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第二章
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しおりを挟む「それで優勝賞品が時計ねぇ」
しかも のじゃ が欲しがっていたのが、ソレ。
「お父様が大事にしていた時計を壊してしまったのじゃ。代わりになるものを探しておったら、この大会の賞品で出ると聞いたのじゃ」
引きこもりドワーフがどこから情報を引っ張り出してきたと言うのか。
「旅の若い女性での。国からの脱出の手引きもしてもらったのじゃ!」
それ、どう考えてもドワーフの国の騒動の犯人ですよね?
どう思う?
ああ、みんなも同意見ね。
「あちゃぁ」と顔を覆っているマッケインに、はぁ? としかめツラの天狐姉妹。
そんな中で、ナトリだけは反応が過激だった。
ズズイっと、俺の時と同じく鼻が付くほどの距離で のじゃ に詰問していた。
……、ナトリ、実は目が悪いのか?
「その女の特徴は!?」
「ぬお!? 妹御よ、近いのじゃ」
「いいから答えてほしいのです。金髪吊り目の女ではなかったですか?」
「はて? そう言えばそのような容姿じゃった気もするのぉ」
これ、俺も分かった。
「例の悪魔か」
「その可能性があるのです」
首だけで空を飛んで逃げた悪魔が、どういう状況を経てか、ドワーフの国へと入り込んだ。
「あの悪魔、逃げ足だけは早いので、もうすでにそこにはいないです」
「そうか」
「私は後を追うのです」
「そうか、がんばれよ」
まぁ、俺には関係のない話だ。
いや、どうしてそこで泣きそうな顔をする?
「お兄さまも一緒についてきてくださるのではないのですか!?」
「ないな」
「アレが憎くないのですか!?」
「もうそんな感情ぶっ飛んでるわ」
首だけになっても逃げる悪魔だったなんて、しかも当時ソレにキスしたいと思っていたなんて、思い出すだけで怖気が走る。
今はそんな余計なことを思い出してオエーするよりも、ゆっくりしていたい。
「う、ううーーーー!! お兄さまのいけず!」
うおーー。相変わらず足が速いな。
「ご主人様、追いかけないのですか?」
「子供じゃないんだから追いかけないぞ」
「大人だからマズいかもしれないよー?」
……。
「ちょっと、ちょっとだけ散歩に出てくる」
別に妹が心配で探しに行くんじゃないんだからね!
サーキット併設の待合室から出て右に折れたすぐの木陰のベンチに、妹は座っていた。
「それでお前はこんな近場で何やってんだよ」
「フーンっ」
面倒なことになった。
確かに俺だって復讐できるならしたいとは思っている。
だが、相手はもうすでに首チョンパされた身だ。その上でなおもしぶとく生きているなら、俺の迷惑にならない範囲でなら追いかけることはない。追いかける方が何倍も体力を使いそうだから。
それに、どうせこいつみたいに、騎士の国のエージェントが血眼になって探しているだろう。
なんせあの国はあの国で公爵家が一つつぶれ、王子も一人失っているのだから、オーレリアに対する恨みは並々ならぬものがある。
放っておいても、ヤツはいずれどこかで自滅する。
「俺が手を下すまでもない、チンケな存在だ」
ドワーフの国も、のじゃ を見ていると特に行きたいとは思わない。そうなると、積極的に動く理由がなかった。もちろん、眼前にオーレリアが現れたら一切の手加減をしない自信はある。
「しかし、折角家を買ったんだから、しばらくは家でゴロゴロしていたいんだよ」
「え? 家を買われたのですか?」
「ああ、迷宮都市に一つな。工房も付いてるから結構楽しみだったんだが、結局一度もまだ触ってない」
イヤリングみたいな簡単な細工物なら工房を必要としないから、工具をそろえた工房も現状では宝の持ち腐れだった。
それで思い出したが、向こうの騒動はケリがついたのだろうか。
あとでマッケインに確認してみるか。
顎に手を当て思案していると、サッパリとした顔のナトリが俺に笑顔を向けていた。
「うん、分かった。私も諦めるのです」
ならさっさと国に帰れ。
な?
今からイヤな予感がしすぎて、本当にイヤなんだが。
「私も同居するのです!」
ほらな。
「お前は国に帰れ!」
「いーやーーでーーーすーーー! お兄さまを追い出したあの国になんて帰りたくないです!」
結局ブラコンが治っていなかった。
なら、そうだな。
逆にそれを利用するか。
「あーあ。折角近況を報告した手紙を父上の所へ送ったのだが、あーあ、読んでもらえないかー。残念だなー」
……。
「帰ります!」
「自分で誘導しておいて何だが、単純だなー……」
この件はどうやらこれで一件落着のようだ。
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