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第一章
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「あらためて、オレが聞きたいのはただ一つ。名前を出していいか?」
「ダメだ」
ダメに決まってんだろ。
頭は大丈夫ですか? と右人差し指でこめかみをノックする。
「そうか……。なら今のうちに言っておくが、ギルド本部には名前がとどく。こればかりはオレでも止めようがない」
「ギルドカードで記録されてるからそこは諦めている」
「そう言ってもらえると助かる。助かるが、助けてもらった身で言いたかないが……」
何がいいたいのかは、察しが付く。
同じような息をもらし、言葉を繋げる。
「ふぅ、タイミングが悪かった、か?」
「ああ。丁度いま、お前さんの能力の査定をしているところだ。二等級相当だと知れたちょくごにこの戦果。最悪は一等級に格上げもありえる」
一等級。
連合国単位の大英雄。勇者や格闘王、聖騎士といった各種属性騎士と同等の人間マップ兵器。
あらゆる理不尽を跳ねかえす、人類の切り札であり、希望の象徴。
国をまたぎ、出動要請もある。
「が、俺が一等級なんざあるわけねーだろ……」
なれるのは前衛だけだ。
むしろ前衛だから、なれるのだ。
ギルドのトップ連中のみならず、二国の王の承認が必須なのだから。
「そんなことはないぞ」
「なかったとしても、だ。目立ちたくねぇ、めんどくせぇ」
仮になれても面倒が増えるだけだ。緊急時にさまざまな国から招集され、戦わされる。
面倒きわまりない! ちょう、めんどう!!
「だから逆になれないほうがうれしい。そうだな。今回の報酬はそれだ」
「一等級にならないようにするのが報酬だと言うのかい? それは面白い吹っ掛け方だね、カイ」
「そうだろ? お前らの腹もいたまない。俺もうれしい。双方ハッピーだ」
俺の事情をわずかでも知るこいつらと違って、上の連中は知らない。
等級が上がるのを他の冒険者連中と同様に純粋によろこぶと勘違いしていることだろう。
その本部連中に説明する気もないが、やはり面倒な展開になった。
それで、もの言いたげなヒゲハゲは何を言うつもりなのか。
「カイは、人をすくう可能性を、隣国をふくめたこの国に放棄しろと言うのか?」
「とおい赤の他人なんざ知らん。勝手にのたれじね」
とくに隣国はイヤだ。あそこには土下座されてもいかない。
「そういえばお前さんは騎士の国出身だったな……そりゃ拒否もするか」
「そうなのですか? カイ、君は……いや、なんでもない」
フン。
前衛至上主義のあの国は、国の一大事だとしても魔法使いなんざまず呼ばないだろう。
それでも可能性がゼロでないなら、全力で拒否だ
拒 否 !
「俺は仕事をこなした。だからとにかく、あとはお前らがどうにかしろ。キャス、シス、帰るぞ」
「はい」
「分かりました」
シスの返事が固い。
まぁいい。気にはなるがとっとと移動しよう。
シスの動きが大通りに戻ってからも、固い。昨日おとといなら、食い物の露店にフラフラと進みそうになるのに今日はない。
一体何を考えてるやら。
それはともかくだ。今後の身の振り方について早急に考えなければならん……。
「逃げる選択肢もある。さて、どうするか……」
さり気なく目配せをして、双子の反応を伺う。
キャスは、ああ、そうだな。ついてくるんだな。
シスもそうか。
前までは連れていくのも面倒だから、どこかに押しつけようかとも思ったが、今となっては別だ。
こいつらの発想は、俺をさらに成長させる。
「三人で逃げるならなにが必要か」
考える。
身を隠すものは必須だ。今でもフードのみでは姉妹の出自バレの恐れがある。
容姿を変える魔道具でも作るか……。
悩める俺。
その俺の服を引っ張るは、双子の姉妹。
「おい! 考えごとをしてるんだから袖を引っ張るな!」
「あ、はい! すいません! うれしくってつい……。申し訳ありません、ご主人様」
「うん……」
……、あーー!!
「調子狂うわ!!」
ったく! なんなんだよお前ら!
そうこうしている間に、貸し工房に着いちまったじゃねぇかよ! まだ考えもまとまってねぇのに。
まいったな。
「いいか? 作業中は邪魔すんなよ!?」
コクリと静かに頷く天狐姉妹。
はぁ。何なんだこの姉妹は。
……、それでも捨てていく選択肢が出ない。
貸し部屋に移動し、入り口に鍵をかける。
天狐姉妹はロビーで待機中だ。上等なソファーとつい立てがあるから放っておいても問題はない。
「女はもう信じないって、決めてたのにな……」
姉妹がいないからか、つい心の声がもれた。なにやってんだか。
個室を丸々一つ、昼まで借りうけたんだ。気晴らしも兼ねて、こうなりゃトコトンやってみよう。
まずは容姿を変えるイヤリング。
発信機と防御機構を兼ねたアームバンド。
キャスのNINJAっぷりから、そうだな、投げクナイでも作るか。戻ってくるヤツ。
シスには魔法制御用のサークレットがいいだろうか。それとも違う形状がいいか。
フェイク用の収納ポーチに、俺も使っているガードベルト。
「どうせならアームバンドを多目的用に改造するか!」
ここ数日よけいなことが多くて気が滅入っていたが、やはり工作はおもしろい。
今まで避けていたが、こういう構造はどうだろうか。
ああいうのはどうだ。
ああ、それだ。それそれ。
一人怪しげな笑みを浮かべ、俺は作業に没頭した。
「ダメだ」
ダメに決まってんだろ。
頭は大丈夫ですか? と右人差し指でこめかみをノックする。
「そうか……。なら今のうちに言っておくが、ギルド本部には名前がとどく。こればかりはオレでも止めようがない」
「ギルドカードで記録されてるからそこは諦めている」
「そう言ってもらえると助かる。助かるが、助けてもらった身で言いたかないが……」
何がいいたいのかは、察しが付く。
同じような息をもらし、言葉を繋げる。
「ふぅ、タイミングが悪かった、か?」
「ああ。丁度いま、お前さんの能力の査定をしているところだ。二等級相当だと知れたちょくごにこの戦果。最悪は一等級に格上げもありえる」
一等級。
連合国単位の大英雄。勇者や格闘王、聖騎士といった各種属性騎士と同等の人間マップ兵器。
あらゆる理不尽を跳ねかえす、人類の切り札であり、希望の象徴。
国をまたぎ、出動要請もある。
「が、俺が一等級なんざあるわけねーだろ……」
なれるのは前衛だけだ。
むしろ前衛だから、なれるのだ。
ギルドのトップ連中のみならず、二国の王の承認が必須なのだから。
「そんなことはないぞ」
「なかったとしても、だ。目立ちたくねぇ、めんどくせぇ」
仮になれても面倒が増えるだけだ。緊急時にさまざまな国から招集され、戦わされる。
面倒きわまりない! ちょう、めんどう!!
「だから逆になれないほうがうれしい。そうだな。今回の報酬はそれだ」
「一等級にならないようにするのが報酬だと言うのかい? それは面白い吹っ掛け方だね、カイ」
「そうだろ? お前らの腹もいたまない。俺もうれしい。双方ハッピーだ」
俺の事情をわずかでも知るこいつらと違って、上の連中は知らない。
等級が上がるのを他の冒険者連中と同様に純粋によろこぶと勘違いしていることだろう。
その本部連中に説明する気もないが、やはり面倒な展開になった。
それで、もの言いたげなヒゲハゲは何を言うつもりなのか。
「カイは、人をすくう可能性を、隣国をふくめたこの国に放棄しろと言うのか?」
「とおい赤の他人なんざ知らん。勝手にのたれじね」
とくに隣国はイヤだ。あそこには土下座されてもいかない。
「そういえばお前さんは騎士の国出身だったな……そりゃ拒否もするか」
「そうなのですか? カイ、君は……いや、なんでもない」
フン。
前衛至上主義のあの国は、国の一大事だとしても魔法使いなんざまず呼ばないだろう。
それでも可能性がゼロでないなら、全力で拒否だ
拒 否 !
「俺は仕事をこなした。だからとにかく、あとはお前らがどうにかしろ。キャス、シス、帰るぞ」
「はい」
「分かりました」
シスの返事が固い。
まぁいい。気にはなるがとっとと移動しよう。
シスの動きが大通りに戻ってからも、固い。昨日おとといなら、食い物の露店にフラフラと進みそうになるのに今日はない。
一体何を考えてるやら。
それはともかくだ。今後の身の振り方について早急に考えなければならん……。
「逃げる選択肢もある。さて、どうするか……」
さり気なく目配せをして、双子の反応を伺う。
キャスは、ああ、そうだな。ついてくるんだな。
シスもそうか。
前までは連れていくのも面倒だから、どこかに押しつけようかとも思ったが、今となっては別だ。
こいつらの発想は、俺をさらに成長させる。
「三人で逃げるならなにが必要か」
考える。
身を隠すものは必須だ。今でもフードのみでは姉妹の出自バレの恐れがある。
容姿を変える魔道具でも作るか……。
悩める俺。
その俺の服を引っ張るは、双子の姉妹。
「おい! 考えごとをしてるんだから袖を引っ張るな!」
「あ、はい! すいません! うれしくってつい……。申し訳ありません、ご主人様」
「うん……」
……、あーー!!
「調子狂うわ!!」
ったく! なんなんだよお前ら!
そうこうしている間に、貸し工房に着いちまったじゃねぇかよ! まだ考えもまとまってねぇのに。
まいったな。
「いいか? 作業中は邪魔すんなよ!?」
コクリと静かに頷く天狐姉妹。
はぁ。何なんだこの姉妹は。
……、それでも捨てていく選択肢が出ない。
貸し部屋に移動し、入り口に鍵をかける。
天狐姉妹はロビーで待機中だ。上等なソファーとつい立てがあるから放っておいても問題はない。
「女はもう信じないって、決めてたのにな……」
姉妹がいないからか、つい心の声がもれた。なにやってんだか。
個室を丸々一つ、昼まで借りうけたんだ。気晴らしも兼ねて、こうなりゃトコトンやってみよう。
まずは容姿を変えるイヤリング。
発信機と防御機構を兼ねたアームバンド。
キャスのNINJAっぷりから、そうだな、投げクナイでも作るか。戻ってくるヤツ。
シスには魔法制御用のサークレットがいいだろうか。それとも違う形状がいいか。
フェイク用の収納ポーチに、俺も使っているガードベルト。
「どうせならアームバンドを多目的用に改造するか!」
ここ数日よけいなことが多くて気が滅入っていたが、やはり工作はおもしろい。
今まで避けていたが、こういう構造はどうだろうか。
ああいうのはどうだ。
ああ、それだ。それそれ。
一人怪しげな笑みを浮かべ、俺は作業に没頭した。
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