騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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 コンコン、コンコン、コンコン……。
 ノックの音がずっと響いている……。無視していたが、作業に集中できない。

 仕方なく、ドアへと振り返り声をかける。

「だれだ? ノってきたのに……」
「あ、あの……すみません」

 この声は、キャスか。
 神経を張り詰め過ぎていたためか、厳しい声色となっていた。ドア越しにキャスが怯えているのが伝わってきて、思わず肩の力を抜いた。

「……、なんだ?」
「あの、そろそろお時間ですので、お呼びにまいりました」
「なんだと?」

 改良型アームバンド、ペルセウスくんに搭載されている時計を見る。

「時間ギリギリじゃないか!」

 急ぎ道具を片付ける。
 道具の手入れはあとだ。全部亜空間に放り込んでサクッと掃除を済ます。

「おい、いくぞキャス!」
「はい!」

 部屋のカギを閉め、廊下を早歩きする。そして角を曲がった先にある職員スペースに入る。
 そこにいた中年女にカギを渡し、終了を伝える。

「終わったかい?」
「ああ、掃除も一通りやっておいた」
「アンタがいうならそうなんだろうね。ほれ、延長なしだ」

 どうにか間に合ったようだ。
 この貸し工房、商人ギルドが運営しているだけあり


 金にがめつい!!


「延長は四時間固定。料金倍額! あり得ん! 助かったぞ、キャス!」
「いえ、そんな……お役に立ててうれしいです」

 邪険にあつかっていたのに、まだそんな表情を俺にみせるのか……。
 変わったヤツだ。

 可能な限り威圧しないよう配慮しつつ、キャスに問いかける。

「シスの調子はもどったのか?」
「あの子はその、月のモノが始まってしまったので、少し元気がないですね……。一昨日に用品を一通り買っておいてよかったです」

 ……。

 生理かよ!!
 心配してそんしたわ!! ちょう、損したわ!!

「まぁいい。ところで二人に聞きたいが、いいか?」
「はい」
「大丈夫、です……」

 珍しくけだるげな返事を返すシス。

 シスは重い方なのか?
 ならさっさと済ますか。

「建前はいらん。本音で話せ。お前たちは今後も俺についてくる気はあるか?」
「一生おそばにいさせてください」
「迷惑じゃ、ない?」
「シス、俺がきいているのだ。だからお前は本音を話せ」
「いっしょにいたい! ずっと! ずっと!!」

 そうか。
 迷いもなく、ためらいもなく、どうしてそこまで俺を信じられるのかは知らん。
 知らんが、俺はお前たちを知ってしまった。
 お前たちは、俺を裏切らないだろう。

 人は、抱えるものが増えるほど、裏切りの機会が増えていく。
 逆に抱えるもののないこの姉妹には、きっと裏切る理由が出てこないのだろう。
 そう納得した。

「なら、そんな二人に俺からの支給品だ。受け取れ」
「プ、プレゼントですか!?」

 支給品だと言ったが?
 相変わらず話を聞かない、あるいは湾曲して受け取る姉妹に、亜空間から取り出した紐のようななにかを渡す。
 小首を傾げる姉妹に命令する。

「いいからつけてみろ。改良型多目的アームバンド、ペルセウスくんだ」
「ペルセウスくん……、かわいい」
「少しデザインをいじった。それなら付けていても華美にはならず、違和感がないだろう」
「すごいです。あ、あら? これは一体……」


「 み な ぎ っ て き た ぁ !」



 キャスはペルセウスくんの効果に戸惑っているだけだが

 シスは何言ってんだよ!?

「元気! 元気になったよ! ありがとう、旦那様!!」

 その場でぴょんぴょん跳ねるウサギのようなシスを見て唖然としてしまった。
 いや、これ、そこまで劇的に変わるような代物ではないはずなんだが?

 なんとかそれを姉妹に伝えようとしたが、中年女が事務室のドアから顔を半分だけのぞかせてにらみを利かせてきた。
 そのあまりの気持ち悪さに、頭を切り替えた。

「効果の説明はあとだ。ひとまず言えるのは、それには装着しているだけでスタミナや魔力の回復補助の力がある。シスが急に元気になったのはそのためだな」
「そうなんだー、って、何気にそれすごくない!?」
「そうですね。つけるだけでここまで変わるとは……」

 貸し工房屋を出て、歩きながら説明をする。

「盗難防止措置もしてある。他の者がつけてもただのブレスレットだ」

 盗んだヤツには電気ショックを。
 解析しようとするなら自壊し、爆発。
 知らずに付けても効果がでなくて意味がない。

「他にも渡すものがあるが、今はとりあえず飯だ、飯!」
「はい!」
「おーー!!」

 さて、今日の昼飯は何を喰おうかな。
 何を、食おう、かな?
 顔を巡らせめぼしい何かが目につかないか探っていると、横合いから男たちの噂話が聞こえた。

「おい! なんでもK=インズ商会の副会長がこの街に来てるんだってよ!」
「マジかよ! K=インズ商会ってあの貴族御用達のデカい店だろ? こんな冒険者の街に何の用なんだ」
「さぁな? 人を探してるってうわさだが……。 そういやあそこは冒険者向けの商品も扱ってんぞ? ほれ、あのデカい建物がそうだ」
「あんなとこの商品なんて、高すぎて手がでねぇって!」
「でもよー、質がいいんだ。余裕があるならあっちの方が丈夫で長持ちするから、倹約になるぜ? その日暮らしで酒代に消えてるお前にゃ一生かかっても無理かもしれんがな! わっはっはっはっは!!」

 ……。
 K=インズ商会。
 それはかつて、俺が支援していた商会の名前。
 紆余曲折をへてケルビン商会とインサバラ商会が合併した商会。
 それぞれの名前を取ったら俺っぽい名前になっているが、それは俺とは関係がない。

「K=インズ商会か」
「ご主人様はその商会をご存知なのですか?」
「有名だからな」
「そうなんだ! さっすが旦那様!」

 そうだな。わりと細部まで詳しいぞ?
 三年近くテコ入れしてたからな。

「ご主人様、馬車です」
「おっと」

 考えごと、というよりは暗い過去を思いだして注意力がさんまんになっていた。あやうく馬車がとおる目前を突き進むところだった。
 ふむ、豪奢な馬車……だな……、ん?
 これは、K=インズ商会のエンブレム。商会の馬車か。
 そうなるとこれは例の副会長が乗っている馬車だな。

 ま、俺には関係ないことだ。
 手紙や部下を介してのやり取りだったから、あの商会で俺の顔を知るヤツなんて会長以外にはいないだろう。

「なのになぜ、俺の目の前でその馬車がとまるのか……」

 イヤな予感がする。
 馬車というのは車高が高い。だから御者がタラップを用意しないと中の者はおりてこない。だから今ならそっと逃げられる。
 そのはずなのに乗っていた者は馬車のドアをあけてすぐに飛び出してきた。

 ― しかし、まわりこまれてしまった ―

 みごとな着地をきめたその姿には見覚えがある。

 マジかよ。

「もしかしてあなたは、坊ちゃんじゃないザマスか!?」

 回り込んできた男は、かつての部下であり、商人になりたがっていた元騎士、マッケインだった。


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