落椿

橙乃紅瑚

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開花

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 ……そして今。
 椿は木馬の上で、ひたすら陰核を虐められている。

「ああああぁぁっ、んっひいいいいいぃ! うあ、んぐっ、くひぃぃっ! ひっ、ひぁっ……こっ、こんなのいやあああああああ! おねがい、おねがい! もうとめてよおおおおお!!」

 手枷をがしゃがしゃと激しく動かしながら、椿はもう止めてくれと必死に訴えた。

 女狂わせの媚薬がたっぷり染み込んだ布玉。それが椿の秘部に押し当てられ、彼女の陰核を包み込みながら激しく振動する。狼牙の忍術によって操られる布玉は震えながらも自在に蠢き、過敏な女芯に耐え難い快感を与えた。

 強すぎる刺激から逃れようとしても、四肢を拘束されているせいで動くことができない。むしろ自分の重さによって股を強く布玉に押し付けてしまう。陰核を虐められている最中も、二穴に木杭を突き立てられるのはそのままだ。

 前も後ろの穴も陰核も全部全部気持ちいい。膣のひだをぞりぞりと擦り上げられ、後ろの孔をぐぽぐぽと掻き分けられる。ずきずきとした鋭い陰核の快楽。深く甘美な女穴の悦楽。えぐみのある後孔の官能。下半身がばらばらになりそうなほど気持ちよくて、勝手に涙が溢れ出てしまう。絶頂が次々と押し寄せるのにどこで達しているのか分からず、椿は混乱に泣き声を上げた。

「こらこら椿よ。子供のように泣くんじゃない。堪え性がないぞ? お前の覚悟を見せてみろ」

「ああっ、あっ、むり! ほんとうにむりなのぉぉっ……。あはあっ! またいっちゃ――――んっ、んんんんんんっ! んはぁっ、ああああ……。お、おねがいっ……。もうとめてっ、もうぶるぶるしないでよぉ……! ふぐぅ、あくっ、ひいいいぃ!」

「はあ……。綺麗だ、椿。もっと達してみせよ。俺の目をいつまでも楽しませるのだ」

 狼牙はうっとりとした顔で椿を見つめた。凄まじい肉悦に目を蕩けさせ、半開きになった唇から涎を垂れ流す女が彼にとっては何よりも美しく見えた。椿の上げる声はどんな楽器が奏でる音色より麗しい。その声をもっと聞きたい。彼女を壊し、縋るものは自分以外にないのだと教えこんでやらなければ……。

 桃色に色づいた女の肌をいやらしく撫で回し、豊かな胸の双丘をべろべろと舐め回す。うなじから耳の穴、そして汗みずくの腋にまで舌を這わせ、何という甘さなのだと狼牙は感嘆の息を漏らした。

「ほおら、椿。もっとよくしてやる。女の弱点を甚振られる快感によがり狂うがいい」

「あっ、ああああああああ! だめだめ、もうなんどもいったの! いまもいってるのにいぃぃ……! いっ――――いやあああああああっ!!」

 椿は陰核から伝わる強烈な快感に泣き叫んだ。

 布玉に詰められた小豆が陰核を左右から叩き、下から上へ捏ね上げるように動く。最も敏感な先端をくにくにとつつかれたかと思えば、腹の奥まで響くような深い快楽を得られる根元の部分に、ずりずりと濡れそぼった布を擦り付けられる。腫れ上がった陰核全体をすっぽりと包み込まれ、あらゆる方向から揉みほぐされる。媚薬を纏った生温かい布が陰核を吸引するように動いて、絶頂最中の肉芽を優しくもしつこく揺り動かされる。

 熱い。自分の弱点である女の芯に、焼け付くような熱が溜まっていく。そしてそれは凄まじい勢いで暴発し、椿の全身へと伝播した。

「ああああああ、ぐるっちゃうよおおおぉ! んあっ、あああああああああああああっっ!!」

 狂気じみた女の嬌声が響き渡る。白い喉を仰け反らせながら全身で肉悦を訴える女を見て、狼牙は興奮入り混じる笑い声を上げた。

 白濁した女の蜜が木馬を伝っていく。狼牙は跪き、零れた椿の媚毒を一滴残らず舐め取ろうとした。

「う、うううううっ……! はっ……はあ、あ、はあっ……」

 椿は項垂れ、木馬に舌を這わせる男を呆然と見つめた。

「くくっ、泡立ってねとねとしている。一等濃厚で舌に残る味だ」

「ぁ……ろうが……さま……。だめ……!」

 椿は肩を上下させながら必死に狼牙を止めようとした。だが彼は椿の言葉に耳を傾けることなく、音を立てながら熱心に蜜を味わっている。

「いやあっ、もうなめないで! あなたがおかしくなっちゃう! う、うぅ……」

 椿は後悔の涙を流した。終わりのない快楽地獄に叩き落されて、胸が絶望に埋め尽くされていく。

 狼牙は性質が悪い。こちらの様子を窺いながら巧みに責め方を変えてくるせいで、慣れや飽きというものを一切感じない。激しいだけの責めならば却って耐えられるのに、女体を知り尽くした彼は強弱を使い分けながら、敏感な場所を絶妙な形で刺激してくる。そのせいでずっと絶頂から降りてこられない。どんなに嫌がっても無理やり感じさせられて、体の奥から媚毒が混じった愛液を大量に溢れさせてしまう。

 本当に怖ろしい男だ。自分はこのまま、彼に壊されてしまうのだろうか……。

「うっ、うあぁ……! ろうがさま、もうゆるしてぇ……。おねがい……」

「泣くな椿! 抜け忍が頭領に許しを請うとは何事だ? 俺から逃げようとしたのなら、これしきのことくらい耐えてみせろ!」

 啜り泣く椿は狼牙に抱え上げられ、彼の外套の上にそっと横たえられた。濡羽色の髪が絹糸のように美しく広がる。狼牙は組み敷いた女を見下ろし、欲望に燃え上がる目を瞬いた。

 椿のふくらはぎが持ち上げられ、足を大きく割り開かされる。包皮から飛び出た桃色の真珠を認め、狼牙はにんまりと唇を歪めた。

「俺の妻は布玉責めが大層お気に召したらしい。女の核がぬらぬらと光り輝いて、まるで男の一物のように勃起しているぞ」

「あっ、ぁ……みない…で……」

「お前の女陰全体がふっくらと赤く膨れて、柔い膣穴もとろとろに蕩けきっている。中の肉ひだを俺のものでしつこく擦ってやったらさぞ気持ちがいいのだろうな……。くくくっ、あははは! こちらにいやらしい匂いがむわりむわりと漂ってくるぞ。好きでもない男に責め苦を受けてこうも濡らすとは、お前は天性の淫乱だなあ」

 わざと鼻を鳴らしながら女の股を嗅ぐ。恥辱的なその行為に羞恥の悲鳴が上がったが、狼牙は構わず椿の陰部に顔を埋め深く呼吸をした。

「可愛い可愛い椿。俺の舌と指でもここを虐め倒してやる」

「くひぃっ!?」

 小刻みに震える椿の突起に、分厚い男の舌がくっつけられる。幾度も絶頂も迎えた肉芽のいやらしい甘酸っぱさと感触を存分に愉しみながら、狼牙は敏感な先端をくるくると舐め回した。

「はっ、ああああっ! あっ、あああっ、んはああああぁぁっ……」

 椿は深く感じ入った声を上げた。布玉責めとはまた違う、ぬめり気に溢れた優しい肉同士の接触。
 陰核に乗せられた舌が少し動くだけで、浜に打ち上げられた魚のようにぴくりぴくりと体を跳ね上がらせてしまう。ちゅ、ちゅっと肉芽の先端に口付けを落とされながら、太い指で蜜口を掻き回されると堪らない。

「はあぁ、あっ、また、またいっ、ちゃっ……! ひいんっ……あ、あああぁ……こすりゃないでぇっ、そこきもちひいのお……。んあっ、ん――――んふうううぅぅっ……!」

「ぷ、はあっ……。椿のここ、こりこりして生温くてとても美味いぞ。もっとお前の毒を飲ませてくれ。もっと、もっと!」

 じゅう、じゅぷ、じゅるり。秘部から聞こえる淫らな水音が椿の耳を苛む。陰核の包皮をめくり上げられ、露わになった部分を舌先でほじられる。肥大した陰核を指でつままれ、男のもののように上下に扱かれると、腿をがくがくと情けなく震わせてしまう。女の核になおも加えられる強い刺激に、椿は悶え泣き叫んだ。

「あ、あっ、あああっだめ! それだめなの、おねがい! あそこが、むずむずしてっ、なんかきちゃ……う! うううっ……! ろう、がさまあっ! もうこわれちゃうのっ! あ、だめ……ん、ひぃぃぃ……!」

 ざらざらした天井を指でそっと圧迫され、左右に擦られると陰核に響くような深い快感が込み上げてくる。とんとん、すりすり。女穴の入り口からほど近いところにあるその弱い場所を執拗に指で刺激される。充血し尖りきった陰核に唾液をたっぷりまぶされ、舐めしゃぶられる。

 椿は肉付きのいい尻をぶるぶると震わせ、内に迎えた男の指をぎゅうと締め付けた。

「ぁ――」

 静かに達する。
 凄まじい肉の法悦に、もう大声を上げることもできない。

 自分が何のために里を抜け出したのか、なぜ狼牙から逃げたのか思い出せなくなる。

 ただただ、男から与えられる快楽に溺れたい。
 自分をこんなに愛してくれる男のことが愛おしい……。

「は、ひ……。ぁ……あぁ…………」

 椿は全身を脱力させ、男の三本指が己の内を蹂躙する悦びに浸った。ごぷりと音を立てて溢れ落ちる雫を、狼牙が嬉しそうに舐め取っていく。椿の膣口に深く舌を入れ、泡だった愛液を熱心に掻き出そうとする。

「はあ……美味い。舐めても舐めても次々に溢れ出てくる。くくくくっ、この白く濁った雫を味わうのが俺の愉しみなのだ。なあ椿、お前をここまで感じさせることができるのは俺だけだぞ。外に出てどうする? 忍びをやめて百姓とでも番うつもりか? はっ……笑わせる。お前と番える男など外にはいない。淫乱のお前を満足させられる男は、この俺を除いて存在しない……」

「はあん……あ、ぁぁ……そ、こぉ……いい……」

「そうだ、いいだろう? このこりこりした部分を指でつつかれながら女の芯を擦り上げられるのが好きなんだよな? そのまま俺に身を任せていろ。お前の全てを委ねるのだ。互いの毒に溺れ、存分に愛し合おうではないか……!」

 どろどろに蕩けきったぬかるみに、そそり勃った男根がぴたりと当てられる。狼牙が少し腰を突き出せば、椿の穴は何の引っ掛かりもなく彼のものを受け入れた。ぐぷ、ぐぷと音を立てて赤黒い肉竿が飲み込まれていく。

「あっ、ああ……ん、はああぁ……」

「はぁぁ……ああ、いい……。椿よ、お前の女陰はまるで極楽だ。ぬるぬると蠢いて俺のものを歓迎しているぞ……! くくっ、くくくく……。お前がよがり泣いて、狂って、精殺しの術を解くまで犯し続けてやるからな……! 俺は今宵、何としてもお前を孕ませるのだ……」

 自分のうつろをみっちりと隙間なく埋められ、椿は満ち足りた吐息を漏らした。深い安心感が混じる肉の悦楽に、思わず目元を緩ませてしまう。

「ああ、つばき。なんと可愛いのだ……。そうだ、お前はそうやって笑っているのが一番似合う。どうか笑っていてくれ、俺の椿……!」

 椿はそっと唇を塞がれた。下唇を狼牙の唇で優しく挟まれ、ちろちろと舌先で口の外周をなぞられる。椿が唇を開くと、肉厚の舌が一気に入り込んできた。

 ぐちゅ、ぴちゃ、くちゅり。音を立てながら啄み合うふたりの口付けは、どんどんと深く淫らなものになる。お互いの唾液を求めて腔内を啜り上げたり、舌を絡ませあったり、歯列をそっと舌尖でなぞり上げたりする。軟らかい肉と肉を合わせているだけなのに、胸が切なく締め付けられるような気持ちよさが込み上げて止まらない。椿と狼牙は、暫し夢心地のまま口吻を愉しんだ。

 銀の糸が男と女をつなぐ。ふたりは無言のままお互いを見つめ合った。

 椿の胸が喜びにとくとくと跳ねる。狼牙との口付けは好きだ。いつも冷酷に責め立ててくる彼だが、口付けだけはうっとりするほど優しい。

 そして何よりも……。

「狼牙さま。大好き、大好き……」

 椿は狼牙の首に腕を回しながら微笑んだ。

 口付けをしている時の彼の顔は、幼い頃に見た優しい師の微笑みに重なる。大好きだと言いながら胸に飛び込んでくる教え子を、仕方ないと言いつつたっぷりと甘やかしてくれた……あの時の笑みに似ているのだ。

「好き。大好きなの。狼牙さまぁ……」

「……つばき」

 椿の言葉に狼牙は目を見開いた。彼の瞳が、感極まったように潤んでいく。

「長年俺を受け入れなかったお前が……好きだと言ってくれたのか? ああ、ここまで堕としてやっと好きだと言ってくれた。たとえそれが肉欲に取り憑かれたがゆえの嘘でも、俺はようやく救われた気持ちだ! 椿、つばき……」

 狼牙は切なげに息を吐いた後、椿に許しの言葉をかけた。

「椿よ、きついだろうが少し耐えろ。……動くぞ」

 彼の逞しい腰がゆっくりと前後に動き始める。媚毒を散々擦り付けられた椿の最奥は、柔らかくもぎゅうぎゅうと男の陰茎を締め付け、立派な雁首をひだで包み込んだ。男が漏らす感嘆の息に、椿の性感が高まっていく。

「あっ、あっ、あぁ……あ、ん、んあ、あっあっ……あああっ……。ああっ、ああんっ……」

 規則的な律動と共に、鼻にかかった女の声が上がる。自分を可愛がる男に全てを委ねきったような、弱々しく淫らな牝の声。椿は自分を苛む肉棒の逞しさに酔いしれながら、自らも積極的に腰をくねらせた。

「あっ、へぇっ……んあ、んっ、んぅ……はあぁん、きもち、いいよぉ……ろう、がさまぁ、ろうがさまあ……!」

 狼牙が腰を打ち付ける度にじんわりと奥が熱を持って、身を捩りたくなるような快感が迫り上がってくる。海の底に引きずり込まれるかのような、抗い難く、溺れるような肉の悦び。全身が粟立ち声を抑えることができない。椿が狼牙に縋り付くと、彼は唸り声を上げて椿の足首を掴み持ち上げた。

 男根が更に奥に入り込んでくる。激しさを帯びた侵入に椿は外套を掴み、乱れきった声を上げた。

「あひぃ!? やああああっ! きもひよすぎてっ、だめっ……だめだめ、つよい、よぉ……! あはあぁっ、ろうがさまのっ、おくにとどいてるぅ! んぁ、あぁぁっ!」

「う、ぐうっ……! はあっ。椿……俺もっ、気持ちがいい! つば、き……。椿、つばきつばき、つばき、椿!」

 狂気的な男の声が落ちる。剛直が椿のぬかるみを鋭く穿ち、引き抜かれる度に膣壁をねっとりと擦り上げていく。弱いところをしつこく擦られ、堅い亀頭でつつかれ、椿は男根を咥え込みながら絶頂の潮を溢れさせた。濃密な雫が尻まで垂れ、結合部をどろどろに濡らしていく。椿が達しても狼牙は構わずに腰を動かし続けた。速度を増した抽挿が、椿をたちまち次の極みへ押し上げていく。

「あああっ、ああ、あっ、いっちゃう! またおかしくなっちゃう! ああああああっ!!」

 ぱんぱんと激しく肉を打ち付ける音が響く。椿の豊かな乳房が揺れ、それに誘われた狼牙が乳頭を捏ね回す。

 互いの汗と潮のにおい、全身を巡る媚毒、そして愛しい男の体温。すべてが椿の五感を刺激し駆り立てる。

 椿は狼牙の広い背に爪を立てながら、甘い甘い絶頂を迎えようとした。


 ……だが、あと少しのところで突然動きを止められてしまう。

「ん……ぁ、あ……? な、んでぇ……」

 狼牙は困惑の眼差しを受けて暗く笑った。
 大きな手を椿の下腹に当て、腰をくねらせる女の顔を覗き込む。

「続けてほしくば、今ここで術を解け。お前が俺の子を孕まぬというのなら、これから先のことはしてやらない」

 とんとんと下腹を指で叩かれる。椿が答えを出すまで、狼牙は決して動かないつもりのようだった。椿の目がみるみる潤む。必死に縋り付く女を素っ気なく退け、狼牙は勝ち誇った笑みを浮かべた。

「ぁ……あ。して……おねがいよ。こんなところでとめられたら、わたし……!」

「ならば言うのだ。俺の子種が欲しい、腹の奥に思い切り出してほしい、どうか椿を孕ませてくださいと! さあ、言え。気持ちよくしてほしいなら夫に浅ましくねだってみせろ。椿……!」

「……ぁ」

 椿の胸がばくばくと跳ねる。教え込まれた快楽が、己の禁忌を塗り潰す。

「わ、わたし……」

 気持ちよくなりたい。何も考えず、媚毒がもたらす快楽に溺れたい。こんな中途半端に止められたらどうにかなってしまいそうだ……。

 欲しい。この男が心の底から欲しい。狼牙のことが欲しい!

 耐え難い肉の疼きに、椿はとうとう避妊の術を解いてしまった。

「……わたしの……わたしのおくに、あなたの子だねをください……いつもみたいにたくさん出して、狼牙さま……。どうか……どうか椿を、はらませて……!」

「ははっ……。はっ、あはっ、あはははははははははははっ!!」

 男の狂喜が小屋中に響き渡る。椿の被虐的な懇願に、狼牙はおかしくなりそうなほどの感動を覚えた。

「言った。言った……! 遂に言ったな!? 俺の子を孕ませてくれと言ったなぁつばき!! ああああっ、やっと、やっとだぁ……! お前を堕としてやった! これでお前の膣も不浄の穴も胎もすべて俺のものになった、俺だけのものにしてやったのだ! つばきつばき、つばきぃぃぃぃいいい……!! いいぞ、愛しい妻よ。お望み通り俺の子を孕ませてやる! お前の奥に、特別濃いものをぶっかけてやるからなぁ! あははははぁ、つばき! さあ、一緒に子を作ろうではないか……!」

 女の腰をがっしりと掴み、狼牙は理性無き獣のように椿の肉体を貪った。ばちゅばちゅと音を立てて激しく体液が混ざり合う。椿は取り返しがつかないことをしているという後悔を感じながらも、待ち望んだ快感に屈服の声を上げた。

「んん、あっ、はああ! いいっ! すごいっ、んああああああっ! あっいぐっ、きちゃううっ! あっ、あ、あひっ――んああああああああっ!!」

「ん、お、ぉ……! ぐっ……つばき、いまお前の奥にたっぷり出してやる……! はあっ、ぁ……だす、ぞぉ……!」

「ああっ、や、で、てるぅ……! ん、は、ああああああああああ……」

 奥に生温かいものが広がっていく。放たれた精は大量の愛液と混じり合い、椿の膣からこぽり、こぽりと溢れ出た。

 狼牙は犯した女の秘部を見て満足そうな笑みを浮かべたが、ふと、椿の肩が小刻みに震えているのに気がついた。

「…………つばき?」


 泣いている。


 女は硝子玉のような瞳からぽろぽろと涙を流した。瞬きもせず、ただ悲しそうな顔で男を見つめている。自分をうつろな目で見上げる椿を見て、狼牙は唇を震わせた。彼の眉が下がり、歓喜に溢れていた顔が強張っていく。快楽から来るものではない、心の悲痛を訴えるかのような椿の涙。狼牙はその涙に胸が酷く痛むのを感じた。

「……なぜ泣くのだ。それほどに、それほどに俺に触れられるのが嫌なのか……?」

 椿はゆっくりと首を横に振った。

「わたしは……。わたしは、ただ戻ってきてほしかっただけ。私を存分に甘やかして、優しく微笑んでくれたあの時のあなたを、取り戻したかっただけ……」

 椿は狼牙の胸に顔を寄せた。幼い頃の自分が、かつてそうしたように。

「お師匠さま。幼い私に向けてくれたあの時の笑顔を、今でも覚えているわ。あなたは私の心の拠り所、何よりも大切な存在。寂しい時は、抱きしめながらたくさん頭を撫でてくれた。誰よりも強いけど、兄のように優しい……そんな花の里の頭領が大好きだった」

 取り留めのない言葉を紡ぎながら、椿はくしゃりと顔を歪めた。

「でも、私を女にしたあの日からあなたはおかしくなった。媚毒に狂った怖ろしい男になってしまった……」

 ……私のせいだ。

 この毒が師を変え、里を傾けてしまったんだ。

 私さえいなければよかった。
 そうしたら、優しいあなたをここまで堕とすこともなかったのだから……。


 椿の慟哭に狼牙は目を見開いた。

「だからもう私を抱くのはやめて。抱き続ければあなたはおかしくなる一方なのよ? 私の毒を抜いて、どうか元通りになって……!」

「……それでお前は里を抜けようとしたのか? 俺を、自分の毒から救うために……?」

 呆然とした男の声が落ちる。泣きじゃくる椿を、狼牙は優しく抱き起こした。男の震える指が女の涙をそっと掬い取っていく。椿は優しい指の動きに懐かしさを感じ、ゆっくりと目を瞑った。

「狼牙様。あなたの愛は媚毒によって作られたまやかし。私を抱くのも、こうして子を孕ませようとするのも、それは私の毒を飲みすぎたせい。私から離れたらいつかその幻想から目が覚めるはず! だからお願い、もう私を放し――」

「放さぬ」

 椿はぎゅうと抱きしめられた。

「絶対に放さぬ。椿は俺の運命だ! お前以外に欲しいものなどない。俺はお前しか要らないんだ……!」

 大柄な狼牙の体が椿を力強く包み込む。狼牙は震える腕で女を掻き抱き、熱の籠もった声をその耳に注いだ。

「この胸に抱える愛がまやかしだと? そんな訳があるか! 長年ずっと俺を焼き焦がし続けてきたのだぞ! 椿、俺は花を散らす前からお前のことが好きだった。ずっと、ずっとお前を大切に想っていたんだ……」


 *―*―*―*―*―*

 
 狼牙。

 先祖の再臨と云われた、花の里最強の忍び。
 彼は体液全てが猛毒となる忌まわしき体質を持っていた。

 家族の屍の上に生を受けた彼は、汗の雫一滴で人を殺め、血の一滴でその地を不毛にした。

 少し触れるだけで肌を溶かし、歩くだけで人々の肺を蝕む狼牙は、誰とも深く関わることなく生きてきた。常に黒衣に身を包み、一日何度も体を拭って毒を徹底的に抑え込むことを求められた。

 若くして頭領となった彼は尊敬を受けると同時に、集落の者から酷く怖れられていた。男連中には仲間として受け入れてもらえず、美しさに惹かれて寄ってくる女は毒を前にして逃げていく。狼牙はたったひとり、薄暗い納屋に押し込まれながら修行に励む生活を送った。

 狼牙は、自分以外の全てを憎む苛烈な少年に育った。

 ――この生は里に縛られている。毒持ちであるがゆえに友も女も作れない。忍びとして生きる以上は旅に出ることも叶わない! なぜ頭領である俺が、こんな日陰者のような生活を送らねばならぬのだ? 集落の者たちが憎い。いっそ全員俺の毒で死んでしまえばいいのだ! 毒に耐えられぬ弱者共が、俺の首に枷をかけおって……!
 
 心を真っ黒に塗り潰された狼牙を支えたのは、先祖「毒花」に関する記録だった。

 花の里を築いた毒花は、それはそれは妖艶な女だったのだという。彼女はその美貌で数えきれないほどの男を食い物にし、毒で殺めた。そしてたった一人、己の毒から生き残ってみせた男を伴侶に迎えた。

 毒花と契った男もまた、体から毒を分泌する力を持っていた。彼は肌を溶かす女の猛毒に曝されても、平然と彼女に寄り添い続けた。ふたりの毒は、互いにとって相手の心も体も魅了する強烈な媚薬に変わる。

 女と男は互いの毒に溺れ、深く愛し合い、多くの子供を持った……。


 狼牙はその記録を見て、雷に打たれたような衝撃を受けた。

 毒持ちは毒持ちに耐えられる。
 毒持ちは毒持ちと惹かれ合う。

 ……いつか自分も、同じ体質の者と出逢えるだろうか。
 寄る辺なきこの生において、触れ合いながら共に歩むことができる、そんな仲間と出逢えるだろうか……。


 先祖の記録は、少年の心に淡い希望を抱かせた。


 *


 任務から戻った狼牙を待ち受けていたのは、里に毒持ちの赤子が生まれたという報せだった。女の赤子は出生の際、その場にいた両親と産婆を殺めたのだという。

 その報せに少年の狼牙は狂喜した。
 戸惑いを露わにする里の者に構わず、ひたすら感極まった笑い声を上げる。

 ……家族を毒で殺した赤子。なんということだ、この俺と同じではないか!

 これはきっとご先祖様の贈り物に違いない。
 ひとりきりの俺を哀れんで、花の里にもう一人の毒持ちを送り込んでくださったのだ!

 仲間を迎えに行かなければ。同じ毒持ちである、この俺が迎えに行ってやらなければ……!
 
 狼牙はすぐさま赤子のもとへ向かった。産屋の前に集まった忍びたちを追い払い、急いで中に踏み込む。静まり返った部屋を見渡し、狼牙は深く息を吸い込んだ。

 鉄の臭いに混じって、何とも芳しい香りが漂っている。

 甘く澄み切った花のような香り。
 狼牙がふらふらと香りの元に近づくと、そこにはひとりの赤子が寝ていた。

 まだ生まれたばかりの女の赤子。毒が外に漏れ出ぬようにと、何重もの布でぐるぐる巻きにされている。

 可哀想に、こんなに布を巻いたら苦しいだろう……。狼牙は哀れみの気持ちを抱きながら、赤子を包む布をそっと取り払った。

 赤子が目を開く。

 何が何だか分からぬといった様子で、自分を覗き込む少年をただ見上げている。狼牙は目を瞬き、そのくしゃくしゃの顔を脳裏に焼き付けようとした。

 ……愛しい。

 赤子を可愛いと思ったことなんて一度もないのに、なぜかこの子を見ていると愛おしさが込み上げてきて止まらない。片時も離れず傍にいて、ずっと世話をしてやりたくなる。初めて抱く慈しみの感情のまま、狼牙はおそるおそる指を伸ばした。
 

 赤子は、ちいさな手で男の指をきゅっと握った。

 人差し指から伝わる優しい体温。
 赤子の肌が毒に溶けないことを確認し、狼牙は歓喜の涙をぼろぼろと流した。

「……。やっと、やっと出逢えた……」

 毒持ちは毒持ちに耐えられる。先祖の記録は真だったのだ……!

「愛しい娘。そして俺のたったひとりの仲間。これから俺は、お前を守るために生きよう……!」

 真っ黒な心が喜びに塗り替わる。初めての温もりに魅了された狼牙は、迎えが来るまでずっと赤子に触れ続けた。


 *


 狼牙の日々は娘によって鮮やかに色づいた。「椿」と名付けられたその娘を、狼牙は弟子として可愛がることにした。家族を想って泣く椿に、自分も同じく両親を殺めてしまったのだと声を掛ける。毒持ちは毒持ちにしか触れられないのだと囁けば、温もりに飢えた娘はすぐに懐いた。

 椿の運命は決まっている。毒に塗れた女体を活かし、里の刃として活躍すること。周囲の忍びは彼女に対して厳しく接したが、狼牙にはどうしてもそれができなかった。

「お師匠さま!」

 あどけない声が聞こえる。狼牙が振り向くと、幼い娘が勢いよく胸に飛び込んできた。子供特有の高い体温と、芳しい花の香りが男を満たす。

「お師匠さまっ、会いたかった! もう、つばきを放ってどこに行ってたの? 私ずっとお師匠さまの帰りを待ってたんだよ。ねえっ、今日も言いつけ通り修行に励んだよ! ほめてほめて!」

「……椿、そう俺にくっつくな。忍びたるものどんな時も感情を殺し、冷静に振る舞わねばならぬと言っただろう。はしたなく他人に抱きつくのはやめろ」

「えぇぇ!? やだ! 私はお師匠さまに抱っこしてもらいたいもの! ねえお願い。いい子のつばきにご褒美をちょうだい。お師匠さまに頭を撫でてもらいたくて頑張ったの!」

 可愛い。自分に甘えてくる無垢な娘につい微笑みを浮かべてしまう。こんな愛くるしい娘に厳しくできる訳がない……。狼牙が仕方ないと頭を撫でてやれば、椿は幸せそうに目を閉じた。

「お師匠さまってやさしいね。こうやって頭を撫でてくれるのはお師匠さまだけ。つばきね、大きくなったらお師匠さまのお嫁さんになりたいなあ……。ねえ、いつか私と一緒になってくれる?」

 思わず息を呑んでしまう。椿の言葉を無理やり飲み込み、狼牙は苦笑した。所詮子供の戯れ言だ、この娘の言うことを真に受けてはならない。
 

 しかし狼牙は、咄嗟に浅ましい想像を巡らせてしまった。

 美しく育った椿が自分の隣に立ち、己の耳に愛を囁いてくる。
 彼女と、その子供と、いつまでも穏やかに暮らしていく。
 
 ……悪くない。
 むしろ、そんな未来が訪れてほしいとすら思う。

 このまま椿を甘やかし大切にしていけば、いつかそんな生活が手に入るのではないだろうか?

 毒持ちは毒持ちと惹かれ合う。ならば我々は、番うのにぴったりではないか。お互いにしか触れられぬ男と女だ、先祖のように毒に溺れながら深く愛し合えるに違いない! 
 我々ほど強力な毒を持つ者はいない。椿との間に子をたくさん持てば、この花の里も繁栄するはずだ。

 そうだ、椿は俺が貰ってしまおう。

 どうせ毒塗れの女を世話できるのはこの俺しかいないのだ。
 椿は俺のもの、俺以外に縋る男はいないのだと幼い内から教えこんでやればいい……!


「お師匠さま?」

 椿のきょとんとした顔に理性を取り戻す。
 狼牙は深く息を吸い、病的な想像を無理やり打ち消した。

 ……駄目だ。椿はまだ子供なのだぞ? 
 幼い娘相手にこんなことを思うのはどうかしている……!

 狼牙は椿を抱きしめながら、必死に己を律した。
 
 椿には自分を好いていてほしい。自分を兄と慕う娘に、醜い欲望をぶつけて嫌われたくない。椿はやっと巡り逢えた仲間であり、そして自分の運命だ。せっかく得たこの温もりを失いたくない!
 
 だがそれからも、浅ましい欲は頻繁に顔を覗かせた。

 体温が、漂う花の香りが、契りを望む無邪気な言葉が。椿という娘の全てが遅効性の毒のように狼牙の芯に染み込んでいく。そしてそれは、年を経る毎にどんどん強烈なものになる。

 狼牙はやがて、悪夢を見るようになった。

  妖艶な女に育った椿が、裸で自分の上に跨っている。子種をくれ、あなたの毒で狂わせてほしいのと、甘い言葉でこちらを誘惑してくる。女を知らない狼牙はその淫らな夢に酷く苦しみ、そして背が震えるほどに興奮した。

 子供の椿と夢の椿が重なる。醜い欲望が頭をもたげ、自分の全てを支配していく。

 昼も夜も椿をものにすること以外考えられなくなる。仕事の後は特に酷い。戦いに疲れた体は女を求めて昂ぶるが、その時に思い浮かぶのは決まって椿の姿だった。

 人の温もりを得たことがなかった狼牙にとって、椿という存在は劇薬だった。彼女を失えば他人と触れ合えることは二度とない。自分から離れていく椿を夢に見て、叫んで起きることもあった。

 椿が欲しい。好きになってほしい。一緒になりたい。彼女といつまでも幸せに暮らしていきたい。
 
 激情が狼牙を侵食していく。
 愛し愛された先祖の記録と、椿の姿が交互に思い浮かぶ。

 ……ああ、俺はいつの間にか椿を愛してしまったのだ。
 俺は子供相手に執着し、欲情するような異常者だったのか……。

 薄暗やみの中、椿を想いながら自分の衣をくつろげる。屹立した己のものを見て、狼牙は情けなく涙を流した。

 
 *


 内心いくら醜い想像を巡らせても、狼牙は椿を好き勝手扱おうとは決して思わなかった。里に縛られてきた彼は、子供を何かに縛り付ける罪深さが充分に理解できたからだ。

 大人が無垢な子供を一方的に食うのは悍ましいこと、自分はひとりの師として椿の成長を見守るべきだ。もし求婚するとすれば、椿が成人を迎えてから……。

 椿に対する浅ましい欲求は強くなるばかりだ。起きている間も寝ている間も、常に椿のことを考えている。早くあの娘を食らってしまえともう一人の自分が絶えず囁いてくる。
 毒持ちは同じ毒持ちと番って、もっと強い毒を生み出すべきだ。そう考えた先祖が、自分に酷い呪いを施したのではないかと思ってしまう。

 劣情に苦しむ狼牙を救ったのは、椿の笑顔だった。純粋無垢な可愛らしい笑顔。自分に全幅の信頼を寄せる愛おしい笑顔。この娘を守りたい。傷つけたくない。娘が笑っていてくれるなら、どんな責め苦にだって耐えられる。


 だが、狼牙の理性は粉々に打ち砕かれてしまった。里の掟で彼女の花を散らした際、男は自分の価値観や良心というものが、悪徳にすっかり塗り替えられたのを感じた。

 初めて味わった女の体は、それが子供のものとはいえあまりにも甘美だった。どんなに触れても肌が溶けない。細い首に舌を這わせれば、痺れるような甘さが味蕾を刺激する。狼牙は毒持ちの自分と交合できる女が存在することに心から感謝をし、幼い椿の肉体を隅々まで貪った。

 未成熟な娘の体は、自分の媚毒で早くも性感を呼び起こそうとしている。腰を突き入れる度に弱々しい声を上げる椿に、狼牙はおかしくなりそうなほど欲情した。

 自分は今、悍ましいことをしている。何よりも守るべき子供を醜い欲望の餌食にしているのだ。事実としてそれは解っているが、椿を味わうのが止められない。青褪めた顔も、頬を伝う涙にも哀れという気持ちは抱かない。自分の毒に喘ぎ苦しみ、もっと泣いてほしいとすら思う。

 こんな可愛らしい存在を手放せる訳がない。椿を失ったら自分はずっと独り、ならばどんな手を使ってでもこの娘を縛り付け逃さないようにしなければ!
 
 椿を魅了するのだ。精を注ぎ、肌を舐め回し、唇を貪り食らう。まだ幼い彼女を抱き続け快楽の渦に突き落とす。そして椿の芯に「狼牙」という毒を徹底的に塗りつける。いつか愛してもらえるように。いつか番ってもらえるように!

 この娘は俺のもの。俺のたったひとりの妻なのだ!

 狼牙は椿を犯しながら狂喜した。 
 射精と共に複雑な感情が込み上げる。

 椿の泣き顔が嬉しくて、悲しくて、愛おしくて、苦しかった。


 *―*―*―*―*―*


 狼牙は項垂れながら罪を告白した。

「仕える政府の者も、里の者も区別なく。俺は、椿を奪おうとする者全員をこの手で殺めた。そしていつまでも俺を受け入れぬお前に苛立ち、無理やりその体を貪り続けた。こんな狂った男はひとり寂しく死ぬべきだったのだ。……椿よ、今まで済まなかった。どんなに謝っても、お前に償いが出来ぬことは分かっている」

「……狼牙様」

「里を抜けたいと望むのも当然だ。守るべき娘の人生を台無しにした俺は、里の頭領を務める資格も、師として弟子を導く資格もない。おまけに幼子を女として愛するような異常な男だ……! 椿のことが大切なら解放するべきだと分かっている! だが、俺は……。どうしてもお前を手放せない。許してくれ椿! 俺の傍にずっといてほしいんだ、俺のことを、愛してほしいんだ……」

 男の目から涙が溢れ落ちる。初めて見た狼牙の泣き顔に、椿はずきりと胸が痛むのを感じた。

「……泣かないで、お願い……」

「椿……。愛しいつばき。俺の中にあるのはお前への愛情と、身を苛む強烈な不安だった。こんなことを続けては酷く嫌われ憎まれてしまう、だがお前を目にするたび、あの浅ましい欲望が込み上げてきて冷静ではいられない! 前を貫いても、不浄の穴を拓いてもまだ満たされぬ。未だ不可侵の領域……女のはらをものにすれば、この凶悪な衝動を鎮められる気がしたんだ。俺が無理やり術を解くのでは駄目だ、あくまでお前自身の意思で精殺しの術を解いてほしかった。そうでないと、この身が受け入れられたことにはならないから……」

 椿の下腹に手が当てられる。狼牙は滂沱の涙を流すまま、愛する女に縋りついた。

「抜け忍の運命は決まっている。首を刎ねられるか、あるいは狂うまで拷問され、里のために役立てられるか。俺はお前を殺さない。だから……抜け忍椿よ、俺と番え。死ぬまで俺と暮らし、腹からたくさんの子を産み落とせ。これは頭領としての命令だ、背くことは決して許されんぞ……」

 男の声は弱々しい。震え、己が犯した罪の重さに後悔するような響きだ。

 二度と愛されないことは分かっていると呟く狼牙に、椿は手を伸ばした。

「あなたが私を抱く理由が分からないから怖かった。あなたの愛を偽りのものだと思っていたから、ずっと悲しかった。……あなたは哀れね。私のことが好きで、嫌われたくなくて、ここまでの罪を重ねてしまったのね」

 狼牙の涙を唇で掬い取る。とろりと甘い媚毒を味わって、椿は美しく微笑んだ。

「あなたが私を心から望むのなら、ずっとずっと傍にいる。私のせいで狂ったのなら、私もあなたと同じくらいに狂ってあげる。仲睦まじかったご先祖様たちのようになりましょう。お互いの毒に溺れあって、深く愛し合って、一緒におかしくなりましょう……」

 狼牙が驚きに目を見開く。椿は彼の唇に、己の唇を重ねた。

 
 ――愛しているわ、狼牙様。


 *―*―*―*―*―*


 椿は膨らみ始めた腹をさすりながら、庭の景色を眺めていた。
 
 雪の上にひとつ、またひとつ寒椿の花が落ちていく。ぽとりと落ちていくそれは、雪解けの合図を示すものだ。赤い花弁が白雪によく映える。椿がその美しさに惹かれていると、肩に外套を掛けられた。

 冷えるぞ、腹の子のためにも早く中に入って暖まれ……。
 そんな言葉と共に優しく抱きかかえられる。己を抱く男の胸に、椿は幸福を感じながら寄りかかった。

 寒椿の花がまた落ちる。
 
 もうすぐ、暖かな季節がやってくる。
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