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第二章
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しおりを挟むナトリがまたも自分から のじゃ に声をかけていた。
聞き耳を立ててみよう。
「のじゃ子さん、お聞きしたいことがあるのです」
「なんじゃ? …………いや、待つがよい。それはワシのことなのじゃろうか?」
お前以外の誰が「のじゃのじゃ」言うのか。心の中でツッコミを入れる。
「それはどうでいいのです。答えてくれれば、あまり痛い目にはあわせないのです」
「痛い目にあうのが前提なのじゃ!?」
それはひどい。
だが、のじゃよ。俺は知らん。そんな捨てられた子犬のような目で見ても、俺には通用せん。黙って痛い目にあえ。
「話を逸らしたので、少し痛い目にあってもらうのです」
「お主の妹、超怖いのじゃーーー!! アイタタタタタ!? イタイのじゃ!」
「冗談ではないのです。あなたをたぶらかした人物について、もっと詳しく教えてほしいのです」
「教えるのじゃ! じゃから、その頭グリグリやめてほしいのじゃーー!?」
はっはっは。
いいぞ、もっとやれ。
「引っ込み思案な妹に、新たな友達が出来たぞ」
「ご主人様、そんな遠い目で仰られても……」
「あれで引っ込み思案なんだ!」
……、うん。
「それで、聞きたいことは何なのじゃ?」
「だから、あなたをたぶらかした……、いえ、言い方を変えるのです。レースについて教えた人物。それと国外逃亡を手引きした……、外へ出れるようにした人物両方の特徴を教えてほしいのです」
「その程度のことで頭グリグリされてたのかえ!? ひどいのじゃ!」
ひどいと思う。
思うが、止める気はない。むしろ俺が介入した程度で今の妹が止まるとは思えなかった。
ナトリが聞き出そうとしているのは、あの悪魔、オーレリアのことだろう。
この騒動のきっかけにあいつが関わっていると確信しているような節さえある。俺もそんな気はするが、妹はもっと踏み込んだ話を聞きたいのだろう。
止める理由もないので、好きにさせておく。
「どちらも同じ人物なのじゃ。よれた金髪に、ランランと光る目じゃったな。じゃが、不思議と安心感を覚えたのじゃ」
よれた金髪にランランと光る目のどこに安心感を覚えるのか。
俺には不信感しかわかない。
「やはり、どう聞いてもあの悪魔のようなのです。しかし不自然なのです」
それは俺も思った。
明らかに不審者なそいつを信じてしまえる何かがあったと考えるのが妥当だろう。
しかし魔法素質カンストの俺には、それに心当たりがあった。
「洗脳か、精神操作の魔法か?」
「そこまではいかないのです。たぶん、意識を誘導するていどだと思われるのです。魔法ではなく、武術の類の……」
悪魔らしく精神系のナニガシでやらかしてくれてるようだ。
だがそれなら俺には効かんし、姉妹にも効かん。認識阻害イヤリング、コルウスくんには精神系攻撃への耐性も付与している。
海底ダンジョンで強い思念波を浴びてから、急ぎ対策したものだ。
「まぁ、俺は対応できるし、どうでもいいな」
「はい。そもそもお兄さまの手をわずらわせるまでもないのです。あんのクソビッチは私が冥府に送り返すのです」
貴族のご令嬢にあるまじき口汚さに、妹が大人になったのだと改めて知ったわ。
「その、差し出がましいのですが、それは表現がよろしくないのではないでしょうか?」
チラチラとキャスが俺を見ながら妹に苦言を呈してくれている。
「何度も何度も、いろんな人にそう言われているのです。でも、あのクソビッチへの怒りで、もうどうしようもないのです」
「そ、そうでございますか……」
そうか、いろんな人に言われてるのか。
つまり今のをいろんな人に聞かれているのね。
父上もさぞ頭が痛いことだろう。
「ヒュールリー、ヒュールリリーララー」
聞き分けのない妹で、すまん。
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