騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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 ――数日後。


 結局のところ、ダンジョンはダンジョンだった。

 あれから領軍冒険者混合の調査団がダンジョンを調査し、最下層まで調べた結果、俺の予想通りの結論にいたっていた。
 このダンジョンは、闇を司る上位のダンジョンだと。
 階層の浅さ、二百年もの間沈黙を保っていたこと。それらにより人は慢心していた。


 だから俺は、このダンジョンは閉鎖されると思った。
 なんせ闇属性の魔物の一部は気配察知が効かず、魔力感知をするしかない。魔力感知をできる者は、前衛ではごく少数、それも欠陥間際と言われている才能六四の連中だ。

 初心者用のダンジョンから一転して、国が適度に間引かなければならないほどの危険な高難度ダンジョンへと生まれ変わった。
 ダンジョンが利用できなきゃ、この街での冒険者は半分終わったようなもの。そいつらも俺も、よその街へ移動しなきゃならんのかと考えていた。

「なのに、なんでまぁ、こうなったのか」

 どうやら俺が思っていたよりも、ここの領主はふところが広かった。

「まさかプライドも何もかなぐり捨てて、魔法使いの地位向上を約束するとは、な」

 今まで不当な扱いを受けてきたであろう魔法使いをほぼ全員呼び出して、貴族である領主自らが今までの扱いを謝罪。一般市民としての地位を約束するかわりに、今後はダンジョンの探索に力を貸してほしいと提案した。
 そしてこの提案には、マッケインも一枚かんでいた。
 マッケインが、ひとまずのダンジョン探索に必要な、有能な魔法使いを用意していたのだ。
 俺や天狐姉妹には劣るが、それでも五等級のパーティなら不意打ちを食らわない程度には手練れの魔法使い。

 いつの間にそんな人材を用意していたのかと驚いたのだが……。

「昔俺が提案していた、魔法使いのための学校、魔法学院をひそかに作って魔法使いたちを匿っていたとはなぁ」

 フリーズドライ製法はこの時代にそぐわないハイテクノロジーだ。その再現に魔法使いの協力は必須で、そのために保護していたと言っていたが……。

「すべては坊ちゃんのためザマス! すべての道は坊ちゃんに通じるザマスよ!」

 どう考えても、魔法使いである俺のためのようだ。
 前衛至上主義、騎士至上主義に疑問を持つからこそなのだろうが

 実にウゼェ。

「やるなら黙ってやれっての! 褒めろと主張するな! うっとうしいわ!」
「俺は坊ちゃんが幸せなら、それで幸せザマスよ!!」

 うぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


 とは言え、キャスシスの地位も向上するのはありがたい。
 彼女らはただでさえ亜人というハンデを背負っているのだ。せめて有能な魔法使いというメリットが活かせる環境でなければ生きづらいだろう。
 そういう意味では、そうだな。
 今このタイミングでこうなったのは、ベストタイミングだった。

「ご主人様、お代わりはいかがですか?」

 おう、もういいぞ。
 だからその、蜘蛛の足っぽいの、ちょっとどっかやっててくれ。

 魔境の森で一年間暮らしてきた俺だ。ゲテモノだって食ったさ。
 だが、街の中にいてまでゲテモノをくう気にはなれん。

 だからシスもそのエビっぽい昆虫の肉を俺に差し出してくるのを、やめろぉぉぉ!!
 口元に押し付けるのやめろよぉぉぉぉ!!

「おいしいのに……」

 ああ、うまかったさ。

 うまかったさ!

 だが、俺は街の中でくらいまともな物を喰いたいんだよ。
 選択できる自由があるのに、なんでそっちを選ばにゃならんのだ。




 ――ギルド。

「おう、ヒーロー、よく来たな!」

 ヒョロっとした右手を掲げてあいさつをしてくるのは、最近よく受付に顔を出すようになったギルドマスターだ。
 今は忙しいらしく、こちらに構っている暇はないようで近寄ってこなくて安心した。

 ふむ。
 あいつの腕を見ていると、いかに天狐姉妹の体が異常か分かるな。
 天狐姉妹はもう同じ年頃の女と変わらないふっくらとした体型になっている。ふと過ぎず細すぎず、抱き心地はかなりいい。
 しぼんでいた胸も、シスはふくらんだ。キャスは、察しろ。

「ご主人様?」

 ああ、分かってる。そういうのも、いいもんだ。大和なでしこっぽく着物が似合いそうで俺は好きだぞ?

 だから、俺は良さを分かっているから、静かに殺気を放つな。
 最近キャスの行動に遠慮がなくなってきた。

「やぁ、久しぶりだね」
「ん? だれだ、オバ……ッ!?」

 オバサンと言おうとしたが、無理だった。
 あまりの殺気、怒気、怖気、冷気にその先が口に出せなかった。

 って、やべぇ。こいつ前に商店街であった飴ちゃんオバサンじゃないか。

 くっ! ビビってんじゃねぇぞ、俺!
 なんのために普段からツッパッてると思ってんだ!!
 ビビったら負けだ! 気合入れろ、オラァ!!


「あ、ああ、久しぶりだな。飴をくれた、おねえさん」

 ……。


   ン無 理ィ !

「覚えていてくれてうれしいよ、ボ・ウ・ズ」
「クッ! 実際に間近で見ると、たしかに若い!」

 恐怖のあまり、俺、変なこと言ってるなぁ!

「はぁ? は、あははははははは!! そうかい、そうかい!! かわいいぼうやだねぇ!!」
「ギャーーー!?」

 万力のような力で抱きしめられた。
 なんてバカ力だ。

 し、死ぬう……。

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