キミの箱庭を求めて

詩晴海 こてこ

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第二章

これから 6

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あの後はティーナさんに教えてもらいながら自分の傷も治した
深い傷だったせいで魔力を使い果たしては気絶したように眠ることを繰り返して、結局完治に数日も費やした

あっと言う間に数ヶ月が過ぎた。記憶を失くして不安に思うことも多いがクリスさんにティーナさんがいてくれたおかげで生活に慣れることができた
そこは長城から南西に位置する小さな村で住人のほとんどは年老いた魔導士や魔力を持たない人、中には獣人もいて、皆どこの馬の骨かもわからない自分を厭な顔一つせずに快く迎え入れてくれて本当に自分は恵まれたと思う
 
それにこの村ではほとんどの住人には動物が一匹ついている、皆その動物をデーミゴ半身と呼ぶ。誰にもそのデーミゴは居るが出逢えるか否かは運命次第だと、中でもこの村は出逢いやすいとされている
だが相変わらずの自分は記憶が戻らないまま、デーミゴにも出会えないまま畑仕事を手伝いながら日々を過ごしていた

「坊やいつもありがとうなぁ。魔法の使い方にはもう慣れたけぇ?」

「はい、コぺ爺さん!もう耕しながら種まき出来るようになりました!」

左には先日収穫されたばかりで荒れていた畑に鍬がザクザクと土を耕し、右には既に耕され整った土に次の作物の種が次々と蒔かれていた

「ほっほっほ、こりゃ仕事も捗るけぇ」

「皆さんの指導のおかげですよ」

「いやぁ孫が出来たみたいで嬉しいのぉ」

「ははは、爺さんなにしんみりしてんだよ」

獣人のクマゴロウさんが話に割って入る。大柄で一見怖い印象を与えるが丸っこい耳が可愛くて実はとてもやさしい人

「そんなコぺ爺さんの新しいお孫さんにお土産だよ。ほれ」

「これは?」

紙を1枚渡された。そこには「ニャッツカフェ!プレオープンチケット」と書かれている

「村の外れの、ほら山のふもとあるだろ?あっこでかふぇ?ってのをやるってんだよ。ポストに入ってたけど、おいらみたいな熊にゃ場違いかと思ってな。ツヴァイとステラちゃんで行って来いよ」

「プレオープンチケットってクマゴロウさんが招待されてるのに俺なんかが行ってもいいですか?」

「いいんじゃよ、クマゴロウがそう言ってるしチケットにも名前が書いてないけぇ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

「そうと決まれば後の仕事は任せてさっさと行ってこい」

紙をよく見ると今日の日付が記載されていた。ステラと2人か…少し気が重い
記憶喪失のせいで2人きりになるのが気まずくてずっと避けていた
軽くコぺ爺さんとクマゴロウさんに挨拶してクリスさんの家へ向かう
不安とは裏腹にステラは誘いをあっさりと断った。今はティーナさんに文字の読み書きを教えて貰う方が大事だと言い張るように一瞥もしてくれない始末
試しにクリスさんを誘ってみたが平凡な村でも診断所を閉められないと断られた
ならば仕方ない、1人で山のふもとへ行く

歩きながらこの数ヶ月のことを振り返る。なんと自分もステラも古代文字が読めるらしい、ティーナさんの魔導書をいくつか見ていた時に知ったこと。今では珍しいらしくクリスさんと2人で驚いた
だが不思議なことにステラは現代文字の読み書きができない。それを知ってからティーナさんはステラに現代文字をステラはティーナさんに古代文字をお互いに教えあっている

それからこの村で最年少でありながら自分が最も強い魔導士だと知った。特に自分は変わった体質で魔力を髪に溜めることが出来るらしい。ティーナさん曰く多くの魔導士は装飾品をその器にするため自身の一部、例え髪であったとしても、器にするのはかなり高度な技だとか
自分だけではなく村人が言うにはステラの魔力も並みの魔導士とは桁違いらしい、そのことから2人は兄妹なんじゃないかと言われている。記憶がない以上、否定も肯定も出来ないが個人的にそれが一番有力な説だった









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