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第一章
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しおりを挟む「ここの焼き鳥が一番だな」
いつも通りの店で焼き鳥を買いだめする。
無茶な注文数だからイヤがられるが、背に腹は代えられないのだろう。しぶしぶ俺の注文を受ける露店の男。
あんな顔をするからよけいにあそこで買いたくなるんだがな。
「我ながら極悪人になったもんだ」
人の嫌がることをしたい。
ひねくれた俺が辿り着いてしまった心理だ。
素直だった俺がこうなってしまったのは、やはり故国であった様々な出来事による。
もらった領地を立て直した。
旧市街と言われており、獣人などの亜人が住まうがれきの山を撤去して、ケガを負っていた彼らを治療して新しく建物を魔法で建てた。
そうしたら新市街と呼ばれていた方が今度はスラムみたいな見た目になった。そのせいで新市街の住人とケンカになった。
紆余曲折を経て、そっちも結局建て直した。
物資が行き渡るように、他国の商会を支援した。
王国騎士団の連中の反発を買った。
王国側の商人ともカチ合い、市場が混乱して市民からも恨みを買った。
最後はなんでかその商会同士が手を結び、合併。俺の領地を本店として両商会は再出発することに。
ここまでは、波乱万丈だったけど順調だった。
だが、問題が起きた。
「ま、その結果が今の俺ってね」
言い訳なんて今更する気はない。
俺はたくさんの経験をし、腐った。グレた。ロクデナシになった。
それだけだ。
そんなことを考えていたから、人とぶつかった。
謝る気なんてない。
俺にぶつかったことを後悔させてやる。
そんな気持ちでその人物をにらんだが、違和感がある。
「お前、その袋、なんだ?」
「ヒグッ!?」
その人物、頭からすっぽりとマントを被り、顔が判別できない。悲鳴から女らしいとは分かったが、問題はそこじゃない。
なんでそいつは、俺が買った焼き鳥の袋を抱えてんのかと。
「お前、コソドロか?」
俺の脅しに体を縮こませている女の腕を取り、捻る。袋を回収し亜空間にしまい、威圧する。
「あ、あ、ああ……」
おびえる声が実にソソる。
しかし触っている腕は、ガリガリだ。どうやら食い詰めた挙句に俺の食い物を奪おうと思ったらしい。
相手が悪かったな。
「憲兵に突き出してもらいたいか? あ?」
背丈からは成人している女だろうことが伺える。女なら女の武器を使って食い扶持を稼げばいいのに、なんでぬすみなんてチンケな犯罪を犯すのか。女ってのは本当に分からん。
だが、そんな女に嫌悪感を抱いている俺も、性別的には男だ。
商売女にも飽きて久しく発散させていないし、こいつをおどして抱いてしまおう。顔なんざ最悪布で隠してしまえばいい。
フルフルと首を振り、憲兵に連れていかれたくないと弱弱しく主張する女に、俺は言った。
「なら詫びろ。その身体で」
意味が分かったのか、分かっていないのか。
女は抵抗をやめた。
女を連れて俺は家へと戻る。
幅五メートルの狭い敷地に二階建ての一軒家。家の何割かが階段で占められている欠陥住宅で、かなり安かった。
俺がそこを選んだのは、風呂場があるからだ。狭さは、一人暮らしなら苦にならない。
「入れ」
家へと引きずり込み、そのまま一階一番奥の風呂場に突っ込む。
「これがシャワーだ。ここを捻れば湯が出る」
シャワーは原始的なタンク式だ。高い位置にあるタンクに湯を貯めて、それを低い位置で使うだけ。本当は湯を張るのが大変だが、俺は魔法で一発だ。
タンクだけでなく、湯船にも湯を張っておく。
「これが石鹸、これがタオルだ。服は、ボロボロだな。これを使え」
一通り準備をして、それから俺はマントを強引にはいだ。
「きゃぁ!?」
案外に可愛らしい声と共に現れたは、黒髪、そして、耳。
耳と言えば人にもついているが、俺が言いたいのはそれではない。
人間の顔に、頭には獣の耳。狐の耳だろうか、すこし尖ったそれは、作り物ではないことを示すようにペタリと下がっていた。
「ほう、亜人か」
半獣人、耳獣人と色々な呼び名があるが、全部亜人だ。
俺に偏見はないが、世間様ではそうではない、しいたげられて当然だと思われている種族。
俺にとってはどの種族もクソ袋でしかないからな。ある意味で、平等だ。
「このマントは臭いが取れんな。今度からこっちを使え」
俺の予備のマントを、着替えの上に置く。
戸惑う狐耳の女に、俺は言う。
「食いたきゃ働け。働くのなら食わせてやる。今は、お前が差し出せる唯一を俺に差し出せ。それで盗みの件はチャラにしてやる。その服もくれてやる。いいな?」
コクコクと頷く狐耳。
薄汚れているが、結構な美人だ。
これはいい拾い物だったかもしれんな。
「しっかり体を清めろ。ここの湯は全部使ってもいい。なめても大丈夫なくらい、身体をくまなくピカピカにしとけ。風呂を出たら、まずは飯だ」
風呂から上がった狐耳と飯を食い、今度は俺が風呂に入った。その間に逃げるかと思っていたが、狐耳は逃げなかった。
夕陽が差し込む二階の寝室で覚悟を決めた狐耳を抱いた。
感想は、骨ばって痛かった、だ。
折れてしまいそうだったので回復魔法をかけながらだったので、異様に疲れた。
相手が初めてで不慣れだったのもあり、みょうな罪悪感でよけいにストレスがたまった。
思いつきでやるこっちゃないなと、骨身に染みた。
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