騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

28

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 ――翌日。

 俺たちは指定通り朝にギルドを訪れた。

「よう、調子はどうだ? ……、昨日の今日でベッドから出てるとは、ありえん体力してんな……」
「あ、ああーー! おま、おまままままま!!」
「なんだそのひょっろい腕! わらえるー」
「わらえねぇよ! なんだよこれ!? お前、オレに何したんだよ!?」

 指定された時間のとおりにレポートを持ってきたのに、うるさいヤツだ。

「なにって、腕だろ? 生えたのか? びっくり人間だな!」
「お前のしわざだろーー!!」
「知らんな」

 まぁ、犯人は俺なんだが。
 ギルマスの右腕には、現在ヒョロッヒョロの腕がついている。ちゃんと動いているから自分の腕なんだろうが、左右のアンバランスさに、だめだ、こらえきれん。

「おはよう、カイ。いや、やってくれたね、本当に」
「プププッ! あ、ああん? なんだよ文句あるのか?」
「ないです。ないですとも! でも惜しかったね。ギルマスが痛みや不快感で悶絶するさまを見れなくて。あれはいい見物だったのに、すぐ帰っちゃうから」

 つなぐだけならともかく生やすのは神経を作り直したりもするから、沈痛や麻酔をせずそのまま再生させると痛いしかゆい。

 そんな俺に、サブマスが面白げにギルマスがいかに苦しんでいたかを楽しげに聞かせてくる。

「腕ができた頃にはやつれてて、そのまま気絶。ついさっきまで目を覚まさなかったんだよ?」

 再生させるといっても、いきなり何もないところから生えるわけでも、材料もなしに作られたりもしない。
 体中から素材をかき集め、その場所を作り直していく。
 それが俺の『リザレクション』だ。

「空気中のチッソや酸素、水素なんかを使って、地面に落ちてるカルシウムナトリウム、カリウムなんかの必要な要素をかき集めれば体に影響なく作れはするんだがな」
「それはすごいね」
「だが、激しく面倒くせぇんだ。ぶっちゃけダンジョン突破よりも面倒くせぇ」

 ごく微量の要素をかき集め、たんぱく質などの複雑な構成物質を作り上げ、それを人体になじませる。拒絶反応が出ないように組みかえたり、遺伝子いじったり。
 自分でやったことだが、あれは魔力の完全なムダだった。人体は、魔法で行うよりも効率的に自分の組織をくみ上げるものだ。だからこのヒゲハゲにしたように、自分の中からパーツを寄せ集めたほうが何倍も楽で、魔力の消費も少ない。

「それほどの魔法を……。それをギルドマスターに使ってくれたんだね。ありがとう」
「利用価値のあるものは、直して使うべきだろ」
「そのとおりだね。すり切れるまで利用しないとね」
「利用価値がなけりゃ用済みかよ! そもそもすり切れるまでって、ひでーよカイ!? アベルも!」

 ?
 利用価値がなければ用済みなど、何を当たり前な。

 しかし、『リザレクション』で体力を大幅に失っているのに元気なヤツだ。前衛は生命力にあふれすぎている。
 俺なんか足首から先を再生させただけなのに、歩けるようになるのに三日もかかったくらい消耗した。


 それはともかく、だ。
 亜空間から紙面の束を取り出してギルマスに投げつける。
 ギルマスはヒョロい利き腕で難なくそれをキャッチし、表紙を見つめる。

「それが今回の探索結果のレポートだ」

 時間ももったいないし、さっさと用件を済ませて帰ろう。
 とはいえ、これを渡してはいサヨナラ、とはいかないだろう。それなりに詳しく、俺なりに考察もいれたレポートだが、それでも当人に確認したいことも出てくる。あとで呼び出されたり、街中を探されてもめんどうだから、目を通し終わるまではここで待つのが効率的だ。

「ほう。さっそく見させてもらおう」
「好きにしろ」

 ギルマスの病室は、立場が立場だけにさすがの個室だ。それももっとも高級な部類の部屋で、イスも大量に用意されている。
 イスを三脚用意し、姉妹に指示を出す。

「キャス、茶をいれろ。シスは座れ」
「かしこまりました」
「はい」

 シスは人見知りするタイプだ。こういう場では大人しくさせておくほうが、めんどうが少ない。

「お嬢さんは茶も入れれるのか……、ほー、魔法で湯を沸かしてるのか……。ん?」
「おや、おかしいですね。彼女は風の魔法を使っていますよ?」

 ……ギクリ。

 しまった。不用意に魔法を使わせるべきではなかったか。

 シスが作った摩擦魔法。風をこすり合わせて温度を上げるこの魔法は、練習次第では二百度ちかくまであげられるだろうと俺は読んでいる。
 そうなると、ノンオイルフライヤーを用いた時と同等の調理が可能だ。だから今、我が家では積極的にこの魔法を使うようにしているが、それが仇となった。

 これを根掘り葉掘り聞かれると困る。

 だが、俺が思っていた以上にギルマス親子は豪胆だった。

「腕が生えたのに比べりゃ誤差だろ」
「腕は、さすがにね。王家の耳にでもはいったら、めんどうになりそうです」

 くっつけるだけならともかく、生やすのはやりすぎたか。
 そんな俺の気持ちをおもんばかってか、ギルマスがヒョロい腕をポンポンと叩く。

「ま、オレの千切れた腕を誰かが持って帰ってたことにすりゃいい。これは、墓まで持っていく」
「ボクもです」

 ああ、そうかい。
 チッ。気を遣わせたか。

「それにこのダルさは、並みのモノではたえきれんだろうな」
「泡ふいて気絶でしたからね。あれは爆笑モノ、いえ、大爆笑モノでした。思わず指差して笑ってしまいましたからね」
「アベル、そりゃひでぇよ!?」

 親子の語らいにわってはいるほど、俺は無粋ではない。
 面倒だからかかわらないようにしてるなんて、そんな理由では、断じて、そう、断じてない。
 だからギルマスは救いを求めるような顔をこちらに向けず、さっさとレポートを読め。


 キャスが差しだしてきた茶をすする。
 思ったより安物の茶葉に顔をしかめつつ、ギルマスをせっつく。

「それよりさっさと読め。最低限、答えられる範囲でだけ答えてやる。追い回されちゃかなわんからな」
「それは助かる。お前のレポートに不備などないだろうから、オレから確認すべきは、この一点だな」
「なんだ?」

 そう答えたが、これは、ギルマスの威圧だろうか。
 魔力と生命力を乗せた力強い眼光が俺を射抜く。

 効かんが。

 そしてキャス、反撃とばかりに殺気を放つな。
 シスはどうして間合いを取ってる? そこはお前の得意な中距離だろうが、この男からしたら圏内だぞ?

「おっかないな! 別に変なことは聞かないぞ!? マジモード、いや、仕事モードなだけだ」
「ええ、こんなナリでもギルドマスターですから、こんなナリでも」

 それでも警戒を緩めない天狐姉妹の様子に俺も戸惑う。
 そもそもこいつらは何を警戒してんだ?

「養子にしたいと変態が言いだすのかと思い、警戒をしてしまいました」

 言うかよ!?
 さすがにこの空気で、言うかよ!?

「オレのものにならないかって言ったら、ぶっとばすから。旦那様は安心して」

 いわねーだろ!?

 いうわきゃねーーだろ!?


「チェッ。お前さんのとこのお嬢ちゃんは、カンがするどいな。わかったわかった、オレの負けだ」


 ギルマスの威圧が、霧散した。


 言うつもりだったのかよ!?

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