騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――決勝当日。再。


「さーていよいよ始まりました! 『アチアチマシーン、極レース』! アクシデントがあったものの、無事に本戦を迎えられて一安心であります」
「そうザマスね。とある英雄がこの街に滞在していて、実に運が良かったザマス」
「例の勇者様ですか! いやー、これぞまさに運命と言わざるを得ないでしょう!」
「フッ、そうザマスね」
「おや? マッケイン様には何か含むところがあるようですが、いいでしょう! それよりも今はこの快晴に感謝しましょう!!」

 あれから三日後。
 街の復旧にK=インズ商会が協力したから、表向きの部分はあっと言う間に完了した。

「死者も多数出たってのに、それでもレースをするとはなぁ」

 アクセルを軽く踏み、エンジンのコンディションを確認する。今日のエンジンも悪くない。
 ブレーキ、ハンドルの効きも良好。フレームの曲がりもなく、ミラーもピカピカ。いい車体をもらえたようだ。

「さぁ各車が出てまいりました! 注目はやはり、ゼッケン百番でしょうか!?」
「そうザマスね。敢えてゼッケン八番というのもアリザマス」
「八番は、おーっと、これは意外! 今まで自社の選手を応援しなかったマッケイン様が注目したのは、ロンディア選手!」
「彼は中々優秀ザマス。今日のレースで優勝を果たすかもしれないザマスよ?」

 おいおい、マッケインさんよ。エグい真似するなぁ。
 そんなプレッシャーのかけ方をスポンサーからされちゃぁ、ほれ見ろ、ノッポのヤツ、ガッチガチに緊張してるじゃないか。
 いいぞ、もっとやれ。

 俺の願いが届いたのか。最初から計画通りだったのか。
 マッケインは次々と有力候補の選手の名をあげている。
 それで一部はやる気を出したようだが、大半は委縮している。

「あのマッケイン副会長が注目している!?」
「これは、プロになるチャンスなのか……?」
「冒険者稼業から足を洗って、正規社員に、真っ当な社会人になるんだ!!」

 ガッチガチやで。
 そしてそのガッチガチの連中の後ろには、声をかけられなかった連中。そいつらは名前をあげられなかったからか、名をあげられた連中を敵視している。

 ひどい配置だ。
 完全に出来レースと化している。

「では全車、スタンバイ。三、二、一、レディー、ゴゥ!」

 掛け声と共にスタートフラッグが振られる。

「各車一斉にスタート! おや、これはぁ!?」
「まさかの開幕事故ザマスね」

 まさかの、じゃねーよ。仕組んで企んでただろ、これ!

 二十台もいるカートのうち、半数がいきなり開幕クラッシュ。
 その大半がガッチガチに固まってしまった前車に追突という悪夢の光景。

「俺の真似してロケットスタートした器用な連中は、ほぼ脱落か」

 おっと、もういない連中のことよりも、今は生き残っている連中だ。

 今回のコースは今まで通り。
 まずは直線からのゆるやかな右カーブ、それからさらに右、右と曲がり、最後に左でスタートとは逆向きになる。
 そこから直進、左左、左右で元の方向に戻りつつ、やや左に傾斜するほぼ直線コース。
 そこから例の道幅の広いヘアピンカーブへと続き、その次は道幅が普通なヘアピンカーブ。

 今、八周目のココ。

「後続が振り切れないな」

 台数が半減したからか、例のヘアピンカーブでの接触事故はなかった。互いにけん制しつつも、クラッシュのリスクは犯さない。
 さすがここまで残っただけのことはある。全員が安定したハシリを見せている。

「それに、俺が先頭じゃないからな」

 マッケインの策略により初手でリタイアしたノッポことロンディアの敵討ちだとでも言いたいのか。
 先頭はあの肉ダルマこと、この地の領主ドバードント。
 魔法も使わずにただのドラテクだけで一位をキープし続けている、ある種の化け物だ。

「てか、領主が参加してるって、あり得ないだろ」

 復旧で忙しいと言いつつちゃっかり参加して、あまつさえ先頭を走るってのはどうなんだ?
 部下の連中は何してんだよ。
 止めろよ!

「ミスらしいミスをしない堅実な走りだ。これはまた、酷いな」

 野生の勘なのか何なのか。
 俺が取りたい進路を的確に塞いでくる。そのままこう着状態が続き、もうすでにラスト一周となってしまっている。

「加速、風防は制限的にそれぞれあと一度が限度か」

 このカートには魔法検知が組み込まれている。それで規定量以上の魔法を使うと失格になる。
 誰だよそんな装置考え付いたの。
 俺じゃないぞ?

 俺は昔

「こんなのあったら面白そうだよね。何に使うのかは分からないけど、あははっ」

 と、話しただけだ。

 誰だよ! こんなピンポイント起用しかしない魔道具の開発に成功したのは!

「がははははは! 爽快爽快! 気分は爽快だ! 絶好の俺様日和だ!!」

 やめろ! クソッ!
 つば飛ばしてくんな!
 ヘルメットをかぶっているとは言え、不快な液体が前面についてやる気が削げる。

「英雄とは言っても所詮はヒヨッコよ。俺様にかかれば赤子の手を捻るようだ! がはははは!」

 ウッゼー!
 ちょうウゼー!

「ヤロウ! 乗ってやるよ!」

 ナメられたままじゃ生きていけない業界なんだよ、冒険者ってのは!

「ほう、上げてきよったか。しかもこのタイミング、やるではないか!」
「うっせー、ばーかばーか! お前なんざ俺の敵じゃないんだよ!」
「わっはっは、ほれ!」

 減速した!?
 なぜ?

 そう思った直後にその理由を知る。

「って、もうヘアピンカーブか!」

 俺が予選二日目で行ったのと同じことをやられた!
 道幅が広く、それだけに減速も最小限ですむヘアピンカーブ。しかしだからと言ってフルスロットルで突っ込んでいい場所でもない。
 あわやコースアウトかと思われただろう。観客の悲鳴に近い声がここまで聞こえている。

 だが、俺は負けん!

「こなくそ!」

 遠心力で車体ごと外へと持っていかれる。
 それを無理やり体を内側へ傾けて抵抗するが、その程度では焼け石に水。
 自然の物理法則を前にしては、根性論など意味はない。

「だが、この世には魔法がある! 物理法則なんざクソ食らえだ!!」
「なんだと!? 車体が横にスライドしたまま動いている!?」

 某ゲームの再現、よく分からない横滑りドリフト。
 やってることは風魔法で押して外に流れないようにしている地味作業だが、効果はあったようでコースアウトをせずに済んだ。

「やるじゃねえか! だが、タイヤの消耗が激しいようだな」

 このドリフトで盛大に地面にスリップ痕を残した。消しゴムでなぞるように、四つのラインが地面に付着している。
 その所為でタイヤがいびつに削れ均一な厚みにならず、車体が上下に振動している。

「このままだとトップスピードで加速するとタイヤが先に燃えるかもしれない……。どうするか」

 せっかく追い抜いたのに、スピードが落ちてしまい結局また抜かされた。
 順位が変わらず、しかし俺はタイヤをムダに消耗してしまった。

 悔しいが、プロレーサーなだけはある。あいつの方が一日の長があるようだ。

 というか、あいつ領主なのにプロレーサーって、おかしくね?
 おかしいよね?
 非常識すぎね?

「そう思ったら正攻法で戦うのがバカらしくなってきた」

 元々魔法ありのトンデモレースなんだから、何でも利用して汚く勝ってやろう。
 くっくっくっ。


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