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第一章
5.ぐうたらな噂
しおりを挟む「害獣ですか……」
アレクシアス様風の農民の方は返答に窮していた。
この反応からするに、未確定で何かは起こっているのかもしれない。
その考えが当たっていたようで、世話係が俺の元へと戻ってくる。
どうやらアレクシアス様を探すついでに情報収集を行っていたようで、俺に伝えたい事があると急ぎはせ参じてくれたようだ。
「木こりが曰く、西の森に荒らされた跡があったそうです」
その爪痕と規模から察するに大熊だろうとアタリを付ける。
大熊は強敵だが、俺とゴードンならば余裕で対応が出来る。
村に被害がない内に判明して良かったと胸をなでおろせば、俺を見つめるはアレクシアス様風の農民。
「俺も戦います!」
それは勘弁して頂きたいなぁと心の中でだけ訴えかける。
しかし残念ながらお相手はかなり偉いお方。農民を装ってはいるが、真のお姿は高貴なる身。断れるはずもなく。
「分かりました。しかしここは我が領地です。随伴だけとなりますがよろしいですか?」
「……、分かりました。すぐに武装してまいります」
やる気十分なアレクシアス様を見送り、はて? と考える。
「アレクシアス様は武装と言ったけど、どういう事なのか」
まさか専用の武具一式をこの村に持ち込んでいるのだろうか。そうなると隠し立て出来なくなるが……。
いや、そうか!
「それで戦うお姿を村人が見て、アレクシアス様のご滞在が露呈。その結果、俺が追い出されたのか」
村の危機に怠け者の領主は訪れず、英雄的なアレクシアス様の手で守られる。
比較的王都に近いこの村ならアレクシアス様に分け与えるのも悪くないと国王陛下はお考えになった。
「分かりやすいシナリオだ。そうなると、アレクシアス様に武装をさせたのは間違いだったか?」
いや、人命がかかっているのだから、武装させないなんてありえない。
つまりすると、このままアレクシアス様をお連れして、このまま活躍され、俺が窮地に立たされるのは逃れられないのだろうか。
「なんと、大熊ですか!?」
ゴードンの元へと合流し、村長に本件を語る。
俺は身分を明かし、アレクシアス様は身分を明かしていない。
最も、この村の村人たちはアレクシアス様を貴族だと確かに認識していた。
その上で農作業に従事させていたのだから恐ろしい。
それは不敬罪だろうに、と心の中で涙する。
「まぁ、任せたまえよ村長! うちのボンは強いからな! ガハハハハ!」
「その俺より強いゴードンの言葉であれば頼もしい限りだよ」
「そ、そうなのですか? あの、あなた様はあのボナンティス様、なのですよね?」
どのボナンティスだと思っていたのか。
彼の言う、あの、の意味がイマイチくみ取れない。
するとそこに助け船を出したのはアレクシアス様だ。
「そう、彼はあの”ぐうたら太郎”と噂されていたボナンティス君ですよ。以前会った事があるから間違いない」
助け船かと思ったら違った。
船から叩き落された。
「はぁ!? ボンがぐうたらだぁ!?」
「むしろその言葉とは真逆の生き物」
「過労死に最も近い男と呼ばれたボン様がぐうたらなら、僕らは息を吸うのも面倒臭がって今頃死んでますね」
ゴードン、世話係、行者のそれぞれの言だが、こちらも全くフォローになっていない。別方向からの攻撃だ。
溺れている俺に木の棒で水中に押し付けるような、そんな感じ。当人たちはフォローのつもりなんだろうけど、それ、多分俺死ぬから。
「……、それは大変に興味深いですね」
怪しげなアレクシアス様に、ワタワタと慌てる村長。
村長もそんな話は聞きたくなかっただろう。
右を向けば領主がぐうたら扱い、左を見ると領主は過労死しかねない。どっちを向いても村長的には地獄だ。可哀そうに。
その可哀そうな姿を見て、俺は平静を取り戻す。
「それはどうでもいいんだ。本当に。だから蒸し返さないで、お願い」
「は、はい」
「俺の目的はただ一つ、害獣の退治だ。それ以外はないし、諸君らの手を煩わせる気もないので普段通りにしてもらおう」
その後、倒した後の大熊は村の収益の一つにしていいと伝えれば、村長歓喜。
それほど貧しい村とは思えないが、大層喜ばれてしまった。
しかし、ぐうたら太郎か。
その噂は一体どこから出てきたものなのだろうか。
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