騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第三章

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「勇者様をさらってきちゃったのかい」

 呆れた様子のガルベラに頷く。

「いや、コレ、俺の妹だから。勇者様なんてのとは違う」
「コレ呼ばわり! ひどいです、お兄さま!!」

 ボガンボガンと結界越しに肩を叩かれる。本人は甘えているだけなのだろうが、普通の者ならミンチになる威力だ。
 歩く人間凶器だからコレ呼ばわりも間違いないだろ。

「ったく、非常識な兄妹だね。それで、ここに来た理由は? 匿えなんてボウズは言わないだろうけど、何が必要なんだい?」

 話の早いガルベラに、一つの写真を伏せて渡す。
 それには、例の戦車の燃料の中身が写っている。

「見るなら覚悟をしろよ」

 一応警告するが、ガルベラがそんな言葉で止まる訳もなく。
 迷いのない自然な仕草で写真を表にし、写っているソレを見て顔をしかめる。

「うっ! こりゃぁ一体……」

 百戦錬磨の怪物でもうめくほどの悪辣さ。

「ナトリは事のついでにもらってきただけだから今は忘れてくれ。そもそも勝手についてきただけだしな」

 えぇ!? とナトリが驚くが、いや、そんな驚く事か?

「わざわざお前に会いに来たのはその写真を見せるのが本題。その写真に写っている、帝国が最近手に入れた動力源の正体についてガルベラ、お前の意見を聞きたかったからだ」
「これが! こんなものが、帝国の力の源、強気の理由だったってのかい!?」

 事の深刻さ。
 俺と同じ心境にようやく至ったガルベラが、真顔で俺に迫ってくる。
 近づく顔を手で押しのけ……、られるはずもなく、辛うじて背をのけぞらせる事で顔を離す。
 その様子をジト目で見てくるナトリにヘルプを視線で要求……、ツンと顔を背けられた。何故だ。

 まぁいい。
 別にガルベラの顔が近くても会話は出来る。ものすごくやりにくいが、いいだろう。

「今日知ったばかりのニュースだ。騎士の国と鉄の国の戦争に割り込んで、な」
「そんな事してたのかい……、呆れるが、情報が早いのはいい事だよ。それに、これはもう二国間の戦争で済む話じゃないね。他に資料は、決定的な証拠はないのかい?」
「もちろんあるさ。俺が介入した時の全記録が残っている」

 射影機を取り出し、渡す。

「こちらの機密に関して編集はしてあるが、それ以外はナマのデータだ。くれぐれも慎重に扱ってくれ」

 元勇者に渡す。
 それが何を意味するかは、今後のお楽しみだ。

 ガルベラもその意図を察知し、頷き返してくる。

「よし、そうと決まれば早速陛下に謁見だよ!!」

 今後のお楽しみのはずが、なぜだか即断即決で謁見なんて結論に達してしまっている。
 さすが元勇者、察しも良く、正義感も強い。
 行動が迅速だ。
 その速さが尋常ではないが、まぁ、ガルベラだしなぁ。

「あ、ああ、後は任せた……、ぞ?」

 どうしてガルベラは俺の腰に手を置く?
 お前ひとりで国王に謁見するのに、俺は要らんだろう?
 ん? んん?

 視界が左に九十度曲がる。

 俺は、ガルベラに小脇に抱えられてしまったようだ。
 そしてガルベラはギルドから飛び出して、それから全力で走り出した。

 俺を抱えたままで。


「いざ、出発!」
「お? おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 暴走特急ガルベラ、地獄行き。

 風圧で首もげそう。振動で関節がヤバい。流れる風景の強制感に俺の感覚が狂っていく。おえぇぇぇぇ。


 昨日俺に抱えられ上空を飛び、震えて叫んでいた妹よ。
 俺が悪かった。

 まさか俺も時速三百キロの世界で無理やり拉致られるとは思いもしなかった!!
 これはいけない。

「くっ! 『キャノピー』!」

 せめて空気抵抗だけでも減らして、首への負担を少なくしないと……。

「おぅ、サービスいいねぇ。ならもっと飛ばすよ!」


 [悲報] 暴走特急、まだ本気じゃなかった [自爆]



 ぎゃああああああああああああ!?

 逆効果だったぁぁぁぁぁ!!



 結果?
 ああ、普段三時間で駆け抜けるところ、二時間で駆け抜けやがりましたよ。
 脇に抱えられながら生身で時速五百キロはあかんて。



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