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第二章
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しおりを挟むイキがってた冒険者は俺の背後を指差して、叫んだ。
「ま、ままままま、魔物だぁぁぁぁぁ!!」
魔物くらいどうにかすると言って護衛を断ったくせに何を言うのか。
冒険者ならばこの程度に動揺していないで、武器を構え、対処しろ。情けなく叫ぶうるさい男の腹に蹴りを加えたあとで、振り向く。
ったく。で、どんな魔物なんだ?
「……、って、なんじゃこりゃぁ!?」
でけぇぇぇぇぇぇ!!
全長十メートルくらいだろうか。ノッシノッシと歩く星型の魔物、むしろ歩く小山というべき物体が目に入った。
「ビッグウォーターアステロゾアだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「海の狙撃手がなんでここに!? にげ、逃げろぉぉぉおおおおおお! 殺されるぞぉぉぉぉおお!」
一瞬にして阿鼻叫喚。蜘蛛の子を散らすように何人もが走り去っていく。
てか、ついてきてた人数多いな! どんだけヘタレばっかりなんだよ!
「カイさん! 下がってください! ここは私たちが食い止めます!!」
出たよ、ノッポ。
あー、そう。そう言うの、いらんから。決死の覚悟の表情とか、ほんといらん。
「無駄足だ」
「……え?」
もうすでに終わっている。
「デカさにビビったが、あんなもんただのデカい的だろ」
あの巨体による質量攻撃は確かに驚異的だが、移動速度は遅い。
しかも飛び道具を発射できるヒトデの口は中央に下向きにある一つだけ。あそこからウォータージェットカッターしてくるが、付け位置が悪い。あれでは仰角が取れずに射程が短い。
足元に入らなければ余裕で対処できる。
火魔法の熱線を上下左右に何度も往復させ巨大ヒトデを粉微塵にした。
降り注ぐ雨をライン上に蒸発させながら、俺の魔法は魔物を焼き切った。残った破片も残らず焼却。ヒトデだし、万が一ひとかけらから再生でもされたら困る。再生能力の高い魔物相手は徹底的に焼却処分するのが適切な対応だ。
俺は虫を追い払うようにノッポたちにシッシッと手を振る。
「お前らなんざお呼びじゃねーぞ。他いけ」
「……」
パーティメンバーともども呆然としてるが、知ったことではない。
そいつらを無視して、俺たちは再びメインストリートを歩き出す。
「ギャーー!! 魔物、魔物がーー!!」
「うわーん! おかあさーん!」
「たす、助けてくれーー!!」
進みゆくと、街中は地獄絵図だった。右には炎上する建物、ガレキに足を挟まれた母と、それを懸命に助けようとする子供。
果敢にも魔物にいどみ、返り討ちに合う庶民。
それらの一切を無視して、俺は進む。
領軍も動いているが、魔物の方が展開が早いのだろう。この場に留まるのは下策だ。いつ何時、タダ働きをさせられるか分かったものではない。
そんな急ぎ足の俺に、なおもしつこく食い下がるは、例のノッポである。
「カカカ、カイさん! いえ、カイ様! どうか我々に力をお貸しくだ」
「断る」
「即答! 言い切る前に即答! やった!」
このノッポ、断られたのになんでそんな嬉しそうなんだ。
「分かりました。どうか、ご武運を!」
は?
「この先はあの方が引き受けてくださる! 私たちは、私たちの出来る範囲で人々を助けよう!」
「ええ、あの実力を見せつけられたあとでは信じる他ありませんね」
「きっと名のあるお方なのだろう」
「四等級? もしかして、魔法使いで三等級なんてこともあるか!?」
「俺たち魔法使いの希望だ……、伝説が始まろうとしている……」
「まずはあの魔物に襲われている人を助ける! ミニュアとベービルはあの母親を助けるんだ!」
「「「了解だ!」」」
何を勝手に盛り上がっているのか。
あと、お前らのパーティ全員が魔法使いかよ。コネだ何だって言われてたの、すげー納得だ。
「始末しますか?」
しません。
かなりイラつくが、しません。
「うっとうしいね。バラそうか」
「シスゥ!? お前、何あっちにむかって手ぇかざしてんの!?」
颯爽と走り去る冒険者パーティを背後から狙い撃ちするのは、さすがの俺も魔力が勿体なさ過ぎて止めるぞ。
あと冒険者殺しは重罪だから。
やべぇな。
コロシを経験してから、シスの中によけいなスイッチが生まれてしまったようだ。
シスにも残忍なNINJAの血が流れていたか……。
「もうめんどうだ。とっとと宿に戻るぞ」
しかし俺たちの泊まる宿はシーサイドホテル。海岸ギリギリにある。
そこに行くには街を縦断する必要があり、しかも最終目的地が今まさに魔物が出てきている海岸そのもの。
「宿にまで魔物に付いてこられても面倒だから、とにかくせん滅していく。ムダを抑え、効率的に動け」
「かしこまりました」
「分かったました」
シスの変な丁寧語が復活してんなぁ。
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