騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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「とても有意義な会食でした」
「俺もあらたな語録が増えてうれしかったザマス。またご招待させていただくザマス」
「旦那様ー! また来ようね!」

 何が悲しくて俺の過去を詮索されねばならないのか。
 もう来たくありません。

 さすがの俺も悪態を止められない。

「結局俺が会長かよ……、何もしなくていいって言うんだから様子見はしとくが……」

 働かない会長。それはアリなのだろうか。
 前世の偉い人たち、会社の会長とやらは、何をしていた人なのだろうか。

 それと、もうすでに億万長者なんだが、いいのだろうか。
 特許料だとか何とかで莫大な金額をもらったが、あの商会はどれだけもうけているのか考えるのがこわい。
 今日受け取った金額は、まだ報酬の一割にも満たないそうだ。

 そこの所、どう思う? と姉妹に話を振れば、平然と逆意見を返される。

「ご主人様を正しく評価できる方がまた一人発見できて、うれしいです。しかもあの報酬額。いえ、あれでもまだ足りないかもしれないですね。ご主人様の可能性は無限大ですから」
「そうかい」
「本当にね! あそこの人たちはいい人たちばかりだ、うんうん!」

 今日受け取った額、この辺ならかるく見積もっても貴族街に豪邸が新築で立つ金額。
 ちなみにそれは上位貴族、公爵やら伯爵やらの年収に匹敵する額でもある。
 大金などと言う言葉が軽く感じられるほど、文字通りけた違いの報酬額。

「だが、これ以上のもうけを商会が出している。だから貴族位を報酬に、なんて話が出たのか」

 この短期間で一体どこまで販路を牛耳ったのだろうか。
 ヘタをしたらこの国を乗っ取れるレベルで急成長していたのかもしれない。俺の手を離れてから、随分と無茶をしたのではなかろうか。

 想像を巡らせ、商会の現在の立場を徐々に理解する。
 金額に対して、ようやくその価値が俺の中で浸透した感じだ。

「これは、使えるな」

 それだけの権威をもつ商会なら、国外逃亡の手も大量にもっているだろう。
 その手を使えば商会は破滅だろうが

 知ったこっちゃないな!

 俺が会長?
 知るか! 押し付けられただけだ!!

「ご主人様がまた悪いことを考えている顔しています」
「でもでも、絶対悪いようにはならないよねー」

「くっくっくっ……」

 それはともかく、だ。
 先ほど聞いた故郷の話が本当なら、どうしたものか。
 頭に手を当て、ゆっくりと思考する。怒りや憎しみに染まらぬよう、慎重に、慎重に検討をする。

「父上とナトリは心配している、か」

 どうにもそんな気はしていた。
 父上はなんだかんだいって不出来な俺のことも気にかけてくれていた。妹も、なんだ、ブラコン気味だったからな。

「ナトリは俺を探して放浪中か。いずれは会うかもしれんな」

 あと、おどろきだったのが領地のことだ。
 俺を追い出した王国騎士団の不正が発覚し、全員が処刑された。それも一族郎党すべてだ。

 その中には例の第三王子とオーレリアもいた。

「わずか三年で公爵家が一つつぶれ、第三王子も斬首か。激動だな、あの国は」

 騎士の国と呼ばれるだけあり、不正を極端にきらう気風がある。だが、それにしたって皆殺しはやりすぎだろう。一体どこから圧力がかかったのか。

「どう考えてもK=インズ商会からだよなぁ。はぁ……」

 騎士の国はその特性上、みなが大量に飯をくらう。馬もとうぜん軍馬だから、大ぐらいだ。農民が少なく、大ぐらい。
 だから食料の大半を輸入に頼っている。
 どうやらフリーズドライ製法は、あの国に対して絶大な効果を発揮していたようだ。
 それを少し、ほんの少し供給量を下げると言っただけで、おそらくこうなったのだろう。


「ま、いいか、そんなことは」

 今さら名誉回復したので戻ってこいと言われても、はいそうですかと素直に戻る時期は、俺の中でもうとっくに過ぎている。

 それに、頭をつぶしたとしても、領民の不信感はぬぐえていないだろう。亜人たち、それと一部の騎士たちはそうでもないが、住民の八割をしめる人間は、俺が魔法使いだというだけでも許せないそうだ。戻っても針のむしろなら、戻らないほうがずっといい。

「チッ、イライラするな……」

 姉妹を抱くか?
 いや、シスの調子がわるいんだったな。
 キャスだけ抱くのはバランスがよろしくないし、どうするか……。
 こうなれば商売女でも……。

 立ち止まり、この憤りを解消する術を模索していると、腕を取られた。
 この柔らかさは、キャスだろう。
 知った相手なので無視をしていたら、耳元でささやかれた。

「ご主人様?」

 キャスの声が、微妙にドスが利いてなんだか怖い。
 反対側からはシスがささやく。

「ダンナサマァ?」

 あまりに無機質な声に、思わずシスを見れば、目から光沢が消えていた。

 俺を両側からはさむ天狐姉妹が、そのまま連行しようとする。
 抵抗しようにも、突然の事態で振りほどけなかった。


「さぁさぁ、帰りましょうご主人様?」
「フ、フフフフフ……イイコト、してあげる?」

 あ……


 アッーーーーー!?





 ――翌朝。


「ご主人様、今日のご予定は?」

 ……。
 お前、昨日俺にあんなことしといてよくもまぁ平然と……。
 くっ、思い出しただけで背筋がゾクゾクする。

 俺は、考えるのをやめた。

「……。そうだな、……とりあえずギルドだ。ギルドで進捗を聞いてから考えよう。そこで問題がなければ、マッケイン! あいつをシメる!!」

 俺に内緒で姉妹に余計なモン持たせやがって下さったお礼参りをしなければならない。

 何が

「夫婦の倦怠期に使われるすばらしい道具をゆずっていただいたのです」

 だ。

「倦怠期じゃねぇし! そもそも夫婦じゃねぇし!」

 その後ギルドへ向かうと元気ハツラツなギルマスに人気のない会議室に連行され、二等級昇格を言い渡された。

「お前さんが危惧することはなにもない! 大丈夫だ!」

 ほんとかよ、とジト目を向ければキレイなサムズアップをされたので、その親指を折っておいた。

「ひでぇよ!? イテテ……。いや、なんだ。オレのカミさんが動いたんだよ。だからもう心配いらねぇ」

 こいつより強い元二等級冒険者が動いたのであれば、言う通り大丈夫なのかもしれない。

「なんかえれーカイのこと気に入ってたんだが、何か知ってるか? あんな上機嫌なカミさん久しぶりに見たぞ」

 会った事もないのに、知るかよ。


 そのあとはK=インズ商会へと立ち寄る。

「また来てくださるとは、このマッケイン、感激ザマス!! 坊ちゃんのますますのご発展に感動ザマぶはああああ! 愛がいたいザマス!? ゲンコツはさすがにいたいザマス」
「愛ではなく、にくしみだ」
「表裏一体の感情ザマスね。分かるザマスよ!」

 なにも伝わってはいなかった。

「本気で憎いんだよ! お前、おま、なに純粋無垢な天狐姉妹にあやしげな道具渡しちゃってくれてんだよ!」
「あれも坊ちゃんが考案していた道具ザマスよ?」

 ……。マジかよ。
 何してくれちゃってんの、過去の俺。

「ちなみにこの国のお貴族様にはたいそう人気の道具ザマスよ。痛くないし、新鮮さも味わえると大好評ザマス。坊ちゃんの考案した道具のお陰で、わが商会もこの国でものすごい便宜を図ってもらっているザマス! お貴族様を動かす神がかり的な道具ザマスよ!」

 お、おう、ピーをピーるピーや、ピーをピーに入れるピーが大好評なのか。

 あー、この国は平和だなー。

 ……。

「分かった分かった。それならそれでいい」
「坊ちゃんは、坊ちゃん自身の偉業をまったく分かっていないザマスね」

 そんなことはいいから、この手紙を父上に届けてくれ。

「ああ、それと新しく家が欲しい。ひろくて、そうだな……どうせなら調薬や鍛冶ができる施設がついた家がいい。それでいて目立たないヤツを探しておけ。風呂は、必須だ」
「かしまりましたザマス! 午後には物件を紹介させていただくザマス!」

 いくらなんでも仕事が早すぎる。
 あと一時間もないのにどうするつもりなのか。
 考えたくはないが、思考を読まれ、予め用意されていた可能性がある。

「その間、食事でもしながらお待ちいただけるとうれしいザマス」

 悩む間に疑問を挟めず、押し切られた。


 案内された店は、さすがは高級料理店だった。海の幸山の幸がてんこ盛りで全員大満足だった。
 空腹だったこともあり、手前から順に食すことにした。

「あ、それ虫だよ?」

 エビだと思ってかぶりついていたんだけどなぁ……。
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