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第一章
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しおりを挟む戦場を見渡す。
魔物の群れの中央でかろうじて踏ん張っているのが、先の親切な男のパーティメンバーなのだろう。
二人が倒れ、二人が盾となっている。
倒れた一人は血まみれで気絶。もう一人も足にケガをして立てないようだ。なけなしの魔力で魔法を撃っているが、前衛の使う魔法などたかが知れている。ほんのわずかにナイトアントをのけぞらせただけだった。だがそこをすかさず盾になっていた男がアントの胴のつなぎ目を剣で切り裂く。弱くとも連携を取れば、この状況なら悪い手ではないとの判断もできるのか。魔法だから通用しないと思い込まず、的確に使い、魔法を侮っていないのは好感が持てるな。
「四等級ともなれば、中々に優秀だ」
その戦いぶりに感心しつつ、俺はギルドカードを取り出す。
このやり取りにわずらわしさを感じるが、ダンジョンでは必要な行為だ。
「駄目だ、もう持たない!」
「ちくしょう! こいつら、こいつら!!」
「焦るな! まだ、まだいける!」
「せめてあいつが無事にギルドに辿り着いて、スタンピードを伝えられているのを祈るしかない!」
「一分でも、一秒でも時間をかせいでやる!!」
凄惨な現場なのだと思うが、俺がいるからにはもう危険なんてないようなもんだ。互いを励まし合い、声をかけ合う連中を微笑ましい目で観察する。
「無駄な努力を」
限界が近い。
悲壮な覚悟で一匹でも多く道連れにしてやるなんて叫びが聞こえた。
そろそろ頃合いだろう。
俺は盾の男二人が猛攻におされ引いた所で魔法を発動させる。
「ま、適当に土でおおってやるか」
四等級パーティを中心に土の壁をせり上げ、フタまでする。そいつらに襲い掛かろうとしていたアントたちは土壁に激突し、跳ね返される。
土と言えども鋼鉄なみになるよう密度と厚みを上げているのだから、軽々と突破はできないだろう。ナイトアントの槍にしても突き崩すのには時間がかかる。
四人の身柄を確保した俺は、戸惑う連中に向けて声を発する。
とは言っても、相手は土の中。中は魔法で灯りをともし、空気穴を作ってはいるが、距離もあるし声が届くはずがない。
だから俺は、その中にスピーカーを作って声をかける。
「お前ら、無事か?」
「え?」
「な、なんだ!?」
「どこから声が!?」
さすがのベテラン四等級でも戸惑うか。
ま、ここまでできる前衛なんて早々いないし無理もない。
時間はかけたくないんで、事情の説明なんかはしない。面倒だってのもある。
「そんなのどうでもいい。俺は冒険者だ。ここの獲物、全部もらうがいいか?」
「なんだって!?」
「そんなことができるのか!?」
「いいからお前も早く逃げろ」
あーあー、うっせーの。
「黙れ。俺が聞きたいのはイエスかノーか、だ。俺がもらっちまってもいいか? いいならギルドカードで共闘をオンにしろ」
ギルドカードはハイテクの塊だ。
魔物の討伐数に種類から、こうして共闘の有無までもが監視されている。
今の俺のギルドカードはだいだい色に発光している。横取り注意の警告だ。その警告を解除するのが共闘モード。違反すると罰金払わされたり講習やらを受けるハメになる。この共闘手続きは面倒だが、これを怠るともっと面倒だからな。
「わ、わかった!」
パーティリーダーが了承の旨をギルドカードに伝えたようだ。俺のカードが青色に光る。
これでいい。
「んじゃ、じゅうりんすっか」
俺が使うのは雷の魔法。
アント系は金属の原石を喰って甲殻に変えるから、電気がよく通る。
「『ライトニングブラスト』」
さして気合いを入れず、いつも通りに魔法を放つ。
『ライトニングブラスト』は俺の目の前に発生した魔法陣から帯状に広がり、俺の視界に映らないアントまでをも焼き尽くす。直接的には電流が流れる際に発する熱で身を焼き、隠れている場所には電子が身体の中の水分を加熱させる。いわば放射性の電子レンジだ。土壁で冒険者連中をおおったのも、この影響を受けないようにって配慮がある。冒険者殺しは事故でも罪が重いからな。さすがの俺もちょっとは配慮もするさ。
「『クールダウン』。よし、終わりだ」
次に冷却用の魔法で周囲を冷やす。これをしないと地面が煮えたぎり、空気が灼熱となって肺を焼く。
「あとは、出てるな。『アポート』」
引き寄せの魔法で、魔物のドロップアイテムを回収していく。これで作業終了だ。
土壁の中の連中に声をかける。
「おい、終わったぞ」
「なんだったんだ、あの音は……」
「え? 終わった? 何がだ!?」
外も見えない土の中で混乱しているようだが、俺はもうこいつらに用はない。
「外の魔物はすべて蹴散らした。あとはお仲間の元に戻ってそう伝えてやれ」
「うそだろ……」
「でも壁の向こうから聞こえていたあいつらの不快なギチギチ音がしないぞ?」
とまどっているようだが、説明する気はない。俺が魔法使いだって明かさなきゃならんからな。
この土壁程度であれば前衛でも出せるし、じゅうりんだって前衛でも強いヤツなら可能だ。
そもそも魔法使いがここまでやれるなんて意識もないだろうから、少し情報を隠せばあいつらが俺に辿り着くことはない。
さて、今回の戦利品は中々のものだ。ここに魔物を集結させてくれた礼の一つでもしてやらんとな。
「これはサービスだ。仲間に使ってやれ」
自作のポーションを、土壁を通じて渡してやる。
「壁は外が頑丈だが、内側から叩けばすぐに崩れる。じゃぁな」
ここいらにはもう魔物がいない。最低限移動できるだけの体力は確保できるだろう。
俺は向こうが何か言ってくる前に、ダンジョンのさらに奥地へと足を進めた。
そして一通り終わって帰ってきたのがさっきというわけだ。
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