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散花
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「はあああっ……。んぐっ、んあぁっ……やっだめ、あああぁっ……もっ、もう許してえええぇ……」
粘り気のあるにゅぽにゅぽという水音と共に、薄暗い水車小屋の中で艶めかしい女の声が響く。木馬に座らされた女はその白い裸体を引き攣らせ、強烈な絶頂に喉を仰け反らせた。
「ひっ、ひ、ひいぃっ……やっ――――いやああああぁぁぁぁっ……!」
女は淫らな責め苦に遭っていた。両手を上に括られ、足を縛り付けられた状態で木馬の上に座らされている。木馬には女陰を虐めるための悪趣味なからくりが施されており、外の水車が回る度に、かたかたと音を立てながら女の二穴へ休みなく木杭を突き込んでいく。
「んっ、んぅ、んあっ、あああ……あ、もうとめてぇ、ふっ、ふぐっ、……んっ、んああああああ!」
触れられると蜜を溢してしまうざらざらした膣天井から、突かれると力が抜けてしまう腹の裏側まで。螺旋状の形をしたそれは女の泣き所すべてを容赦なく擦り上げ、引っ掻き、蕩けた最奥を絶え間なくとんとんと刺激する。媚毒が染み込んだ木杭は、膣壁や直腸を擦り上げ女体を肉悦に沈めていく。長時間杭を咥え込み続けた陰唇はふっくらと腫れ上がり、まだ刺激されていない乳頭や陰核も淫楽を求めて痙攣している。
肉付きの良い臀部がぶるぶると震える。与えられた快感の強さを物語るように腹の肉が蠢いて、女は凄まじい絶頂の余韻にだらりと下を向いた。
「ああああ……はあっ、はっ、ああぁん……」
蜜口からどろどろした雫が溢れ出し、床へ滴り落ちていく。玉のような汗が白い肌を妖しくぬめらせる。行灯に照らされた女の裸身をじっくり観察し、男は獣欲が宿る目を細めた。
「随分と気持ちよさそうに啼くではないか。肉のよろこびに抗えずそう声を上げるとは、お前を育てた者として情けない限りだ。忍びよりも売り女の方が向いていたか?」
男の声は凪いでいる。静かなその声は冷酷で、淫臭漂うこの場にはそぐわない。女は平坦な声にぞくぞくと背を震わせ、また粘り気のある愛液を零れさせた。
「忍びたる者、如何なる責め苦も冷静に受け流さなければならぬ。そう教えたのを忘れたか? 椿よ……」
浅黒い肌に、腰まで伸びた黒髪。椿を苛む美しき忍びの頭領――狼牙は言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぎ、真白い乳へ手を伸ばした。椿の豊満な乳房が、男の大きな手に揉みしだかれぐにゅぐにゅと形を変えていく。浅黒い手が白い乳を犯すその様は、汚れていない雪を踏み荒らすような背徳感があった。
狼牙はその屈強な体で小柄な椿をすっぽりと抱きしめ、柔い乳やなだらかな腹をいやらしく撫で摩った。淫欲に燃え上がる女体の生温かさ、汗にぬめる肌の感触を存分に愉しんだ後、狼牙はわざと舌を見せつけながら己の掌をべろりと舐め上げた。
「やはりお前の汗は美味だ。脅威の毒も、俺の前では何の用も成さぬ」
「あっ、くぅ……。おの、れぇ……!」
椿は男を睨みつけようとした。だがその最中も、秘所を杭で規則的に穿たれ続けている。前の柔肉をみっちりと埋められながら、後ろの狭路を遠慮なく押し拓かれていく。性感に緩んだ眉間が、却って淫らな色をかんばせに加えることになってしまい、椿は悔しさの中また呆気なく達してしまった。
「あっ、ああぁぁっ……! もういやっ、もういきたくないのにぃぃ! ひっ、うあああっ……あっ……はあああああああぁっ……あ、あっ……」
女の大きな目から涙がこぼれ落ちる。毒に塗れたそれを一滴残らず舐め取り、狼牙は唇を歪めた。
「呆けるな椿。お前を堕とし、子を孕ませるための責め苦はまだ始まったばかりだ」
「んひぃっ!? やっ、それはいやだぁ……!」
椿の顔の前に、御手玉のようなものが突き出される。媚薬を染み込ませたそれは、女の最大の弱点である陰核を嬲り続けるためのものだ。その布玉で苛まれる怖ろしさを知っている椿は、忍びの女らしくない切羽詰まった声を上げた。
過ちをおかした際に使われる悍ましい道具。自分は今からあの布玉で徹底的に女芯を虐められる。何度泣き叫んでも決して手を止めてもらえず、奥から溢れた愛液を全てこの男に舐め啜られるのだ。
……ああ、この男に捕まったら怖ろしい目に遭うと分かっていたのに。
どうして自分は逃げ切れなかったのだろうか?
里の頭領である狼牙には決して敵わないと知っていた。
なのに外へ希望を見出して、逃げようとした自分が間違っていたのだろうか……。
「いい顔をするな、椿よ。俺に全てを委ねるような弱々しい牝の顔だ。そうだ。自らの行いを恥じ、心の底から悔いるがいい。お前は決してこの里から……俺から逃げられないのだから」
色欲に蕩ける女の眼差しに、狼牙は興奮に血走った目を瞬いた。
「お前が逃げようとするならどこまでも追ってやる。そして最後は必ずこの手に収めるのだ」
端正な顔が近づいてくる。
唇を男に散々貪られながら、椿はひたすら悦楽の涙を流した。
*―*―*―*―*―*
花の里。山桜が咲き誇る美しい山間の集落。
そこには時の政府に仕える精鋭の忍びたちが、人目を避けながら住んでいた。
忍びの里に生を受けた椿は、幼い頃から忍者としての生き方を叩き込まれた。椿という存在は稀有だった。分泌する体液全てが猛毒になる力を持って生まれた椿は、出生の際に母を殺し、その場にいた父と産婆の命も奪った。
椿の忌まわしき出生は、里に盤石の安定を築いた先祖「毒花」の再来だと喜ばれた。己の体液を猛毒に変えて敵を滅ぼした最強の忍び。毒花は里に、脈々と続く血の呪いを遺した。
数十年に一度、里には体から毒を分泌する者が生まれてくる。しかし、椿ほど凶悪な毒を生み出せる者は、里の頭領である狼牙を除いていなかった。お前も頭領と同じく毒花の生まれ変わりなのだ、常に里の刃であれと、椿は周囲の忍びから与えられる厳しい試練に耐え抜く生活を送った。
狼牙は里の頭領であり、そして椿の師でもあった。
毒花の力を受け継いだ彼もまた、出生の際に家族を殺してしまったのだという。時折、両親を想って涙を流す椿を叱責することなく、彼は静かに幼い娘の悲しみに寄り添った。
毒に耐えられるのは同じ毒持ちだけ。椿は自分に触れても死なぬ師のことを、兄のように慕った。猛毒を持つがゆえに他人の肌に触れられない椿は温もりに飢えていて、同じ境遇の師に何かと甘えた。
椿は狼牙が大好きだった。毒持ちは毒持ちに惹かれるからあまりくっつくなと言われても、その意味を理解しようともせずに所構わず彼に抱きついた。分厚い胸に飛び込み、体温を感じるためにぺたぺたと男の素肌を触る。将来はお師匠様のお嫁になると言いながら思う存分甘え倒す。子供の真っ直ぐな愛情を向けられて、狼牙はいつも困り顔で笑った。
冷静沈着でありながらも優しい笑みを向けてくれる狼牙の存在は、椿にとって唯一の心の拠り所だった。
椿は九つの頃、狼牙によって花を散らされた。
忍びの里では、初潮を迎えた娘は男と繋がる準備が整ったのだと見做される。女忍の務めを果たすため、娘は里の男に身を捧げなければならない。毒に塗れた椿に手をつけられる男は、同じく猛毒を分泌する体質の狼牙だけ。交合の相手は自然と決まり、椿は狼牙と夜を共にすることになった。
花の里の悍ましき儀式。
年端も行かぬ椿は屈強な狼牙に組み敷かれ、小さな女陰を男根に貫かれた。
その時のことは、よく覚えている。
女忍の役割も、それを全うために男と褥を共にする日が来ることも聡い椿は理解していた。だが、娘を女にするための行為はあくまで儀礼的なものであるはずだ。周囲の忍びからはそう聞かされていた。
……なのに、これは一体何だ?
自分の上に覆い被さる狼牙を見上げ、幼い椿は胸にこびり付くような違和感を抱いた。
「はあっ、はあ、はあ……。椿! つばきつばきつばき……。ああ、なんて愛おしいのだお前は! 俺はお前を女にする時をずっと待ち望んでいたのだっ! はあ……お前の内は本当に具合がいい。幼い女陰のくせして肉ひだが一丁前にちゅうちゅうと吸い付いてくるわ……。俺の嫁は随分と床上手だなあ? はっ、は……あはははははははっ! これは堪らぬ……。こっちを向け椿、その小さな舌を俺に向かって一生懸命伸ばしてみろ! はははっ、情けない顔を晒して可愛いなぁ椿! もっと気持ちよくなれるように、俺の毒もお前に分けてやろうなあ……」
兄と慕う男の豹変に、椿はざっと顔を青褪めさせた。唇を貪り食われながら執拗に唾液を飲まされる。耳元で睦言を囁かれ、ひとつひとつの指に男の太い指を絡められる。
毒花の力を受け継ぐ者同士であれば、その体液は相手の心も体も魅了する、強力な媚毒へと変わりゆく。
椿は狼牙の毒によってもたらされる未知の快楽に翻弄されながらも、彼の異様な様子に恐怖を覚えた。
浅黒い肌と引き締まった肉体を持つ美丈夫。誰もが見惚れるほど端正な顔を持った長い黒髪の男。狼牙は孤高の美しさを誇っている。彼の相手をしたいと考える里の女はたくさんいるだろう。
……だが、自分は今の彼が怖い。
若くして里の頭領を務める狼牙は、常に冷静沈着な男であったはずだ。上背があり屈強、あらゆる忍術に通じ、敵と見定めた者を狼の如くどこまでも追い詰めていく。彼の冷酷で力強い姿勢を、椿は忍びの一人として尊敬していた。しかし、目の前の頭領は我を忘れた様子で肉交に耽っている。彼はただの儀式にここまで入れ込む男ではないはずだ。
花の里が誇る最強の頭領。そして優しい微笑みを向けてくれる師。いずれの姿も今の彼と重ならない。
毒持ちは毒持ちに惹かれる。
お互いの体液は、相手の心も体も魅了する強力な媚毒に変わる。
ならば自分の毒が、狼牙をここまで変えてしまったのだろうか……?
「つばきっ、俺の一物にぬるぬるとお前の毒が絡みついてくるぞ。お前も俺を求めてくれているんだな? 俺に抱かれて嬉しいだろう椿! なあっ、そうだろう? 子供のくせに魔羅で突くたび淫りがましい声を上げおって! 先程まで清い娘だったのに恥ずかしくないのか!? よい……よい、その浅ましさも至らなさも、全て頭領らしく受け止めてやろう。俺がこれから一丁前の人妻に育ててやるからなあ、つばき! んっ、はあぁ。あ……あ、もう限界だ! お前の内に出すぞ椿……! 夫の子種を受け止めろ! あはぁっ、あ、ぐ……うぅ、でるぅ……!」
最奥に生温かいものが放たれる。二十を過ぎた男が、九つを迎えたばかりの娘に睦言を囁きながら腰を振り、欲望のまま射精する。その事実に彼女は涙を流した。
狼牙の目には儀式を遂行するという責任感や諦観のようなものは一切なく、ただ椿を望み、煮え滾る劣情をぶつけるかのような凄まじい熱が宿っている。子供に対し、こんな目を向ける大人の男が心底おぞましい。
「あはははっ……お前の毒は最高だなあ椿……。お前が愛おしくて愛おしくて堪らなくなるっ! ああ、こんな味を知ったらおかしくなってしまいそうだ……!」
ふたりの交合は朝まで続いた。狼牙は椿に肉の法悦を教え込むように、またその体から分泌される媚毒を取り込むように娘を隅々まで舐め回した。細い足をがくがくと震わせ、股から大量の精を溢れさせる椿を狼牙は愛情の籠もった目で見つめ、彼女が立ち上がれるまで丁寧に世話をした。
……あの儀式は異常だった。
きっと、自分がされたことは普通ではない。
椿は狼牙とのことを誰にも言えず、悶々とした日々を過ごした。
それから椿は、女忍としての基本を叩き込むという名目で、頻繁に狼牙に抱かれることになった。
太く逞しい男根を遠慮なく突き立てられ、体液を啜られながら女体の悦びを無理やり呼び起こされる。月のものが訪れている時さえも、股から滴る血を一滴残らず舐め取られた。妻の血はこの上ない甘露だと言いながら、自分の秘部に顔を埋める師を椿は必死に遠ざけようとしたが、狼牙が椿の前で冷静さを取り戻すことは一度たりともなかった。
狼牙はあの儀式の日からおかしくなってしまった。
里の掟で抱いただけの娘を、頑なに自分の妻だと言い張っている……。
椿は狼牙を受け入れなかった。あなたは私の夫ではない。今すぐ元に戻ってくれ、こんなことをしてはならないのだと忠告し続ける。狼牙は教え子の頑なな姿勢を目にして、なお彼女をものにしようと躍起になった。未熟な椿は狼牙に決して敵わない。どんな抵抗も殺されて、結局最後は大人しく抱かれるしかなかった。
昼夜問わず師に可愛がられ続けた椿の体は、年を経るごとに肉感的で、男の目を惹き付けるものに変わっていった。
椿はやや小柄ながらも、美しい女に育った。真っ直ぐで艶やかな濡羽色の髪に、白くきめ細かい肌。そしてあどけなさを残した可愛らしい顔立ち。彼女が甘い言葉を囁けば、大多数の男は何も考えずに身を差し出すものと思われた。
しかし彼女が、忍びとして外に出ることは一切ない。椿の豊満な肉体を味わうのは、頭領である狼牙ただ一人だけ。里の刃であれと育てられた毒漬けの女は、任務に赴くことも戦地に行くこともなく、男に日々可愛がられるだけの肉人形と化していた。
里の者は狼牙に不満をぶつけた。毒花の力を受け継ぐ者は進んで任に就くべきだ。そうでなければ特異な力を持たずに戦っている者に申し訳が立たない。毒に塗れた椿を使えば数多の敵を殺せる。今すぐ椿を外に出し、花の里のために役立てるべきだと。
そして悲劇が起きる。
狼牙に申し立てをした忍びたちが、落石に巻き込まれて死を遂げた。偶然起きた不幸な事故だと片付けられたが、椿は報告を受けた狼牙の唇が歪むのをはっきりと目にした。
年頃の椿に求婚した里の男が、無実の罪を着せられ晒し首にされた。椿を身請けしようとした政府の役人が、賊になぶり殺された。椿に見惚れた者が盲目になった。椿の体質を治療しようと、集落を訪れた薬師が両手を飛ばされてしまった……。そのようなことが続くうち、誰もが狼牙の仕業だと信じて疑わなくなった。
人目を憚らず椿に触れる狼牙に、冷たい目が向けられる。
頭領はきっと、あの娘の毒に頭をやられてしまったのだ。狼牙を消すか、椿を消すか。どちらかを選ばねば里の平穏はない……。そう考えた者が密かに椿を殺そうとしたこともあったが、椿に手を出す前に皆が狼牙によって消されてしまった。
嫉妬と不満渦巻く集落を目にして、椿は胸を痛ませた。
このままでは自分のせいで花の里が傾いてしまう。
椿は自分に依存する頭領を、怖ろしく、そして哀れな男だと思っていた。
里の者が言う通りだ。
狼牙は自分の媚毒によって頭がおかしくなってしまったのだ。
無比の美しさを誇る彼は女など選び放題だろうに、歳の離れた自分だけを抱きたがり、何度も「愛してる」だの「俺の妻」だの口にする。そして、愛の言葉を返さぬ自分に必死な顔で懇願する。どうかお前も好きだと言ってくれないかと。
執拗な愛撫。優しくも残酷な肉のよろこび。
狼牙に抱かれるうちに、椿は彼を深く愛してしまった。
花を散らされた時の違和感が未だに胸の奥で燻っている。しかし何度も夜を共にし、己に快感を教え込んだ狼牙のことを無下にする気持ちは湧かない。口付けられながら熱の籠もった言葉を囁かれると、本当に愛されているかのような心地になる。
だがその愛は、毒がもたらした偽りのものだ。
狼牙は心も体も魅了する、自分の媚毒に惑わされてしまっただけなのだ。自分が師を虜にするほど強烈な毒を持っていなければ、彼は幼い娘に進んで腰を振ることも、そしてその娘に求愛することもなかっただろう。
この毒さえなければ、彼から本当の意味で愛してもらえたのかもしれない。いや、毒があったからこそ彼と触れ合えたのかもしれない……。狼牙に抱かれるたび、そんな気持ちが込み上げてくる。
師は媚毒に狂い冷静さを失っている。このままでは誰かに討たれる時が来るだろう。自分の毒によっておかしくなってしまった男が、自分のせいで殺されるのは見たくない。
狼牙と番う訳にはいかない。一緒に居て体を重ね続ければ、自分の毒でなお彼を狂わせてしまうから。
狼牙を受け入れる訳にはいかない。一度好きだと伝えてしまえば、彼にどこまでも溺れてしまう気がするから。
師の優しい微笑みが懐かしい。
あの微笑みをもう一度見たい。
……自分がいなくなれば、彼は正気に戻ってくれるだろうか……?
椿はふと浮かんだその考えを、実行に移すことにした。
密かに里を出るための準備を進めていく。修行に励みつつ、外の情報を集める。いつか、毒の力を封じる術を探す旅に出る……その日が来ることを夢見て。
気がつけば、椿が狼牙に純潔を捧げてから十六年が経っていた。二十半ばになった椿は成熟した女の色香を放ち、四十手前の狼牙はやや陰のある、野性的な魅力を滲ませるようになった。
夫婦同然に過ごし、数え切れないほど体を繋げたふたりだったが、椿が孕むことは一度もなかった。彼女が子宮に施した避妊の術が、放たれる精を殺してしまうからだ。狼牙は椿の腹を膨らませようと執拗に彼女を抱いたが、椿が術を解くことは決してなかった。
なぜお前はいつまでも俺の愛を受け入れぬのだ。俺はお前との子が欲しい。膣を犯し、後ろを拓き、そして胎までも満たしてこそ、この愛を証明できる。長年身を焼き焦がし続ける熱烈な愛、このおかしくなりそうな想いを受け入れぬお前のことが、心底恨めしい。孕め。俺の子を宿せ。何人でも産んでくれ。そうしてこそ椿という女が、やっと俺のものになったのだと実感できる……。
狼牙はそんな怖ろしい言葉を吐きながら、しつこく椿の術を解こうとした。
子を宿す訳にはいかない。昼夜問わず抱かれるせいで里からの脱出が難しいのに、子を孕んでしまえば逃げ切ることはまず不可能になる。
自分を束縛するような愛の言葉に胸が跳ねる。師の囁きを毒による偽りのものだと断じながらも、椿は胸中に複雑な感情を抱えた。
この男と離れがたい。この男を救いたい。
心から愛している。心から愛されたい。
だが、この男は……。
「椿、つばきつばき、つばきぃぃぃぃ……。俺に大人しく純潔を捧げてくれたのに、どうしてお前はつれないんだ? 好きだと言ってくれとずっと頼んでるじゃないか。いくら可愛がってやっても、忍びは感情を殺すものだと言いながら俺を跳ね除けるよな。誰がそう教え込んだ? ああ、俺か……。はは、お前は幼い頃に教えたことをまだ守ってくれているんだな? 愛い奴め、だが俺の前ではただの女として振る舞ってよいのだぞ椿。だから愛してると返してくれよ。なあ椿。どうして俺に素気なくするんだ? 憎い。お前が憎くて可愛くてどうにかなりそうだ!」
「頭が痛くなるほどお前のことを考え続けて、胸が引き攣れるほどお前のことを想って、口が裂けそうになるほどお前の耳に愛を注いだのに! 我儘な女め、まだ愛してると言われ足りないか? 本当に口が裂けるほど愛してると紡げばお前は満足するのか? いい加減に胎を明け渡せ椿。これは夫として、師として、そして里の頭領としての命令なのだぞ! 下の女肉は俺を求めてきゅうきゅうと啼いているのに、どうしてお前の口は俺に媚びないんだ?」
「ああ分かった。俺が椿の媚毒に狂ったと思ってるんだろう? はははっ、確かに俺は椿のせいでおかしくなった。だがな、毒で狂うなら、お前も俺の毒に狂わなければおかしいだろうが!? 俺を求めろ、椿。これだけ抱いているんだから色狂いにでもなってくれよ。俺に依存しろ。求めろ。この心に抱える感情と釣り合うほどに俺を愛せ!」
「ああ、駄目だ。そんな風に、如何にも嘘だという様子で愛を囁かれても全く満たされない! その綺麗な目に熱を宿しながら俺を迎え入れてくれ。心の底から俺が好きなのだと物語る、愛に溢れた笑みを浮かべてくれ! なあいいだろう椿。毒花の力を受け継ぐ者は、同じ境遇の者と番うしかないのだ。お互いの毒に塗れて、おかしくなって、俺の子を孕んで、産んで、家族みんなで仲良く暮らしていこうじゃないか。俺たちに子が生まれたら里の者も喜んでくれるぞ……!」
落ち窪んだ男の目が爛々と輝く。
その狂気に塗れた目は、椿にあの儀式のことを思い出させた。
「お前を初めて抱いた日から十六年、一度も愛されたことがない俺の身にもなってくれよ……。なあ、愛してくれ! 俺を愛すのだ。椿、椿!」
狼牙を愛している。
……愛しているのに、怖い。
*―*―*―*―*―*
肌寒い秋の夜。
狼牙不在の隙を突き、椿はとうとう里を抜け出した。
暗闇の中を駆け抜け、ひたすら都を目指す。政府がある都には各地から様々なものが集まるのだという。そして、それには先進的な知識も含まれる。
……都に行けば、体から毒を抜く方法が見つかるかもしれない。
先祖から受け継いだ力は怖ろしい。
両親を殺し、毒を生み、大切な師を酷く狂わせてしまった。
私と離れたら優しい師に戻ってくれるはず。
この身は呪われている。
こんな力はもう要らない。
毒から解放されよう。
そして、ただの女として生きるのだ……!
ひゅうと一陣の風が吹く。空気を激しく切り裂く音と共に、木が次々と薙ぎ倒される。進む道は倒木によって塞がれ、椿を取り囲むように枝が積み上がった。
椿は刀に手をかけた。
こんなことができるのは、あの男しかいない。
「……狼牙様」
煌々と照る満月の下、師が立っている。己が積み上げた木の上から椿を見下ろし、狼牙は無表情で首を傾げた。
「仕事から戻った夫を、家で温かく出迎えるのが妻の役目だろう。なぜこんなところにいる?」
静かな声だ。平時の熱に浮かされたような声ではない。椿は冷や汗が流れるのを感じた。
狼牙は怒っている。それも、酷く。
「そこを通してください、私は行かねばなりません」
狼牙は口を噤み、怒りを堪えるような表情をした。
無口で常に冷静であろうとするその姿勢。花の里が誇る最強の頭領としての在り方。黒衣に身を包んだ忍びの男から、凄まじい殺気が放たれる。思わず後ずさった女に、狼牙はなぜ俺から逃げるのだと訊ねた。
脳裏で警鐘が鳴り響く。天才的な力を持つ師を前に、足が小刻みに痙攣してしまう。
だが自分は、狼牙を救うために彼から離れなければならない……。椿は己を叱咤し、真っ直ぐに師を見上げた。
「私たちは離れるべきです。毒花様の力を受け継ぐ者同士が一緒になってはいけません」
「……なぜ」
「待っているのは破滅だから。あなたは私に入れ込み、花の里を傾かせてしまった。もう里にはいられません。お願いです、行かせてください! 私と離れたらあなたは元通りになるはずだ!」
「元通りだと? 何を言うかと思えば。ふざけるなよ阿婆擦れが」
男の眉間がぎゅっと寄る。椿はすぐさま逃げ出そうとしたが、それよりも先に狼牙の体が上から降ってきた。
長い黒髪が不気味になびく。
目をぎらぎらと輝かせながら、狼牙は刃の切っ先を椿に向けた。
「椿よ。抜け忍がどのように扱われるか知っての愚行か」
「打首も覚悟の上。しかし、毒に塗れたこの運命からもう解放されたいのです……!」
「ほう? ほう……。つまり、俺に体を貪り食われるのはうんざりだと、好きでもない男と共にいるくらいなら死んだ方がましだと。お前が言いたいのはそういうことか?」
「違う、私は――」
「くくくくっ、あははははははははははっ……。あんなに愛したのに、お前はそうして俺を跳ね除けるのだな!? なんとも恩知らずで残酷な教え子よ!」
椿の言葉を遮り、狼牙は歪な笑みを浮かべた。
「椿! つばき、つばきいぃぃぃぃぃっ……。その選択の愚かさを思い知るがいい! お前は絶対に俺からは逃げられぬ!!」
狼牙は怒りに吼え、椿に襲いかかった。忍びと忍びの凄まじい斬り合いが始まる。師を前に椿は必死に刀を振るったが、彼に傷ひとつ付けることができなかった。
狼牙にとって椿の太刀筋は見切ることが容易い。なぜなら刀の持ち方も、振るい方も、彼女に教えたのは自分だからだ。己が教えたことを忠実に守る椿の在り方に、狼牙はまた燃え上がるような劣情を覚えた。
狼牙はわざと時間をかけて椿を甚振った。お前の刀など棒切れと変わらぬと馬鹿にしながら、天才的な技巧で彼女の服だけを切り裂いていく。女の細腕を捻り上げ、俺から逃げられるものなら逃げてみよと囁いてみせる。
そしてとうとう、椿の体が疲労にくずおれる。狼牙はその場で彼女を裸に剥き、汗に汚れた肌を舐め回しながら凌辱した。
気を失った椿の股からぼたぼたと精が溢れ落ちる。男の媚毒に蝕まれた女体はほんのりと色づき、更なる絶頂を求めて痙攣する。狼牙は椿の淫らな姿を目に焼き付けた後、彼女を里へ連れ帰った。
椿を堕とす。
徹底的に可愛がって快楽漬けにして、もう二度と逃げ出せないように縛り付ける。
嘘でもいい。壊してでも何をしてでもこの女に愛を囁かれたい。
毒に蝕まれた自分を受け入れてくれるのは、同じく毒に蝕まれたこの女しかいないのだから。
絶対に逃さない。逃げるならどこまでも追ってやる。地獄の炎の如き苛烈な意志を込めながら、狼牙は気を失った女の唇を何度も啄んだ。
粘り気のあるにゅぽにゅぽという水音と共に、薄暗い水車小屋の中で艶めかしい女の声が響く。木馬に座らされた女はその白い裸体を引き攣らせ、強烈な絶頂に喉を仰け反らせた。
「ひっ、ひ、ひいぃっ……やっ――――いやああああぁぁぁぁっ……!」
女は淫らな責め苦に遭っていた。両手を上に括られ、足を縛り付けられた状態で木馬の上に座らされている。木馬には女陰を虐めるための悪趣味なからくりが施されており、外の水車が回る度に、かたかたと音を立てながら女の二穴へ休みなく木杭を突き込んでいく。
「んっ、んぅ、んあっ、あああ……あ、もうとめてぇ、ふっ、ふぐっ、……んっ、んああああああ!」
触れられると蜜を溢してしまうざらざらした膣天井から、突かれると力が抜けてしまう腹の裏側まで。螺旋状の形をしたそれは女の泣き所すべてを容赦なく擦り上げ、引っ掻き、蕩けた最奥を絶え間なくとんとんと刺激する。媚毒が染み込んだ木杭は、膣壁や直腸を擦り上げ女体を肉悦に沈めていく。長時間杭を咥え込み続けた陰唇はふっくらと腫れ上がり、まだ刺激されていない乳頭や陰核も淫楽を求めて痙攣している。
肉付きの良い臀部がぶるぶると震える。与えられた快感の強さを物語るように腹の肉が蠢いて、女は凄まじい絶頂の余韻にだらりと下を向いた。
「ああああ……はあっ、はっ、ああぁん……」
蜜口からどろどろした雫が溢れ出し、床へ滴り落ちていく。玉のような汗が白い肌を妖しくぬめらせる。行灯に照らされた女の裸身をじっくり観察し、男は獣欲が宿る目を細めた。
「随分と気持ちよさそうに啼くではないか。肉のよろこびに抗えずそう声を上げるとは、お前を育てた者として情けない限りだ。忍びよりも売り女の方が向いていたか?」
男の声は凪いでいる。静かなその声は冷酷で、淫臭漂うこの場にはそぐわない。女は平坦な声にぞくぞくと背を震わせ、また粘り気のある愛液を零れさせた。
「忍びたる者、如何なる責め苦も冷静に受け流さなければならぬ。そう教えたのを忘れたか? 椿よ……」
浅黒い肌に、腰まで伸びた黒髪。椿を苛む美しき忍びの頭領――狼牙は言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぎ、真白い乳へ手を伸ばした。椿の豊満な乳房が、男の大きな手に揉みしだかれぐにゅぐにゅと形を変えていく。浅黒い手が白い乳を犯すその様は、汚れていない雪を踏み荒らすような背徳感があった。
狼牙はその屈強な体で小柄な椿をすっぽりと抱きしめ、柔い乳やなだらかな腹をいやらしく撫で摩った。淫欲に燃え上がる女体の生温かさ、汗にぬめる肌の感触を存分に愉しんだ後、狼牙はわざと舌を見せつけながら己の掌をべろりと舐め上げた。
「やはりお前の汗は美味だ。脅威の毒も、俺の前では何の用も成さぬ」
「あっ、くぅ……。おの、れぇ……!」
椿は男を睨みつけようとした。だがその最中も、秘所を杭で規則的に穿たれ続けている。前の柔肉をみっちりと埋められながら、後ろの狭路を遠慮なく押し拓かれていく。性感に緩んだ眉間が、却って淫らな色をかんばせに加えることになってしまい、椿は悔しさの中また呆気なく達してしまった。
「あっ、ああぁぁっ……! もういやっ、もういきたくないのにぃぃ! ひっ、うあああっ……あっ……はあああああああぁっ……あ、あっ……」
女の大きな目から涙がこぼれ落ちる。毒に塗れたそれを一滴残らず舐め取り、狼牙は唇を歪めた。
「呆けるな椿。お前を堕とし、子を孕ませるための責め苦はまだ始まったばかりだ」
「んひぃっ!? やっ、それはいやだぁ……!」
椿の顔の前に、御手玉のようなものが突き出される。媚薬を染み込ませたそれは、女の最大の弱点である陰核を嬲り続けるためのものだ。その布玉で苛まれる怖ろしさを知っている椿は、忍びの女らしくない切羽詰まった声を上げた。
過ちをおかした際に使われる悍ましい道具。自分は今からあの布玉で徹底的に女芯を虐められる。何度泣き叫んでも決して手を止めてもらえず、奥から溢れた愛液を全てこの男に舐め啜られるのだ。
……ああ、この男に捕まったら怖ろしい目に遭うと分かっていたのに。
どうして自分は逃げ切れなかったのだろうか?
里の頭領である狼牙には決して敵わないと知っていた。
なのに外へ希望を見出して、逃げようとした自分が間違っていたのだろうか……。
「いい顔をするな、椿よ。俺に全てを委ねるような弱々しい牝の顔だ。そうだ。自らの行いを恥じ、心の底から悔いるがいい。お前は決してこの里から……俺から逃げられないのだから」
色欲に蕩ける女の眼差しに、狼牙は興奮に血走った目を瞬いた。
「お前が逃げようとするならどこまでも追ってやる。そして最後は必ずこの手に収めるのだ」
端正な顔が近づいてくる。
唇を男に散々貪られながら、椿はひたすら悦楽の涙を流した。
*―*―*―*―*―*
花の里。山桜が咲き誇る美しい山間の集落。
そこには時の政府に仕える精鋭の忍びたちが、人目を避けながら住んでいた。
忍びの里に生を受けた椿は、幼い頃から忍者としての生き方を叩き込まれた。椿という存在は稀有だった。分泌する体液全てが猛毒になる力を持って生まれた椿は、出生の際に母を殺し、その場にいた父と産婆の命も奪った。
椿の忌まわしき出生は、里に盤石の安定を築いた先祖「毒花」の再来だと喜ばれた。己の体液を猛毒に変えて敵を滅ぼした最強の忍び。毒花は里に、脈々と続く血の呪いを遺した。
数十年に一度、里には体から毒を分泌する者が生まれてくる。しかし、椿ほど凶悪な毒を生み出せる者は、里の頭領である狼牙を除いていなかった。お前も頭領と同じく毒花の生まれ変わりなのだ、常に里の刃であれと、椿は周囲の忍びから与えられる厳しい試練に耐え抜く生活を送った。
狼牙は里の頭領であり、そして椿の師でもあった。
毒花の力を受け継いだ彼もまた、出生の際に家族を殺してしまったのだという。時折、両親を想って涙を流す椿を叱責することなく、彼は静かに幼い娘の悲しみに寄り添った。
毒に耐えられるのは同じ毒持ちだけ。椿は自分に触れても死なぬ師のことを、兄のように慕った。猛毒を持つがゆえに他人の肌に触れられない椿は温もりに飢えていて、同じ境遇の師に何かと甘えた。
椿は狼牙が大好きだった。毒持ちは毒持ちに惹かれるからあまりくっつくなと言われても、その意味を理解しようともせずに所構わず彼に抱きついた。分厚い胸に飛び込み、体温を感じるためにぺたぺたと男の素肌を触る。将来はお師匠様のお嫁になると言いながら思う存分甘え倒す。子供の真っ直ぐな愛情を向けられて、狼牙はいつも困り顔で笑った。
冷静沈着でありながらも優しい笑みを向けてくれる狼牙の存在は、椿にとって唯一の心の拠り所だった。
椿は九つの頃、狼牙によって花を散らされた。
忍びの里では、初潮を迎えた娘は男と繋がる準備が整ったのだと見做される。女忍の務めを果たすため、娘は里の男に身を捧げなければならない。毒に塗れた椿に手をつけられる男は、同じく猛毒を分泌する体質の狼牙だけ。交合の相手は自然と決まり、椿は狼牙と夜を共にすることになった。
花の里の悍ましき儀式。
年端も行かぬ椿は屈強な狼牙に組み敷かれ、小さな女陰を男根に貫かれた。
その時のことは、よく覚えている。
女忍の役割も、それを全うために男と褥を共にする日が来ることも聡い椿は理解していた。だが、娘を女にするための行為はあくまで儀礼的なものであるはずだ。周囲の忍びからはそう聞かされていた。
……なのに、これは一体何だ?
自分の上に覆い被さる狼牙を見上げ、幼い椿は胸にこびり付くような違和感を抱いた。
「はあっ、はあ、はあ……。椿! つばきつばきつばき……。ああ、なんて愛おしいのだお前は! 俺はお前を女にする時をずっと待ち望んでいたのだっ! はあ……お前の内は本当に具合がいい。幼い女陰のくせして肉ひだが一丁前にちゅうちゅうと吸い付いてくるわ……。俺の嫁は随分と床上手だなあ? はっ、は……あはははははははっ! これは堪らぬ……。こっちを向け椿、その小さな舌を俺に向かって一生懸命伸ばしてみろ! はははっ、情けない顔を晒して可愛いなぁ椿! もっと気持ちよくなれるように、俺の毒もお前に分けてやろうなあ……」
兄と慕う男の豹変に、椿はざっと顔を青褪めさせた。唇を貪り食われながら執拗に唾液を飲まされる。耳元で睦言を囁かれ、ひとつひとつの指に男の太い指を絡められる。
毒花の力を受け継ぐ者同士であれば、その体液は相手の心も体も魅了する、強力な媚毒へと変わりゆく。
椿は狼牙の毒によってもたらされる未知の快楽に翻弄されながらも、彼の異様な様子に恐怖を覚えた。
浅黒い肌と引き締まった肉体を持つ美丈夫。誰もが見惚れるほど端正な顔を持った長い黒髪の男。狼牙は孤高の美しさを誇っている。彼の相手をしたいと考える里の女はたくさんいるだろう。
……だが、自分は今の彼が怖い。
若くして里の頭領を務める狼牙は、常に冷静沈着な男であったはずだ。上背があり屈強、あらゆる忍術に通じ、敵と見定めた者を狼の如くどこまでも追い詰めていく。彼の冷酷で力強い姿勢を、椿は忍びの一人として尊敬していた。しかし、目の前の頭領は我を忘れた様子で肉交に耽っている。彼はただの儀式にここまで入れ込む男ではないはずだ。
花の里が誇る最強の頭領。そして優しい微笑みを向けてくれる師。いずれの姿も今の彼と重ならない。
毒持ちは毒持ちに惹かれる。
お互いの体液は、相手の心も体も魅了する強力な媚毒に変わる。
ならば自分の毒が、狼牙をここまで変えてしまったのだろうか……?
「つばきっ、俺の一物にぬるぬるとお前の毒が絡みついてくるぞ。お前も俺を求めてくれているんだな? 俺に抱かれて嬉しいだろう椿! なあっ、そうだろう? 子供のくせに魔羅で突くたび淫りがましい声を上げおって! 先程まで清い娘だったのに恥ずかしくないのか!? よい……よい、その浅ましさも至らなさも、全て頭領らしく受け止めてやろう。俺がこれから一丁前の人妻に育ててやるからなあ、つばき! んっ、はあぁ。あ……あ、もう限界だ! お前の内に出すぞ椿……! 夫の子種を受け止めろ! あはぁっ、あ、ぐ……うぅ、でるぅ……!」
最奥に生温かいものが放たれる。二十を過ぎた男が、九つを迎えたばかりの娘に睦言を囁きながら腰を振り、欲望のまま射精する。その事実に彼女は涙を流した。
狼牙の目には儀式を遂行するという責任感や諦観のようなものは一切なく、ただ椿を望み、煮え滾る劣情をぶつけるかのような凄まじい熱が宿っている。子供に対し、こんな目を向ける大人の男が心底おぞましい。
「あはははっ……お前の毒は最高だなあ椿……。お前が愛おしくて愛おしくて堪らなくなるっ! ああ、こんな味を知ったらおかしくなってしまいそうだ……!」
ふたりの交合は朝まで続いた。狼牙は椿に肉の法悦を教え込むように、またその体から分泌される媚毒を取り込むように娘を隅々まで舐め回した。細い足をがくがくと震わせ、股から大量の精を溢れさせる椿を狼牙は愛情の籠もった目で見つめ、彼女が立ち上がれるまで丁寧に世話をした。
……あの儀式は異常だった。
きっと、自分がされたことは普通ではない。
椿は狼牙とのことを誰にも言えず、悶々とした日々を過ごした。
それから椿は、女忍としての基本を叩き込むという名目で、頻繁に狼牙に抱かれることになった。
太く逞しい男根を遠慮なく突き立てられ、体液を啜られながら女体の悦びを無理やり呼び起こされる。月のものが訪れている時さえも、股から滴る血を一滴残らず舐め取られた。妻の血はこの上ない甘露だと言いながら、自分の秘部に顔を埋める師を椿は必死に遠ざけようとしたが、狼牙が椿の前で冷静さを取り戻すことは一度たりともなかった。
狼牙はあの儀式の日からおかしくなってしまった。
里の掟で抱いただけの娘を、頑なに自分の妻だと言い張っている……。
椿は狼牙を受け入れなかった。あなたは私の夫ではない。今すぐ元に戻ってくれ、こんなことをしてはならないのだと忠告し続ける。狼牙は教え子の頑なな姿勢を目にして、なお彼女をものにしようと躍起になった。未熟な椿は狼牙に決して敵わない。どんな抵抗も殺されて、結局最後は大人しく抱かれるしかなかった。
昼夜問わず師に可愛がられ続けた椿の体は、年を経るごとに肉感的で、男の目を惹き付けるものに変わっていった。
椿はやや小柄ながらも、美しい女に育った。真っ直ぐで艶やかな濡羽色の髪に、白くきめ細かい肌。そしてあどけなさを残した可愛らしい顔立ち。彼女が甘い言葉を囁けば、大多数の男は何も考えずに身を差し出すものと思われた。
しかし彼女が、忍びとして外に出ることは一切ない。椿の豊満な肉体を味わうのは、頭領である狼牙ただ一人だけ。里の刃であれと育てられた毒漬けの女は、任務に赴くことも戦地に行くこともなく、男に日々可愛がられるだけの肉人形と化していた。
里の者は狼牙に不満をぶつけた。毒花の力を受け継ぐ者は進んで任に就くべきだ。そうでなければ特異な力を持たずに戦っている者に申し訳が立たない。毒に塗れた椿を使えば数多の敵を殺せる。今すぐ椿を外に出し、花の里のために役立てるべきだと。
そして悲劇が起きる。
狼牙に申し立てをした忍びたちが、落石に巻き込まれて死を遂げた。偶然起きた不幸な事故だと片付けられたが、椿は報告を受けた狼牙の唇が歪むのをはっきりと目にした。
年頃の椿に求婚した里の男が、無実の罪を着せられ晒し首にされた。椿を身請けしようとした政府の役人が、賊になぶり殺された。椿に見惚れた者が盲目になった。椿の体質を治療しようと、集落を訪れた薬師が両手を飛ばされてしまった……。そのようなことが続くうち、誰もが狼牙の仕業だと信じて疑わなくなった。
人目を憚らず椿に触れる狼牙に、冷たい目が向けられる。
頭領はきっと、あの娘の毒に頭をやられてしまったのだ。狼牙を消すか、椿を消すか。どちらかを選ばねば里の平穏はない……。そう考えた者が密かに椿を殺そうとしたこともあったが、椿に手を出す前に皆が狼牙によって消されてしまった。
嫉妬と不満渦巻く集落を目にして、椿は胸を痛ませた。
このままでは自分のせいで花の里が傾いてしまう。
椿は自分に依存する頭領を、怖ろしく、そして哀れな男だと思っていた。
里の者が言う通りだ。
狼牙は自分の媚毒によって頭がおかしくなってしまったのだ。
無比の美しさを誇る彼は女など選び放題だろうに、歳の離れた自分だけを抱きたがり、何度も「愛してる」だの「俺の妻」だの口にする。そして、愛の言葉を返さぬ自分に必死な顔で懇願する。どうかお前も好きだと言ってくれないかと。
執拗な愛撫。優しくも残酷な肉のよろこび。
狼牙に抱かれるうちに、椿は彼を深く愛してしまった。
花を散らされた時の違和感が未だに胸の奥で燻っている。しかし何度も夜を共にし、己に快感を教え込んだ狼牙のことを無下にする気持ちは湧かない。口付けられながら熱の籠もった言葉を囁かれると、本当に愛されているかのような心地になる。
だがその愛は、毒がもたらした偽りのものだ。
狼牙は心も体も魅了する、自分の媚毒に惑わされてしまっただけなのだ。自分が師を虜にするほど強烈な毒を持っていなければ、彼は幼い娘に進んで腰を振ることも、そしてその娘に求愛することもなかっただろう。
この毒さえなければ、彼から本当の意味で愛してもらえたのかもしれない。いや、毒があったからこそ彼と触れ合えたのかもしれない……。狼牙に抱かれるたび、そんな気持ちが込み上げてくる。
師は媚毒に狂い冷静さを失っている。このままでは誰かに討たれる時が来るだろう。自分の毒によっておかしくなってしまった男が、自分のせいで殺されるのは見たくない。
狼牙と番う訳にはいかない。一緒に居て体を重ね続ければ、自分の毒でなお彼を狂わせてしまうから。
狼牙を受け入れる訳にはいかない。一度好きだと伝えてしまえば、彼にどこまでも溺れてしまう気がするから。
師の優しい微笑みが懐かしい。
あの微笑みをもう一度見たい。
……自分がいなくなれば、彼は正気に戻ってくれるだろうか……?
椿はふと浮かんだその考えを、実行に移すことにした。
密かに里を出るための準備を進めていく。修行に励みつつ、外の情報を集める。いつか、毒の力を封じる術を探す旅に出る……その日が来ることを夢見て。
気がつけば、椿が狼牙に純潔を捧げてから十六年が経っていた。二十半ばになった椿は成熟した女の色香を放ち、四十手前の狼牙はやや陰のある、野性的な魅力を滲ませるようになった。
夫婦同然に過ごし、数え切れないほど体を繋げたふたりだったが、椿が孕むことは一度もなかった。彼女が子宮に施した避妊の術が、放たれる精を殺してしまうからだ。狼牙は椿の腹を膨らませようと執拗に彼女を抱いたが、椿が術を解くことは決してなかった。
なぜお前はいつまでも俺の愛を受け入れぬのだ。俺はお前との子が欲しい。膣を犯し、後ろを拓き、そして胎までも満たしてこそ、この愛を証明できる。長年身を焼き焦がし続ける熱烈な愛、このおかしくなりそうな想いを受け入れぬお前のことが、心底恨めしい。孕め。俺の子を宿せ。何人でも産んでくれ。そうしてこそ椿という女が、やっと俺のものになったのだと実感できる……。
狼牙はそんな怖ろしい言葉を吐きながら、しつこく椿の術を解こうとした。
子を宿す訳にはいかない。昼夜問わず抱かれるせいで里からの脱出が難しいのに、子を孕んでしまえば逃げ切ることはまず不可能になる。
自分を束縛するような愛の言葉に胸が跳ねる。師の囁きを毒による偽りのものだと断じながらも、椿は胸中に複雑な感情を抱えた。
この男と離れがたい。この男を救いたい。
心から愛している。心から愛されたい。
だが、この男は……。
「椿、つばきつばき、つばきぃぃぃぃ……。俺に大人しく純潔を捧げてくれたのに、どうしてお前はつれないんだ? 好きだと言ってくれとずっと頼んでるじゃないか。いくら可愛がってやっても、忍びは感情を殺すものだと言いながら俺を跳ね除けるよな。誰がそう教え込んだ? ああ、俺か……。はは、お前は幼い頃に教えたことをまだ守ってくれているんだな? 愛い奴め、だが俺の前ではただの女として振る舞ってよいのだぞ椿。だから愛してると返してくれよ。なあ椿。どうして俺に素気なくするんだ? 憎い。お前が憎くて可愛くてどうにかなりそうだ!」
「頭が痛くなるほどお前のことを考え続けて、胸が引き攣れるほどお前のことを想って、口が裂けそうになるほどお前の耳に愛を注いだのに! 我儘な女め、まだ愛してると言われ足りないか? 本当に口が裂けるほど愛してると紡げばお前は満足するのか? いい加減に胎を明け渡せ椿。これは夫として、師として、そして里の頭領としての命令なのだぞ! 下の女肉は俺を求めてきゅうきゅうと啼いているのに、どうしてお前の口は俺に媚びないんだ?」
「ああ分かった。俺が椿の媚毒に狂ったと思ってるんだろう? はははっ、確かに俺は椿のせいでおかしくなった。だがな、毒で狂うなら、お前も俺の毒に狂わなければおかしいだろうが!? 俺を求めろ、椿。これだけ抱いているんだから色狂いにでもなってくれよ。俺に依存しろ。求めろ。この心に抱える感情と釣り合うほどに俺を愛せ!」
「ああ、駄目だ。そんな風に、如何にも嘘だという様子で愛を囁かれても全く満たされない! その綺麗な目に熱を宿しながら俺を迎え入れてくれ。心の底から俺が好きなのだと物語る、愛に溢れた笑みを浮かべてくれ! なあいいだろう椿。毒花の力を受け継ぐ者は、同じ境遇の者と番うしかないのだ。お互いの毒に塗れて、おかしくなって、俺の子を孕んで、産んで、家族みんなで仲良く暮らしていこうじゃないか。俺たちに子が生まれたら里の者も喜んでくれるぞ……!」
落ち窪んだ男の目が爛々と輝く。
その狂気に塗れた目は、椿にあの儀式のことを思い出させた。
「お前を初めて抱いた日から十六年、一度も愛されたことがない俺の身にもなってくれよ……。なあ、愛してくれ! 俺を愛すのだ。椿、椿!」
狼牙を愛している。
……愛しているのに、怖い。
*―*―*―*―*―*
肌寒い秋の夜。
狼牙不在の隙を突き、椿はとうとう里を抜け出した。
暗闇の中を駆け抜け、ひたすら都を目指す。政府がある都には各地から様々なものが集まるのだという。そして、それには先進的な知識も含まれる。
……都に行けば、体から毒を抜く方法が見つかるかもしれない。
先祖から受け継いだ力は怖ろしい。
両親を殺し、毒を生み、大切な師を酷く狂わせてしまった。
私と離れたら優しい師に戻ってくれるはず。
この身は呪われている。
こんな力はもう要らない。
毒から解放されよう。
そして、ただの女として生きるのだ……!
ひゅうと一陣の風が吹く。空気を激しく切り裂く音と共に、木が次々と薙ぎ倒される。進む道は倒木によって塞がれ、椿を取り囲むように枝が積み上がった。
椿は刀に手をかけた。
こんなことができるのは、あの男しかいない。
「……狼牙様」
煌々と照る満月の下、師が立っている。己が積み上げた木の上から椿を見下ろし、狼牙は無表情で首を傾げた。
「仕事から戻った夫を、家で温かく出迎えるのが妻の役目だろう。なぜこんなところにいる?」
静かな声だ。平時の熱に浮かされたような声ではない。椿は冷や汗が流れるのを感じた。
狼牙は怒っている。それも、酷く。
「そこを通してください、私は行かねばなりません」
狼牙は口を噤み、怒りを堪えるような表情をした。
無口で常に冷静であろうとするその姿勢。花の里が誇る最強の頭領としての在り方。黒衣に身を包んだ忍びの男から、凄まじい殺気が放たれる。思わず後ずさった女に、狼牙はなぜ俺から逃げるのだと訊ねた。
脳裏で警鐘が鳴り響く。天才的な力を持つ師を前に、足が小刻みに痙攣してしまう。
だが自分は、狼牙を救うために彼から離れなければならない……。椿は己を叱咤し、真っ直ぐに師を見上げた。
「私たちは離れるべきです。毒花様の力を受け継ぐ者同士が一緒になってはいけません」
「……なぜ」
「待っているのは破滅だから。あなたは私に入れ込み、花の里を傾かせてしまった。もう里にはいられません。お願いです、行かせてください! 私と離れたらあなたは元通りになるはずだ!」
「元通りだと? 何を言うかと思えば。ふざけるなよ阿婆擦れが」
男の眉間がぎゅっと寄る。椿はすぐさま逃げ出そうとしたが、それよりも先に狼牙の体が上から降ってきた。
長い黒髪が不気味になびく。
目をぎらぎらと輝かせながら、狼牙は刃の切っ先を椿に向けた。
「椿よ。抜け忍がどのように扱われるか知っての愚行か」
「打首も覚悟の上。しかし、毒に塗れたこの運命からもう解放されたいのです……!」
「ほう? ほう……。つまり、俺に体を貪り食われるのはうんざりだと、好きでもない男と共にいるくらいなら死んだ方がましだと。お前が言いたいのはそういうことか?」
「違う、私は――」
「くくくくっ、あははははははははははっ……。あんなに愛したのに、お前はそうして俺を跳ね除けるのだな!? なんとも恩知らずで残酷な教え子よ!」
椿の言葉を遮り、狼牙は歪な笑みを浮かべた。
「椿! つばき、つばきいぃぃぃぃぃっ……。その選択の愚かさを思い知るがいい! お前は絶対に俺からは逃げられぬ!!」
狼牙は怒りに吼え、椿に襲いかかった。忍びと忍びの凄まじい斬り合いが始まる。師を前に椿は必死に刀を振るったが、彼に傷ひとつ付けることができなかった。
狼牙にとって椿の太刀筋は見切ることが容易い。なぜなら刀の持ち方も、振るい方も、彼女に教えたのは自分だからだ。己が教えたことを忠実に守る椿の在り方に、狼牙はまた燃え上がるような劣情を覚えた。
狼牙はわざと時間をかけて椿を甚振った。お前の刀など棒切れと変わらぬと馬鹿にしながら、天才的な技巧で彼女の服だけを切り裂いていく。女の細腕を捻り上げ、俺から逃げられるものなら逃げてみよと囁いてみせる。
そしてとうとう、椿の体が疲労にくずおれる。狼牙はその場で彼女を裸に剥き、汗に汚れた肌を舐め回しながら凌辱した。
気を失った椿の股からぼたぼたと精が溢れ落ちる。男の媚毒に蝕まれた女体はほんのりと色づき、更なる絶頂を求めて痙攣する。狼牙は椿の淫らな姿を目に焼き付けた後、彼女を里へ連れ帰った。
椿を堕とす。
徹底的に可愛がって快楽漬けにして、もう二度と逃げ出せないように縛り付ける。
嘘でもいい。壊してでも何をしてでもこの女に愛を囁かれたい。
毒に蝕まれた自分を受け入れてくれるのは、同じく毒に蝕まれたこの女しかいないのだから。
絶対に逃さない。逃げるならどこまでも追ってやる。地獄の炎の如き苛烈な意志を込めながら、狼牙は気を失った女の唇を何度も啄んだ。
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