騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――決勝当日……?


「なんだか雲行きが怪しいな」

 今まで晴天続きだった海洋都市の上空に、薄暗い雲が立ち込めている。

「嵐が来るそうです。決勝は中止なのではないでしょうか?」

 ……その可能性もある。だが、万が一試合があった時の為にもコンディションは整えておきたい。
 他の選手も準備運動を怠っていない。
 引き続きストレッチを行う。

 暗さがそろそろ深刻化してきた頃、職員の一人が慌てて近寄ってきて、全員に周知するように大声で話し出す。

「申し訳ありません! 本日のレースは中止です! お急ぎ、宿舎へお戻りください! 係の者が先導いたします!」

 天気については、てっきり魔法でなんとかするのかと思ったが、違うようだ。
 それはそうか。
 これを吹き飛ばせる魔法使いなど俺レベル。そんなヤツを雇い入れているとは思えない。

「しかし先導とは、何かあったのか?」
「はい、現在海の魔物が海岸沿いに集まって来ております。上陸の恐れもあり、街中を歩くのは危険な状況です。しかし、護衛の冒険者パーティは腕が立つのでご安心ください」

 冒険者パーティねぇ。
 肉ダルマと一緒にいたノッポが五等級冒険者だと聞いていたが、あいつじゃないだろうな?

「皆さん、お待たせいたしました。冒険者パーティ、銀船の櫂のロンディアです。我々が安全を保証いたします。宿の最も近い方からのご案内になりますが、全員無事にお届けさせて頂きますのでご安心ください」

 出てきちゃったよ、ノッポ。
 この状況でこいつはマズいんじゃないのか?

 案の定、参加者の連中は不満タラタラだった。小声で陰口をたたいているのが聞こえてくる。

「ケッ。魔法使いのクセに」
「K=インズ商会にどうやって取り入ったかは知らんが、デカいツラしやがって」
「おい! 他にマシな護衛はいねーのか!!」
「こんなヤツに守られるなんざ死んでもごめんだ!! 俺は一人で帰る!」

 本人に堂々と言わない点は不愉快だが、納得の反応であり、納得の内容だった。
 若干一名、死亡フラグを立てているが、どうかそのままフラグを成立させて愉快な死にざまを見せて欲しい。その方が面白い。前世の俺を超えるのであれば、弔った上でデカい墓を建ててやらんでもない。

「お、お待ちください! 選手の方々にケガなどされては困ります! どうか指示に従ってください」

 主催側の対応はひどいものだ。
 まず第一に、誰が魔法使いがリーダーの冒険者パーティに命を預けようと思うのか。
 次に……いや、これは俺が指摘するか。

「こいつ確か五等級だろ? 護衛と言うには実力的に不安が残るぞ」
「大丈夫です! 彼らのパーティはこの都市で護衛任務の実績が十分にあります!」
「そいつ、レーサーも兼任してんだろ? それはいくらなんでも説得力がねぇな」

 冒険者パーティは反論も出来ず、すっかり委縮していた。
 これマジで何かコネでも使っているのではなかろうか。
 そんな邪推をしてしまいたくなるほど、不安になる態度だ。

「アンタ、よく言ってくれた!」
「そうだそうだ! コネ野郎はどっかいけ!!」
「いくらK=インズ商会がバックにいるからって、やりたい放題が許されるわけねーだろ!」

 一方俺と同じ参加者は、うっ憤が溜まっていたのだろうが、俺の文句を皮切りに陰口から一転しての言いたい放題。
 これは、気に食わないな。

「お前らも人に便乗すんじゃねぇ。うぜぇ!!」
「お、おう……」

 威圧をし怒鳴れば、こちらも大人しくなった。どいつもこいつも、腰抜けのチキンか。
 海洋都市の連中は、そろいもそろって質が悪いようだ。

「まぁいい。俺はこいつらと戻る。行くぞ、キャス、シス」
「こ、困ります!! せめて護衛を付けて頂かないと」

 うっぜぇぇぇぇぇぇ!!

 こうなれば権力の行使だ。権力とはこういう時の為にある。

「俺も冒険者だ。俺に護衛はいらねぇ。だからとっとと道を開けろ」

 ざわり、ざわざわ……。

「お、俺も冒険者だ! 護衛なんていらねぇ!」
「俺もだ!!」

 だったら最初から相手を叩かずにそう言っておけ。
 便乗してくるのが、あまりにもうっとうしい。

「このギルド証、本物!? 大変失礼をしました!!」
「ウゼェ。謝罪なんざいらん。帰るからどけ」
「は、はい……」

 ノッポも泣きそうな顔で俺を見るな。

「実力も足りず、中途半端な立場でコウモリやってんじゃねえぞ。やるなら全力で、どっちかに絞りやがれ」

 ッチ。いらんことを言った。
 ノッポが何かに希望を見出したかのような顔になっているが、これ以上なにを言う気も起こらん。
 覇気のないヤツは何を言ってもダメだ。放っておこう。

「お前ら、帰るぞ」
「はい」
「かしこまりました」

 のじゃ は今日この場には来ていない。マッケインが実況席付近で預かるから大丈夫だと言っていた。
 今の苛立った俺ならば、もし帰りの道中でなにかあったらあいつを捨てて帰っただろうから、来ていなくて正解だ。

 防水のマントを羽織り、建屋の外へ出る。

「風が強いな」

 面倒だから『キャノピー』の風魔法を使い、横合いから強く吹く風と雨を防ぐ。
 風魔法でバリアのように薄膜を展開するが、しかし、妙に抵抗が強い。

「魔力の消費が激しい? なぜだ?」
「おそらく、高い湿度と塩気が原因なのだと思います」
「霧のようなこの雨、普通の雨よりも重いぃぃ、です」

 俺と同じように『キャノピー』を使っている姉妹が苦し気にうめく。
 これは早めに帰った方がよさそうだな。

 ふと、取り出したままだったギルドカードを確認したら、アラートモードになっていた。
 緊急事態を示す赤黄黒の三色で明滅している。
 ただの緊急事態であれば赤黒の二色だが、これに三色目が加わると意味が若干異なる。
 これは近くに冒険者がいて、なおかつ共闘が自動で設定されているのを指している。

 もう一度言うが、近くに冒険者がいる。

 俺は振り向かずにたずねる。

「で、テメーらはついてくんのかよ」

 魔法使いの冒険者の護衛を断っておいて、魔法使いの俺の後をついてくるなんて、どういう神経しているのか。
 いかに助け合いが信条の冒険者といえども、それは筋が通らない。

「た、たまたま方向が同じなだけだ!」
「そうだ! それに魔法使いなんだから俺らの役に立てよ! その魔法、俺にも使え!」

 ハァ?

「お前ら、コロスぞ?」
「はっ! 魔法使い如きがか? やってみ……」

 続きを言わせずにみじん切りにしてやろうと水魔法をセットしていたら、俺にイキがっていた男が停止した。

 なんだ? その驚愕の表情は。
 キャスが何かやったのか?
 やってない? そう。
 シスもそうか。

 なら、一体なんだ?
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