騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――二日目。

「さすがに初日のようにはいかんか」

 二次予選。今日も順調な滑り出しをした俺だが、俺の魔法を真似た連中が食いついてくる。
 そいつらが結構上手く、いつ追い抜かれてもおかしくない距離を保たれ続けている。

 ならばここは……こうだ!

「おっと、先頭を走っているゼッケン百番、妙な場所で減速しましたね? 後続車に道を譲ったようです。何が狙いなのでしょうか」
「カーブよりも少し手前ザマス。なにか思惑でもあるザマスね」
「あーーー!! なんとゼッケン百番を追い抜いた車同士がクラッシュ! カーブを曲がり切れずにお互い接触してしまった!」
「そこを悠然と回避して再びトップに立ったザマスね」
「後続も事故車のせいで思うようにカーブを抜けれない! これはテクニカル! テクニカルだぁ!!」

 肉ダルマが教えてくれた道幅の広いヘアピンカーブ。
 誰もがアウトインアウトで進む中、俺は道を譲る形で減速してイン寄りを維持する。
 そこをトップスピードで突っ込んできた二台が俺を外側から追い抜き、そして接触。
 そのままカーブの半分を占領する形で停車。

 狙い通りだ。

「最適なコース取りがあるのは分かるが、それに固執していてはレースでは勝てんぞ? クックック……」

 周りをよく見て運転しないとなぁ!
 わーーーっはっはっはっはっは!!

「ゼッケン百番、今ゴール! 決勝進出の一台が決まったぁ!!」
「当然ザマス」

 はー、気持ちよかった。

 いつものピットへインし、姉妹から歓待を受ける。

「はい、ぬれタオルです」
「おう、サンキュ、キャス」
「乾いたタオルだよー。ワシャワシャワシャー」
「シスぅ!? 人の髪を後ろからワシャワシャすんじゃねぇ!」
「ワシャワシャー! わー、すっごい汗。今日もあっついもんねぇ」

 話、聞けよ!

「ワシもワシャワシャするのじゃ……、届かないのじゃ!?」

 一人子供が飛び跳ねている……。
 元気なことだ。

 ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん……。

 ていっ!

 俺はソレにチョップを見舞った。

「痛いのじゃ!?」
「じゃかましいわ! 目の前で何度も跳ねんな! うっとうしいわ!」

 ショックって顔してるが、知らんわ!
 てかお前、いい加減帰れよ! 国から迎えが来てただろが!!

「いやなのじゃ! ワシは亭主殿と一緒にいるのじゃ!」
「その亭主殿って、そもそもなんだよ!」

 だいたいこいつは!
 もう我慢の限界だ!
 まとわりついてくる感じが妹に雰囲気が似てたからって、なんで俺が我慢しなきゃならんのだ!

 のじゃ を指差し一気にまくしたてる。

「ふざけるな! お前からは何も感じん! 俺への想いも、夫婦となる気概も、なにもかも! お前の言葉は薄っぺらで、軽いんだよ!!」

 キャスのように上下分離しても俺を助けようと思う忠誠心や、シスのように何でも信じる信義も感じられない。
 ただ物語のセリフを真似て読み上げるだけ、俺を持ち上げはしゃぐだけ。

 まるで子供だ。

 見た目だけではなく、心が実際に子供だ。

「俺とお前が夫婦だ? ふざけんなよ。お前は夫婦ってものを何も分かっていない! 上辺だけ取りつくろって、それがお前の夫婦の在り方ってもんなら俺はお断りだ!!」
「そんな……ワシは……」

 言いすぎた気もしなくはない。だが、これは誰かがいつか言わなきゃいけなかったことだろう。
 くそっ、どうしてこんな言い訳じみた言葉が浮かぶのか。

「ご主人様、少しだけよろしいでしょうか?」
「……、なんだ?」
「システィはその子をお願い。ではこちらで……」

 サイレントフィールド。俺のものよりは甘いが、それでも十分な性能の遮音結界を張ったキャスが、俺に見解を語る。

「あの子は無邪気です。だからその、言動に悪意はなかったのだと思います」
「そうだな。……それは俺も思わなくはない」
「はい、ですがそれが故に自分がご主人様に依存しているのだと気付いていなかったのです」

 依存か。なるほどそう言う流れだったか。
 キャスの柔らかな声に心が落ち着ていくのを感じる。

「力があり、権力もあり、お優しいご主人様が側にいたのです。大樹に寄り添うように、頼りたいと思ってしまうのは、幼いあの子には自然な流れだったのです」

 お優しい、のところに引っかかりを覚えるが、キャスの言い分なのでスルーした。


 無邪気で幼い純粋培養の姫。

「タチが悪いな。まるで疫病神だ。捨てても厄介。誰かに擦り付ける以外に対処はできないか」
「ええ、そうです。私もシスティも、それとなく注意したのですが聞き入れられず、結局止められませんでした。申し訳ありませんでした」
「どうしてキャスが謝る?」
「あの子を止められませんでした。ご主人様に不快な思いをさせてしまいました。これは、私たちの責任です」

 うん?
 これはつまり、のじゃ を擁護しているのではなく、障害を排除できなくてごめんなさいしているのか?
 物理的に排除しなかったのは、俺があいつに気を使っていたから、か。

 天狐姉妹はあくまで俺至上主義。実は のじゃ は眼中になく、仲間意識すらなかったのか。これは恐れ入る徹底ぶりだな。
 二人の忠誠心のお陰で、完全に冷静さを取り戻せた。

「分かった分かった」

 これ以上 のじゃ を責めると、回りまわって天狐姉妹にも影響が出そうだ。
 遮音結界を解除させ、俺はシスに頭をなでられている のじゃ に近づく。

「おい、ブリュンヒルデ」

 という名前だった気がする。

「……ふぁい」

 返事があった。どうやら間違っていなかったようだ。思わず小さくガッツポーズ。
 話を続ける。

「お前にとって、夫婦とはなんだ?」
「ワシにとっての夫婦は……、父上と母上じゃ」
「それは、違うな」

 ああ、そうか。こいつ、そんな所から勘違いしているのか。
 いらだちを抑え、噛みしめさせるように、思い知らせるように、ゆっくりと言い聞かせる。

「夫婦ってのはな、赤の他人同士がつながるってことだ。お前にとってその二人、両親は家族であって、赤の他人じゃない」
「赤の他人……?」
「そうだ。つまり、裏を返せば夫婦になる前は他人だ。だからまずお互いを知る必要がある」

 それをいきなりすっ飛ばして、何もかも分かったようにふるまうのは夫婦ではない。

「そうじゃったのか……、ワシはなんて酷い勘違いをしておったのじゃ」
「王族なら教育を受けているんじゃないのか?」

 首を横に振る。
 知らなかった、か。

「旦那様、たぶんだけど、成人の儀が終わってから教育するつもりだったんだと思うよ」
「なるほどな。その教育を受ける前に飛び出してしまったから、知識が抜けているのか」

 それはドワーフの国の連中も気が気ではなかっただろう。触れてもダメ、放置していてもダメとなれば、本当に疫病神だ。
 ボリボリと頭をかき、どうしたものかと思案していると、見慣れた者が近づいてきた。

「おや、空気が重いザマス?」
「マッケイン、お前、解説はいいのか?」
「今日はもうあがりザマス。ところでこれはどういう状況ザマス?」

 普段は空気を読むヤツが、空気を読まない発言をしている。
 こいつ、絶対近くで聞いていたな?

「ちょっと来い」
「はいザマス」
「かくかくしかじか」
「それではさすがに分からないザマス……」

 聞いていたくせに白々しい。

「でも、以心伝心ザマス。坊ちゃんの想いが伝わってくるザマスよ!」

 お前、それがやりたかっただけか?

「ブリュンヒルデ殿のことは、俺にお任せ下さいザマス」
「ああ、頼んだぞ」

 ……、なんだ?

「そこで突き放さない坊ちゃんの優しい所、好きザマス」

 うっせ、バーカ!
 こっちは本気でイラついてんだよ!
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