ダイスの神様の言うとおり!

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第一章 最初の街 アジンタ

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 コロコロ。
 コロコロコロコロ。

 二、三。

「『真眼』は、左目だけで見ると発動するのか」

 なんとなく使い方が頭の中に沸いてきたので、使ってみた。
 この『真眼』と言うスキルは名前の通り、物事の真贋を見定めるスキルだ。真実を見抜く目、と言うのが正しいだろうか。その目で、とりあえず二人を見てみる。

「だが、変わりなし、か」

 それはそうだろう。別に二人は姿を偽ってはいない。
 そもそもこのスキルは、悪魔などが姿を偽装・擬態していた際に見極めるスキルだ。
 要するに、先の魔物トカゲ戦の時に使えていたら、隠れていた魔物トカゲを一瞬で看破出来て便利だったスキル。

「便利ではあるが、壁役の俺が使うべきスキルではなかったからな」

 これらの索敵系スキルはもっと優秀な職業に任せるのが通例だ。そもそも一人でなんでもこなせてはパーティプレイが成り立たない。ロールプレイを楽しむゲームの都合、たった一人の英雄なんざお呼びではないのだから。
 その為に、俺はアーノルドで一度もこのスキルを取得してはいない。それなのに、何故取得してるのか。

「俺は本当に、アーノルドなのか?」

 今更な疑問が湧いてくる。

 分からない。

 答えが出ぬまま街へと到着し、俺たちは別れ、夕食を一人で食べてから俺は昨日も利用した安宿に戻ってきた。
 帰る途中でまたあのオネェ冒険者を見たが、彼? はどうやら今から出勤らしく武装していた。夜間警護の依頼でも受けているのだろうか。
 いや、考えるのはよそう。もういい、とにかく今日は寝よう。


 ――翌日。

「遅いぞ、アル」
「まぁまぁ、クッコロ。そう言ってあげないで。アル、昨日はなんだか元気なかったし大丈夫?」

 ギルドに到着して早々に女騎士クッコロに怒られた。

「だが、今日から共に戦うのだ! たるんでいては困る! サリエラよ、あまり甘やかしてはいかん!」

 え? どういうこと?

「あー、ほら、アルが分からないって顔してる。やっぱり昨日は話を聞いてなかったんだ」
「??」

 な、なんの話だ!?

「ふん、別に私は貴様なんぞいなくてもいいのだがな! だが、勇者に騎士ではバランスが悪いのだ! 特別に、そう、特別に我々と同行を許そうと言うのだ!」

 よく分からない事をクッコロが言う。
 だがここは冒険者ギルドだ。野外ではないのにそんなよく通る声で叫ぶんじゃない!

「声がデカい。音量を落とせクッコロ」
「何!?」
「周り見てみろ!」
「なんだ……と? ぬ、ぬう……」

 朝一、日の出ぬ時間帯は女性冒険者が多い。だからだろうか。さざ波のようなざわめきはあっても、昼間のような騒々しさはない。
 そんな中での、この大声だ。
 ものすごく注目されている。

「用意は出来ているな? ならひとまず外へ出よう」
「そ、そうだね。クッコロ、行こう」
「すまん、サリエラ」

 つーか、あんたら、いつの間にそんなに仲良くなったのだ!?


 俺たちはきつい視線を投げつけてくる女性冒険者たちに頭を下げつつギルドを出て、そのまま街の外へと向かった。途中、朝飯に焼きおにぎりと焼き鳥の串をいくつか購入し、それを二人にも分ける。
 懐が超痛いが、背に腹は代えられん。

「遅れた詫びだ。食べてくれ」
「ふん、そう言う事ならもらっておいてやる!」
「遅れた訳じゃないけど、でも遠慮なくもらうよ。それが冒険者だからね」

 悪態をつくクッコロに、したたかなサリエラ。
 見た目は麗しい二人だが、クッコロは性格が相当に捻くれている。サリエラは中身が男だ。事情を知らねば両手に花だが、実際には爆弾と、そして爆弾だ。

 どっちも爆弾だった。

 そんな無益な事を考えつつ、二人の話を聞けば、どうしてクッコロと組む事となったのか、なるほど納得の答えを頂いた。

 クッコロは姫様とやらの勅命により、この近郊で起こっている殺人事件の調査に赴いたらしい。
 色々疑問があったが、それを一つ一つ丁寧に教えてもらった。

 1.この国の上層部はその殺人事件、殺人鬼の存在をさほど問題視していない
 2.理由は、被害者が平民や冒険者に限定されているから
 3.最初の事件からもう一年もほったらかし
 4.三十人ほど犠牲者が出ており、姫様は心を痛めている
 5.その為、唯一動かせる直属の近衛騎士であるクッコロを派遣した
 6.クッコロの任務は調査。その足跡を辿れればいい


 これを聞くに、結構世知辛い事情が垣間見える。お国は平民の間に起こっている殺人事件に関与する気はなく、それぞれの自治内で解決しろの建前で、内情としては大々的に兵士を動かせないから。なんでも、北の山を越えた先にいる魔族とやらの動向が活発化しており、いつ攻め込まれるか分からない状態なのだそうだ。

「例え彼奴らが攻めてこようとも、我が国の騎士団は魔族ごときに負けはせん。だが、かと言って常に人死にのある開拓地区への派兵も難しいのが現状だ。本当に事件なのか、それとも不運な事故だったのか、分かっていないのでな!」

 それに、と急に小声となったクッコロ。小声に合わせて近寄る俺とサリエラの耳に届いた内容は、国同士の争いがなくなって百年近く経ち、兵士の質も量も年々下がっていると言う話。

「待て。それは軍事機密だよな!? しかもさっき言った事と矛盾していないか!?」
「フフフ、聞いたからには貴様には事件解決に協力してもらう! これは強制だからな! フハハハハ!!」
「なに!?」

 国家の軍事機密を敢えて漏らして協力を強要しようとは、クッコロは思ったより頭が回るな。

「フハハハハ! 冗談だ、冗談」
「冗談かよ!!」

 いや、そう言って強制力がないと思わせつつ、協力させようと言う腹か。脳筋と思わせておいて策謀タイプとは恐れ入ったわ。

「なに、勇者様がいらっしゃるのだ。秘密を洩らさない点は信用している。貴様を信じた訳ではないが、信じた訳ではないがな!!」
「アルは信じられますよ。胡散臭いですけどね」
「そう言う訳だ! その信頼を裏切ってくれるなよ! う、裏切らないよな? これに触れてから、宣言してくれ」

 なるほど。勇者の従者として信用したのか。
 しかしサリエラ、なんだその中途半端なフォローは。クッコロも微妙な顔をしているじゃないか。
 『真眼の宝珠』まで持ち出して来たぞ。

 まぁいいか。俺はその宝珠に触れてから言う。

「ああ、俺はサリエラの力になると(ケンたちに)誓っているからな! (ケンたちに)嘘はつかない」
「色は、白か。その言葉は真実なのだな」
「うん。でも、今少し引っかかる言い方だったかも?」

 う、嘘は言っていない。ケンたちの願いを叶えるし、彼らに嘘は言わない。
 その為にサリエラには嘘をついているのが、う、腹が痛い。

「だが、いい。これで十分だ。貴様を信用しよう」

 あれ? さっきサリエラを通じて信用するとか言ってたよね!?

「あー、アル。彼女は不器用なんだ。察してあげて?」
「そう言うサリエラは随分と彼女を理解しているのだな。正直、驚いたぞ」
「アルと別れてから二人で夕食を食べてね。その時に話をして仲良くなったんだ。その、境遇とか、似てたし」
「似てたのか。そうなると、実はクッコロの中身も男なのか?」
「違うよ、彼女は正真正銘、心も女性。でも、あまり女性として扱ってあげないで、今まで通り対等でいてあげて」

 ふむ、やはり昨日思った通り、貴族や騎士のボンクラ共にイヤラしい目で見られてたのがトラウマ、みたいな感じなのか。

「しかし、騎士なぞ男所帯だろうに。身の危険を感じたりしなかったのかね」

 あれだけのわがままボディだ。出来心で手を出された事は決して少なくないはずずだが。

「身の危険? 何を言っているんだ貴様は」
「お、おお。聞こえてたのか」
「何だ? 聞かれてはまずい話か?」

 あー、いや、どうなんだろうか。

「それがね、クッコロ。アルは何かを心配しているみたいなんだけど、それが分からないんだ」

 え? 分からないのか?

「いや、その、なんだ。乱暴されたりとか、な? 男が多い中で女性が少ないと、無理やり押し倒されて子作りを強要されたりとか、あるだろ?」

 って、俺は何を言っているのだか。

 しかし二人の反応は、なにそれ? と言う感じだった。

「無理やり子作り?」
「なんだそれは? 私をなめているのか?」
「いや、舐めてない! むしろ女性として魅力的だから心配しているんだが!?」
「?」

 え?
 なんだ、この違和感。

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