騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 二十一日目。
 イヤな予感が当たった。
 二人が奥地へと進み、消息を絶った。
 正確には簡易ペルセウスくんから発せられる信号が、周囲の魔力で分からなくなった。
 見張りにつけていた警備ゴーレムもこの魔力のこさでは思うように動かない。こうなると目視で探すしかないが、どうするか。
 伯爵に相談してみよう。



「と、言うわけなんですが、どうします?」
「……。実力の証明は済んでいる。出来るなら救助に向かって欲しいのだが……」

 ニコニコと笑みを浮かべる。
 そして無言。

「……、はぁ。別料金だな?」
「よくぞお分かりで」

 ただでさえアレコレ振り回されているのに、ただ働きなんざゴメンである。

「分かった分かった。望むものを用意する」
「それはまた大きく出ましたね」
「私が差し出せるものの中で二番目に価値の高い伯爵の地位などいらぬのだろう?」
「むしろそれはただの嫌がらせです」
「過去に何があったかは知らぬが、そこまでとはな……」

 ちなみに一番は自分含めた家族の命らしい。
 そんな割り切った人だからこの領地を治められているのだろう。
 少し感心するようにうなづき、ほんのわずかに感傷に浸る。

 俺もあの当時、この人みたいに割り切っていたら、違ったのかもしれない。
 なんでもかんでも救うなんてできないし、救われた側が必ず感謝するなんてのは夢物語の中だけだ。


「手続きが必要だが、そうだな。希少金属の購入権を与えよう」

 そいつは太っ腹な判断だ。やはりこの伯爵は話が分かる。顔がにやけそうになる。

「上限はさすがに設けさせてもらうが、それでどうにか手を打ってもらえんか?」

 希少金属については国が管理している都合、K=インズ商会でも取り扱いがない。
 これは嬉しい話だ。
 しかしここでがっついては三流以下だ。この条件でも渋々と言った様子を演出する。

「……、ふう。分かりました。ただ、すでに一日が経過しております。お二人が無事かどうかは判断がつきかねます。さすがにそこまでは保証いたしかねます」
「分かっておる。それでも可能な限り無事に連れ戻してほしい」

 そしてここで俺に頭を下げる、か。
 領主としてだけでなく、人の親としてなのだろう。

 はー、うちの父上もこんくらい出来たら、俺は今頃ここにゃいなかったろうな。
 くそっ、ちょっとうらやましいぞ!

「仕事とあらば、承りましょう。ちなみにすでにうちの手の者が捜索に出ているので遠からず発見できるかと思います」
「そうか。迅速な判断、助かるぞ。さすがは『即決のカイ』だ」

 カッコよく決めていたのに、最後でイスからずり落ちてしまった。

 ほんと、そのダサい二つ名やめてもらえないかなぁ!?







 ――ティラントの森、深部。

「ご主人様、発見しました。あの太い眉毛、間違いありません」
「眉毛で識別かよ……、で、様子はどうだ?」
「まだ息はあります」

 つまり、もう虫の息か。

 キャスに少年少女二人の居場所を聞き、そこへ目を向ける。
 一見すると何の変哲もない木の洞で二人は身を休めているように見える。

「バイタルチェックは、この距離でもダメなのか」
「彼らの隠れているあの木から、強い魔力がもれています」

 ふーむ。
 送られてくるデータを慎重に精査し、何が起こっているかを確認する。
 魔力波形のグラフを確認するに、どうやら魔物がからんでいるようだ。
 波長を合わせ、適合する魔物がいないかをライブラリ検索すれば、ヒットした。

「あれはただの木じゃないな。トレント、樹木系の魔物だ」
「ッ!? あれが魔物ですか!?」
「迂闊に近づかなくて正解だ、キャス」

 つまりあれは木の洞に隠れているのではなく、取り込まれかけているのだろう。
 これは厄介だ。

「両足がすでに取り込まれているか。胴体と両腕は大丈夫そうだが、実際に見てみないと分からんな」

 寄生されているとなると、外科的に切り離すしかない。
 どうやら本格的に追加料金をいただく事態となってしまったようだ。

「トレント系の魔物は生命力が強い。反面、魔法には弱いが、このままだと要救助者を巻き込む」

 そうなると治す俺が苦労する。

「では、いかがいたしましょうか?」
「うーん」

 どうしたものか。追加料金をいただくので命以外も治して返さなければならない都合、粗雑にあつかう訳にもいかない。

「はいはーい! わたしにいい考えがあるよ」

 私にいい考えがある。

 そんな事を言うヤツに限ってだいたい作戦が失敗する。

「聞くだけは聞こう。なんだ?」
「えーとね、闇魔法で弱らせて、いっきに風魔法でカチーン?」
「却下、大却下だ」
「ええー!? なんでー!?」
「何でもクソもあるか! トレントがあいつらを取り込んでいるのは生命力を吸収するためだ」
「つまりトレントは傷つけられると彼らから生命力を強引に吸い出すようになる、ですか?」

 今は貯蔵タンクのような扱いだから状態は安定しているが、トレントが傷を負えば貯蔵タンクから生命力を吸収し傷を癒そうとする。

「ええー!?」

 ええー、ではない。何を聞いていたのかと耳を引っ張る。当然、上の耳だ。

「あーー! 痛い! そうじゃなくって、動きを鈍らせるの! 植物なんだから寒さには弱いかなーって」

 ……。

 それだ!!

「よし、その作戦で行こう」

 ダメだったら力づくで太ももから切断だ。

 お前ら、ズッコけてる暇はないぞ?

「りょ、了解しました!」
「うん……。あいさいさー!」

 この場合、切り離しのスキを守るようにキャスを近場で待機させ、俺が切り離し担当か。

「シス、うまいこと傷つけずに凍えさせるだけの魔法を使えるか?」
「もちろん!」

 頼もしいな。
 なら、頼むとしよう。失敗したら、次は俺が動けばいい。

「行くねー……。うりゃりゃりゃりゃ、『ブリザード』!!」

 ブリザード。


 ブリザード!?

 氷属性の上位魔法である。
 いつの間に上位属性を使えるようになったのか。やはりシスとは一度トコトンまで話し合う必要がありそうだ。

「おりゃーーー!!」

 氷を浮かべた空気を高速回転させつつ、トレントを冷やしていく。
 その様子はさながら氷の精霊。雪女じみている。

「ご主人様、見てください。トレントの葉っぱが次々と落ちていきます」

 葉っぱの形からそうではないかと思っていたが、トレントは落葉樹だった。
 これならなんとかなるかもしれない。
 それを見て威力を弱めたシスに注意を促す。

「二人にはペルセウスくんがある。最低限の生命維持装置がついているから凍え死ぬことはない。だからもっと冷やせ」
「あいあいさーー!」

 俺たちも二人と同じようにペルセウスくんとコルウスくんで周囲の空気の温度を上げている。
 寒さで剣が震えることもない。万全だ。
 葉っぱがすべて落ち、そろそろ出番かと身構える。

「うまくいった? ねぇ、うまくいった!?」

 バ、バカ!
 なにをフラグ立ててんだ!

「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 シスのフラグとシンクロするように、トレントが吠えた。
 二人が入っている根元の洞のさらに下から巨大な足のような形をした根っこが五つ飛び出してくる。

 ガタガタと身を震わせる姿は普通の生物と変わりないのだが……、相手は植物だ。トレントは枝で攻撃をしてくるが、このように歩くなど聞いた事がない。
 これは一体どういうことだろうか。
 ペルセウスくんに解析をさせるが、アンノウンと出てしまった。

 うん、わからん。

「分からんので第二プラン発動!!」
「了解しました! 強引に接近して、救助の支援を行います!」
「う、ううー! あとちょっとだったのにー!」

 そうかもしれない。だが逆に、接近してから魔物に目を覚まされるよりはよかったとも取れる。

「シスは魔法を維持しながらけん制。キャスは枝を可能な限り切らずに幹に辿り着け」

 その後は、俺が二人を救助する!

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