秘密の仕事

桃香

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6.初仕事

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「お疲れ様ですー」

ミツキが元気よく事務所に入ってきた。

「お疲れ様。ミツキ」

「今日早いですね?何かあるんですか?」

「何かないと遊びに来ては行けない訳?」

僕は、おどけて言った。

「いやいや、いいんですけどね~」

ミツキはそう言いながらPCを開いてメールチェックをやり始めた。

「ところで、CMの件はどうなった?」

「あ~山長さんがほぼ決まりって言ってましたよー。でも、先方さんの方でいろいろあったみたいでちょい待っとほしいみたいです」

「そっか…」

ぶっちゃけCMなんかどうでも良かった。
芦田みくの記憶が蘇ってからは、ターゲットであるヤツの復讐もある。

ただ…いろいろ考えていたら…
まだ情報が足りない。。

だから、、、今では、ない。。。


「それにしても、けんとさん今日お休みですよね?」

「あっ…休みなんだけど…最近頭痛が酷くて…治ったり痛くなったりしてさあ。1人だと不安だから、遊びに来た」

「心配ですね?大丈夫ですか?病院に行った方がいいですよ」

「だねっ」

「今日、応接室あいてるから、ソファーで休んでください。けんとさんは事務所の稼ぎ頭ですからね」

ミツキは笑った。

「はいはい。じゃ、お言葉に甘えて休ませてもらうね」


事務所の応接室にあるソファーは僕が選んだ最高級のソファーだ。
だから、休むには良い。ふかふかしていて、すぐに眠りに誘ってくれる。


…………


あ…夢の中かなあ…。

僕は初仕事の事を思い出していた。

あの時はまだ18歳で高校生、一人暮らしを始めた頃だ。

隣に引越してきた家族の女の子8歳が、僕の最初のお客さんだった。


お父さん、お母さん、娘さんと犬一匹の3人家族だった。

お父さんは気が弱そうないかにも優しそうな人で、娘さんはおかっぱ頭の可愛い女の子だった。

お母さんは、きつそうな感じはしたが、物事をはっきり言う人で、あの気が弱そうな旦那さんにはぴったりだとも思っていた。


引越してから3か月経った頃から隣からケンカの声がよく聞こえてくるようになった。

最初はあの気弱そうな旦那さんが怒鳴っているのかと思えば、よく聞くと女性の声。
あの奥さんが怒鳴っているのだ。

「うるさいなあ…」

と、僕は思っていた。

そんな中、僕はとんでもない物を目にしてしまった。

学校の帰りにマンションの駐車場で隣りの奥さんが若い20歳ぐらいの男と抱き合っていた。奥さんは大体40前後に見えるから息子みたいなもんじゃんと呆れた。

「不倫か…」

が、特段気に留める事はなかったた。


夜になると、また隣から怒鳴り声が聞こえはじめた。

何をそんなに毎日怒っているのか、興味が湧いてきてベランダに出たら、隣りのベランダから物音が聞こえる。

「ふぐ…うっ…うっ…」

隣りの女の子が犬を抱いてベランダにいたのだ。

「大丈夫?」

僕は、声をかけてみた。

「お母さんがこわいよ…」

女の子はずっと震えて泣いていた。

この日からケンカが始まると僕は女の子の話し相手になった。

「お母さんはどうしてあんなに怒っているの?」

僕は聞いた。

「お母さん、不倫してるんだよ。お父さんが怒って離婚したいって言ってるんだけど、お母さんが嫌だって…」

「そっか…」


よその家庭にもいろいろ事情はあるよね…

放っておこうと思った。。




=========


二、三日経ったある日…


ガシャーン!!!!!!!


今日のケンカは激しい。いつもの倍に奥さんの声が聞こえてくる。

「うるせぇんだよ!!稼ぎも少ねぇくせに偉そうにしやがって!!!!私がどんだけ苦労してると思ってんだよ!!!てめぇ!!」


「はあ…」

僕はため息をついた。旦那さんの声は全然聞こえてこない。元気だなあ…あのおばさん。


ガラガラ


ベランダに女の子1人が出てきた。

「お兄ちゃん」

「あれ?ワンちゃんは?」


「お母さんが……お母さんが…保健所に…連れて行った…」

「なんで!!?」

「タロウの散歩に行けなかったから、絨毯にウンチしちゃって…お母さん…怒って…」


僕は激しい怒りを覚えた。普段感情というものをあまり持ち合わせていないと思っていたのに、最近やたら、動物に関しては感情的になってしまう。今思うと、芦田みくの影響か?動物好きだったのかもしれない。動物関連は本当にダメだ。
どんどん感情が最近は湧いて出てくる。


「生き物を何だと思ってるんだ…君のお母さん、最低だね」

女の子は小さく頷いた、そしてずっともじもじしている。

「あのね…お兄ちゃん…コレ…」

「100円?」

「お兄ちゃんにお願いがあるの…お母さんをやっつけて…」

「何で…?100円…?」

「お母さんが人にお願いする時はお金を払わなくちゃいけないって、だから…」

笑える。なるほどね…100円も立派なお金。
お母さんの教え、僕は良いと思うよ。

差し出された腕には無数のアザがあった…。

「分かった…やっつけてあげるね。だけど何で僕に?」

「お兄ちゃんの目。強そうだから」

「強そう?初めて言われたよ」

僕は、めんどくさい事は大嫌いだけど、子供の洞察力に関心した。

【じゃ、初めての殺し屋としての仕事やらせてもらおうじゃないかっ。】


依頼を受けてからは簡単だった。

女の子に盗聴機入りのぬいぐるみを常に持たせていたから、奥さんの行動は手に取るように分かった。

あの不倫相手とは週に2回会ってるみたいだ。火曜と金曜だ。


じゃ、決行は火曜に決まりだ。


いつも相引きしているホテルにあらかじめ待ち伏せして、2人が現れた所から後を付いて行った。

そして、ドアが閉まる寸前にスッ~と入った。


「だっ誰だ!!」

男は行った。

「依頼を受けた」

奥さんはあまりの驚きに震えていた。

後は本当に簡単だ。

奥さんの頸動脈を針で一撃。

不倫相手は依頼を受けていないけど、話されても困るから、舌を半分切り、放置。
病院にでも駆けつけるだろう。

奥さんは綺麗に解体して、海に捨てた。


初仕事…依頼者は喜んでくれるのかなあと思いながら、100円を見つめていた。



次の日…


隣りから怒鳴り声が聞こえなくなった。

むしろ、娘さんとお父さんの笑い声が聞こえてくる。

あれ?犬の鳴き声も…?


ガラガラ…


ベランダから女の子が飛び出してきた。

「お兄ちゃん!ありがとう!お母さんが帰って来ないの!」

「……そっか…良かったね…寂しくない?」


「全然!!お母さん、怖いから、お父さんも笑ってくれるようになったし、タロウも保健所からお父さんが連れ戻してくれたの!」

「良かったね」

「お兄ちゃんが…やっつけてくれたの?本当にありがとう」


そう言って、部屋に女の子は戻って行った。


世間ではお母さんは絶対大好きみたいな風潮が根強いけどネグレクトやDVを受けた子がみんなお母さん大好きとは限らないんだなあって思った。


………………………

【事務所の応接室】


ガバッ!!!


「けんとさん、汗がすごい!?大丈夫ですか?」

目を覚ますとミツキが心配そうに覗きこんでいた。

「あぁ…今ね…懐かしい良い夢を見てたんだ…」

「夢ですか?良い夢見れて良かったですね!それにしても、汗拭いて下さい!」

ミツキがタオルを持ってきてくれた。


気づけば頭痛も消えていた。


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