63 / 111
第二章
26
しおりを挟む「最終ラップの十周目。トップはいぜんとしてゼッケン二十一番、なぞの男バードン氏だー!」
「誰もが知る謎ザマスね」
「冷静なツッコミ、ありがとうございます! なお、本人からのメッセージは、優勝して皆に元気を分け与えたい、だそうです」
「それなら復興を早く進めるザマス」
「冷静なツッコミ、ありがとうございます!」
なにそのテンプレなやり取り。
「そういう訳で負ける訳にはいかんのだよ! 英雄殿には悪いがここは勝たせてもらおう!」
「勝っても負けても面倒な前フリすんじゃねーよ!!」
もっとこう、純粋に楽しめるようにしろよ!
どうして余計なモン背負って参加してんだよ!
まったく。
それはそれはご立派な都合で、くずし甲斐がある。
そんな事を思いつつも、もうコースは残り僅か。
「もはや最後の直線を残すのみ! 勝利はわが手に!」
肉ダルマは油断しきっている。
気分はさながらウィニングランだろうか。後方の俺を気にしつつも、その姿に気負いはない。
「その油断が命取りだ!」
俺のカートは限界寸前。今からもう一度魔法を使っても追いつけないだろう。
だが、こいつはどうだ?
「おおーーっと! バードン選手の後方から追い上げてくるのは、なんとゼッケン八十七番! 今まで三位につけていた選手だ!」
「意外な選手が出てきたザマスね」
「今まで無名だった選手が怒涛の追い上げを見せて、アーーーーッ!」
くっくっく。
「盛大に! 盛大にクラッシュ!? バードン選手のカート後方に尋常ではない速度で体当たりをしたぁ!?」
他者への妨害は禁止されている。
では、支援はどうだ?
最終の直線まで温存していた魔力でブーストをしたソイツの眼前にキャノピーで風圧を無効化する。
すると、制御不能な弾丸となってソイツは飛び出してしまったわけだ!
「バードン選手とゼッケン八十七番がゴール目前でクラッシュ。い、今、ゼッケン百番が一着でゴールです……。なんという幕切れでしょうか」
「運がなかったザマスね」
俺と敵対しようってのが、本当に運がなかったな。
シン、と静まり返る観客席。
その中でも一部だけ盛り上がっている場所に向けて勝利の雄叫びをあげた。
「イヤッフーーーーーーーー!」
「さすがです、ご主人様!」
「やり方が汚い! でもそれでこそ旦那様!」
「お兄さま、それは騎士どころか人として、そう、社会不適合なのではないでしょうか……」
「色んな意味ですごいのじゃ」
うるせー。勝てば官軍なんだよ。
「次回から他者への間接支援も禁止になったザマス」
ルールはいつだって問題が起こってから追加されるものだ。
「もういっそ魔法無しでいいんじゃないのか?」
もしくは攻撃魔法もアリアリのデスゲームとか。
「それだと有能な魔法使いが育たないザマス。ですが、坊ちゃんの言は一理あるザマス」
「レースなんだし、専用の魔道具での支援や攻撃のみオッケーとか、いっそ枠内に当てはめてもいいんじゃないのか?」
「それザマス!」
今のままだと魔法を使っても、興行的に絵面が地味だ。
もっと某レーシングゲームみたいに色々な妨害アクションがあってもいいと思う。
「ジャンプ台作って、着地だけ底面にフロートボードを使ってフォローしたり」
「それザマス!」
「妨害アイテムをゲットできる地点を設けて、その場所を通ると魔道具が妨害用魔法を拾って使えるようになったり」
「すごいザマス! さすがの発想力ザマス!」
全部あのゲームの話で、俺オリジナルではない。
「どんでん返しの大波乱付きで、あとは安全確保さえできればすぐにでも使いたい新レギュレーションザマス」
小躍りするマッケインに苦笑を返す。お気に召したようで何よりだ。
そんな次以降を語り合う俺たちに、肉ダルマが近寄ってきた。
「おいおい。このレースはこれから街の目玉として盛り上がっていくって時に物騒な話をしないでくれ」
「優勝逃した肉ダルマが何言ってんだ?」
「肉ダルマじゃねーし! てか、最後の卑怯だろ!?」
「は? ルールに則って、ルール守ってやりましたが、何か?」
いい子ちゃんではこの世の中、生きていけないのだよ。ルール規則はすき間をぬうのが賢いアウトローってな。
「次こそ負けねぇからな!」
いや、次なんてないです。
もう参加しないんで。
勝ち逃げ? 上等じゃねーか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる