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第六章 リュータと神と勇者の秘密
第六十一話 リュータと普通じゃないいつも通り
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こんにちは、俺の名前は田辺竜太です。
どこにでもいるごくごく普通の大学二年生だったんだ。
だったんだけど・・・
異世界に飛ばされて
死んで
気が付いたら小さな村の領主になっていて
死んで
気が付いたら亜神と言うものになっていました。
「おい、領主様よ。遠い目をしていないで、いいからさっさとこの書類に目を通して、サインを入れろ下さい」
そう言って書類を目の前の箱の上に広げたのは、この国の王子の息子、つまり一応王族である所のウィリアム、通称ウィルだ。
ただ、王族と言っても末端中の末端で、王位継承権はほぼない、と言うか本人は既に放棄済みなので普通の貴族とそう違いはないらしい。
そんな曖昧な立場なのと、そこそこの教育は受けていたから、エルフの里に出る前に領主代行補佐をお願いしていた。
なお、領主代行、いわゆる代官は他にいて、その人はジョンソンと言う、元冒険者で貴族の子孫と言う奇妙な肩書を持つ人だ。
そのジョンソンには、普通の税管理や土地管理、統括管理等のほぼ決済不要な運営方面を任せているが、この場にはいない。
優しいから、いたら絶対止めてくれただろうけど、奥さんのステファンさんの体調が宜しくないからと最近はずっと早退している。
そうなると、決済不要な書類も、俺とこのウィルの二人で処理する事になる訳で・・・、俺が逃げたら一人でやるハメになるし気持ちはわかる。
しかし、だからと言って彼のこの態度は、俺こと神に対する配慮がなっていないのではないだろうか。
だって、神だよ?
それなのに、なにゆえに俺は今、床に正座させられているのだろうか。
「次はこれだ。そしてこれ、これ、それは地下街の営業許可リストだ。全部読め、いいから読め。早く読め。間に合わなくなっても知らんぞ!」
セリフの後半がどこぞのM字王子になってるよ、ウィル・・・。
そんなユニークな彼は、元々こんな秘書みたいな事をするような人物ではなかった。
ウィルことウィリアムは、俺が世話になっているユウバリ地方の領主オーリム王子(おっさん)の所の三男坊で、魔道具開発が趣味であり生き甲斐の、生粋の研究者だ。
その研究者気質だった彼が今、何故か俺に括りつけた首輪、それとつながっている鎖をジャラジャラと不機嫌に揺らしながら俺を睨んでいる。
何故だ、解せぬ。
「貴様、今何か余計なことを考えなかったか?デェスゥカアァァ?」
「ファッ!? い、いえ、何も?」
俺のそんな心根を察したのか、半眼で睨んでくるウィル。
いや、怖いって!
出会った当初は引きこもりだったからか、外見にも外聞にも無頓着だった彼だが、俺が領主代行補佐として仕事を全部丸投げした結果、すっかり貴族らしくなってしまったようだった。
キリっとした表情に、短く刈り上げ逆立てた頭髪。服装はシンプルなシャツとスラックスだが、丈夫なだけの庶民服とは異なり着心地も考慮された生地を使っているようだ。
そして、イケメン。
今までは野暮ったい瓶底メガネを愛用し、髪もボサボサだった為かイケメン台無しだったが、今は普通にイケメンだ。
俺がエルフの里に帰る前に、向こうの世界でじいちゃんの眼鏡ウンチクで培った非球体レンズについてちょっと語った所、それをほぼそのまま再現し、何かこう、とにかくイケメンになっていた。
そんなイケメンに叱咤されながら書類の可否判断を下していく。
こんな日がもう、一週間も続いていた。
「いや、あのね、ウィルさんや」
「何だ? 逃亡癖のある無責任領主様よ」
「うっ」
「ふん。貴様が計画した都市計画なのだ。せめて軌道に乗るまでは見守るのが筋と言うモノだ」
「あ、いや、そうなんですけどね」
「貴様のお陰で俺の研究がどれほど進んでいないのか・・・。貴様発案の研究で進んだ分が全て飛んだぞ!」
あ、はい、ごめんなさい。
しかし、なるほど。
彼はどうやら自分の好きな研究、魔道具の開発や改良と言う生き甲斐が最近滞っている事にご立腹のようだ。
エルフの里での一件で、結局一か月も滞在してしまったし、不可抗力とは言え確かに町の事を任せっきりだったので申し訳ない気持ちもあるんだけど・・・
「でも、コレはないんじゃないかなぁ」
ジャラジャラと、俺に装備されている首輪の鎖を触る。
「そもそもさ、これ、何なのよ?」
嵌めて一週間目にしてようやく首輪について、口にした。
いや、なんか聞いたら怖いを言い出しそうだったから避けてたんだけど、さすがに、ねぇ?
そう葛藤しつつも、いい加減この生活にも慣れ始めてきた為か気が緩んでいたようで、つい訊ねてしまった。
それが不幸の始まりとは知らずに・・・
「お、おお! ようやく聞いてきたか! それはな、あの、ワン? とか言う勇者の嵌めていた首輪の模造品だ!」
「え? あの神器の!?」
何かすごい単語出てきた。
神器を模造?
なにそれ!?
「超すごいじゃん!」
「であろう? そうであろう?」
途端に少年のような目になって語り出すウィル。
最初は俺も、へー、ほー、はぁー、すげー等と相槌を打っていたが
「であるからして、その分を補てんする為に、なんと! 自爆装置が付いているのだ!」
・・・、なんて?
「威力は極小だが、人ひとり殺すには十分な威力を秘めている。これにより安いコストで重犯罪者を炭鉱などで働かせられるようになるのだ!」
「いや、ちょっと待って?」
「従来の奴隷紋は専用の魔法で使い手も少なく、冤罪だった際に解除が出来ない等の不備も多く、それだけ民に負担を強いてきた! しかし! これならば必要なのは解除の為のカギと、大雑把な命令を受諾する為の紋と爆破用の小さな魔石のみ! 安価で安全、そして安心な隷属首輪がこうして誕生したのだ!」
「いやいや、待って、待って待って?」
「・・・、なんだ。これからがいい所なのだが?」
やや不機嫌そうに話を止めるウィル。
いや、だって、ねぇ?
「自爆ってなんだよ!? そんな物騒な代物を俺に付けてるのかよ!? 安全でも安心でもないじゃん!」
思わず叫ぶよ。叫んじゃったよ。
しかしそんな俺を見て、ウィルは鼻で笑った。
「フッ。さすがに貴様のには自爆装置は付いていない」
「そ、そうか・・・」
だよね。さすがにもう生き返れない事は知っているんだし、そんな危ない事はしてないよね。
「ああ、その代わりに逃げようとすると臭くなるようにしてある。貴様が残したあのカメムシ臭を再現したのだ!!」
ドヤァ・・・って顔したウィルがふんぞり返っている。
ああ、あの、魔物でさえ臭いを嗅いだら死んでしまう、アレね。
いや、それ
絶対自爆よりタチ悪いって!?
あと、この距離で発動したら君も巻き添えよ!?
「なんだか、意識し始めたら、首輪が臭く感じ始めたよ・・・」
「誤作動などしておらぬわ。いいからさっさと仕事しろ」
意識し始めたら幻覚とか幻聴とか、幻臭とか、あるよね?
くおお、知らなきゃよかったよ。
***
あの後首輪の誤作動などもなく、ごくごく普通に仕事を終えて帰宅した俺は、普通に晩御飯を食べている。ちなみに首輪は役所を出る時には外してもらえるので、シルちゃんはその首輪の存在を知らない。
そもそも俺が逃げなければいいだけの話なので、教える気もないけど。
「リュータ、大丈夫かの?」
「あ、うん。ダイジョブダイジョブ」
だがしかし、あまりに疲れた顔をしていたのだろう。
シルちゃんにそう心配されてしまった。
シルちゃんはエルフの里の元長で、シルビィエンテクライテアと言う長い名前を持つ。
最近知ったけど、シルビィ=エンテ=クライテア、が正しい区切りのようだが、エルフには名字やミドルネームを区切る習慣がないそうだ。
そして実はハイエルフと言う希少な種族で、正確にはエルフとは微妙に異なる上位種らしいけど、いまいちよく分からない。
本人もよく分かってないらしいけど、かわいいから許す!
見た目160cm程度、エルフと言うにはやや凹凸がしっかりしており、女子高生的な魅力が溢れている。実際は実年齢で800歳を越えるおばあちゃん。ただし大半を冷凍睡眠的なモノで眠っていたので、肉体的には17歳程度らしい。しかも寝ている最中に見た里の光景と、目覚めた後の里のエルフ達により聞いた知識ばかりなので、本人が言うほど枯れても老いてもなく、実は単なる耳年増だったりするかわいい女の子だ。
「むむ、何やら失礼な気配を感じたのじゃ」
「え? き、気のせいでは?」
そう誤魔化すも、目を細めてジーーーっと見てくる美少女エルフ。
うっ。どうやら耳年増と言う部分に反応したようだった。
「ごめんなさい。あとシルちゃんかわいい」
「んな!? よ、よく分からんのじゃが、許すのじゃ!」
そう言ってキュッっと軽く抱き着いてくるシルちゃん。ちょーかわいい。ちょーちょろい。
なんて思いながら抱き着き返していると、向かいの席から叱咤が飛んできた。
「おい、飯時くれーイチャつくんじゃねぇ!」
折角のラブラブタイムを邪魔してくれたのは、ワン君。
本名は伊藤剛君。
俺が来る5年も前に、俺を担当していた自称「笑いの神様」とは違う神様に呼ばれた異世界人。
強力な剣術の才能と隷属の首輪と言う神具と引き換えに、頭部装甲をシマシマバーコードにした勇者。
レベルが驚異の678。
所有するスキルも相当なもので、数字に違わずかなり強い。
そんな彼が煮豆を頬張りながら、俺とシルちゃんの愛の劇場にイチャモンを付けてくる。
「ったく。疲れてんならゆっくり飯くれー食わせてやれ」
彼も口は悪いけど実は面倒見がいいんだよね。腐っても勇者と言う感じだ。
放っておけばいいのに、何かとこうやって声をかけてくれる。
しかしそんな彼のツンデレ気味な優しさを遮る声が割り込んでくる。
「日中はお仕事で忙しかったみたいだし、このくらい、いいじゃないですか」
「おお、ミチルは分かってくれているのじゃ! そうなのじゃ、リュータ成分が足りないのじゃ!」
「うんうん、分かってるよ。でもね」
仲裁に入ってくれたのは、ワン君の飼い主ことミチルさん。東郷満さんと言う女の子。この子は生粋のお嬢様で、実際にお嬢様学校に通っていたらしい。
今食べている姿も非常に綺麗で、お箸の持ち方もすごく上品だ。ハイソサエティな感じが全身からにじみ出ている。
そして乙女のたしなみとして向こうの世界で既に剣術をマスターしており、しかもこの世界に来るに際してその才能を極限まで伸ばした形で勇者として降臨している、可憐な見た目に反してとんでもない武力の持ち主。
そんな彼女が指をぴっと立てて
「お食事中は暴れたらいけませんよ?」
なんてかわいらしく注意してくれていた。
その言葉に、そうじゃのぉ、と素直に聞いて食事を再開するシルちゃんは、俺の癒し。
その俺の癒しに優しい目を向けているこの町最強の姿にほっこり。
うん、癒されるなぁ。
そんなお姉さん気質なミチルさんだが、ワン君以上に説明がなく唐突に勇者認定されて、ロクな説明もないまま能力を選ばされ、そしていきなり異世界に放り出されたらしい。
偶々、偶然、親切すぎる種族リザードマンに拾われたから無事に過ごせていたけど、本当にこの世界の神々は好き勝手しすぎなんじゃないだろうか。
目の前にいる美少女ミチルさんも、才能と引き換えに頭部装甲は0・・・、あ、いえ、なんでもないんで、さり気なく黒いオーラを吹き出させながら俺を笑顔で見るのはヤメテ!!
なんてバカな事をしつつ、みんなと談笑しながらご飯を食べ、最後にワン君とお風呂に入る。
初めてこの世界で出会った人であるガルフたちは、今はもう新居に移住しているのでいないのが、ちょっと寂しい。
最後にシルちゃんと同室、布団は別よ? で寝るのがここ最近の俺の日常だ。
普通じゃないけど、みんなとバカ騒ぎしながらの、いつも通りの幸せな日々だ。
俺の体と意識が、充足感で満たされていくのが分かる。
ああ、ロクでもない神々に振り回されている俺たちだけど、それでもこの世界にこれたことは感謝しているんだ。
なんて、照れるな。
・・・さぁて、明日に備えて今日ももう寝よう。
お休みなさい。
どこにでもいるごくごく普通の大学二年生だったんだ。
だったんだけど・・・
異世界に飛ばされて
死んで
気が付いたら小さな村の領主になっていて
死んで
気が付いたら亜神と言うものになっていました。
「おい、領主様よ。遠い目をしていないで、いいからさっさとこの書類に目を通して、サインを入れろ下さい」
そう言って書類を目の前の箱の上に広げたのは、この国の王子の息子、つまり一応王族である所のウィリアム、通称ウィルだ。
ただ、王族と言っても末端中の末端で、王位継承権はほぼない、と言うか本人は既に放棄済みなので普通の貴族とそう違いはないらしい。
そんな曖昧な立場なのと、そこそこの教育は受けていたから、エルフの里に出る前に領主代行補佐をお願いしていた。
なお、領主代行、いわゆる代官は他にいて、その人はジョンソンと言う、元冒険者で貴族の子孫と言う奇妙な肩書を持つ人だ。
そのジョンソンには、普通の税管理や土地管理、統括管理等のほぼ決済不要な運営方面を任せているが、この場にはいない。
優しいから、いたら絶対止めてくれただろうけど、奥さんのステファンさんの体調が宜しくないからと最近はずっと早退している。
そうなると、決済不要な書類も、俺とこのウィルの二人で処理する事になる訳で・・・、俺が逃げたら一人でやるハメになるし気持ちはわかる。
しかし、だからと言って彼のこの態度は、俺こと神に対する配慮がなっていないのではないだろうか。
だって、神だよ?
それなのに、なにゆえに俺は今、床に正座させられているのだろうか。
「次はこれだ。そしてこれ、これ、それは地下街の営業許可リストだ。全部読め、いいから読め。早く読め。間に合わなくなっても知らんぞ!」
セリフの後半がどこぞのM字王子になってるよ、ウィル・・・。
そんなユニークな彼は、元々こんな秘書みたいな事をするような人物ではなかった。
ウィルことウィリアムは、俺が世話になっているユウバリ地方の領主オーリム王子(おっさん)の所の三男坊で、魔道具開発が趣味であり生き甲斐の、生粋の研究者だ。
その研究者気質だった彼が今、何故か俺に括りつけた首輪、それとつながっている鎖をジャラジャラと不機嫌に揺らしながら俺を睨んでいる。
何故だ、解せぬ。
「貴様、今何か余計なことを考えなかったか?デェスゥカアァァ?」
「ファッ!? い、いえ、何も?」
俺のそんな心根を察したのか、半眼で睨んでくるウィル。
いや、怖いって!
出会った当初は引きこもりだったからか、外見にも外聞にも無頓着だった彼だが、俺が領主代行補佐として仕事を全部丸投げした結果、すっかり貴族らしくなってしまったようだった。
キリっとした表情に、短く刈り上げ逆立てた頭髪。服装はシンプルなシャツとスラックスだが、丈夫なだけの庶民服とは異なり着心地も考慮された生地を使っているようだ。
そして、イケメン。
今までは野暮ったい瓶底メガネを愛用し、髪もボサボサだった為かイケメン台無しだったが、今は普通にイケメンだ。
俺がエルフの里に帰る前に、向こうの世界でじいちゃんの眼鏡ウンチクで培った非球体レンズについてちょっと語った所、それをほぼそのまま再現し、何かこう、とにかくイケメンになっていた。
そんなイケメンに叱咤されながら書類の可否判断を下していく。
こんな日がもう、一週間も続いていた。
「いや、あのね、ウィルさんや」
「何だ? 逃亡癖のある無責任領主様よ」
「うっ」
「ふん。貴様が計画した都市計画なのだ。せめて軌道に乗るまでは見守るのが筋と言うモノだ」
「あ、いや、そうなんですけどね」
「貴様のお陰で俺の研究がどれほど進んでいないのか・・・。貴様発案の研究で進んだ分が全て飛んだぞ!」
あ、はい、ごめんなさい。
しかし、なるほど。
彼はどうやら自分の好きな研究、魔道具の開発や改良と言う生き甲斐が最近滞っている事にご立腹のようだ。
エルフの里での一件で、結局一か月も滞在してしまったし、不可抗力とは言え確かに町の事を任せっきりだったので申し訳ない気持ちもあるんだけど・・・
「でも、コレはないんじゃないかなぁ」
ジャラジャラと、俺に装備されている首輪の鎖を触る。
「そもそもさ、これ、何なのよ?」
嵌めて一週間目にしてようやく首輪について、口にした。
いや、なんか聞いたら怖いを言い出しそうだったから避けてたんだけど、さすがに、ねぇ?
そう葛藤しつつも、いい加減この生活にも慣れ始めてきた為か気が緩んでいたようで、つい訊ねてしまった。
それが不幸の始まりとは知らずに・・・
「お、おお! ようやく聞いてきたか! それはな、あの、ワン? とか言う勇者の嵌めていた首輪の模造品だ!」
「え? あの神器の!?」
何かすごい単語出てきた。
神器を模造?
なにそれ!?
「超すごいじゃん!」
「であろう? そうであろう?」
途端に少年のような目になって語り出すウィル。
最初は俺も、へー、ほー、はぁー、すげー等と相槌を打っていたが
「であるからして、その分を補てんする為に、なんと! 自爆装置が付いているのだ!」
・・・、なんて?
「威力は極小だが、人ひとり殺すには十分な威力を秘めている。これにより安いコストで重犯罪者を炭鉱などで働かせられるようになるのだ!」
「いや、ちょっと待って?」
「従来の奴隷紋は専用の魔法で使い手も少なく、冤罪だった際に解除が出来ない等の不備も多く、それだけ民に負担を強いてきた! しかし! これならば必要なのは解除の為のカギと、大雑把な命令を受諾する為の紋と爆破用の小さな魔石のみ! 安価で安全、そして安心な隷属首輪がこうして誕生したのだ!」
「いやいや、待って、待って待って?」
「・・・、なんだ。これからがいい所なのだが?」
やや不機嫌そうに話を止めるウィル。
いや、だって、ねぇ?
「自爆ってなんだよ!? そんな物騒な代物を俺に付けてるのかよ!? 安全でも安心でもないじゃん!」
思わず叫ぶよ。叫んじゃったよ。
しかしそんな俺を見て、ウィルは鼻で笑った。
「フッ。さすがに貴様のには自爆装置は付いていない」
「そ、そうか・・・」
だよね。さすがにもう生き返れない事は知っているんだし、そんな危ない事はしてないよね。
「ああ、その代わりに逃げようとすると臭くなるようにしてある。貴様が残したあのカメムシ臭を再現したのだ!!」
ドヤァ・・・って顔したウィルがふんぞり返っている。
ああ、あの、魔物でさえ臭いを嗅いだら死んでしまう、アレね。
いや、それ
絶対自爆よりタチ悪いって!?
あと、この距離で発動したら君も巻き添えよ!?
「なんだか、意識し始めたら、首輪が臭く感じ始めたよ・・・」
「誤作動などしておらぬわ。いいからさっさと仕事しろ」
意識し始めたら幻覚とか幻聴とか、幻臭とか、あるよね?
くおお、知らなきゃよかったよ。
***
あの後首輪の誤作動などもなく、ごくごく普通に仕事を終えて帰宅した俺は、普通に晩御飯を食べている。ちなみに首輪は役所を出る時には外してもらえるので、シルちゃんはその首輪の存在を知らない。
そもそも俺が逃げなければいいだけの話なので、教える気もないけど。
「リュータ、大丈夫かの?」
「あ、うん。ダイジョブダイジョブ」
だがしかし、あまりに疲れた顔をしていたのだろう。
シルちゃんにそう心配されてしまった。
シルちゃんはエルフの里の元長で、シルビィエンテクライテアと言う長い名前を持つ。
最近知ったけど、シルビィ=エンテ=クライテア、が正しい区切りのようだが、エルフには名字やミドルネームを区切る習慣がないそうだ。
そして実はハイエルフと言う希少な種族で、正確にはエルフとは微妙に異なる上位種らしいけど、いまいちよく分からない。
本人もよく分かってないらしいけど、かわいいから許す!
見た目160cm程度、エルフと言うにはやや凹凸がしっかりしており、女子高生的な魅力が溢れている。実際は実年齢で800歳を越えるおばあちゃん。ただし大半を冷凍睡眠的なモノで眠っていたので、肉体的には17歳程度らしい。しかも寝ている最中に見た里の光景と、目覚めた後の里のエルフ達により聞いた知識ばかりなので、本人が言うほど枯れても老いてもなく、実は単なる耳年増だったりするかわいい女の子だ。
「むむ、何やら失礼な気配を感じたのじゃ」
「え? き、気のせいでは?」
そう誤魔化すも、目を細めてジーーーっと見てくる美少女エルフ。
うっ。どうやら耳年増と言う部分に反応したようだった。
「ごめんなさい。あとシルちゃんかわいい」
「んな!? よ、よく分からんのじゃが、許すのじゃ!」
そう言ってキュッっと軽く抱き着いてくるシルちゃん。ちょーかわいい。ちょーちょろい。
なんて思いながら抱き着き返していると、向かいの席から叱咤が飛んできた。
「おい、飯時くれーイチャつくんじゃねぇ!」
折角のラブラブタイムを邪魔してくれたのは、ワン君。
本名は伊藤剛君。
俺が来る5年も前に、俺を担当していた自称「笑いの神様」とは違う神様に呼ばれた異世界人。
強力な剣術の才能と隷属の首輪と言う神具と引き換えに、頭部装甲をシマシマバーコードにした勇者。
レベルが驚異の678。
所有するスキルも相当なもので、数字に違わずかなり強い。
そんな彼が煮豆を頬張りながら、俺とシルちゃんの愛の劇場にイチャモンを付けてくる。
「ったく。疲れてんならゆっくり飯くれー食わせてやれ」
彼も口は悪いけど実は面倒見がいいんだよね。腐っても勇者と言う感じだ。
放っておけばいいのに、何かとこうやって声をかけてくれる。
しかしそんな彼のツンデレ気味な優しさを遮る声が割り込んでくる。
「日中はお仕事で忙しかったみたいだし、このくらい、いいじゃないですか」
「おお、ミチルは分かってくれているのじゃ! そうなのじゃ、リュータ成分が足りないのじゃ!」
「うんうん、分かってるよ。でもね」
仲裁に入ってくれたのは、ワン君の飼い主ことミチルさん。東郷満さんと言う女の子。この子は生粋のお嬢様で、実際にお嬢様学校に通っていたらしい。
今食べている姿も非常に綺麗で、お箸の持ち方もすごく上品だ。ハイソサエティな感じが全身からにじみ出ている。
そして乙女のたしなみとして向こうの世界で既に剣術をマスターしており、しかもこの世界に来るに際してその才能を極限まで伸ばした形で勇者として降臨している、可憐な見た目に反してとんでもない武力の持ち主。
そんな彼女が指をぴっと立てて
「お食事中は暴れたらいけませんよ?」
なんてかわいらしく注意してくれていた。
その言葉に、そうじゃのぉ、と素直に聞いて食事を再開するシルちゃんは、俺の癒し。
その俺の癒しに優しい目を向けているこの町最強の姿にほっこり。
うん、癒されるなぁ。
そんなお姉さん気質なミチルさんだが、ワン君以上に説明がなく唐突に勇者認定されて、ロクな説明もないまま能力を選ばされ、そしていきなり異世界に放り出されたらしい。
偶々、偶然、親切すぎる種族リザードマンに拾われたから無事に過ごせていたけど、本当にこの世界の神々は好き勝手しすぎなんじゃないだろうか。
目の前にいる美少女ミチルさんも、才能と引き換えに頭部装甲は0・・・、あ、いえ、なんでもないんで、さり気なく黒いオーラを吹き出させながら俺を笑顔で見るのはヤメテ!!
なんてバカな事をしつつ、みんなと談笑しながらご飯を食べ、最後にワン君とお風呂に入る。
初めてこの世界で出会った人であるガルフたちは、今はもう新居に移住しているのでいないのが、ちょっと寂しい。
最後にシルちゃんと同室、布団は別よ? で寝るのがここ最近の俺の日常だ。
普通じゃないけど、みんなとバカ騒ぎしながらの、いつも通りの幸せな日々だ。
俺の体と意識が、充足感で満たされていくのが分かる。
ああ、ロクでもない神々に振り回されている俺たちだけど、それでもこの世界にこれたことは感謝しているんだ。
なんて、照れるな。
・・・さぁて、明日に備えて今日ももう寝よう。
お休みなさい。
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・・・
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【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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