騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――自宅。 

「これで二人は無事なのか?」

 伯爵の言いたいことは分かる。
 なんせ今二人は俺が作っていた治療ポッド、トゥリブルムくんの中にいる。
 顔の部分だけはコミュニケーションのためにくりぬいて透明なガラス状の物体をはめ込んでいるが、それ以外は金属製で見えないようになっている。

 当然、俺が切り取った脚部も見えていない。

 だが、見ようによっては棺桶にいるようにも見えるだろう。
 俺は余計な不安を持たれないように、簡単に説明をする。

「バイタルは安定しています。命に別状はありません。ただ、生命力と魔力を魔物に吸われていたので目を覚ますのに三日はかかるでしょう」
「三日……。おお、ドルチェ……」

 目覚めさせるだけなら今すぐにでもいいが、体に負担なく両足が生えるまでそれくらいかかる。
 今は点滴で必要な栄養素をゆっくりと入れながら体の修復中。これはヒゲハゲの時の再生の反動をかんがみたものだ。

 しかし足が生えたその後はリハビリをしなければならない。ヒゲハゲの時とは異なり、姉妹に行なったように回復魔法を延々とかけつつ訓練させて短期間で終わらすつもりだが、どう言い訳したものか。

「ご主人様、足の件をお伝えしなくてもよいのですか?」

 よくはないが、俺が切り取っちゃったって言ったら、子煩悩そうな伯爵がキレそうではある。
 これ以上のめんどうごとはごめんだ。どうしたものか。

 何?
 私にお任せください?

 なら頼んだぞ、キャス、と目配せで指示を出す。

「伯爵様、手が離せないご主人様に代わり、お二人の容体についてご説明をしてもよろしいでしょうか」
「う、うむ。頼む」
「はい。お二人についてですが、樹木系の魔物であるトレントに足から生命力と魔力を吸われておりました」

 お、おい!
 それはいっちゃダメなヤツなんじゃないのか!?

 い、いや、任せると言ったんだ。放っておこう。任せて下さいと何度もウィンクを繰り返すキャスから視線を外す。
 めんどうになった訳ではない。

「それは……!? 二人の足はどうなっているんだ!」
「やせ細っております」
「なんと!」
「ですので、目を覚ました後はいくぶんかの復帰トレーニングが必要となります」
「それで、元のように歩けるのか?」
「それはもう、生きていらっしゃるのであれば、私のご主人様に不可能などございません」

 それは言いすぎだ。

 バカは治せる自信がない。
 最近とくに、そうおもう。


「そ、そうか……。そうだな、そうだよな。彼に任せておけばすべて安心だ!」

 どうやら無理にでも納得するようにしたらしい。
 さすがは伯爵。

「目を覚ました時に会いたい」
「それはもちろん、ご連絡差し上げます」
「……。頼んだ。それと、娘と婿を助けてくれて、ありがとう」
「仕事、ですから」

 随分と恩を感じてくれているようだ。
 あと、さりげなく少年を婿と呼んでいた。
 どうやら収まるべきところに収まったようで一安心で、思わず胸をなでおろす。

 キャスに連れ添われて立ち去る伯爵の背中を見送る。

「でもでもー。ご主人様もすごいよねー」
「なにがだ?」
「だって、この子たちを、行ってこーい! って送り出したの、旦那様だよね?」
「そりゃ、それが元々の二人の目的だったからな」
「そこにわたしかお姉さまが一緒に行ってたら、こんなことになってなかったのでは?」

 その疑問は最もだ。
 俺は引率しないと言った。
 だが、キャスやシスが引率しないとは言っていないし、警備ゴーレムを動かさないとも言っていない。

「しかし、お前たちを送り出したりはしないし、警備ゴーレムは人前に出すと何が起こるか分からん」

 だから別に、二人を信じて送り出した訳ではない。
 本当だ。

「うんうん、そうだよねー。旦那様ってそういう人だよねー」

 この駄目ギツネは何をうれしそうに笑ってるのか。







 ――数日後。

「お世話になりました!」

 引き受けた依頼とは言え、リハビリから再特訓までどうしてしなければならなかったのか。全てを終えた今になって、そんな益体もないことを思う。

「僕、今まで間違っていました! 魔法には無限の可能性があったんですね!」

 ああ、そうね、うんそうね。
 まさかこいつらがトレントに捕まっていた時に記憶があったとは思わなかった。
 しかも薄目を開けて辛うじて状況を知っていたとは露ほども知らず、全力で行動をしてしまっていた……。

 念のために制約魔法で口外しないように口留めはしたが、自分たちの足が切られ、また生えたことを二人は知ってしまった。
 それにより価値観が完全に変わっていた。

「はい、私も心を入れ替えます! 魔法とは、すばらしいものです!」

 ……うーん、これ、もはや洗脳とか新興宗教とかいうレベルの変貌だよな?
 この辺を治すために再特訓に付き合ったんだが、逆効果だった?

「ご主人様のオーラは、やはり分かる人には分かってしまいます」
「うん、次期領主夫妻、将来有望」

 これだけ魔法使いに好意的なら確かにそうだな。

 両手を上げ、馬車に乗り込むまでに何度も振り返り手を振ってくる二人を見送ってから、俺は開き直る。

 じゃぁ、まぁ、…………いいか。
 何か問題が起こったら、その時の俺、ヨロシク。
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