78 / 111
第二章
41
しおりを挟む二十一日目。
イヤな予感が当たった。
二人が奥地へと進み、消息を絶った。
正確には簡易ペルセウスくんから発せられる信号が、周囲の魔力で分からなくなった。
見張りにつけていた警備ゴーレムもこの魔力のこさでは思うように動かない。こうなると目視で探すしかないが、どうするか。
伯爵に相談してみよう。
「と、言うわけなんですが、どうします?」
「……。実力の証明は済んでいる。出来るなら救助に向かって欲しいのだが……」
ニコニコと笑みを浮かべる。
そして無言。
「……、はぁ。別料金だな?」
「よくぞお分かりで」
ただでさえアレコレ振り回されているのに、ただ働きなんざゴメンである。
「分かった分かった。望むものを用意する」
「それはまた大きく出ましたね」
「私が差し出せるものの中で二番目に価値の高い伯爵の地位などいらぬのだろう?」
「むしろそれはただの嫌がらせです」
「過去に何があったかは知らぬが、そこまでとはな……」
ちなみに一番は自分含めた家族の命らしい。
そんな割り切った人だからこの領地を治められているのだろう。
少し感心するようにうなづき、ほんのわずかに感傷に浸る。
俺もあの当時、この人みたいに割り切っていたら、違ったのかもしれない。
なんでもかんでも救うなんてできないし、救われた側が必ず感謝するなんてのは夢物語の中だけだ。
「手続きが必要だが、そうだな。希少金属の購入権を与えよう」
そいつは太っ腹な判断だ。やはりこの伯爵は話が分かる。顔がにやけそうになる。
「上限はさすがに設けさせてもらうが、それでどうにか手を打ってもらえんか?」
希少金属については国が管理している都合、K=インズ商会でも取り扱いがない。
これは嬉しい話だ。
しかしここでがっついては三流以下だ。この条件でも渋々と言った様子を演出する。
「……、ふう。分かりました。ただ、すでに一日が経過しております。お二人が無事かどうかは判断がつきかねます。さすがにそこまでは保証いたしかねます」
「分かっておる。それでも可能な限り無事に連れ戻してほしい」
そしてここで俺に頭を下げる、か。
領主としてだけでなく、人の親としてなのだろう。
はー、うちの父上もこんくらい出来たら、俺は今頃ここにゃいなかったろうな。
くそっ、ちょっとうらやましいぞ!
「仕事とあらば、承りましょう。ちなみにすでにうちの手の者が捜索に出ているので遠からず発見できるかと思います」
「そうか。迅速な判断、助かるぞ。さすがは『即決のカイ』だ」
カッコよく決めていたのに、最後でイスからずり落ちてしまった。
ほんと、そのダサい二つ名やめてもらえないかなぁ!?
――ティラントの森、深部。
「ご主人様、発見しました。あの太い眉毛、間違いありません」
「眉毛で識別かよ……、で、様子はどうだ?」
「まだ息はあります」
つまり、もう虫の息か。
キャスに少年少女二人の居場所を聞き、そこへ目を向ける。
一見すると何の変哲もない木の洞で二人は身を休めているように見える。
「バイタルチェックは、この距離でもダメなのか」
「彼らの隠れているあの木から、強い魔力がもれています」
ふーむ。
送られてくるデータを慎重に精査し、何が起こっているかを確認する。
魔力波形のグラフを確認するに、どうやら魔物がからんでいるようだ。
波長を合わせ、適合する魔物がいないかをライブラリ検索すれば、ヒットした。
「あれはただの木じゃないな。トレント、樹木系の魔物だ」
「ッ!? あれが魔物ですか!?」
「迂闊に近づかなくて正解だ、キャス」
つまりあれは木の洞に隠れているのではなく、取り込まれかけているのだろう。
これは厄介だ。
「両足がすでに取り込まれているか。胴体と両腕は大丈夫そうだが、実際に見てみないと分からんな」
寄生されているとなると、外科的に切り離すしかない。
どうやら本格的に追加料金をいただく事態となってしまったようだ。
「トレント系の魔物は生命力が強い。反面、魔法には弱いが、このままだと要救助者を巻き込む」
そうなると治す俺が苦労する。
「では、いかがいたしましょうか?」
「うーん」
どうしたものか。追加料金をいただくので命以外も治して返さなければならない都合、粗雑にあつかう訳にもいかない。
「はいはーい! わたしにいい考えがあるよ」
私にいい考えがある。
そんな事を言うヤツに限ってだいたい作戦が失敗する。
「聞くだけは聞こう。なんだ?」
「えーとね、闇魔法で弱らせて、いっきに風魔法でカチーン?」
「却下、大却下だ」
「ええー!? なんでー!?」
「何でもクソもあるか! トレントがあいつらを取り込んでいるのは生命力を吸収するためだ」
「つまりトレントは傷つけられると彼らから生命力を強引に吸い出すようになる、ですか?」
今は貯蔵タンクのような扱いだから状態は安定しているが、トレントが傷を負えば貯蔵タンクから生命力を吸収し傷を癒そうとする。
「ええー!?」
ええー、ではない。何を聞いていたのかと耳を引っ張る。当然、上の耳だ。
「あーー! 痛い! そうじゃなくって、動きを鈍らせるの! 植物なんだから寒さには弱いかなーって」
……。
それだ!!
「よし、その作戦で行こう」
ダメだったら力づくで太ももから切断だ。
お前ら、ズッコけてる暇はないぞ?
「りょ、了解しました!」
「うん……。あいさいさー!」
この場合、切り離しのスキを守るようにキャスを近場で待機させ、俺が切り離し担当か。
「シス、うまいこと傷つけずに凍えさせるだけの魔法を使えるか?」
「もちろん!」
頼もしいな。
なら、頼むとしよう。失敗したら、次は俺が動けばいい。
「行くねー……。うりゃりゃりゃりゃ、『ブリザード』!!」
ブリザード。
ブリザード!?
氷属性の上位魔法である。
いつの間に上位属性を使えるようになったのか。やはりシスとは一度トコトンまで話し合う必要がありそうだ。
「おりゃーーー!!」
氷を浮かべた空気を高速回転させつつ、トレントを冷やしていく。
その様子はさながら氷の精霊。雪女じみている。
「ご主人様、見てください。トレントの葉っぱが次々と落ちていきます」
葉っぱの形からそうではないかと思っていたが、トレントは落葉樹だった。
これならなんとかなるかもしれない。
それを見て威力を弱めたシスに注意を促す。
「二人にはペルセウスくんがある。最低限の生命維持装置がついているから凍え死ぬことはない。だからもっと冷やせ」
「あいあいさーー!」
俺たちも二人と同じようにペルセウスくんとコルウスくんで周囲の空気の温度を上げている。
寒さで剣が震えることもない。万全だ。
葉っぱがすべて落ち、そろそろ出番かと身構える。
「うまくいった? ねぇ、うまくいった!?」
バ、バカ!
なにをフラグ立ててんだ!
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
シスのフラグとシンクロするように、トレントが吠えた。
二人が入っている根元の洞のさらに下から巨大な足のような形をした根っこが五つ飛び出してくる。
ガタガタと身を震わせる姿は普通の生物と変わりないのだが……、相手は植物だ。トレントは枝で攻撃をしてくるが、このように歩くなど聞いた事がない。
これは一体どういうことだろうか。
ペルセウスくんに解析をさせるが、アンノウンと出てしまった。
うん、わからん。
「分からんので第二プラン発動!!」
「了解しました! 強引に接近して、救助の支援を行います!」
「う、ううー! あとちょっとだったのにー!」
そうかもしれない。だが逆に、接近してから魔物に目を覚まされるよりはよかったとも取れる。
「シスは魔法を維持しながらけん制。キャスは枝を可能な限り切らずに幹に辿り着け」
その後は、俺が二人を救助する!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる