失敗作は蜜の味

橙乃紅瑚

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意地悪陰険腹黒ダリルの告白 - 5 ♥

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 十五歳のダリルは、賢者の石の研究に没頭する生活を送っていた。

「げほっ、ごほっ! ああくそっ、駄目だ。失敗だ!」

 薄暗い図書室の中。もくもくと黒煙を立てる錬金鍋を前に、ダリルは激しく咳き込んだ。錬金鍋は強酸性の、どす黒い液体で満たされている。貴重な材料をまた無駄にしてしまった後悔に、ダリルは大声で悪態を吐いた。

「ああっ、盛大に毒液が飛び散ってしまった。また父上に怒られる! はぁ……これで七十回目の失敗だぞ。前みたいに爆風に巻き込まれなかったことが唯一の救いか。悔しい、俺の本棚がすっかり煤けてしまった……!」

 崩れかけた書架を見遣り、ダリルは溜息を吐いた。

 伝説の物質、賢者の石。
 まだ誰も作り出したことのない、その物質を作り出す。それは当然ながらとても険しい道だった。

 そもそも、賢者の石が本当に実在するのかどうかさえ分からない。数多の錬金術士たちが錬成に挑み、そして尽く失敗に終わったからだ。

 賢者の石。その存在の由来は、遥か昔に生きたひとりの錬金術士の手記だ。その錬金術士はある日、偶然赤い液体を作り出した。使い途のない失敗作かと思い、くず鉄と一緒に処分しようとしたところ、液体を振りかけたくず鉄が純金に変わってしまった。

 また異国から伝わる錬金術の古典では、神々しく光り輝く白い卵の存在が語られた。その卵は死んだ植物を蘇らせ、酒に溶かして飲めば、どんな難病でさえたちまち治したのだという。その卵は、洗練された塩と硫黄、水銀から作られ、持ち主に永遠の豊穣を与えるらしい。

 赤い液体と輝く卵。そのふたつの存在が重なり合い、やがて「賢者の石」として語られるようになった。

 個体でもあり液体でもある。
 この世の概念を超越した、万物に変化をもたらす究極物質。

 錬金術の目的とは、不完全な物質からより完全な物質を作り出すことだ。

 不老長寿の霊薬を作成すること、そして卑金から貴金への変換等は、多くの錬金術士が目的としてきたもの。もし本当に賢者の石のような理想的な物質があるのなら、ぜひ手中に収めたいと誰もが考えた。

 それゆえ、賢者の石の伝説は長い歳月を経ても残り続け、全錬金術士の「夢」として語り継がれた。

「そう、夢。賢者の石はあくまで夢であり、伝説なんだ。偉大なる先人たちが錬成に挑んだが、成功した者は誰一人としていなかった」

 ……自分は本当に、賢者の石を作り出せるのだろうか?

 ダリルの胸に不安が広がっていく。
 彼は焦げ付いた錬金鍋を前に、しばし呆然と立ち尽くしていた。

「ああ、もう。悔しいが、全く先が見えないな……。早くも手詰まりだ」

 鉄を金にするといった物質変化を及ぼせるのは、賢者の石がこの世のあらゆる元素を内包しているからだと考えられていた。そのような理由から、ダリルはまず四つの元素――火、水、土、風を完璧に結合させることを目標にした。

 だが、これが難しい。四属性の調合はそもそも最上級レベルである上に、元素のバランスが少しでも崩れると、たちまち物質が崩壊してしまう。

 異国の古典に倣い、調合には火属性にあたる硫黄、風属性の水銀、水属性の塩を用いる。土属性の材料には何を用いればいいか分からなかったため、ダリルは動物の血や尿、世界樹の枝、オスの実、古代植物の種など、ありとあらゆるものを入れて試行錯誤した。

「思いつく材料は片っ端から入れてみたが、まったく成功する気配がない。俺はこれからどうすればいいんだ? いや、待てよ。塩の純度が足りなかったのか……?」

 ただの塩では駄目だ。錬金術で一切の不純物を取り除いた、より洗練された塩を用いなければならない。硫黄と水銀も同様に、調合に使うための下拵えをしておかなければ。燃焼性、揮発性、固定性。これらを完璧に満たさなければ。準備には長い時間がかかる。先の見えない研究のために材料を用意し続けるのは、非常にストレスが溜まる……!

「あああああっ、くそ! 限界だ! 今日はもう止めだ、止め!!」

 ダリルは思考の渦から無理やり抜け出し、図書室の扉を乱暴に開け放った。





 苦しい時は、いつもルクレーシャのことを考える。
 ダリルは見たい夢だけを見れる魔法の薬「夢織りの露」を一気に呷り、ごろりとベッドに寝転がった。微睡みの後、ダリルの前に愛しい少女が現れる。

 ――ダリル。

 美しく、不思議な夢の世界。
 桜咲く草原に立つルクレーシャは、艶やかな黒のドレスを着ている。彼女が身に纏うそのドレスは、ダリルが愛を込めて作り上げたものだ。

 ダリルが幻のルクレーシャに向けて手を振ると、彼女は桃色の目を細め、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 ――ダリル、会いたかったわ。ね、私の方を向いて……。

 うっとりとした顔のルクレーシャが、ダリルの頬に手を添える。顔を赤らめる彼女は、ダリルの耳にそっと唇を近づけた。

 ――ダリル、大好きよ。将来は絶対に結婚しようね。

 自分に抱きつきながら、好き、好きと何度も囁いてくるルクレーシャ。彼女の薬指には、自分が贈った銀の輪が嵌められている。深く寝入ったダリルは、ルクレーシャの幻にキスをしながらでれでれと顔を蕩けさせた。

「く……ふ、ふふ……おれも、すきだ……。るくす。きみと、ぜったいに結婚するからな……!」

 甘い甘い夢の中でルクレーシャと触れ合うこと。それは勉強と調合漬けのダリルにとって、唯一安らげる時間だった。夢の中のルクレーシャは自分を拒絶せず、笑顔で好きだと言ってくれる。ダリルは毎夜夢織りの露を飲み、少女の幻と愛を交わしあった。

 花の妖精に対する依存は深まっていく。
 ダリルは成長するにつれてルクレーシャに男の欲を抱くようになり、毎夜見る夢も淫らなものへと変わっていった。

 ――やっ、だり、る。恥ずかしいよお……。

 ダリルのベッドの上に、裸のルクレーシャが横たわっている。ダリルは彼女の上に伸し掛かり、美しい女の体をじっと見下ろした。

 膨らんだ胸、魅力的な腰のくびれ。服越しに想像した少女の体の線が、実体を伴った蠱惑的な幻となってダリルの目の前に現れる。夢の中のルクレーシャはあくまで想像の産物だが、彼女の顔と白く瑞々しい太腿だけは、ダリルが目にしたものがそのまま反映されていた。

 スカートをめくり上げた時に見えた、あの柔らかそうな太腿。透き通るような白さと魅惑的な線が、脳裏に焼き付いて離れない。

「ルクス、君が好きだ」

 ルクレーシャの太腿に口付けてから、ダリルは押さえつけていた欲望を一気に解放した。艷やかな唇を奪い、小さい女の舌を己のものとしつこく絡ませる。ダリルは顔を蕩けさせるライバルをじっと見つめ、何度も愛の言葉を紡いだ。

 女と体を重ねたことがないから、本当のやり方なんて分からない。だが夢の中のルクレーシャは、拙い接触でも甘い声を上げてくれる。ダリルにはそれが嬉しかった。

 柔く温かい秘部をおそるおそる貫く。自分の下で、力なく喘ぎ泣くルクレーシャが愛おしい。所詮、夢の中だけの触れ合いだというのに、ルクレーシャの幻と交わっていると全身に確かな快楽が奔り抜けていく。少女と睦み合う淫靡な妄想は、ダリルの胸を強烈な歓喜に震わせた。

「ルクス、ルクレーシャ! 大好きだ、ずっと俺の隣にいてくれ……!」

 ルクレーシャを抱きしめながら告白する。拒絶されることが怖くて、いつまでも言えない「好き」の言葉。夢の中でなら素直に言えるその言葉を紡ぎながら、深い眠りに落ちていく。





 そして、眠りから覚めた時。
 ダリルは酷い罪悪感と孤独に苛まれるのだった。

「……またやってしまった」

 どろどろに濡れた下着と勃ちあがった男根を見下ろし、ダリルは大きな溜息を吐いた。あれだけルクレーシャの幻と体を重ねたのに、全く収まりがつかない。むしろ、勃ちすぎて痛いくらいだ。

「はぁ……。俺って本当に気持ち悪い男だな。同級生で毎日抜いてるんだから」

 しっかりと抱きしめていたはずの少女の姿はなく、腕の中には空虚だけが横たわっている。ダリルは冷えたベッドから起き上がり、失意に似た感情を味わいながら暫し呆然としていた。

 愛しいルクレーシャ。その呟きと共に、壁に貼られたルクレーシャの写真が現れる。笑顔の少女を見つめながら、ダリルはそそり勃つ自分のものを扱き始めた。

「はぁっ、は……。ルクス、好きだっ、好きだ……。君を抱きたい……」

 いくら扱いても扱いても物足りない。ルクレーシャのことを想うと胸が切なくなって、飢えて、彼女のことが欲しくて堪らなくなる。肉体は快感を覚えているのに、心はどんどん冷めていくようだ。

 あの純粋な笑顔を、自分が与える快楽で崩してやりたい。ルクレーシャが欲しい。彼女に受け入れられたい。夢の中の光景が、現実のものであったら良かったのに。

「はあっ、るくすっ、ルクレーシャ……俺を、みてくれっ……!」

 ルクレーシャの顔を見ながら手を動かす。華奢な花の妖精をベッドの上に縫い付け、自分のもので貫く想像をする。ルクレーシャの最奥に自分の精を放つ想像をし、ダリルは数度目の射精をした。

 気がつけば、ベッドの上には丸められた塵紙が大量に散らばっている。自分の性欲の強さに慄きながら、ダリルは急いでそれを片付けた。

 ルクレーシャは年を経る毎に美しくなっていく。桃色の目で見つめられると胸がどきどきして、冷静ではいられなくなる。彼女と距離を縮めたいのに、ルクレーシャが可愛すぎて普通に話しかけることができない。ダリルはルクレーシャを逃さないように手を握り込みながら、嫌味たっぷりの、ごくごく遠回しな告白をし続けた。

 ルクレーシャを想い、毎日自慰をする。因縁のライバルを夢の中で好き勝手に犯し、彼女の憎まれ口を無理やり塞いで蹂躙する。もしルクレーシャがこのことを知ったら大きなショックを受けて、自分の前から去ってしまうだろう。

 自分は救いようのないほど気持ち悪い男だ。いつも目にするルクレーシャの膨れっ面に、官能に啼く女の顔を重ねて興奮しているのだから。

 ダリルは罪悪感に苛まれつつも、夢の中でルクレーシャを抱くことをやめられなかった。


 *


 周囲から「黒い悪魔」と呼ばれようが、上級生から疎まれようが、下級生から怖れられようがどうでもいい。自分はルクレーシャしか見ていない。ルクレーシャが自分の傍にいてさえくれたらそれでいいのだ。彼女と結ばれることこそ、自分の宿願なのだから。

「だから、虫はすべて潰さなければいけない。徹底的に、もう立ち上がれないほどに。ルクスを汚い目で見つめる奴らは、全員俺が追い払ってやるんだ。ルクスと結ばれるのはこの俺だと、全員に知らしめてやる」

 今日もひとつのファンクラブを壊滅させた。
 没収したルクレーシャの写真を胸元に仕舞い、ダリルはスポーツを楽しんだ後のような、爽やかな笑みを浮かべた。

「ああ、本当に嘆かわしい。寄って集って女の写真を盗撮する生徒ばかりだとは! 勝手に他人を盗撮するだなんて最低の行為だぞ。名門と謳われるこの錬金術学校もすっかり堕落してしまった。優等生である俺が風紀を正してやらなければな」

 日々ルクレーシャを盗撮している自分のことを棚に上げ、ダリルは男子生徒たちの行為を非難した。

「まったく、忌々しい下民共め。俺の女を盗撮するだなんておこがましいにも程がある。ルクスの色々な顔を目にするのは俺だけでいいんだ! それにしても、次々に虫が湧いて出るな。俺一人じゃ対処が難しくなってきたぞ……」

 学業と研究の合間に、ダリルは見守りと称してルクレーシャを尾行していた。しかし近頃は忙しくなる一方で、ルクレーシャを見守る時間がどんどん減っている。

 このままでは、自分の知らないところでルクレーシャに他の男が近づくかもしれない。
 あるいは、彼女が他の男と仲良くなってしまうこともあるかもしれない……。

「っそ、そんなの嫌だ! ルクスが俺以外の男と仲良くなるなんて! そんな可能性は潰すべきだっ、今すぐどうにかしなければ!」

 ダリルはぎゅっと拳を握りしめ、慌てて自分の図書室へと駆け込んだ。

 忙しい自分の代わりに、常にルクレーシャを見守ってくれる存在が必要だ。それなら、パペットにルクレーシャの見守り監視を頼もう。魔力で動くパペットは、持ち主の言う事を聞いてくれる心強い味方だ。幾つものパペットを作って、二十四時間三百六十五日ルクレーシャを見守ってやる……。ダリルはそう考え、魔法針を使ってちくちくと手製のパペットを作り始めた。

 絹糸で作った桃色の髪に、滑らかな陶器の肌。四肢には球体関節を取り付け、ぱっちりとした大きな目にはピンク色に着色した錬金レンズを嵌め込む。手先が器用で、細部までこだわり抜くことが好きなダリルは、まるで小さなルクレーシャと呼べるほどの精巧なビスクドールを作り上げた。

 やや大きめの球体関節人形は、愛好家がこぞって欲しがるほどの美しさを放っている。フリルがたっぷりついた白いシャツと赤いスカートをパペットに着せ、ダリルはうっとりと微笑んだ。

「か、可愛い……。やはり俺は天才だ、こんなに綺麗なパペットを作ってしまうだなんて! 俺は人形作家にもなれるんじゃないか? ああっ、見れば見るほどに愛らしい。本物のルクスみたいだ! ふふっ。君が動き始めたら宝石の髪飾りをつけてやるからな」

 パペットの頭を撫で回しながら、丹念に己の魔力を注ぎ込んでいく。
 やがて閉じられていた目がぱちりと開き、ガラスの眼がダリルを見つめた。

「よし、上手くいった。しっかり魔力で動いているな! 早速だが、君に頼みたいことがあるんだ。ルクレーシャという女を監視して、その錬金レンズの眼で彼女の写真を撮ってくれ。できるな?」

 パペットは頷くこともせず、繰り返し指示出しをする主を怠そうに見上げている。焦れたダリルが頭を下げて頼み込むと、パペットは面倒くさそうに首を縦に振った。

 これでルクレーシャの見守りは一安心だろう。
 気分を良くしたダリルは、その夜早々に眠りについた。

 ……だが、物事はそう上手く行かなかった。

 ダリルが作ったパペットは、彼の言う事を素直に聞いてくれない。

 ルクレーシャを盗撮しろと命じても机の上で寝そべり、無理やり言う事を聞かせようとすれば陶器の腕でこちらを小突いてくる。何度も頼み込んでやっとくらいはしてくれるようになったが、ルクレーシャの部屋に侵入することだけは絶対にしてくれなかった。

 机の上で、腕組みをしたパペットが鎮座している。
 こちらを馬鹿にするような様子で顎を突き出すビスクドールを前に、ダリルは何度も頭を下げた。

「なあ、頼むよ。真面目に働いてくれ。君が頑張ってくれないとルクスの監視ができないんだ! ……え? そもそも女を盗撮するのがおかしいって? 何だよ、パペットのくせに正論を言うじゃないか」

 ルクレーシャの写真を指さしながら首を横に振るパペットを見下ろし、ダリルは溜息を吐いた。

「いいか、君は俺のしもべなんだぞ。主の命令は聞くべきだろうが。寮に入り込み、ルクスが他の男と関係を持っていないか確かめろ。何? それは犯罪だと? ああもう、とにかく言う事を聞け――あ痛っ! 俺を殴るな!」

 パペットの忠誠心は、込められた魔力量に比例する。

 ダリルはルクレーシャと違って殆ど魔力を持たないため、パペットに注ぎ込むことのできる魔力の量もそれほど多くはない。そのせいか、ダリルが作り上げたパペットたちはいずれも我が強く、反抗的で、その性格や仕草はルクレーシャによく似ていた。

 大小問わず幾つものパペットを操って、ダリルはルクレーシャとの繋がりを得ることに執心した。パペットの眼から彼女の写真を盗撮し、授業のくじ引きでは必ずルクレーシャとペアになるように工作をした。

 ルクレーシャを模したドールと共に過ごすダリルを、彼の両親や執事は奇異の目で見つめた。少女に向ける恋心が、危うい方向に進んでしまっている――それは誰の目から見ても明らかだった。

 ダリルの奇行は止まらない。
 ルクレーシャとのやり取りが上手くいかなくてむしゃくしゃした日には、玄関ホールの床に寝転がり、大勢のパペットを呼び寄せた。

 仰向けで寝転がったダリルを、パペットたちがげしげしと蹴り上げる。ルクレーシャの姿をしたパペットに踏みつけられ、ダリルは満面の笑みを浮かべた。

「あっはっは、痛いじゃないか! そんな風に反抗するだなんて、本当に生意気な性格をしているな。まるで本物のあいつみたいだ! ふふ、ルクスがいっぱい。ここは天国か?」

 パペットの足を撫でながらでれでれと顔を蕩けさせるダリルを見て、老執事はぽつりと呟いた。

「こわ……」


 *


「くくっ、ルクス。随分と美味しそうに食べるじゃないか。生活苦の君はこんな高級菓子など食べたことがなかったのだろう?」

「うっさいわよ。確かにすごく美味しいけど、あなたの嫌味でマイナスだわ」

 薔薇咲く庭園の中。定期試験の成績で勝ちを収めたダリルは、ルクレーシャを家に招いてクッキーを振る舞っていた。もぐもぐと口を動かすルクレーシャは、嬉しさと悔しさが混じった複雑な表情を浮かべている。

「さてと。敗けた君には一ヶ月間何をしてもらおうか? ああそうだ、俺の試作品を受け取ってもらおう」

「試作品?」

「ああ。貴族社会の間では、錬金術で作られた品が大流行していてな。レディに喜んでもらうために開発した装身具があるんだ。がさつとはいえ、一応君も女性の端くれ。俺が作った品を渡すから、感想を聞かせてくれ」

「……ねえダリル。あなたって嫌味を言わないと死んじゃうの?」

「嫌味? 何のことだか。俺はいつも事実しか言わないぞ」

 頬を膨らませるルクレーシャを嬉しそうに見つめ、ダリルは高慢に言い放った。

「断るのは許さないぞ、ルクス。何と言ったって君は敗者なのだからな。勝者である俺の言うことは何でも聞くことだ。さ、俺の部屋に行くぞ! ドレスからイヤリング、枯れない花束まで何でもあるんだ。全部受け取ってもらうからな!」

 少女の手をさすさすと撫でながら厭らしく笑う息子の姿を、彼の両親は柱の影から見つめた。

「……なあ、あいつは誰に似たんだ?」

「さあ? あなたじゃないの」

 ダリルの父親が頭を抱える。
 困った様子で溜息を吐く夫を見て、美しい貴婦人は優雅に扇子を扇いだ。
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