まあ……詳しいのですね」
「仲間に料理オタクがいてね。色々教えてもらったんだ」
「でしたらアイザック様あの……デュランスとソニアにはこのことは」
「もちろん伝えないよ。秘密にしておくさ。あいつら義理堅い奴らだからな。気使っちゃうだろうしな。お互いに」
「ああ。ありがとうございますアイザック様」
深々と頭を下げてくるリーゼッテ。なんか……妙な気分だ。この子は何も悪いことしてないのに。
俺は礼を言われるようなことはしちゃいないのに。こらあかん! 話題を変えなければ!
「い、いやいいんだ。それよりどうしてあいつらに……というよりこの孤児院にあんなに食料を寄付しているんだ? こちらとしてはありがたいことではあるが」
「それは……ハザンの教えを守っているだけに過ぎませんわ」
「ハザン? ハザン教の教えか?」
「はい。私は全ての人に幸せになってもらいたいと思っていますの。ですが人の幸せの形は人それぞれ。富を捨てて夢を追い求めるのも幸せ。夢を捨てても愛する人と共にいられればそれもまた幸せ。幸せとは百人いれば百通りあります。」
リーゼッテは相変わらず穏やかで、それでいて吸い込まれるような瞳を浮かべている。
「ま、そうだな。幸せなんざ人それぞれだ」
「ええ。でも飢えは誰も幸せにはいたしません。お腹が一杯でなければ幸せを感じることも、追いかけることも出来ません」
そうだな。飢えは幸せと最もかけ離れた存在だろう。こんな世の中だ。
戦乱、暴君による政治、略奪。奪われたものに待っているのは飢えだけだ。
「まずお腹いっぱいになってもらって、そこから幸せを探していってほしいんですの。それが幸せへの第一歩ですから」
「だからここにいる子どもたちを腹一杯に……か」
「はい。うまく説明できてよかったです。自分の考えを言葉にするのって私苦手ですので……」
恥ずかしそうに笑うリーゼッテ
「いや感服したよリーゼッテ。大したもんだ。その日暮らしの俺なんかとは見ている景色が違うな」
「い、いえそんな恐縮ですわ。この食料だってハザン教の支援あってこそですので。私は大したことなんて……」
「そんなことはない。リーゼッテのような聖職者がもっとこの国にいたらもっと幸せな人が増えているはずさ」
「そ、そんな。恥ずかしいですわアイザック様。それ以上は耐えられませんわ」
リーゼッテは顔を真っ赤にしながらうつむいていた。そこまでベタ褒めしたわけじゃないんだが……この子褒められ慣れてないのか?
「そ、それはすまない。あ、ああそうだ! それでリーゼッテ。俺に何か用なのか? ソフィアとのお誘いを蹴ってまで俺に話があったんだろ?」
閑話休題
なんだか恥ずかしい雰囲気をかき消すように話題を変えてリーゼッテの意図を探る。
「え、ええ。アイザック様……その、その……良ければなんですが私と……私とその……」
後ろ手に回してモジモジと体をくねらすリーゼッテ。その顔は真っ赤に染まっていた。
何々何、なんだなんだどうした!?
「あ、ああ。とにかく言ってみてくれないか? デュランスとソニアの恩もある。出来る限り期待に添えたい」
目を閉じて恥ずかしそうにしていたリーゼッテだが意を決したのか目を見開きこちらに手をかざす。
「あの! 私と、私と……! 決闘してくれませんか!?」
リーゼッテの手に握られていたそれを見た俺の全身の血が沸騰した。
彼女が握っていたのはデュエル&ドラゴンズのデッキだった。
見間違えるわけがない。ドラゴンがブレスを吐き出すロゴが印刷された裏面
デッキは全部で六十枚。彼女の小さな手にそれが握られていた。
沈黙が俺とリーゼッテを包み込む。ソニアの大声だけが遠くから聞こえてくる。
無意識に口角が引き上がり、犬歯を覗かせる。
一瞬の沈黙の後に俺はリーゼッテの顔を見据えて言い放った。
「決闘ろうか」
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