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第一章
27.5
しおりを挟む――ギルドのとある病室。
「終わったぞ」
「開口一番なんだ? 何が終わったんだ、カイ?」
「だから、ダンジョンを踏破してきた」
ベッドで上体を起こしたヒゲハゲが口をあんぐりと開けておどろいているが、そこまでおどろくようなことではない。
俺がやると言ったのだから、完遂して当然だろう。
慌てた様子で周囲を見渡すヒゲハゲが、動揺のためか頭部をガクガクと揺さぶりながら口を開く。
「ほ、報告を! 詳しい報告をしてくえあガッ!?」
頭を揺らしながらしゃべったものだから、ヒゲハゲの口から血がしたたり落ちた。
「舌をかんで絶命したか……二度と化けて出てくるなよ? さて、腐る前に燃やすか」
「死んでないから!? オレ、過去も今も死んでないから!? だから燃やさないで!?」
あー、めんどくせぇ。
身を乗り出してくるギルマスを片手で押しのける。
説明するの、めんどうなんだよなぁ。
そんな俺の気配を察知したのか、キャスが説明役にと名乗り出てくる。
「あの、私から、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ、なんだお嬢ちゃん?」
キャスが挙手をして、何か物申したげにヒゲハゲへと話を振っている。
キャスはいったい何を言い出すつもりなのか。
いや、こっちにウィンク投げてきても分かるか! 読み取れるか!
ただ、手を胸に当ててポンポンと叩いているから、お任せくださいと言いたいのだろう。
任せたくない。
お前の信用度、いま限りなくゼロに近いからな?
それなのに、なんでそこでドヤ顔なんだよ!
そんな思いも、めんどうくささが勝り口からは出なかった。
「簡潔に申し上げさせていただくと、ダンジョンコアを破壊し、ダンジョンを踏破しました。当面、スタンピードの心配はありません」
「この短期間でか!? カイはやるヤツだと思っていたが、こりゃ本格的に二等級以上の実力者ってこったな。本部にはモロバレだ」
あ……。
その問題をすっかり忘れていた……。頭が痛いな。
「それで、ご主人様がなぜこうもお急がれているかと申しますと」
「お、おう……。もしかして、また次の問題が起きたか!?」
キャスは静かに首を振る。こうして落ち着いて丁寧に対応していると、どこかデキる秘書のような雰囲気がある。
戦う様子はNINJAなんだが……。
「緊急の問題はなかったかと思われます。そうですよね?」
「そうだな」
そもそも、ダンジョンのこまかな調査や研究は俺の領分ではない。
そういう意味でも、今回はこれ以上俺が関わるべき問題はない。
闇のダンジョンと判明した事や、その他の問題?
そんなのは知らん。
「なら、なんだ? 風呂はいって家にはやく帰って寝たいのか?」
そんな理由で急ぐとか、俺のことをなんだと思ってんだよ。
「そうです」
そうだねー。俺ってそんなイメージだねー。
キャスぅぅぅ!?
思わずキャスの正気を疑おうと顔をグルリとそちらへ向けたが、慈悲深い神官のような表情を浮かべたキャスが、まるで俺を神だと崇めるかのような態度で己が見解を語った。
「ここは病室です。探索明けのままでは皆さんが病気になる危険があります。だから身を清め、明日、またうかがいたいと考えているのです」
……。
キャスぅ、お前、なんでそれを……。
くそっ、随分と美化されているようだが、それでも図星だから否定できん。
そしてこれを聞いたヒゲハゲも、左手であごをさすり、肩眉を上げて理解を示した。
「んー、そうか。そういう事情であれば、報告書は明日、持ってきてくれ。時間は、わるいが朝に頼む。それを読んで、オレが事態の終息宣言をだす」
「ッチ! めんどくせぇな」
今が三時ごろだから、家に帰って風呂はいって、それからレポートを書けば夜には終わるか?
頭の中でそんなスケジュールを描く。
「すまないな。だが、事態が事態だ。ここの騎士団にも調査結果を待ってもらっているんだ。こればかりはオレの一存で先延ばしにはできん」
「……はー、分かった分かった。やっとく、明日朝もってきてやる」
「たすかる。って、たはは、腕がないんだったな」
そんなよう。
右腕ないのに腕組みしようとして空打って苦笑いなんてされちゃ、イヤだとは言えねぇだろ。
「腕は、痛むか?」
「いいや、大丈夫だ。心配してくれるのか!?」
「あったりまえだろ。お前が盾にならなきゃ誰が上のめんどくせー問題を片付けるんだよ」
「お、おう。なんか納得いかない理由だが、ありがとう」
利用価値の高いヤツにゃ、簡単に死なれたら困る。
ドアの向こうに人の気配……。これは、あいつか。
「む? 誰だ?」
「ボクです」
「アベルか。入ってくれ」
「失礼します。おや、カイ。もう終わったのカイ?」
「それはダジャレか? 終わったぞ」
「そうなんだ、さすだがね。いやはや、ダジャレを真顔で返されるとつらいね、心にとてもひびくよ」
ならくだらねぇこと言うなよ……。
「カイの報告は明日朝だ。終息宣言を出す準備をしていてくれ」
「了解しました」
そこまで決定しているのなら、もう報告書は要らないんじゃないのか?
言ったらまたこじれるだけだから言わないが、どうにも腑に落ちない。
「じゃぁ俺は帰るぞ」
「おう! ありがとうよ! おっ、どうした、そんな近くに来て。頭を撫でてほしいのか?」
「はぁ? 寝言は死んでからいえ」
利き腕なくしたってのによくもまぁ呑気なもんだ。
ったくよ。
「おらよ、じゃあな!」
俺はギルマスの右手の傷口を魔力を込めて思いっきりたたく。
ベシンと、小気味よい音がした。
「あいたぁぁぁ!? アガガガガッ! おま、おまえ!!」
「カイ、さすがにそれはやりすぎじゃないかな?」
うるせー、ばーか。
「お大事にっと」
キャスとシスを連れて外へと出る。
「あの、最後のは回復魔法ですか?」
キャスめ、目ざといな。
「まぁな。あいつがあのままだと今後、色々と困るかもしれんからな」
「そうなのー?」
そうなのだ。
ギルドマスターは、そのギルドの支部の戦力の一つとしてカウントされている。
普段使いはできないが、緊急時にはデバれるように。今回もスタンピードの件で緊急にデバってたが、それがあのままだと左遷されかねない。
「今の状況で他のヤツがくると面倒だ。リハビリは必要だが、あれであらかたの問題は解決だ」
「そうだったのですね。ご主人様はあのギルドマスター様を信じておられるのですね」
「……キャス、信じるってのにも段階があるんだ。分かるな?」
シスが大いに頷いている。
人見知りが激しいシスだからこそ、余計に分かるのだろう。
「あいつはほかのよく分からんヤツよりは、信じられる。それだけだ。もっとマトモなのがいりゃすげ替えたっていい」
「はい」
「かしこまり!」
そんなニマニマして、分かってんのかよ……。
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