6 / 111
第一章
6
しおりを挟む――あれから六年。
俺は、隣の国で冒険者となっていた。
「今日の清算だ」
「はい、カイ様。こちらへどうぞ」
騒がしい受付から、職員に連れられ個室の清算スペースへと移動する。
亜空間から取り出した今日の獲物を、必要分以外全部出す。
この二年で慣れたからか、職員も驚かない。
「では清算しましたら、いつものようにさせて頂きます」
「ああ……」
常連の俺は指定しなくても勝手にあっちが判断して、いいようにしてくれる。
俺は三等級の冒険者だ。
一等級が一番上で、七等級が一番下。
上から三番目なので、すごく、すごい。
魔法使いの枠の中ではほぼ最強だと言ってもいい。
「ところでカイ様。この情報は……」
「いつもどおりだ」
「はい、かしこまりました。それではこのナイトアント、ルークアント、ソルジャーアント。アントの大群をおひとりで処理なされた事は伏せさせていただきます」
俺は、いつも通り不機嫌な顔で街中を歩く。
俺が今やっていることは、八つ当たりだ。
毎日毎日飽きもせずダンジョンに潜り、殺してもいい魔物という存在を相手にじゅうりんを繰り返している。
今日もじゅうりんした。
――三時間前、ダンジョン内。
「そろそろ飯にするか」
俺は亜空間から葉っぱで包まれたパンを取り出しかじる。あまりおいしくはないが、腹にたまるしすぐに食べられる。
食事、排便がダンジョン内ではもっとも隙ができる。だからそこは最小限に留めておくのが冒険者としての鉄則だ。
もっとも、体を動かさずに相手を倒せる俺にはあんまり意味のない行動ではあるが、俺が強い魔法使いだと知られるのも厄介なので普段は可能な限り実力は隠している。
食事を終え、水を飲んだ俺のほうに向かってくる人影があった。
気配察知、魔力感知などで分かっていたが、同業の冒険者だ。
冒険者は、助け合い。
弱肉強食、競争社会のただ中で、冒険者ギルドは馴れ合いを原則の方針としていた。
だから向こうが俺に襲い掛かってくるなんて物語にありがちな展開はない。俺もあいつを迎撃しようとは思わない。過酷で孤立しがちなダンジョンでは、横のつながりは何よりも大事なのだそうだ。
俺はそんなのくそ喰らえと思っているが、かと言ってギルドの方針に従わないなんてヘマはしない。
こんな恰好の狩場を用意してくれるのだから、最低限のルールは守る。
「おい、そこのお前! 早く逃げるんだ!!」
向こうからようやく見えてきたくらいの距離で、そう言われた。
どうやら何か問題があったらしいな。
「どうした? 何があった?」
「スタンピードだ! 魔物の大群に襲われた! すぐこっちにも来る! 仲間が抑えているがそれもいつまで持つか分からん!」
と、まぁ、冒険者ってのは親切だ。
俺の心配をしてくれるし、こうして獲物がたくさんいると教えてもくれる。
今も仲間が命をかけて時間を稼いでいるのだろう。その身近な仲間よりも冒険者全体を考えて動く。冒険者はすべて家族だとか何だとか。
「ご大層なことだ」
そんな彼らを軽蔑する気はない。それは二年もここで活動している俺だから嫌でも分かる。こいつらは立派だと。
馴れ合う気なんてないが、その心情を邪魔する気もない。
だが、それとこれとは話が別だ。
「大群ってのはどの規模だ?」
「ナイトアント百匹以上だ! あれはまずいぞ! 軍団規模だ!」
ナイトアントはソルジャーアントの上位種だ。二足歩行を可能とした巨大アリで、右腕の一本が発達し槍のようになっている魔物。
その右腕は、高値で売れる。
素材も相手も、数も申し分ない。
「分かった。お前は念のためギルドに伝えに行け。俺は魔物を叩いてくる」
「そんな、無茶だ! 俺たち四等級パーティでさえダメだったんだ! お前も逃げてくれ!」
「それは聞けんな。ほれ、いいからいけ」
「くっ! 済まない! できるだけ時間を稼いでくれ!」
どうやら男は自分のパーティに引き続き、俺も魔物が進行しないよう時間をかせぐために犠牲になるのだと思ったようだ。
ま、面倒がなくて都合がいい。
「そんじゃま、じゅうりんといこうかね」
ポンポンポーンとスキップで現場に辿り着く。
ぱっと見たところ、あの男のいう通り大量のナイトアントがあふれていた。その中には左腕が盾となっているルークアントも混じっていた。
「こりゃすごい。宝の山じゃねぇか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる