44 / 96
第四章 リュータ、定住する
第四十四話 リュータと国王と豚
しおりを挟む
「あれからどうなったかって? そりゃあれで終わりですよ」
巨大カメの魔物、グランドテラートータスを退治して無事に玄武を解放した俺は、彼から魔石を受け取った。そして村に帰った。俺にとってはもう二か月も前の話だからね、適当適当。オーリム王子が治める領地は全体で言えば被害甚大だけど、あれだけの状況にも関わらず人的な被害は軽微だったと言う話で、最初に壊滅したコーリアルの街でさえ半数以上は生き延びていたらしい。
そしてオーリム王子からは感謝されまくり、本格的な貴族、男爵への格上げがされた。俺の子供は男爵位を継げるらしい。もはや本気で逃がすつもりはない、と。
「そんでもやるのが農家だからなぁ。あー、でもこれはこれで、いいんだよな。ビバ、スローライフ!」
「そうじゃの。米も無事に収穫できたし、良かったのぉ」
と言う訳です。
ちなみにグランドテラートータスが何故足を止めたかと言えば、村の近くにあったあの魔除けが原因です。そう、俺顔の土人形です。
「ご神像代わりに、かぁ」
魔物的なモンスターにも通用するようで、あの時村の防衛戦をしていたのも、それが背景にあるようだった。
しかもウィルが研究を重ねた結果、生首状態でいいそうだ。だから今や一家に一体の、リュータ生首土人形。屋根に取り付けておけば、厄払いにもなるんだとか。
「鬼瓦かよ!」
トゥース!
***
「リュータさん、見回り終わりましたよ。今日はクモ型が出ましたね」
「ったくよぉ。こりゃ、勇者の無駄遣いなんじゃねーのかぁ?」
ミチルさんはあれからこの地を拠点にすると決めたそうで、今は村の警護をしてもらっている。それに付き合わされるツヨシ君ことスレーブワンは不満顔だが、こき使われる事に対してはまんざらではない様子。戻ってき次第ミチルさんは水浴びに一時帰宅し、スレーブワンはこのまま畑仕事に合流して、雑草抜きを始めたが、少し嬉しそうだった。
「しっかしよぉ。オメーも変なヤツだな。貴族になったんだし、ほら、なんてーの? メス奴隷とか買わねーのか?」
「人聞きの悪い事を言うなよ!」
「でも、憧れたろ?」
「正直、ちょっとね」
可愛い奴隷の子とアマアマライフ。これが異世界転移してきた男子が最も考えるであろう展開だよね。
とは言え、今はシルちゃんだけでなく、何故かミチルさんも、そしてミントさんも俺の新居で同居してる。かわいい奴隷を買うだけのお金はあるが、さすがにそれは難しすぎる。俺は他人から見るとリア充そのものだが、心境的には針のむしろである。
「最初はハーレムだと思ったんだけどねぇ」
「ああ、女ってのぁナァ、集まるとロクでもねぇんだよ。俺もこの世界に来て、ひでー目にあったし。ヤツら、アレだろ。三人寄ったら天災だろ」
「そこまでは思わないけど、でも、はぁ・・・」
二人きりであればチャンスもある。雰囲気もきっと出るだろう。でもダメだ。仲良し女子三人組に合流とか、ハードルが高すぎる。シルちゃんは最近露骨にラブアピールをしてくるようになったが、他の二人は完全に謎。ミチルさんもミントさんも、どちらかと言うとお目付け役として一緒にいるような雰囲気がある。ちょっとでもシルちゃんとラブっちゃおうと思ったら、何かとけん制してくる。
まぁ、俺とシルちゃんのラブっぷりは、頭なでなでしてもらったり膝枕してもらう程度なんですけどね。この前耳掃除もしてもらったっけか。それをスレーブワンに見つかった時は「枯れてんナァ・・・」としみじみ言われてしまったっけ。
「ハッ!? もしかして、もしかすると百合なのか!?」
「ンな訳あるかよ。オメーも大概だな」
いいじゃないか! 可愛い女の子たちと一緒に暮らすとその、色々大変なんだよ!
「よう、リュータ。それと、えーと、・・・よう!」
「・・・好きに呼べヤ。変に同情されると、ちょっと辛いゾ」
「うっ、すまんなスレーブワン!」
「ガルフぅ、弱い者いじめとか感心しないな」
「ちげーよ!」
この調子だといつものメンバーであるウィルが混じって、畑の拡張やら整備やらを行なう事になるかな。しかし今日はウィルが遅いな。あいつは生真面目だから、一度決めた日課は可能な限りこなそうとする。ちなみに今のヤツの日課は、農工具の改良だ。だから畑に現れるはずだが・・・。
あちらから来るのは、騎士か。
「リュータ男爵様。ご自宅に向かったらこちらへおられると聞き、やってまいりました」
「はいどうも」
「突然で申し訳ございませんが、オーリム様がお呼びでございます。ご都合がよい日、時間をお聞きするようにと命令されております」
「ああ、手紙ももらったし聞いてるよ。今からとか、いける? 着替えてからになるけど」
「はい! 大丈夫です!」
そして俺はオーリム王子のいるホッカ街のお城へと急行した。
***
「聞いてないよー」
「はっはっは! そう固くなる必要はないぞ。この度は、いわゆるお忍びなのでな」
目の前のお髭がダンディなお爺様は、名前をデクス=テスカ=ウル=アベリア様。オーリム王子のお父様で、ウィルのお爺様だそうです。
それって国王様って言うんだよね。俺、知ってる。
身長は180㎝くらいで、肉厚。そして騎士と見間違うほど精悍な顔つきをしていらっしゃる。マユもヒゲも髪も真っ白だが、鋭い目つきにややこけた頬が、肉食系の猛禽をほうふつとさせる、中々渋いお爺様である。それとたぶん体育会系。
お国の最重要人物が何故ここに、と思ったが、簡単にお礼と、今後もよろしくという挨拶だけだった。拍子抜けだったが、どうにも以前に強引に勧誘しすぎて勇者に逃げられたからだと後でウィルに聞いた。
その逃げた勇者、今俺の村にいるんですけどね。
「貴様もつくづく変わった男だ。しかし、不思議な魅力があるのは確かだな」
「ああ、うん。ありがとう」
「どうしたのだ? もっと喜べ」
「かわいい女の子から言われたのならともかく、ウィルじゃなぁ・・・」
そう、俺も腰を落ち着けたから色々考えてしまうのよ。結婚とかさ。
特に最近ではジョンソンさん家のステファンさんがもうすぐ子供が生まれるって言うんで余計に意識をしてしまう。ちなみにジョンソンさんもステファンさんも俺と同い年だそうです。わーお。
あ、そうだ。今までなんとなく疑問に思っていたんだけど、最近になって翻訳機が本格始動して分かった事実があります。
「まさか『生活魔法』が完璧じゃなかったなんてなぁ」
「そうだな。貴様を見て、誰もが万能な魔法だと思っていたが、このような落とし穴があったとはな」
『生活魔法』の欠点は、使用者の常識や認識にその性能が左右される所で、それは翻訳の部分もそうだったのである。
「ほんと、まさかの誤変換だよ。どおりで時々みんなと話が合わないなと思っていたんだ」
「特に数字はおかしいと思っていたのだがな。貴様が力の代償として頭が足りなくなっているのかと皆、思っていたのでな」
酷い!?
***
「こいつで最後かな」
「久しぶりの動物だな。イノシシ、いや、ブタか」
ブタは本来野生のイノシシの中から飼いやすいのを家畜化したヤツだった気がするけど、この世界では別物のようだ。ただ性質的には前の世界のブタと似ていて、ブタは本来大人しい。それがこうやって畑を荒らしにくるなど滅多なことではない。
「前回の戦いで生き延びた魔獣から、住処を追われて出てきたんだろうな」
ベテランハンターガルフがそう検分する。
なるほど、意外な部分で玄武の余波が広がっているのか。
「お前さん、玄武が話があるようじゃ。ちょいとよいかの」
「ん?」
今回はシルちゃんも同行しての狩りだったが、玄武から話?
まぁ、玄武はシルちゃんに対して思う所があったみたいだから魔石を預けてみたら、ネックレスにして肌身放さずに持ち歩くようになったんだよね。でも玄武は俺が所有者で、シルちゃんを呪う気がないから姿を現した最初以外は魔力切れで表に出てこなかったはず。いや、まぁ、二人でこっそりと話しているのは知ってるんだけどね。
その玄武が一体何の用だろうか。
「主殿。突然で申し訳ござらぬ。今しばらくお時間を頂きたく」
そして出てきたのは、某アメリケン忍者のような二足歩行するカメ。しかし服装は鎧装束。話し方もそうだけど完全に武士である。なお、腰に差しているのは刀ではなく、直線状のヘビである。
「ああ、いいけど、どうしたの?」
聞けば、魔獣の討伐依頼だった。そして報酬は、彼の知識。前回、彼に騒動の詫びとして与えられた知識は米酒の製造法だった。しかも魔法で簡単お手軽、一夜で出来てしまう上に上質な純米大吟醸だった。当然、すごくおいしかったです。
つまり今回も依頼を達成させれば、報酬には彼の代えがたい知識を披露してくれるだろう。俺に断る理由はなかった。
そして残った魔獣の討伐と、ブタの確保を進め、俺たちは家へと帰った。
苦戦? する訳ないじゃん。たかだかクマ型の魔獣三体なんてシルちゃんの魔法で真っ二つですよ。まぁ、魔人であるサーベルタイガーと比べると楽勝だったね。
***
「すげーな。もはやここは町と言ってもいいんじゃないのか?」
ちなみにこの国では、都市の規模を五段階に分けている。
都。ものすごく人が多く、ラジオも冷蔵庫もある。
街。すごい人が多く、産業も発達していて、インフラ整備も進んでいる。
町。そこそこ人が多く、発展中な事も多い。
村。自衛できるだけの小規模の集まり。文明レベルは、まぁ、村。
集落。寄り集まっているだけの場所。国としては村に併呑したいらしい問題地区。
ざっくりすぎて分かりにくいだろうが、領主であるオーリム王子がいるのが街。俺が今いるのが、都市開発を進めて二百人以上もの人が住むようになってしまったので、おそらく町。以前の村の段階では五十人も住んでいなかったのだから、発展が急激すぎる。
ただこれには理由があって、今この村、いや、町にいるウィルの活躍があってこそだった。
「翻訳機のお陰で獣人王国からもドワーフや獣人が流れてきているからねぇ」
そう、何故か隣国の住人である彼らも住みだすようになったのである。地上に憧れを抱いていた者が多く、物見遊山で来たついでにウィルの発明品に惚れて定住するようになったのだ。そしてそのお陰で技術進歩がエラい事になってる。昨日なかった街灯が今日は設置されているなど、まさに日進月歩だった。
なお、この町は俺が町長ではない。代官を立ててその人に全て押し付けている。まぁ、ジョンソンって言う人なんだけどね、テヘ。
「ジョンソンも災難だよな。あいつ、あれでも元貴族の子孫だからって変に教育されてたから。うってつけの人物ではあったんだがなぁ」
なお、一人称がオイラだったのも、あえて田舎臭さを演出する為だったらしい。実際の彼は、それはもう真面目な好青年だった。そりゃステファンさんも惚れるわ。
「リュータ。養豚場、準備出来たわ」
「ミントさん。いやー、助かりますよ。ダークエルフの皆さんが手伝ってくれて」
「感謝するのはこちらだぞ、リュータ殿」
「ペパミンさんも、てかダークエルフの皆さんそろって、どうしたのさ?」
そう、ミントさんとシルちゃんを会わせたら、やはり彼女らがダークエルフである事が判明。とは言っても扱う属性が違うだけで元は同じエルフ種らしい。街の自警団に組み込もうかと思っていたものの、身体能力の差でちょっと馴染めていなかったんだけど・・・。
それで何故ダークエルフの皆さんが集まっているかと言えば、養豚場を任せて欲しいと言い出した。元々狩猟民族なエルフさんではあるが、こういうのもイケる口らしい。解体とか嬉々として行なうそうで、ストレス発散の場にもいいからと言われてしまった。
思わず二つ返事で任せてしまったけど、
エルフって意外とバイオレンスなのね。
巨大カメの魔物、グランドテラートータスを退治して無事に玄武を解放した俺は、彼から魔石を受け取った。そして村に帰った。俺にとってはもう二か月も前の話だからね、適当適当。オーリム王子が治める領地は全体で言えば被害甚大だけど、あれだけの状況にも関わらず人的な被害は軽微だったと言う話で、最初に壊滅したコーリアルの街でさえ半数以上は生き延びていたらしい。
そしてオーリム王子からは感謝されまくり、本格的な貴族、男爵への格上げがされた。俺の子供は男爵位を継げるらしい。もはや本気で逃がすつもりはない、と。
「そんでもやるのが農家だからなぁ。あー、でもこれはこれで、いいんだよな。ビバ、スローライフ!」
「そうじゃの。米も無事に収穫できたし、良かったのぉ」
と言う訳です。
ちなみにグランドテラートータスが何故足を止めたかと言えば、村の近くにあったあの魔除けが原因です。そう、俺顔の土人形です。
「ご神像代わりに、かぁ」
魔物的なモンスターにも通用するようで、あの時村の防衛戦をしていたのも、それが背景にあるようだった。
しかもウィルが研究を重ねた結果、生首状態でいいそうだ。だから今や一家に一体の、リュータ生首土人形。屋根に取り付けておけば、厄払いにもなるんだとか。
「鬼瓦かよ!」
トゥース!
***
「リュータさん、見回り終わりましたよ。今日はクモ型が出ましたね」
「ったくよぉ。こりゃ、勇者の無駄遣いなんじゃねーのかぁ?」
ミチルさんはあれからこの地を拠点にすると決めたそうで、今は村の警護をしてもらっている。それに付き合わされるツヨシ君ことスレーブワンは不満顔だが、こき使われる事に対してはまんざらではない様子。戻ってき次第ミチルさんは水浴びに一時帰宅し、スレーブワンはこのまま畑仕事に合流して、雑草抜きを始めたが、少し嬉しそうだった。
「しっかしよぉ。オメーも変なヤツだな。貴族になったんだし、ほら、なんてーの? メス奴隷とか買わねーのか?」
「人聞きの悪い事を言うなよ!」
「でも、憧れたろ?」
「正直、ちょっとね」
可愛い奴隷の子とアマアマライフ。これが異世界転移してきた男子が最も考えるであろう展開だよね。
とは言え、今はシルちゃんだけでなく、何故かミチルさんも、そしてミントさんも俺の新居で同居してる。かわいい奴隷を買うだけのお金はあるが、さすがにそれは難しすぎる。俺は他人から見るとリア充そのものだが、心境的には針のむしろである。
「最初はハーレムだと思ったんだけどねぇ」
「ああ、女ってのぁナァ、集まるとロクでもねぇんだよ。俺もこの世界に来て、ひでー目にあったし。ヤツら、アレだろ。三人寄ったら天災だろ」
「そこまでは思わないけど、でも、はぁ・・・」
二人きりであればチャンスもある。雰囲気もきっと出るだろう。でもダメだ。仲良し女子三人組に合流とか、ハードルが高すぎる。シルちゃんは最近露骨にラブアピールをしてくるようになったが、他の二人は完全に謎。ミチルさんもミントさんも、どちらかと言うとお目付け役として一緒にいるような雰囲気がある。ちょっとでもシルちゃんとラブっちゃおうと思ったら、何かとけん制してくる。
まぁ、俺とシルちゃんのラブっぷりは、頭なでなでしてもらったり膝枕してもらう程度なんですけどね。この前耳掃除もしてもらったっけか。それをスレーブワンに見つかった時は「枯れてんナァ・・・」としみじみ言われてしまったっけ。
「ハッ!? もしかして、もしかすると百合なのか!?」
「ンな訳あるかよ。オメーも大概だな」
いいじゃないか! 可愛い女の子たちと一緒に暮らすとその、色々大変なんだよ!
「よう、リュータ。それと、えーと、・・・よう!」
「・・・好きに呼べヤ。変に同情されると、ちょっと辛いゾ」
「うっ、すまんなスレーブワン!」
「ガルフぅ、弱い者いじめとか感心しないな」
「ちげーよ!」
この調子だといつものメンバーであるウィルが混じって、畑の拡張やら整備やらを行なう事になるかな。しかし今日はウィルが遅いな。あいつは生真面目だから、一度決めた日課は可能な限りこなそうとする。ちなみに今のヤツの日課は、農工具の改良だ。だから畑に現れるはずだが・・・。
あちらから来るのは、騎士か。
「リュータ男爵様。ご自宅に向かったらこちらへおられると聞き、やってまいりました」
「はいどうも」
「突然で申し訳ございませんが、オーリム様がお呼びでございます。ご都合がよい日、時間をお聞きするようにと命令されております」
「ああ、手紙ももらったし聞いてるよ。今からとか、いける? 着替えてからになるけど」
「はい! 大丈夫です!」
そして俺はオーリム王子のいるホッカ街のお城へと急行した。
***
「聞いてないよー」
「はっはっは! そう固くなる必要はないぞ。この度は、いわゆるお忍びなのでな」
目の前のお髭がダンディなお爺様は、名前をデクス=テスカ=ウル=アベリア様。オーリム王子のお父様で、ウィルのお爺様だそうです。
それって国王様って言うんだよね。俺、知ってる。
身長は180㎝くらいで、肉厚。そして騎士と見間違うほど精悍な顔つきをしていらっしゃる。マユもヒゲも髪も真っ白だが、鋭い目つきにややこけた頬が、肉食系の猛禽をほうふつとさせる、中々渋いお爺様である。それとたぶん体育会系。
お国の最重要人物が何故ここに、と思ったが、簡単にお礼と、今後もよろしくという挨拶だけだった。拍子抜けだったが、どうにも以前に強引に勧誘しすぎて勇者に逃げられたからだと後でウィルに聞いた。
その逃げた勇者、今俺の村にいるんですけどね。
「貴様もつくづく変わった男だ。しかし、不思議な魅力があるのは確かだな」
「ああ、うん。ありがとう」
「どうしたのだ? もっと喜べ」
「かわいい女の子から言われたのならともかく、ウィルじゃなぁ・・・」
そう、俺も腰を落ち着けたから色々考えてしまうのよ。結婚とかさ。
特に最近ではジョンソンさん家のステファンさんがもうすぐ子供が生まれるって言うんで余計に意識をしてしまう。ちなみにジョンソンさんもステファンさんも俺と同い年だそうです。わーお。
あ、そうだ。今までなんとなく疑問に思っていたんだけど、最近になって翻訳機が本格始動して分かった事実があります。
「まさか『生活魔法』が完璧じゃなかったなんてなぁ」
「そうだな。貴様を見て、誰もが万能な魔法だと思っていたが、このような落とし穴があったとはな」
『生活魔法』の欠点は、使用者の常識や認識にその性能が左右される所で、それは翻訳の部分もそうだったのである。
「ほんと、まさかの誤変換だよ。どおりで時々みんなと話が合わないなと思っていたんだ」
「特に数字はおかしいと思っていたのだがな。貴様が力の代償として頭が足りなくなっているのかと皆、思っていたのでな」
酷い!?
***
「こいつで最後かな」
「久しぶりの動物だな。イノシシ、いや、ブタか」
ブタは本来野生のイノシシの中から飼いやすいのを家畜化したヤツだった気がするけど、この世界では別物のようだ。ただ性質的には前の世界のブタと似ていて、ブタは本来大人しい。それがこうやって畑を荒らしにくるなど滅多なことではない。
「前回の戦いで生き延びた魔獣から、住処を追われて出てきたんだろうな」
ベテランハンターガルフがそう検分する。
なるほど、意外な部分で玄武の余波が広がっているのか。
「お前さん、玄武が話があるようじゃ。ちょいとよいかの」
「ん?」
今回はシルちゃんも同行しての狩りだったが、玄武から話?
まぁ、玄武はシルちゃんに対して思う所があったみたいだから魔石を預けてみたら、ネックレスにして肌身放さずに持ち歩くようになったんだよね。でも玄武は俺が所有者で、シルちゃんを呪う気がないから姿を現した最初以外は魔力切れで表に出てこなかったはず。いや、まぁ、二人でこっそりと話しているのは知ってるんだけどね。
その玄武が一体何の用だろうか。
「主殿。突然で申し訳ござらぬ。今しばらくお時間を頂きたく」
そして出てきたのは、某アメリケン忍者のような二足歩行するカメ。しかし服装は鎧装束。話し方もそうだけど完全に武士である。なお、腰に差しているのは刀ではなく、直線状のヘビである。
「ああ、いいけど、どうしたの?」
聞けば、魔獣の討伐依頼だった。そして報酬は、彼の知識。前回、彼に騒動の詫びとして与えられた知識は米酒の製造法だった。しかも魔法で簡単お手軽、一夜で出来てしまう上に上質な純米大吟醸だった。当然、すごくおいしかったです。
つまり今回も依頼を達成させれば、報酬には彼の代えがたい知識を披露してくれるだろう。俺に断る理由はなかった。
そして残った魔獣の討伐と、ブタの確保を進め、俺たちは家へと帰った。
苦戦? する訳ないじゃん。たかだかクマ型の魔獣三体なんてシルちゃんの魔法で真っ二つですよ。まぁ、魔人であるサーベルタイガーと比べると楽勝だったね。
***
「すげーな。もはやここは町と言ってもいいんじゃないのか?」
ちなみにこの国では、都市の規模を五段階に分けている。
都。ものすごく人が多く、ラジオも冷蔵庫もある。
街。すごい人が多く、産業も発達していて、インフラ整備も進んでいる。
町。そこそこ人が多く、発展中な事も多い。
村。自衛できるだけの小規模の集まり。文明レベルは、まぁ、村。
集落。寄り集まっているだけの場所。国としては村に併呑したいらしい問題地区。
ざっくりすぎて分かりにくいだろうが、領主であるオーリム王子がいるのが街。俺が今いるのが、都市開発を進めて二百人以上もの人が住むようになってしまったので、おそらく町。以前の村の段階では五十人も住んでいなかったのだから、発展が急激すぎる。
ただこれには理由があって、今この村、いや、町にいるウィルの活躍があってこそだった。
「翻訳機のお陰で獣人王国からもドワーフや獣人が流れてきているからねぇ」
そう、何故か隣国の住人である彼らも住みだすようになったのである。地上に憧れを抱いていた者が多く、物見遊山で来たついでにウィルの発明品に惚れて定住するようになったのだ。そしてそのお陰で技術進歩がエラい事になってる。昨日なかった街灯が今日は設置されているなど、まさに日進月歩だった。
なお、この町は俺が町長ではない。代官を立ててその人に全て押し付けている。まぁ、ジョンソンって言う人なんだけどね、テヘ。
「ジョンソンも災難だよな。あいつ、あれでも元貴族の子孫だからって変に教育されてたから。うってつけの人物ではあったんだがなぁ」
なお、一人称がオイラだったのも、あえて田舎臭さを演出する為だったらしい。実際の彼は、それはもう真面目な好青年だった。そりゃステファンさんも惚れるわ。
「リュータ。養豚場、準備出来たわ」
「ミントさん。いやー、助かりますよ。ダークエルフの皆さんが手伝ってくれて」
「感謝するのはこちらだぞ、リュータ殿」
「ペパミンさんも、てかダークエルフの皆さんそろって、どうしたのさ?」
そう、ミントさんとシルちゃんを会わせたら、やはり彼女らがダークエルフである事が判明。とは言っても扱う属性が違うだけで元は同じエルフ種らしい。街の自警団に組み込もうかと思っていたものの、身体能力の差でちょっと馴染めていなかったんだけど・・・。
それで何故ダークエルフの皆さんが集まっているかと言えば、養豚場を任せて欲しいと言い出した。元々狩猟民族なエルフさんではあるが、こういうのもイケる口らしい。解体とか嬉々として行なうそうで、ストレス発散の場にもいいからと言われてしまった。
思わず二つ返事で任せてしまったけど、
エルフって意外とバイオレンスなのね。
10
あなたにおすすめの小説
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。
しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。
全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。
超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!?
万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。
一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。
「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」
――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。
これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる