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第二章
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トレントの枝の一つが伸びてくる。それはムチのようにしなり、剣のように自在で、槍のようにするどい。
でたらめに振り回されるようで、それぞれが干渉しあうことはない。
完ぺきなリズム、完ぺきなダンス。
右から迫る木製のムチを回避。
剣で受けるとしなって体を強打される。だから回避する。
右、右、右、左、左、左。
己の体に当てないように振るわれるそのムチは、一見すると全くスキがないように見える。
だが、その規則性、スキの無さが俺にとっては大きなスキだ。
「今だ!」
ムチの一つが右から左へと流れていく。それを回避しながら追いかけていく。
するとそのムチは勢いがついているから後方にいる俺を叩けない。
俺の後方にあるムチは、前のムチにぶつからないために一定の距離を開けている。
攻撃の合間の、一種の安全地帯。
かつて動画で見た弾幕系シューティングを思い出し咄嗟にやってみたが、案外にこの世界でも応用できるものだ。
これで何なく木の幹へと移動できた。
木の幹へとたどり着き、枝の一つを切り落とす。
それと同時に傷口を凍らせる。安全確保のためだ。
「キャス、そっちはどうだ!?」
幹まで辿り着けば、あとは細い枝がけん制してくるだけだ。トレントが自身を傷つけられないからこその最高の安全地帯。
「こちらも取りつきました! しかし、その、枝を一つ切り落としてしまいました!」
一本ていどなら誤差だ。ペルセウスくん越しにそう伝える。
「俺はこれから救助に向かう。合図を送ったら最大限、出来る限り枝を切り落とせ! その時は、燃やしてもいい!!」
「かしこまりました!!」
強い返事と共にキャスが闇に溶ける。今のところは順調だ。
サササッとトレントの洞へと向かう。
「いた……。バイタルチェック……。チッ」
二人の簡易ペルセウスくんから送られてきたバイタルデータを読んだが、これはまずい事態となっていた。思わず舌打ちももれる。
二人とも膝上まで完全に寄生されてしまっている。切り離しをするなら当初の予定通り太ももからバッサリいかねばならない。
軽く冷やしたり、温めたりするも、トレントの侵食が彼らの足から撤退する様子がない。
トレントに取りついてけん制を続けているキャスも心配だ。これ以上試すのは危険だろう。
力技は好まないが、予定通り、強引な手を使う。
「『ペインキラー』。これで痛み止めはした。あとは……」
愛剣を構え、フゥ、と静かに息を吸い、一気に吐く!
「ハァ!!」
計算しつくされた一閃が二人の足をすべて切断する。
自由になった二人を両脇に抱え、血の稜線を四本描きながら魔法を使い、そして叫ぶ。
「『ヒーモステイシス』!! 止血はこれで……、あとは……キャス! 二人は救出できた! やれ!!」
「了解しました! これでも食らいなさい! 『ノンフライヤー』」
……、俺の聞き間違いだろうか。
なぜか調理用魔法の名前を聞いた気がする。
「GYUOOOOOOOOO」
しかし、こうかはばつぐんだ。
……なぜだ?
分からん。
まぁ、良しだ!
「落葉樹は水分をこれ以上失わないように葉を落とすと聞いたことがあります。だから幹に付けた傷に『ノンフライヤー』で熱風を吹きかけ、水分を飛ばしてみました」
「わたしが『ブリザード』で滅多打ちにしたからね!! 擦り傷切り傷いっぱいで、そこから湯気がドバーって出てたよ!」
なるほど。
分からん。
しかし、俺の個人的な疑問はあとだ。
「二人の確保が最優先だ。撤収するぞ!」
でたらめに振り回されるようで、それぞれが干渉しあうことはない。
完ぺきなリズム、完ぺきなダンス。
右から迫る木製のムチを回避。
剣で受けるとしなって体を強打される。だから回避する。
右、右、右、左、左、左。
己の体に当てないように振るわれるそのムチは、一見すると全くスキがないように見える。
だが、その規則性、スキの無さが俺にとっては大きなスキだ。
「今だ!」
ムチの一つが右から左へと流れていく。それを回避しながら追いかけていく。
するとそのムチは勢いがついているから後方にいる俺を叩けない。
俺の後方にあるムチは、前のムチにぶつからないために一定の距離を開けている。
攻撃の合間の、一種の安全地帯。
かつて動画で見た弾幕系シューティングを思い出し咄嗟にやってみたが、案外にこの世界でも応用できるものだ。
これで何なく木の幹へと移動できた。
木の幹へとたどり着き、枝の一つを切り落とす。
それと同時に傷口を凍らせる。安全確保のためだ。
「キャス、そっちはどうだ!?」
幹まで辿り着けば、あとは細い枝がけん制してくるだけだ。トレントが自身を傷つけられないからこその最高の安全地帯。
「こちらも取りつきました! しかし、その、枝を一つ切り落としてしまいました!」
一本ていどなら誤差だ。ペルセウスくん越しにそう伝える。
「俺はこれから救助に向かう。合図を送ったら最大限、出来る限り枝を切り落とせ! その時は、燃やしてもいい!!」
「かしこまりました!!」
強い返事と共にキャスが闇に溶ける。今のところは順調だ。
サササッとトレントの洞へと向かう。
「いた……。バイタルチェック……。チッ」
二人の簡易ペルセウスくんから送られてきたバイタルデータを読んだが、これはまずい事態となっていた。思わず舌打ちももれる。
二人とも膝上まで完全に寄生されてしまっている。切り離しをするなら当初の予定通り太ももからバッサリいかねばならない。
軽く冷やしたり、温めたりするも、トレントの侵食が彼らの足から撤退する様子がない。
トレントに取りついてけん制を続けているキャスも心配だ。これ以上試すのは危険だろう。
力技は好まないが、予定通り、強引な手を使う。
「『ペインキラー』。これで痛み止めはした。あとは……」
愛剣を構え、フゥ、と静かに息を吸い、一気に吐く!
「ハァ!!」
計算しつくされた一閃が二人の足をすべて切断する。
自由になった二人を両脇に抱え、血の稜線を四本描きながら魔法を使い、そして叫ぶ。
「『ヒーモステイシス』!! 止血はこれで……、あとは……キャス! 二人は救出できた! やれ!!」
「了解しました! これでも食らいなさい! 『ノンフライヤー』」
……、俺の聞き間違いだろうか。
なぜか調理用魔法の名前を聞いた気がする。
「GYUOOOOOOOOO」
しかし、こうかはばつぐんだ。
……なぜだ?
分からん。
まぁ、良しだ!
「落葉樹は水分をこれ以上失わないように葉を落とすと聞いたことがあります。だから幹に付けた傷に『ノンフライヤー』で熱風を吹きかけ、水分を飛ばしてみました」
「わたしが『ブリザード』で滅多打ちにしたからね!! 擦り傷切り傷いっぱいで、そこから湯気がドバーって出てたよ!」
なるほど。
分からん。
しかし、俺の個人的な疑問はあとだ。
「二人の確保が最優先だ。撤収するぞ!」
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