4 / 6
第一章
4.王位継承者とは一体
しおりを挟む婚約者から唐突の婚約破棄を言い渡された俺ですが、どうやら無意識の内に彼女を引き留めていた。
「そのゲームでは婚約は継続していたのだろう? なら今すぐ婚約解消するのはそぐわないんじゃないのか?」
その通りだと彼女は納得し、その場での三行半は回避された。
「とは言え、これからどうするか……」
彼女の事は、個人的な感情で言えば好きだ。彼女の実家にも世話になっているし互いに支え合うような仲で良好だ。
しかし俺は貴族。
お家第一で俺の婚約者が変わってしまったり、側室を数名娶る事もあり得るのは理解していた。
彼女にしても子爵家第一で婚約破棄もあり得る。
そんな理由であればまだ納得がいった。
「王子が好きだから別れてくれ、か……」
彼女の妄想の中の王子は果たしているのだろうか。同姓同名で別人の可能性もある。
そのわずかな望みに賭け、人を使い王子について探らせている。
その間、ただ待つだけかと言えばそうとはいかない。
彼女の言う最初のイベント、大熊の村襲撃の真偽を確かめ、場合によっては現れた大熊を退治する必要がある。
大熊は危険な動物だ。
その牙は骨を易々と砕き、その爪は大地を深くえぐる。
こんなものが何の守りもない村に現れれば惨劇は免れない。
少数規模の集落であれば、大熊一匹で全滅もあり得る程の脅威だ。放ってはおけないだろう。
その村へと移動する。
連れて行くのはゴードン以下五名。
戦力は俺とゴードンのみ。
残る三名は世話係と行者と連絡係。
真偽の分からない情報故に、大人数で動けなかったからだ。
揺れる馬車の中でもし仮にこの話が嘘だった場合を考える。
「大熊はああ見えて臆病だから人里には来ない。そんなの彼女だって知っている」
周知の事実を捻じ曲げて俺に伝えたとなれば、それは暗に俺が嫌いと言っているようなもの。
嫌われるような事をした覚えはないが、彼女曰くゲームの俺は怠け者だそうだからな。頭を打つ前の彼女も怠け者は嫌いだ。先日のデート中にもよく
「休んでばかりいないで学園に来て下さい」
と訴えかけられていた。
「……、おや? もしかしてこれが原因なのか?」
ゴトゴトと馬車が揺れる。
共にいる世話係は一切口を開かない。その様子を薄目で観察しつつ俺はある計画を前倒しにする決意をする。
村に着き、世話係にそれとなくアレクシアス様を探すよう伝える。
村長へはゴードンが挨拶に向かっている。
俺の方はと言えば、村人への聞き込みだ。
「そこの者、済まないが少しいいだろうか」
今まさにクワを振り下ろし、地面を掘り起こしている青年に声をかけた。
後姿からでも分かる精強さに、腰の入った一振りはその作業に年季を感じさせる。
さぞ立派な農民なのだろうと、自分の領地の若者に誇らしささえ思えての声かけだ。
しかし果たして、この展開を誰が予想出来たか。
振り向いた人物こそ、俺が密かに探していたアレクシアス様だった。
「ええ、構いませんよ? おや……」
あちらも声をかけてきたのが俺だと気付いていなかった様子で、お互いに目が点になっていた。
気まずい空気が流れる。
どうしよう。
この国で四番目に次期国王に近いお方がうちの領地で畑弄りしていた。
ほっかむりをして汗水たらすそのお姿は誰がどう見ても農民です。
一方俺は軽装とは言え武装している身。
これではアレクシアス様をお迎えに上がった騎士に見えている事だろう。
デイジーの話を考えるに、アレクシアス様をここで拿捕し、領地へ強制送還が正しい。
しかしその、何だろうか。
先ほどまでのお姿はとても楽しそうだった。
案外、彼女の話にあった俺を蹴落とすというのも当人にその気はなく、この農作業をごまかす嘘の所為で間接的に俺が追いやられてしまっただけなのかもしれない。
ならばどうするか。
俺の予想が正しければ、友好に接してこちら側に懐柔してしまえばいいのではないだろうか。
彼にとっても今の姿の味方がいれば、俺の領地を奪おうとは思わないはず。
「そこの農民の方、少し宜しいでしょうか?」
農民をことさら強調し、俺は何も知りませんと主張する。
もちろん気付いているが、その上で見なかった事にするとこちらは訴えかける。
するとその意図に気付いたアレクシアス様は一つ頷き、ほっと息を吐く。
「え、ええ、農民です、農民ですとも。……それで、何のご用でしょうか?」
「そんなに硬くならないで、農民の方。少しばかり調査をしていましてね。この辺りに害獣が出たという噂を聞きつけまして、何かご存じないかとお声かけ致した次第です」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる