転生彼女は王子に夢中! -俺はフォローをする脇役-

gagaga

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第一章

3.その告白は聞きたくなかった

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 一見して正気ではない彼女に対して、遺憾ながら尋問を行う。
 すると見えてきたのは彼女が自称する生前の姿。

 女子高生?
 オタク?

 いや、何も見えてはいなかった。
 だが彼女が本気で自分に前世があると信じているのだけは確かとなった。

「それで、その王子がとーーーっても格好いいの!!」

 他の男について熱く語る婚約者。
 皆さまは俺の気持ちをお分かりだろうか。
 そう、あれだ。
 これが失意のどん底というヤツか。

「しっかりなさってください!」
「ボン様! 気をしっかり! こんな謎空間に私たちを置いて行かないでーー!!」

 医者とメイドの悲痛な声がこだまする医務室。
 俺は我に返る。

 そう、そうだ。
 彼女はきっと頭を強く打ち付けて、自分を小説の主人公だと思い込んでいるんだ。

 気を取り直して、改めて彼女の言を分析する。

 曰く。
 この世界はゲームの世界である。
 学園二年目からのスタートで、四年目の卒業までに誰かと良い仲になるのが主人公。
 その主人公にはうだつの上がらない、それでいてさぼりグセのある婚約者がいる。
 直感的で直情的、とにかく真っすぐな主人公はその怠け者に見切りをつけ新たなお相手を探す。

「他人の話であれば笑えるが、当事者だと言われると、……ひどい話だ……」

 しかしこれでもまだプロローグだというのだから、俺の絶望は天使と魔王の戦いの末に出来た大渓谷よりも深い。
 その後いろいろあり、彼女は五人のヒーローの中から改めて婚約者を選ぶという話。

「その中でも王子がお気に入りなの!」
「うん、それはさっき聞いたよ……」 

 ゲームの名は『剣の乙女と王国の花』。

 なるほど、そのタイトルだけ言えば剣が得意な彼女が主人公と言えるだろう。
 しかし同時に後半の「王国の花」部分も君を指してやいないか?
 デイジーは生家で巨大な花産業を営むからこそ、その特産であるデイジーから名付けられている。

 考えても答えが出ない疑問は脇に置く。
 続き彼女から話を伺えば、今後は様々なイベント、聞く俺からすると事件に次ぐ事件、大事件の連続で、この王国は大丈夫なのかと不安になる内容ばかりを口にする。
 なんだろうか。
 彼女はいつからサディストになったのか。
 このままでは俺の胃が危ない。
 現場に残っている医者に目配せし、胃薬を処方するよう手配した。

「と、ところでデイジー。もしそうなら直近のイ、イベント? は何になるのかな?」

 事の真偽はかなり偽の方に傾いているが、それでも俺は彼女に対して誠実であろうと思う。
 いや、うん。その彼女自身が俺に対して全く誠実ではなく、目の前で浮気すると言っているんだが……、それでも俺は誠実でありたいなぁ……。
 彼女は言って止まるような性格はしていない。女だてらに剣豪を自称してはいない。女性の騎士も決して少なくはないが、騎士家でもない良家のお嬢様がここまでするのはほとんどない。
 そんな彼女がこれ以上暴走しないように手綱を握っているのも、夫になるものの勤めだと思う。

 彼女は俺の問いに、唇の下に人差し指を当てた後、何でもないように答えた。
 この様子だけ見ると頭を打つ前と変わらないから困る。

「えーとね。そうそう、ある村が大熊に襲われてー、そこでアレク様が登場! だったかな」
「アレク様? え? アレク様ってアレクシアス様か!?」

 アレクシアス=フォン=アルカス。18歳。
 アルカス公爵家長男、王位継承権第四位。
 そんなやんごとなきお方が何で村に?

「確か、旅をしていて偶々遭遇したんだったかな。それで見事に大熊を撃退して……」
「して?」
「あなたを蹴落とすの!」
「聞き間違えだろうか。俺を蹴落とすって聞こえたんだけど……」

 右を見る。
 医者が悲し気な表情で首を振る。

 左を見る。
 痛まし気な瞳でメイドが俺を見つめる。

 つまり、聞き間違いじゃなかった、と。

「いや、ちょっと待って。アレクシアス様はアルカス家の長男で次期公爵様だぞ? アルカス家との仲は良好だし、なんで俺を蹴落とすんだ!?」
「んーとね。武勲を上げた場所があなたの管轄する領地で、褒美にその土地を割譲されたの」
「ちょっと頭が追い付かない」

 何故だろうか。
 彼女と俺は同じ言語を話しているのに、彼女の言葉が理解出来ない。

 しかし悩んでも仕方がない。
 とにかく今は情報を集めよう。
 最初は妄言、いや、妄想の類だと思っていたけどこうも実在の人物や場所、物と絡められると真実ではないかと不安になってくる。
 メモを取りつつ、彼女の語りに耳を傾け、時に詳細を尋ねた。


 散々に語り終えた彼女は、満足したのか俺にこう告げた。

「私、王子様派なの! だから別れて! ごめんね!」

 その夜、俺は心の中で血を吐いた。
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