彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

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おまけ 2人のその後

可愛い人 イケメンさん視点 後

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 強引に店内に入れてしまったが、彼女の肩は固く強張っていて、何となく怯えているような様子だ。

 やはり、男慣れしていないのか。店に来る女性のお客さんは、肩なんて抱こうものなら喜んで身体を寄せてくるものだが。
 そんな初心な様子がまた可愛い。

 しかし、慣れていないのにあまり接触しているとまた警戒されるだろう。

 そう考え、ぱ、と離れてすぐにハンドクリームの新しく入荷した商品の説明を始めた。

 幸いにも彼女は、すぐに店を出て行くことはしなかったが、説明に相槌を打つタイミングは滅茶苦茶で、「はあ」とか「へえ」とか明らかに聞く気がない。 

 以前、店に来た時はあんなに熱心に話を聞いてくれていたのに、やはり、本当は、商品か、この店自体か、俺のことか、複数なのか全部なのか、気に入っていないのではなかろうか。

 そう考えると、ずっしりと心が重くなる。

 自然と口数も減って、ついに商品の説明も止まってしまった。

 すると、俯きがちに商品を眺めていた彼女が顔を上げる。

 目が合うと、「どうしていきなり説明やめたんですか」とでも言いたげな表情で不思議そうに首を傾げられる。

 彼女はやっぱり、俺が好意を寄せていることも、普段はこんな風に接客をしないことも、何も分かっていない。
 無自覚で、知らないうちに人の心を乱している。
 
 だが、この感じがいいんだろうな、と思う。
 今まで、異性からは随分積極的な、分かりやすいアプローチを受けてきた。
 また、積極性のない人でも、俺からそれらしい態度を取られれば、満更でもない様子なのが常だった。
 
 しかし彼女は、違う。
 俺に全く興味を示さないし、それなりに分かりやすい態度を取っているつもりだが、靡かない。

 最初に会ったときは、その自然な態度が好ましく自分の目に映っていた。
 映っていた、はずなのに。
 今は、全く自分に興味を示してくれない彼女にじれったく思う。

「今日は、あまり話を聞かれないんですね……いえ、申し訳ありません。以前に来店されたときはとても熱心に聞いておられたので。おせっかいを焼いてしまったようです」

 彼女にとっては、所詮は一度会ったことがあるだけの店員、という程度の認識なのだろう。
 差し出がましいことを言った自覚はある。

 謝ると、彼女の方がはっと申し訳なさそうな顔をした。

「あ、あの、すみません。話をちゃんと聞いてなくって……その、前にクリームを買ったとき、ええと、ハンドマッサージ付きのプレゼントのつもりだったんですけど、喜んでもらえなくって」

 商品をフォローするように、しどろもどろになりながらも、一生懸命に言葉を紡いでいる。

 言葉を考えているらしく、妙な間があった。
 その都度、ゆっくりどうぞ、という気持ちで頷く。

 思えば、以前会った時の彼女は、どこまでも受け身で、俺の話をうんうんと聞くばかりだった。
 彼女の言葉が、声が聴けることが、嬉しい。

「だから、私、やっぱり喜んでもらいたいし、もう、クリームもマッサージも必要ないんです、ごめんなさい」

 一度会ったことがあるだけの店員の言葉なんて、軽く流してしまってもいいのに、真面目に答えてくれて、彼女の純粋さというか、人を疑わないというか、悪い男に騙されそうな危なげな無垢を感じる。
 
 ハンドマッサージ付きのプレゼントが喜んでもらえなかったのだと悲し気に睫毛を伏せる様は、健気で、いじらしい。 

 それにしても、ハンドマッサージ付きのプレゼントなんて、よほど仲の良い人でなければ出来ないと思うが、相手は、誰だろう。

 とても初心で、慣れていない様子だったから、彼氏、なんてことはまずないだろうと思う。
 親とか、友人だろうか。

「そうだったんですね……でも、喜んでもらえなかった、というのは何故でしょうか。うちでは、自信を持って商品を売っておりますし、ハンドマッサージもきちんとしているつもりです」

 相手が誰にしろ、商品は確かに自信を持って勧めているし、ハンドマッサージも勉強しているものだ。
 気に入られなかったというのは、正直、意外だ。
 
 そういえば彼女は、ハンドマッサージを受けたときに、酷く恥ずかしがって、俯いてぷるぷるしていたが、もしかしてそれが原因ではなかろうか。

 一応、ハンドマッサージのポイントなんかもその時に口頭で伝えていたのだが、彼女は全く頭に入っていない様子で碌な返事もなかったように思う。

 彼女のマッサージは下手。

 そんな結論に行きついたが、彼女なら下手なりに一生懸命してくれるのだろう、と思うと、ハンドマッサージを受けた相手が羨ましくもある。

「いえ、あの、本当に、そちらには何の非もないんです……」

 遠慮がちな彼女の言葉に、確信する。
 やはり、マッサージを気に入ってもらえなかったに違いない。

「もう一度、マッサージ、受けてみますか?」

 だからと言って、単純に下手なんじゃないんですか、等ともちろん言えないので、遠回しなアプローチを仕掛けてみる。

 それが全くの純粋な、下心のないものなのかと問われれば、自信を持ってはい、と言うのは難しいが。

 するりと、彼女の手をとる。
 しかし彼女は、ぱっとその手を引いた。

「ご、ごめんなさい、それは大丈夫、です」

 彼女は狼狽して、どことなく必死な様子で謝った。

 もっと大きな態度を取ったっていいのに、どこまでも下手な様子なのが、加虐心、とでも言うのだろうか、少し、からかってやりたいような、そんな気持ちになる。

「そうおっしゃらずに」

 自然、口元が緩んでしまうのを自分でも感じながら、また手を伸ばす。
 
 彼女は全身でそれを避けようと動くので、暫くすると肩で息をしていた。

 いちいち必死で、やっぱり、可愛い……と、そんな方向に思考が飛んで、流石に会って二度目の店員と客の関係でやることではなかったな、と現実に戻る。

 やはり彼女には、全てを許してくれそうな、そういう不思議なオーラが出ているのだ。

「折角、お客様はあんなに熱心に選ばれていたではありませんか……それで喜んでもらえないなんて、納得いきません。今度こそ、上手く行くようにお手伝いしたいと思うのです……この気持ちは、ご迷惑ですか?」

 だからと言って、それを表に出してしまえば、彼女もいい気持ちはしないだろう、と取り繕ったように言葉を選ぶが、彼女はそれが誤魔化すために紡がれた言葉だとは気づかないらしい。

 困ったように眉を寄せる。
 俺の言葉をひとつひとつ信じていて、本当に、騙されやすそうな人だと思う。

「マッサージのコツをお教えしたいのです。実践した方が、分かりやすいと思います」

 それでも、彼女は芯の強い人であるらしい。
 きっと、やると決めたらやるし、やらないと決めたらやらないのだろう。
 断られるんだろうな、と思いながらも、一応言ってみる。

「気にしてもらえるのは嬉しいですし、有難いです。コツも、実践した方が良いっていうのも分かります……でも、ハンドマッサージを受けるのは、色んな事情がありまして、遠慮します。良かったら、コツだけ教えてください」

 案の定、断られてしまう。

 以前は彼女の方からお願いされたのに、やはり、何か理由があれば、こうと決めたらそれを曲げない人なのだろう。
 そんな強さは、また、自分の目に魅力的に見えた。
 
 それに、コツを書いて、その裏にでも連絡先を書いておけば、自然と連絡先を渡すことが出来る、と気付くと、かえってそのほうがいいように思えて、また、口元が緩んだ。

「分かりました。では、コツを書いてお渡ししますので、少々お待ちください」

 そう言うと、彼女は安心したようにほっとした表情を見せた。

 ハンドマッサージを受けられない色々な事情、か。
 何だろう。

 大して親しいわけでもないのに、そこまで聞けるものでもない。

 連絡先を渡すのを機に、少しでも距離が縮まれば、と思う。

 奥にひっこんで、メモ紙を一枚破ると、さらりとコツを幾つか書いておく。

 字は、大抵は褒められる程度だから綺麗な方だと思うが、連絡先を書くときは緊張して少し震えた。
 そもそも、自分の連絡先を書いて渡す、なんていうことが初めてだった。

「お待たせしました」

 そう言ってメモを渡す。

 彼女は恐縮した様子で、何度も頭を下げた。
 彼女のそんな純粋な様子に、自分は下心ありなのに、とちくっと良心を刺される。

 「今度は喜んでもらえるといいですね」と誤魔化すように口元に笑みを浮かべる。

「この後はどちらへ?」

 少しでも長く彼女と会話がしたくて、そんなことを聞く。
 やはり、自分からこんなことを言うのは珍しいことだった。

「何かお菓子を買って、それから、まだ余力があれば適当にお店を見て回ろうと思っています」

 余力があれば、という言葉に疑問を持つ。
 彼女にはよっぽど体力がないのだろうか。
 もしかして、何か病気をしているのか。
 そう考えてみれば、彼女には、何となく儚くて、か弱い雰囲気がある。

 肩を押せば簡単に店に入ってしまったし、手を取られまいと身体を翻していればすぐに息が上がっていた。
 長いこと店に来れなかったのも、安静にしなければいけないからとか、そんなことかもしれない。

 ハンドマッサージを受けられない事情というのも、病気に関係しているのだろうか。

 でも、彼女は頑固らしいところもあるから、聞いたところで答えてはくれなさそうだ。
 言えることは何でもすぐに言ってしまいそうだから、言わないということは、言えない何か理由があるのだろう。

 大変なところを引き留めてしまったのかもしれない、という罪悪感と、そんな事情があるのに足を止めてくれたことが嬉しいのと、ごちゃ混ぜな感情の中にいながら、お勧めのお店をいくつか紹介した。

 彼女はきらきらとした眼差しで、「ありがとうございます」とまた何度も頭を下げた。
 きっとお菓子が好きなのだろう。

「またお越しください」という言葉には、彼女は少し困ったような顔をして、すぐに店を出た。

 病弱だから、簡単には外出できないのだとか、そういうことだろうか。

 そう思って見ると、日差しに照らされた彼女の肌はやけに白く、少し、不健康そうにも見えた。



***



 店頭に立ってお客の呼び込みをしていると、常連のお姉さま二人がやって来た。

 彼女たちは、例の如く必要以上に接近して、熱心に化粧品のこととか、肌のこととかを話している。

 どう思う?などと聞かれて、お綺麗ですよ、と返せばきゃーっと悲鳴が上がって、耳に痛いほどに高いそれに、表情を崩さないよう努める。

 それから、ふと、通りを眺めると、彼女がいた。
 彼女もこちらを見ていたようだった。
 行きも帰りも彼女に会えるなんて、今日は、ラッキーだ。

 思わず頬が緩む。

 彼女は、買ったばかりらしいお菓子の袋を胸の前に掲げて、ぺこりと一つお辞儀をした。

 俺は、お菓子の袋からどの店に行ったのか見当をつけてそれを覚えると、ひらりと手を振った。

「……誰、今のー?私たちにそういうのしたことなくなーい?」

 常連さんは、不満げにぎゅうと腕に抱き着いてきた。

「気付いた時はしておりますよ」

 苦笑しながら離れてもらう。
 もちろん、こんな風に通りを歩いているだけのお客さんに手を振ったことなんて一度もない。

 納得のいかないらしいお姉さま方を誤魔化すように肩を抱いて、店に入るように促す。
 多少機嫌の直ったらしいお客様は、じゃあいいや、と笑った。

 ……彼女の肩は、もっと華奢で、弱そうだったな。
 そんなことを思い出してしまう。

 彼女は、連絡をくれるだろうか。
 次は、いつ来てくれるのだろう。



***



 イケメンさんも、まさか彼女には彼氏がいて、しかもメモ紙を散り散りにして捨てられるなんて、想像もしていない。
 





 
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